月曜日の朝、いつものようにTwitterを眺めていたら、突然目に飛び込んできた任天堂・岩田聡社長の訃報。一瞬、何が起きたのかサッパリ理解できなかったのですが、冷静にそれが現実であることを頭が理解し始めると、大切な友人を失ってしまったかのような、哀しみとも寂しさとも取れる、よくわからない感情がこみ上げてきました。2000年代、PS2でゲームを満喫していた筆者だったのですが、とてもナチュラルにニンテンドーDSやWiiに興味を持てるようになったのは、岩田社長のゲーム作り対する信念、即ち「見栄えをもっとリアルにすることだけがゲーム体験を改善していく手段ではなく、ほかの手段も見つけていく必要がある」という考えに共感できたからだと、今だからこそ改めて感じている次第です。
自分の中でゲームの“善し悪し”を判断するとき、“グラフィックのリアルさ”は、特別に印象的なものでなければそれほど影響を及ぼしません。決め手としてより高い優先順位にあるのは、「手応え」や「遊び心地」だったりします。岩田社長がHAL研究所時代にプログラミングしたファミコンソフト『バルーンファイト』も、「手応え」がとても楽しくて、Wiiバーチャルコンソールで購入して以降、今でもWii Uや3DSで定期的に、嫁と2人で楽しくプレイさせてもらっています。
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というわけで、今回の【そそれぽ】は岩田社長を偲んだ特別企画として「プログラマー・岩田聡」の軌跡を辿っていきます。プレイするのは、任天堂のWii Uバーチャルコンソール『ピンボール』『ゴルフ』『バルーンファイト』の3本です。
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「プログラマー・岩田聡」と言えば、スーパーファミコンソフト『MOTHER2』開発時の逸話がゲームファンの間では非常に有名です。
「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。イチからつくり直していいのであれば、半年でやります」
※ほぼ日刊イトイ新聞 - 『MOTHER2』ふっかつ記念対談 より
http://www.1101.com/nintendo/mother2_wiiu/
※ほぼ日刊イトイ新聞 - 『MOTHER2』ふっかつ記念対談 より
http://www.1101.com/nintendo/mother2_wiiu/
ただ、この話の一番すごい部分ってちょっとだけ勘違いされがちだと思うのですが、岩田氏がゲームそのものを手早く開発したのではなくて、開発スタッフチームがゲーム制作するためのツールを岩田氏が新たに作ることによって、全体の制作効率を大幅にアップさせたという点にあったりするんですよね。なので、『MOTHER2』における「プログラマー・岩田聡」の天才ぶりとしては、ユーザーに直接届けられたというよりは、間接的な恩恵の方が大きいかもしれないのかな、と勝手に想像しています。
なので、今回はあえて上に挙げたファミコンソフト『ピンボール』『ゴルフ』『バルーンファイト』を、「プログラマー・岩田聡」が“直接!”感じられる3本としてプレイしていきます。この3本をプレイしながら、岩田社長に「ありがとう」の気持ちを伝えられたらと思います。
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1984年2月2日に発売されたファミコンソフトで、タイトルのまま「ピンボール」を楽しむゲームです。画面は縦に2分割され、それぞれの画面にフリッパー(ボールを打ち返すアレ)が用意されいます。AもしくはBボタンで右のフリッパーを、十字キーで左のフリッパーを動かすので、直感的にプレイできます。
特に決まったゲームクリアやエンディングなどは設けられておらず、より高いスコアを目指すことを楽しむゲームです。初期のファミコンではよくあるタイプですね。また、それほど有名ではないのですが、ボーナスゲームには“マリオ”や“レディ(ドンキーコングに捕まっていた女性)”も登場します。
■『ピンボール』に見る「プログラマー・岩田聡」
任天堂系のゲーム機、特にゲームボーイなんかでは「ピンボール」を題材にしたゲームが、たくさんありました。有名なところだと『カービィのピンボール』や『ポケモンピンボール』。あのボールや跳ね返りなどの挙動プログラムを辿っていくと、ファミコンの『ピンボール』に行き着きます。
上記のようなゲームボーイの「ピンボール」ゲームのプレイ経験がある人は、プレイ感覚が非常に似ているので、きっとファミコンの『ピンボール』も違和感なくプレイできると思います。実際、筆者も初めてプレイした「ピンボール」ゲームは『カービィのピンボール』でしたが、ファミコンの『ピンボール』の挙動はそれを思い出させます。ビデオゲームにおける「ピンボール」の基本的な部分だけを楽しめるのが、このファミコンの『ピンボール』なのですが、逆に言えば「デジタルピンボール」の“基本的な部分”は、本作ですでに完成されていたと言っても過言ではないのかもしれません。
岩田社長たちが最初に作った『ピンボール』の挙動プログラムは、実機の「ピンボール」では体験できないビデオゲームならではの娯楽性が多分に含まれています。この挙動と娯楽性は、後にさまざまなハードや形態で登場する「デジタルピンボール」にも大きな影響を与えて、今では諸外国でも実機がほとんど失われてしまった「ピンボール」というゲームそのものに、新たな可能性を与えてくれました。「デジタルピンボール」の始祖的な存在として、今後も語り継がれ、参考にされ続けていくと思います。
【こんな人にオススメ】
・シンプルなゲームを繰り返しプレイしたい人
・ちょっとした隙間時間のワンプレイを楽しみたい人
非常にシンプルですが、ただ触っているだけで楽しい夢中になれる「手応え」がゲームにしっかりと存在します。気軽にワンプレイだったつもりが、いつの間にか何プレイもしてしまう、アレです(笑)。紹介ページやYouTubeにプレイ映像があるので、興味がある方はあわせてぜひチェックしてみてください。
■ピンボール プレイ映像
YouTube 動画URL:https://youtu.be/QoijrfAcxAc
『ピンボール』は、好評配信中で価格は514円(税込)です。
(C)1983 Nintendo
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1984年5月1日に発売されたファミコンソフトで、こちらもタイトルそのまま「ゴルフ」を楽しむゲームです。風向き、風の強さ、カップまでの距離を念頭に、その場その場で適切なクラブを選んでボールを打ち、アンダースコア(良い成績)を目指して全18ホールを回ります。
画面は、ホールの情報と全体マップ(グリーンに乗った場合はグリーンの拡大マップ)、プレイヤーの状況のみ描かれ、非常にシンプル。BGMも特になく、音は打球が飛んだりカップインしたりといった際のSEだけです。ちなみに、プレイヤーキャラクターは8頭身になった“マリオ”っぽい人であって、“マリオ”そのものではないです。
■『ゴルフ』に見る「プログラマー・岩田聡」
ゲージ的なものを見ながら、ボタンを押すとバックスイングを開始し、次にボタンを押すとパワー(飛距離)が決まり、最後にボタンを押すとインパクトの位置(ボールの打つ位置)が決まってボールが打ち出される・・・という、今日のビデオゲームの「ゴルフ」には欠かせないシステムが確立されたゲームという点ですでにものすごく偉大です。「リアル」とはもちろん異なるものの、「ゴルフ」において、スイングしてボールを打ち出す感覚をゲーム的に最も的確に表現したシステムであると言えるのではないでしょうか。また、風向きや芝目(傾斜)の影響が非常に強いことも特徴です。
距離表示が「ヤード」ではなく「メートル」だったり(時代性も影響しているかもしれません)、カップまでの残り距離がわからなかったりと不便な点も多少ありますが、上記のシステムを活かし、適切なクラブを選ぶ重要性、あるいは、ボタン押し3回によるショットからボールが飛んでいく場所を逆算するゲーム性は、シンプルなゲームの中にしっかりとした娯楽性を生み出しています。
ボタン押し3回ショットシステムの「手応え」が、ゲームとしての『ゴルフ』の面白さをとにかく際立たせています。これに慣れると、明らかにスコアが良くなっていきます。指や感覚で覚える「手応え」はアクションゲーム的でもあります。「ゴルフ」を単純に再現しただけのゲームではなく、こういった少しの「娯楽性」を加えたことが、今日のゴルフゲーム人気の理由と言えるのではないでしょうか。
「手応え」や「遊び心地」にゲームの面白さの根本にあるのではないかと考える筆者にとって、『ゴルフ』は本当に「手応え」と「遊び心地」のゲームであるなぁと感じました。グラフィック表現がまだそれほど重要視されなかった当時(当時なら本作のグラフィックはファミコンソフトとして十分満足なものだったはず)、本作が大ブレイクしたことも頷けます。
【こんな人にオススメ】
・シンプルなゴルフゲームをプレイしたい人
現代のゲームと比べると、細かなシステムの不便さはあるものの、「手応え」と「遊び心地」だけなら十分通用すると思います!そんな『ゴルフ』も、紹介ページやYouTubeにプレイ映像があるので、興味がある方はあわせてぜひチェックしてみてください。
■ゴルフ プレイ映像
YouTube 動画URL:https://youtu.be/KHcMQio-6XQ
『ゴルフ』は、好評配信中で価格は514円(税込)です。
(C)1984 Nintendo
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1984年にアーケードに登場し、1985年1月22日にファミコンソフトとしても発売。フワフワ風船で浮かぶプレイヤーキャラを操作し、同じく風船で浮かぶ画面内の敵をすべて倒してステージクリアを目指すアクションゲームです。
敵も味方も頭上についている「風船」がポイントで、上からの体当たり攻撃で風船が割れます。プレイヤーキャラは2つの風船を割られてしまったらミスとなります。敵の風船は1つですが、風船が割れるとパラシュートで降下。地面にたどり着くと空気入れで再び飛び立とうとするので、その前にもう1度体当たりしてトドメをさして倒しましょう。2人プレイでは、お互いにも当たり判定があるので、足の引っ張り合いにならないように注意したり、逆に対戦プレイのような遊び方をしたりすることも可能です。
また、障害物を避けながらスクロールする画面をより遠くへ飛び続け、ハイスコアを目指す別モード「バルーントリップ」も収録されています。これらファミコン版のプログラミングを岩田氏が手掛けています。本作の元となったと言われるウィリアムス社の『ジャウスト』については長くなるので省略。
■『バルーンファイト』に見る「プログラマー・岩田聡」
アーケード版よりもファミコン版の方が優れた挙動を楽しめるということで、アーケード版のプログラミングを担当した中郷俊彦氏が、別会社の岩田氏のもとにレクチャーを受けに行ったという逸話があります。
中郷
「HAL研さんがつくった家庭用のほうがプレイヤーの動きがスムーズなのはなぜだ?」という話になりまして、それで岩田さんに相談させてもらったんです。
※社長が訊く - New スーパーマリオブラザーズ Wii より
http://www.nintendo.co.jp/wii/interview/smnj/vol2/index.html
「HAL研さんがつくった家庭用のほうがプレイヤーの動きがスムーズなのはなぜだ?」という話になりまして、それで岩田さんに相談させてもらったんです。
※社長が訊く - New スーパーマリオブラザーズ Wii より
http://www.nintendo.co.jp/wii/interview/smnj/vol2/index.html
これが、後の『スーパーマリオブラザーズ』の水中ステージの挙動に活かされたそうです。つまりファミコンの『バルーンファイト』がなければ、今“マリオ”は水中を泳いでいなかった!・・・かもしれません(笑)。
このエピソードにある通り『バルーンファイト』のフワフワした「手応え」は、今でも他に類を見ない、やってみなければ伝わりきらない「遊び心地」があります。Aボタンを連打するほど上昇、何もしなければ下降、左右で位置調整という動きだけで成り立っているにも関わらず、独特の慣性がはたらくために、思い通りになかなかいかない少しもどかしい動きが、最終的に娯楽としてクセになります。
1人プレイはもちろん、2人プレイがとにかく楽しいです。上手く協力プレイが成り立てばハイタッチ、足を引っ張り合ったらリアル喧嘩勃発(笑)。絶妙にもどかしい挙動が「娯楽性」を強めています。
ちなみに1人用の別モード「バルーントリップ」は、岩田氏が開発最後の3日間で急遽制作したと過去の「Nintendo Direct」で明らかにしています。1人でプレイする際は、この「バルーントリップ」の方がハマるという方も多いのではないでしょうか。
【こんな人にオススメ】
・2人協力プレイのゲームを探している人
・アクションゲームが好きな人
・『アイスクライマー』はやったけど、こっちはやってない人
とにかくフワフワした挙動がもどかし気持ち良いゲームです。慣れてくるとやみつきになります。1人でも2人でも、手軽に、じっくり、さまざまなスタイルでの遊び方を受け入れてくれるゲームだと思います。こちらも紹介ページとYouTubeにプレイ映像があるので、興味がある方はあわせてぜひチェックしてみてください。
■バルーンファイト プレイ映像
YouTube 動画URL:https://youtu.be/sekPVfryNAc
『バルーンファイト』は、好評配信中で価格は514円(税込)です。
(C)1984 Nintendo
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【そそれぽ】追悼企画「プログラマー・岩田聡の軌跡を辿って」、いかがでしたでしょうか?こうして3本を改めてプレイして感じたことは、岩田社長が「肩書は社長、頭は開発者、でも心はゲーマー」という言葉通りなんだな、ということ。ゲーマーとしての自分の目線が、開発者・プログラマーとしての自分を突き動かして、より洗練したゲームを完成させていったのではないかと想像します。優れたゲームプログラミングは、プレイヤーの心を鷲掴みにします。それが、ゲームにおける「手応え」や「遊び心地」なんだと思います。
今から30年以上前に岩田社長がプログラマーとして作った「手応え」や「遊び心地」は、今のゲームにも確実に生きています。晩年、巨大な会社の社長であるにも関わらず、そのゲームの「手応え」や「遊び心地」を我々にわかりやすく伝えるという「開発者」と「ゲーマー」の橋渡し役も、「Nintendo Direct」や「社長が訊く」で全うしてくれました。そのおかげで出会えたゲームも沢山あります。
岩田社長、長い間本当におつかれさまでした。そして、沢山のゲームの「手応え」と「遊び心地」を伝えてくれて、教えてくれて、ありがとうございました。これからも、岩田社長のDNAが受け継がれているゲームを沢山遊んでいきたいと思います。
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津久井箇人 (つくいかずひと) a.k.a. そそそ
作・編曲家・ライター。物心がつく頃にはMSXで『グラディウス』をプレイしていた無類のゲーム好き。ゲームを紹介するブログ記事が評価され、2011年からINSIDEでニュース原稿執筆・ライター活動を開始。レトロゲームから最新ゲーム、戦略シミュレーションゲームから格闘ゲームまで、幅広いジャンルのゲームをプレイ。
Twitter:@sososo291
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