この調子で進めていくと多方面から怒られそうな筆者が軌道修正しつつ、この春注目となるアドベンチャーゲーム『ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった。』を、プレイ体験に基づいてご紹介します。本作はタイトルからもお分かりの通り、ただごとではない感じが漂っており、“美少女”ADVでありながらも“恋愛”ADVではないという、ユニークな切り口を柱とする意欲的な一本です。
主人公である如月優也と、運動神経抜群の「有末陽佳」、全国模試1位の「尊海神無」、家事裁縫万能な「宮主佐優理」といったヒロインらが集う郷土歴史研究会の部室が取り上げられる危機に直面することから始まる本作は、そのポイントだけ見ると「それまで怠惰に過ごしていた高校生の面々が、目標に向かって邁進していく日々を描く物語」となりそうですが、眩しくも羨ましい青春の輝きはあくまで前半部分にしか過ぎません。
ヒロインの個別ルートが展開される後半では、好意を抱いたヒロインがヤンデレ化し、まさに地獄としか思えない出来事を突きつけてきます。天国から地獄へと急転直下する本作の衝撃とインパクトは、その怒濤の後半にこそより多くの本質が描かれていますが、その迫力は前半のハーレム部分の積み重ねがあるからこそ、より光ります。
この、コンシューマーゲームとしては他に類を見ない過激な物語を紡ぐのは、かつて『久遠の絆』や『風雨来記』などで手腕を振るい、数多くのファンが支持している小林且典氏。実績に裏付けられた確かな筆致が、この唯一無二の物語を生み出しました。
万人向けではなく、しかし惹かれるユーザーにとっては決して代わりがきかない、『ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった。』。既に購入した方や予約済みの人もいるでしょうが、購入を迷っている方もまだいることと思います。中には、刺激的な設定や発想に頼り切りになり、肝心の内容が伴ってないのではと心配する方もいるかもしれません。そんな方の判断材料のひとつとなることを願いつつ、本作の魅力や独自性に注視しつつプレイしてみました。
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まずはゲームを始める前に、システム関連をチェック。本作は、物語により集中してもらうため、複雑なゲームシステムは一切採用しておらず、ゲーム性は選択肢を選んで物語が変化するという実にシンプルな形となっています。
それだけに、システム周りの快適性も問われるというもの。コンフィグを確認すると、メッセージ速度やオートプレイ時のページ送りの速度調整といった基本的な部分はもちろんのこと、既読スキップや未読スキップ以外に、シーンスキップなども搭載。またボイスのON/OFFはキャラクター毎に設定できるので、「美少女以外の声なんて聞きたくない!」という方もご安心を。
セーブデータのサムネイルは、前半時はロゴ、後半時は各ルートのヒロインとなっており、贅沢を言えばセーブした画面がサムネイルとして表示されると嬉しかったのですが、セーブ時点でのテキストメッセージが併せて表示されるので、ロードする前にデータの判別が可能です。こういうワンポイントがあると、後日再開する場合に助かりますね。なお、ヒロインから嬉しい一言を言われた際にセーブをしておくのもお勧めです。セーブデータが溜まって困るなぁ!(満面の笑み)
加えて、ロード後のバックログも、その時プレイを再開した部分だけでなく、以前のプレイで見たテキストを遡ることもできるので、状況を思い出すためのサポートもばっちりです。なおバックログは、約120ウィンドウ分のテキストを遡れました。
物語の中心となるのは、優也を取り巻く、陽佳・神無・佐優理というハーレムな関係。知り合った時期は微妙に異なるものの、全員昔からの幼馴染みとして、今日まで続く関係を築いています。家の方針などで異なる学校に通っていたり、ひとつ年上の神無が年齢の境目で小中高ともに1年食い違う時期などもありましたが、優也を中心とした和は、彼らが歩んだ人生の歴史の半分以上を占めており、今ももちろん継続中です。軽く爆死すればいい!
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序盤から嫉妬全開で申し訳ありませんが、オープニングから惜しみないハーレム展開。優也を奪い合い、陽佳と神無が文字通り奪い合いの様相を見せつつも、そこに折良く現れた佐優理がしっかり美味しい場面をさらい、しかもゲーム中初イベントCGへの登場も果たします。傾向的には、活発系美少女ポジションの陽佳辺りが初CGを飾りそうですが、佐優理さん流石です。
佐優理は控えめに振るまいながらも、こと優也に関わる点に関しては、しっかりちゃっかり存在感を露わとし、それぞれが手作り弁当でアピールする場面でも、陽佳と神無が自分の弁当を勧め合う争いの間隙を縫い、実力行使で優也の口に放り込む手腕を見せるほど。このお嬢様、侮れません。
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また、三人とも好意を全面に押し出しますが、もっとも激しいのはアクティブな陽佳。優也とクラスメイトでもある彼女は、場所を選ばず優也に甘え、全身でその愛情を表現し、そのたびに優也からツッコミを受けます。子犬のように慕ってくるその様子は、やはり嬉しいものです。
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そして成績優秀な神無は、その実「超」がつくほどの怠け者で、滅多に本気を出さない困った残念系美人。ただし優也が絡むと話は別で、彼のためにやる気を見せるその一変ぶりや、愛想のない振る舞いの中で時折見せる可愛げに、心を惹かれる人も多いことでしょう。
どのヒロインも、「優也のために」頑張る姿を見せます。それは、純粋な動機とは言えないかもしれませんが、この年頃からすれば自然な成り行きでしょう。それぞれ、運動・学力・家事全般と立ち振る舞いに関して、高いスキルを持つヒロイン3人。そんな彼女たちが、長年好意を持つ特別な存在「優也」に対して、その長所を駆使するのも至極当然です。3回くらい爆死すればいい!
……と、嫉妬を繰り返したくなるところですが、美少女ゲームの定番とも言える「ハーレム」な状態に、本作は一石を投じます。
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美少女ゲームにおけるハーレム状態は、あくまで一例ですが、「最終的にハーレムへと至る」という、最終形であることも少なくありません。また、ハーレム状態から始まり、それが継続したまま終わるというスタイルもあります。
そして本作も、ハーレム状態から幕を開けます。しかも物語的には、まだ幼い頃から続く筋金入りのハーレム状態。ですが、将来的な視点から見て現況を良しと思わず、なんと改善へと乗り出していくのです。しかもそれは、中心人物であり主人公である優也自身が。こういった展開は、いわゆるハーレムモノの中では、かなり珍しい部類に入ります。
「ハーレムを押しとどめようとする主人公」という構図自体は、これまでの作品にもありましたが、それらの多くは「その環境を主人公が疎ましがる」という、いわば自分のための改善であり、抵抗とも言うべき行動です。しかし本作の優也は、そういった一面もないとは言いませんが、それぞれ才能豊かなヒロインたちが、優也だけを見つめる狭い世界に捕らわれ、その長所を生かさないことに心を痛めています。
「平凡な自分が、高い能力を持つ彼女たちの足枷になっている」と考え、彼女たちの可能性の芽を摘み取らぬため、居心地のいい檻の打破を思案する──といった展開は、ハーレムを扱うゲームには珍しく、また一見浮ついて見える本作がしっかりと地に足をつけている点が伺えます。優也の爆死は保留にしましょう。
陽佳たちヒロイン3人が、なぜ優也に惹かれるのか。そして、4人の絆はどうやって作られたのか。その理由を詳しく記すとゲームで知る楽しみが減ってしまうので詳細は伏せておきますが、幼い日々の出来事が、郷土研が直面した危機の遠因ともなり、また状況を打開するゆるキャラ「いざえもん」とも次第に関わりを見せ始め、物語の欠片たちは次第に線で結ばれていきます。
こういった伏線が繋がっていき、また繋がることで新たな謎が生まれていく展開は、まさに小林氏による辣腕によるところが大きいでしょう。テキストウィンドウによる表示と、主人公による語りというスタイルのため、直接的には主観による文字情報がメインとなりますが、行間を読む楽しさなども含まれており、切り口さえ苦手でなければ、読み解く楽しさも用意してくれています。
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惨劇が起き、それをきっかけにヒロインとの関係性が大きく変化することは、これまでにも明かされている通りです。それが分かった上でも、起きてしまった事件の大きさや、被害者に対しての感情、そして一変するヒロインの病んでしまう言動や行動には、衝撃を覚えさせられます。
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もとより、過剰な愛情を原動力にしてきたヒロインたち。ハーレムな前半部分においても、「両手が千切れても、私が一生お世話をしますから」(佐優理)や、「ピッキングは基本スキル」(神無)など、第三者が見れば行きすぎてる点が散見されましたが、人が殺されるという事態に直面した後には「ああなっちゃった(=殺された)のも、当たり前だよね」とは断言する陽佳に、「もういいじゃないですか。いなくなった人なんですから」と、諫めるどころか心情的に同調する佐優理。そして神無に至っても「2人とも、ごく普通のことを言ってる」と述べ、後半部分に入るとともに、その異質さをよりいっそう色濃くします。
彼女たちがなぜ、そこまで優也に傾倒したのか。何がきっかけで、そしてどこまで堕ちてしまうのか。殺人事件を起こした犯人は誰なのか。そして、歪んでしまった──いえ、もう歪んでいたものの、それが露見した優也とヒロインの関係は、どのような顛末を迎えるのか。それらは全て、後半のヤンデレパートで描かれているので、興味がある方はぜひ直接体験して欲しく思います。
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今回は、ADVゲームのプレイレポートなので、そのストーリー展開を細かく追ってしまうと興ざめに成りかねないため、筆者が感じた本作のポイントをまとめさせていただきました。本作をプレイして特に強く感じた点を敢えて一言でまとめるならば、「所詮ハーレムモノだろ?」と高を括ると大変な目に遭う、ということです。彼女たちのヤンデレは「属性」を記号化して当てはめたような生温いものではなく、また確かな手腕により描かれた物語も決して油断できないからです。
なお、バッドエンドも数多く用意されている本作。そのひとつひとつは、文字通り「終わり」を意味します。そのため、終わりは絶望と非常に近い意味を持ちますが、どんな厳しい状況にも、そして物語にも、「終わり」は訪れます。それは、絶望の中に見出すことができる、たったひとつの希望となるのかもしれません。ただし、その希望が何色なのかは保証しませんが…。
この2次元が現実じゃなくてよかったと、そんな感想を初めて抱いた“美少女ハーレム”ADV『ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった。』。この設定や展開に強く惹かれる人や自分の限界に挑戦したい方ならば、この刺激的な世界へのノックをお勧めします。それ以外の方は…どうか、自己責任で!
PS3ソフト『ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった。』は、好評発売中。価格は、パッケージ版が7,344円(税込)、ダウンロード版が 6,171円(税込)です。
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