CEDECでの講演資料
―――話は変わりまして、サウンドについてお伺いしていきます。まずプロシージャルBGMというアイディアは、どこから産まれてきましたか?
酒井: そもそも『PSO』で、戦闘時と通常時でBGMがシームレスに切り変わるという仕様があって、これがユーザの間で評判が良かったんです。それが『ファンタシースターユニバース』ではメモリの関係で実装できず、ユーザにも残念に思われていましたので、『ファンタシースターZERO』で復活させたくらいです。それで『PSO2』でこの方向性をさらに進めてみようと思ったんです。
・・・また、一時期僕はクラブにはまっていたんです。クラブではDJがその場のノリで曲を変えていって、踊っている人をトランスさせていきますよね。そういうのがゲームでも実現できないかなあと思って、小林に相談したんです。トランステクノみたいに、ユーザの「俺、格好いい!」という感情を、より音楽で盛り上げられるようなシステムができないかって。
それには、ただ曲を切り替えるだけではなくて、段階的に音色などを積み上げていく必要があるんじゃないかなと。そんな時に、ちょうどCEDEC2009でCRI・ミドルウェアさんの「アダプティブ・ミュージック」の講演を聴いて、これは面白そうだと。
CRI:「ゲーム音楽を変える『アダプティブ・ミュージック』とは?~新世代のサウンド制作技術のご紹介~」というセッションですね。「アダプティブ・ミュージック(※4)」でいうと、よくある残り時間が減少すると、BGMがテンポアップするなどは好例だと思います。弊社のミドルウェア「CRI ADX2」では、この機能をサポートしています。
(※4)「アダプティブ・ミュージック」…ゲーム内の状況に応じてBGMをリアルタイムに変化させる概念のこと。
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小川氏 |
実は私はサーバに加えて、マップ周りも担当していまして、ランダムマップに関する最初の仕様を決めていたんです。それでランダムマップと、プロシージャルによるBGMの変更は相性が良いのではないかと思いました。もっとも、実際のシステム作で大変だったのは小林なんですが(笑)。
―――CEDEC2012の講演でも触れられた部分ですが、具体的にどのような流れでプロシージャルBGMを実現されたのでしょうか。
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今別府氏 |
小林: もともと僕も『PSO2』で「無限の冒険を提供する」というのであれば、プレイの度に全然違うBGMを提供できたら良いなあと思っていました。一方で酒井から戦闘中に、だんだんBGMが盛り上がっていくようにできないかというオファーがありまして。両者をうまく組み合わせようと思い、自分で「Sympathy」の仕様を書きました。そこから今別府に相談して、ツールを作り上げていきました。
―――楽曲データはどのように構成されたのでしょうか?
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小林氏 |
その上で、「ADX2」では複数音同時にストリーミング再生できるので、メロディライン・アレンジ・リズム・予備という風に役割分担を設定しました。本作では「PSE(※5)」というボーナスタイムがあり、一定時間エネミーが大量に出現するんですが、そのために専用のリズムを作っておき、リアルタイムで差し替えるといったことをしています。
(※5)「PSE」…Photon Sensitive Effect。エネミーを撃破していくと発生することがあるボーナス効果。キャラクターの能力向上、経験値の増加といった多種多様な効果が得られる。
―――作り手側で意図しないような曲も産まれたり?
小林: はい、ありますね。自分でも完成形が分かってないんですよ(笑)。細かい部分では音のつながりのパターンがいくつか決まっていたりもするんですが、それが繋ぎあわされた時に、想像以上の盛り上がりが生まれて驚いたこともあります。
逆にいうと、完全にランダム再生なので、同じような印象のメロディが連続する恐れもあります。そのため、あらかじめ異なるメロディラインを2つ用意しておき、再生する度に切り替えるなどの機能も、後から付け加えていきました。
■『PSO』と『PSO2』ではテンポが倍くらい違った
―――ゲームの状況に合わせて変化する部分のパラメータ調整について詳しく教えて下さい。
今別府: 「ヒーロー度」「ピンチ度」「盛り上がり度」という3つのパラメータを設定しました。ヒーロー度は近くのブーストエネミーの強さや、倒した小ボス・中ボスの強さなど。ピンチ度は近くのエネミーの強さや、自分たちの残りヒットポイントなど。盛り上がり度はヒーロー度・ピンチ度に加えて、どれだけゴールに近づいたか、などの要素を加味しています。
これらの値を「Sympathy」に送って、楽曲データの選択に影響を与えていきます。ヒーロー度とピンチ度は、その瞬間ごとのサウンドに影響を与えてます。盛り上がり度は、次にどんなパートを演奏するのか。たとえばメロを繰り返すのか、サビに移行するのか、などの判定に使っています。
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楽曲の構成に影響を与えるゲーム要素 |
―――なるほど、状況を3つに整理されたんですね。
小林: 最初はいろいろなアイディアが出ました。プレイヤーキャラクターのHPが一定以下になったらBGMを変更する、などの定番から始まって、パーティの人数が減る度に音楽を変えていくのはどうだろう、とか。開発が進むにつれて、状況が想像以上に多岐にわたることがわかって、途中から逆に、できるだけシンプルにしようという流れになりました。
今別府: いろんな要素を盛り込んだあげく、最終的に収拾がつかなくなるのが怖かったんです。そこで何を表現したいかについて、さまざまなディスカッションを行いました。その結果「俺、強い!」「死んじゃう、ピンチ(汗)」「盛り上がってきた!」という3要素が必要だと言うことがわかってきたんです。そこで、この3つを柱に、細かい部分を後から決めていきました。
―――ゲーム中の状況変化は、どのくらいの頻度でサウンドに反映されているんですか?
小林: 1-2秒単位で切り替えています。音の最小単位も、最初は『PSO』と同じように3−4秒にしていたんですが、テストプレイをしたところ状況の変化が速くて、そんな尺では切り替えに全然追いつけなかったんです。そこで半分の1−2秒くらいに細分化しました。それくらい『PSO2』ではゲームのテンポが速くなっていたんです。また、メロディを2小節単位で区切って、自然に繋がるような工夫もしています。
―――通常のゲームサウンドと、作り方が大きく違いますね。
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小林氏は実際の開発環境を用いながら解説してくれた |
普通に曲を作ってバラバラにしたものもありますし、最初から完成形を考えずに、メロディやフレームだけを作っておき、それらをツール上で無作為に並べていって、リアルタイムに曲を構築するようなやり方をしている曲もあったりします。
他にも過去作品のBGMのフレーズもまぜています。たとえば『PSO2』の森林ステージでは、『PSO』の森林ステージのフレーズを紛れ込ませておいて、特定の条件下で流れるようにしています。昔からのユーザさんには好評ですね。そういった遊びも、たくさん入れてあります。
―――同じようなやり方をしているゲームもありますが、『PSO2』では環境音ではなく、楽曲として聞かせようと頑張られているところが驚きです。
小林: それぞれの繋がり方を状況に応じて変えるなどの工夫をしました。『PSO2』では1ステージが通常曲・戦闘曲・通常から戦闘に移る時の切替用楽曲・その反対の切替用楽曲、そして急激戦闘曲という、5つの曲から構成されています。切替用楽曲というのは、戦闘に入る際に1回だけ流れる、ファンファーレのような楽曲です。こんな風につなぎの曲を用意することで、よりシームレスに聞こえるような工夫もしています。
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戦闘から平常への楽曲の切り替え |
■Windowsの表示制限をオーバーした!?