『LoL』ライアットゲームズ日本社長の乙部氏が語る、スタジオカルチャーとマニフェスト

日本支社ライアットゲームズの社長兼CEOを務める乙部一郎氏にインタビューを実施。日本サーバーやローカライズに関する情報はまだ明かせないとのことで今後正式発表を待つとして、同社のカルチャーやビジネスに対する考え方を中心に、詳しい話を訊きました。

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『LoL』ライアットゲームズ日本社長の乙部氏が語る、スタジオカルチャーとマニフェスト
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ちょうど今月、賞金総額213万ドル(2014年10月時点で約2億2,807万円)にも及ぶ世界大会「World Championship 2014」決勝戦が韓国ソウルで盛大に開催された、人気MOBAタイトル『League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)』。運営・開発元のRiot Gamesは、東京ゲームショウ 2014において『LoL』日本展開の意向を表明していて、その動向が見守られています。

この度、編集部では、日本支社ライアットゲームズの社長兼CEOを務める乙部一郎氏にインタビューを実施。日本サーバーやローカライズに関する情報はまだ明かせないとのことで今後正式発表を待つとして、同社のスタジオカルチャーやビジネスに対する考え方を中心に、詳しい話を訊きました。

――本日はよろしくお願いします。まず最初に、乙部さんの経歴を教えてください。

乙部一郎氏(以下 乙部): そうですね……。どこから話しましょうか。経歴を語る上で、まず私がゲーマーであることを語らずにいられません。私は、交換留学でアメリカの高校に通っていた頃、はじめてパソコンのゲームに出会いました。当時はApple IIだとか、Tandy社RadioShack TRS-80 Model IIIといった8ビットのパソコンを使っていて、マシンランゲージでプログラミングを覚えて、最初に作ったのがゲームです。それ以来、ほぼ全てのコンソール世代を通して、ずっとゲームをやり続けています。

――ビデオゲーム市場ができはじめた頃からの、根っからのゲーマーということですね。

乙部: 大学の学部も、もともと家族は法曹一家だったのが、ゲームが影響して、電子工学を選択します。ところが最初の就職先は、日本興業銀行という、ゲーム業界とは全く異なる職種でした。その後は、コンサルティング企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーに行き、当時スクウェア(現スクウェア・エニックス)の取締役だった大前研一さんと出会って、初めてゲーム業界の仕事に関わるようになったのです。

マッキンゼー時代には、『FF11』だったり、ホノルルスタジオ映画制作などのスクウェアのプロジェクトに関わっていました。当時CFOだった和田洋一さん、社長の鈴木尚さんとも仕事をして、マッキンゼーに4年半ほど在籍後、スクウェア・エニックスに入社し、米国法人の社長、本社のチーフストラテジストといった仕事をしていました。

スクウェア・エニックスの次は、ゲームの世界とは遠くはなれた、アドバンテッジパートナーズというプライベート・エクイティ(投資ファンド)で、様々な企業の再生や海外展開をやりまして、ライアットゲームズに入社したのは2014年の4月、ヘッドハンターに声をかけられました。

――乙部さんがライアットゲームズを選んだ理由、入社の決め手になったことは。

乙部:昔から自分が根っからのゲーマー、というのが一つ。もう一つは、伝統的なゲーム会社の難しさというのを体験していたので、同じような会社なら興味は持たなかったと思いますが、やはりライアットが今までと違うゲーム会社を目指していて、ゲーム自体もe-Sportsを前提に考えられたゲームということで、新しい魅力を感じました。決め手になったのは、ライアットの創業者二人の存在と、スタジオ独特のカルチャーです。

――なるほど。ライアットゲームズって、どんな会社なのでしょうか。他のゲーム会社と違うところは。Riot(暴動、反発)という社名も改めて考えると非常にインパクトがあります。

乙部: いっぱいあるのですが、ここ最近のスマホゲーム会社などと比べると、最初からコアゲーマー向け、と割り切っている会社です。会社の戦略として考えるときに、如何にカジュアル層に広げるかという発想ではなく、コアゲーマーの人たちに価値を提供するのがビジネスの軸であり、最も大きな特徴です。


――ターゲットがはっきりしていると。先ほど話にあがった創業者のブランドン・ベックさんとマーク・メリルさんはどんな方ですか。

乙部: 二人ともゲーム業界には余りいないタイプです。ブランドンは、ベイン・アンド・カンパニーというコンサル会社でプライベート・エクイティをやっていました。一方のマークはメリルリンチやUSバンクなどの投資銀行にいた人間です。二人ともそうしたプロフェッショナル・ファームにいながら、プライベートではゲーマーでした。

ライアットでは同じような境遇の社員が多いです。基本、ゲーマーしか雇わないのが特徴です。なぜなら、ゲーマーが求めるものって、やはりゲーマーじゃないと分かりません。プレイヤーの要望を知るためにサーベイをやるようではダメで、自分が欲しいもの=プレイヤーが欲しいもの、という考え方が出来る人間だけで組織を作っています。

――海外の『League of Legends』公式フォーラムを私もよく見るのですが、ライアットのスタッフが頻繁に書き込みをしていて、プレイヤーと直接対話したり、どんどん情報を出したりして、プレイヤーからとても近い位置にいるように感じます。こうしたプレイヤーコミュニティーに対するライアットの姿勢を教えてください。

乙部: 我々の価値観を表現する5つのマニフェストの中で、一番最初に来るのが“プレイヤー・エクスペリエンス・ファースト(Player Experience First)”です。売上や利益は二の次で、プレイヤーの体験を全てにおいて最優先し、意思決定するというものです。それをするために、プレイヤーが今どう思って、何に困っていて、何を求めているのかを、社員全員が感じとる必要があり、コミュニティーにも前面に出て行って対話をする姿勢が社内でも求められています。もちろん、機密情報を守るといった一定のルールは設けられていますが、自分の得意な分野なら積極的にコミュニケーションとっていくことを基盤にしています。

――『League of Legends』は、現在グローバルでのMAUが6,700万人、DAUでも2,700万人ものプレイヤーがいると言われています。なぜ『LoL』がこれほど人気なのか、ゲームを知らない人には理解できない部分もあるでしょう。乙部さんから見て、人気の秘訣はどこにありますか?

乙部: まずはe-Sportsの要素がいちばん大きいです。『LoL』はまさしくスポーツです。クリエイターの表現する世界観やストーリーを楽しむゲームと違って、我々は新しい“スポーツのルール”を作っている立場で、実際に楽しんでもらうのはゲームプレイそのものです。チームの味方も相手も人間で、5人対5人の試合を楽しんでもらう。試合するたびに新しい展開やドラマが起こって、ストーリーが尽きることはありません。それが何度でもプレイしたくなる楽しさなのだと思います。例えばバスケットボールも、試合ごとに選手やプレイスタイルや展開が異なって、それが面白い。スポーツの楽しみと非常に近い位置にあると感じています。

――確かに、一つのマップだけでプレイヤーがずっと楽しめるのは、野球や将棋に似ていますね。

乙部: そうですね。囲碁に近いかもしれません(笑)。囲碁ってルールは相当難しいし、最初は見ていても何も分からないけど、理解してしまえば物凄く面白いです。

――『LoL』に登場するチャンピオンのアートは、日本のゲームやアニメからの影響が感じられることがありますが、デザイナーの好みがあるのでしょうか。

乙部: はい、チャンピオンデザイナーは日本好きが多いです。デザイナーがプライベートの休暇で日本に来て、ポケモンセンターに行ったり、ジブリ美術館に行って楽しんでいます。アーティスト個人の趣味ですが、色々な発想のインスピレーションの源泉が、日本のアニメや漫画などから来ているのはあるでしょうね。


2011年に配信された有料スキン「Nurse Akali」。
収益は日本の東北大震災と津波被害の支援団体に寄付された

――今後、『League of Legends』が日本に進出するに当たって、PCゲームの市場として見た時、欧米や他のアジア諸国と比べると、明らかに環境が異なると思いますが、そうした違い、日本のマーケットの特徴をどう見られていますか。

乙部: おっしゃる通りで、日本ではPCでゲームをする人が他のプラットフォームに比べて少ないのは明らかですが、我々が『League of Legends』で提供しようとしている価値は、PCゲーム市場の中でどうシェアを取るかという話ではなく、今までなかった新しい価値をどれくらい受け入れてもらえるかという議論になると思います。現状PCゲームをプレイする人がどれくらいいるか、ゲームPCがどれくらい普及しているかとか、余りそういうものをベースにビジネスを考えていません。

例えば友人にゴルフを誘われて、ゴルフを始めようと思った時に、ほとんどの人はゴルフ道具は持ってませんよね。でも一緒にゴルフをするために、結構なお金をかけて道具を買うわけです。それと同じ事だと思っています。今PCゲームをやっていなくても、『League of Legends』に興味を持って楽しんでくれる方はいっぱいいると思うので、そういう方たちに新しい『LoL』の価値をアピール出来るかを考えていかなければなりません。

――既にたくさんの日本人プレイヤーが北米サーバーなどで『League of Legends』を遊んでいますが、日本での展開が始まって日本サーバーが用意された時、日本人プレイヤーにとって一番得られるもの、メリットは何でしょうか?

乙部: どこがメリットになるかはプレイヤーの方それぞれだとは思いますが、一番大きいのは、ネットワーク遅延の部分です。10人のプレイヤーがリアルタイムに対戦をするので、操作の入力が即座に反映されるのが理想です。今、北米サーバーだと早くても100~130msの遅延があるので、日本サーバーができればこれが相当短くなります。

また、日本語ローカライズの部分は、既存プレイヤーの方にはそこまで重要ではないかもしれませんが、やはり日本人のコミュニティーなら日本語でコミュニケーションできるのはメリットですし、英語が敷居になってなかなか入り込めなかった人たちにとっては、とても良いきっかけになるはずです。単純に、世界各国でやっているように、その国の声優がチャンピオンに声をあてることで、どんな雰囲気になるのかは、エンターテイメント、楽しみの要素ですよね。

――なるほど。遅延がなくなれば、ラストヒットを取る感覚も大きく変わりそうですね。

ところで、ライアットゲームズの日本支社は、国内ローンチまでに何名くらいの規模を目指しているのでしょう。


乙部: 20から30名くらいを目指したいなと思っています。


――さて、次はe-Sportsについてです。今、e-Sports文化が世界的な盛り上がりを見せていて、私も取材をする中で、日本でも徐々に注目を集めるようになってきたと感じます。しかし、海外に比べるとやはり規模が異なります。今後、日本で『LoL』がe-Sportsシーンに参入していく上で、既に海外で開催されているLCSなどの大会に日本もグローバルに参加していくのか、あるいは日本は日本だけの形を作っていくのか、そういった方向性は見えているでしょうか。

乙部: 今色々考えているところで、まだ具体的な方向性は決まっていません。ただ、他のスポーツと同様、全ての国が同じように参加する権利があるのはおそらくオリンピックくらいです。まずe-Sportsがどれくらい地域で盛り上がっているのか、どれくらいプレイヤー人口がいて、その国のトッププレイヤーがグローバルでどれくらい実力があるか、そういったものをベースに考えて、ワイルドカードの資格を与えるのがいいのか、あるいは世界大会の一部に組み込んでいくべきなのかを考えます。今、世界には、米国、東欧、西欧、中国、韓国からなる5つのリーグがあって、各リーグの優秀チームが最終戦に望む形になっています。将来、ここの中に新しい地域が加わることもあるでしょう。日本のe-Sportsがこれからどういう勢いで発展していくかによって、そのスケジュールも変わっていくはずです。私としては、出来るだけ早いタイミングでワイルドカードなどに参加できる資格が得られるように、日本も盛り上がってほしいなと思います。

――今まで主に英語圏のプレイヤーと遊んでいたのが、日本サーバーで日本人プレイヤー同士が遊ぶようになった時、チャットでのコミュニケーションがダイレクトに伝わるようになって、煽りや暴言などで場が荒れる心配をされているプレイヤーもいるのでは。海外で導入されているTribunal(プレイヤーが他のプレイヤーのプレイマナーを審判できるシステム)のような施策は何か考えられていますか?

乙部: そこは、日本人同士になったから何か変わるものではないと思っています。現状、グローバルで見ても悪質な発言をするプレイヤーは問題になっていて、ゲームがスポーツとして盛り上がって勝敗に思い入れがあることの裏腹でもあるので、なかなか根絶しきれないところはあります。とはいえ、過剰なものはコントロールしなければならない。ただ、ライアットが管理人として上から目線で何かを変えていくよりは、出来るだけプレイヤーコミュニティーの中で自浄したいという発想があります。Tribunalも、まさしくプレイヤー同士がそれを考えていく仕組みです。ライアットの面白いところで、心理学の博士号を持っている人間も社内にいて、ゲーム中でどんなメッセージを伝えたら、プレイヤーの悪質な発言が無くなるのかを考えています。正面から「これはダメですよ」と言うのではなく、例えば「協力してプレイした方が勝率が高い」と言ったりして、アプローチをしています。

――確かに、「チームワークOP」の公式動画は印象的でした。

では、少しプライベートな質問です。『LoL』で乙部さんのお気に入りのチャンピオン、ポジションは?


乙部: なかなか辛い質問ですね(笑)。最初の頃は、AsheとかJinxとかAD Carryだったのですが、Rankedをやるようになったら、ADCは責任が重く、下手だと責められやすく辛い思いをするので、最近は結構Midをやったりしています。Ahriなんかも好きですね。実はSupportのBlitzcrankも好きなのですが、Rocket Grabの引っ張りを外した時のカッコ悪さが恥ずかしくて……。

――ライアットジャパンの社長さんが、ADCの責任が重くて辛い、とおっしゃってるのも何だか可笑しいです。

乙部: はい、決して私は上手くはないので……。やはり他のスポーツと同じで、若さには勝てません。でもプレイするのは好きで、特に最近は時間の都合もあって、手軽なARAMをやることが多いです。


――それでは最後に、日本展開を期待しているプレイヤーにメッセージをお願いします。

乙部: お待たせしている方々が多いと思いますが、チーム一丸となって、良い物が届けられるようにがんばっていますので、期待してください。またご意見等があればお寄せください。人材も募集していますので、よろしくお願いします。

――分かりました。本日はありがとうございました。

《Game*Spark》

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