そう思います。実際にリッチ化の波は止まらないですしね。市場もどんどん伸びてきて、開発予算にミドルウェアを導入していただける余裕が出てきました。また、それにあわせて料金体系も大きく変えました。パッケージゲームの時はソフト一本あたり幾らというモデルでしたが、スマホアプリでは一ヶ月あたり幾らという形にしています。売り上げがいくら伸びても、ロイヤリティは原則として一定なので、非常に良心的だと評価していただいています。
―――ええっ? ヒットに応じてロイヤリティを得るのが普通では・・・
そこがパッケージの時と大きく違う点ですね。実際に「ヒットタイトルから、もっとロイヤリティをもらってもいいのでは」と言われることもあります。しかし、弊社はそこを目的としていません。より多くの人に採用してもらえることが、結果的にビジネスにつながり、業界全体の底上げになると考えています。みんなでハッピーになれます。
―――今の主力製品は何になりますか?
サウンド向けの「CRI ADX2」と、映像向けの「CRI Sofdec2」、ファイル圧縮の「ファイルマジックPRO」、ほかにもありますがこれが三本柱です。もう一つ柱を作りたいと思っていて研究開発を進めています。今スマホにはカメラやマイクが標準搭載されていますよね。つまり家庭用ゲームと違って入力デバイスがデフォルトでついているんです。そこで入力向けの何かがあってもいいのかなと思っています。先ほど音声認識はニッチな技術だと言いましたが、スマホ時代になって環境がまた変わってきました。
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音楽と映像、そしてファイル関連が現在の柱 |
―――たしかに、それは気がつきませんでした。
人間のコミュニケーションをしたいという欲求は普遍ですしね。ただ、だからといってビデオチャット、ボイスチャットが正解だとは思っていません。まあ、ちょっと視野を広げて、みんなでわいわいできるようなものが作れればと思っています。
―――海外市場については、どのように取り組まれていきますか?
『Destiny』に採用してもらえたのは大きかったですね。アクティビジョンさんから最初に問い合わせがあったときは、何に使われるのか全然わかりませんでした。もともと『Destiny』の開発スタジオは『Halo』シリーズを作っていたバンジーさんで、ボーナスディスクのムービー圧縮でSofdec2を採用いただいた経緯があるんですよ。そうした背景も手伝って採用に至ったようです。実際にあれがきっかけで数社から問い合わせがありました。ただ、まだまだ大きな収益の柱ではないので、これから育てていきたい分野ですね。
※Destiny・・・米国のアクティビジョン・ブリザードから発売され、『Halo』などで実績のあるバンジーが開発したオンラインRPG・FPS。初日の売上が5億ドルを超えるなどの大ヒットを記録した。国内ではソニー・コンピューターエンタテイメントから発売された。
―――あらためて上場までの過程を振り返ってみて、いかがですか?
自分たちがやっていることを見つめ直す良い機会になりました。一口に「音声と映像」といっても、すごく幅が広いですからね。うちならではの強みって何だろうと考えて、「組み合わせ再生」という言葉を作りました。映像とゲームの最大の違いはインタラクティブなことです。これは映像製作でいうところのミックスダウンが事前にできないことを意味しています。プレイヤーの選択次第でさまざまな音声と映像の組み合わせができるのが、ゲームの特徴です。「選択」がキーワードです。
―――そうですね。
一方で豊かな社会とは選択肢の多い社会でもあります。自動車でもT型フォードのように「安くて高性能」な車種が一台しかないよりも、いろいろな車種があって消費者が自由に選べるほうが楽しいですよね。ゲームでも2Dから3Dになって、プレイヤーがゲーム内でとれる選択肢が圧倒的に広がりました。もっとも、広がりすぎると訳が分からなくなるので、選択肢の幅を狭めつつ、適切な方向にプレイヤーを導いていけるのがゲームクリエイターの仕事ではないでしょうか。そこを技術的にサポートしていくことが弊社の使命です。
―――うまくまとめていただき、ありがとうございました。最後にメッセージがあればお願いします。
おもしろくて、感動する、わくわくするようなゲームをみんなで作っていきましょう。弊社として、そこにお手伝いできれば幸いです。
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渋谷のCRI・ミドルウェア本社にて |