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開発は、視覚障がい者と健常者が一緒に遊べるボードゲーム『アラビアの壺』や『ダッタカモ文明の謎』などで知られる「ギフトテンインダストリ」と、VR段ボール製のお手軽VRゴーグルでおなじみの「ハコスコ」が共同で行っており、今回は「ギフトテンインダストリ」の製作チームに製作秘話を伺いました。
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本作は3DSやWii U向けタイトルによく見られる“2画面を使ったゲーム”をアナログゲーム的に再現したもので、VRゴーグルを「被る人(1人)」と「それ以外の人」に分かれてプレイ。VRゴーグルには遺跡の中が映し出されており、「被る人」は60秒という制限時間中に辺りの情報を言葉にして発言し、残りのプレイヤーはその情報を元に現実のテーブルの上に地図を作っていきます。
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地図作りには、道を示すタイルや目印となるアイテムのトークンが用意されており、例えば被っている人が「正面は十字路で、右に像がある」と言えば、他のプレイヤーは「十字路のタイルと像のトークン置きますね」……といった様に進めて行きます。なお、制限時間内はVRゴーグルを外すことはできませんが、「右にはなにがありますか?」といった質問には答えることができます。
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制限時間が終わったら仮面を外し、別のプレイヤーに「被る人」を交代。これを7回繰り返して行き、断片的な7つの地図が出来上がります。最後はこれを内容を組み合わせ、1つの地図にしていきます。後はアプリに表示される地図と形を見比べ、無事に財宝へと続く地図が作れていればゲームクリアです。
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今回は、私と濱田さんと同席した編集部員の3人でプレー。ちなみに、今作は2人~最大で7人まで同時に遊ぶことができます(今回使用しているものはすべてテスト版のもので、製品版とは異なる場合があります。また、アプリの画面は実際使用したものとは異なります)。
まず第1回は私が仮面を担当。プレイヤーはピラミッド内を移動すること無く、周囲を見回し「自分の真後ろに絵があって、右には像があって、まっすぐ通路が……」みたいなことを伝えていくのですが、60秒間で伝えきるのは結構難しい! 初回は置いてあるものの説明するのに時間を取られ、通路の構造がうまく伝えられませんでした。
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また、通路上に登場するなんとも形容しがたいオブジェは「山みたいな奴がある」と伝えたものの、違うトークンが置かれていました。これらトークンはゲームルール上あえて名前が設定されていないため、事前に相談して名前を決めておくとよいでしょう。今回はうっかり飛ばしてしまいましたが、こうやって会話のきっかけとなる仕組みが用意されているのは面白いですね!
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そして、編集部員と交代。交代して仮面を覗くと同じ迷宮内が見えますが、立っている位置が違うため見えるものも違ってきます。伝える側も難しいけど、地図を作る側もなかなか大変。制限時間が間違った通路のタイルを取ったりしてしまうとかなり焦る!続けて、濱田さんが仮面を装着。流石、デザイナーというところで、的確な指示が行われ、地図もバシッと作ることが出来ました。こうして2周目へと入り、協力しながら地図をどんどん製作。だんだんと指示の仕方と受け方がわかるようになり、自然にチームワークが生まれてきました。
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そんなこんなで、7回が終了。答え合わせの前に作った地図を、置いてあるアイテムや通路の形などを重ねながら、つなげて一枚にしてみることに。すると、大体つなげることが出来たものの、どうしても一箇所繋がり方がわからないという問題が発生!改めてどんな構造だったかをそれぞれが思い出し、きっとこんな感じだろうという地図を完成させ、いざ答え合わせへ……。
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答え合わせでは、ハコスコからスマホを取り出し、発掘チームの代わりに命がけで危険なピラミッドの内部に入り込む「犬」を表すコマを地図の上に配置し、スマホから流れる音声にしたがって、コマを動かして宝(ゴール)に到着できるかどうかをチェック(画像は実際に使用した画面とは異なります)。右へ行って、左へ行って、問題の想像で繋いだ部分へ到着……これは壁にぶつかったりして犬は迷子になって犬ミイラ化か……と思いきや、なんと我々の予想は的中し、見事に宝に到着!ハイタッチ!ここがわかりづらかったねとか、実際はこうだったんだねとか、答え合わせの後に感想を言いながら勝利を分かちあう一同。こうやってゲームが終わった後もワイワイ盛り上がれるのはすごく良い!
今回は丁寧な説明を含めても1時間もかからず遊べており、2回目以降なら15~30分くらいでサクサク遊べるはずなので、クリアできなくても「もう一回やってみよう!」と言い出しやすいゲームなのも魅力的。ボードゲーム会などでヘヴィなゲームを遊んだ後に、軽く遊ぶサブのゲームとしても楽しめそうですね。
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スマートフォンさえあれば遊ぶためのスペースも大きく必要ないので、カラオケ等の小さなスペースでも遊べることでしょう。ボードゲームをまったく遊んだことがないという人でも、直感的に遊べるシンプルなルールであり、年齢を問わず白熱できること間違いなし。
デジタルなVRを使っていながらも、アナログゲームの魅力である「コミュニケーションを取りながら同じ時間・空間を共有する楽しさ」と「実際に物に触れながら遊ぶ楽しさ」の両方をしっかり楽しめる画期的なボードゲームとなっています。今後のVRゲームもこういうスタイルの物が増えていくことに期待です。
それでは、引き続き濱田さんに加え、今作のプログラムを担当した下嶋健司さんに開発の経緯など詳しいお話を伺っていきましょう。
――今回はなぜ今までの作品とは大きく違うVRのボードゲームにしようと思ったのですか?
濱田:下嶋さんと出会ったのがきっかけですね。
下嶋:VRとボードゲームを合わせたものに興味があるんですよと話をふったら、盛り上がって。
濱田:今まで視覚障がい者でも遊べるゲームを作ってきましたが、ずっとそういうゲームだけを作りたいというわけじゃないんです。ただ、感覚のどれかを塞ぐことで生まれるゲームもあるんじゃないかと前々から考えていたというのが基本になっています。
VRは一番の特徴として、1人しか見えないという点がありますよね。普通に考えたら欠点だけど、あえて1人にしか見えないことを活かしたゲームをつくってみようと思ったわけです。
下嶋:自分の中ではVRとボードゲームを組み合わせるなら、ボードゲームの『クルード』(殺人事件を解決する推理ゲーム)みたいなものにしたいと思っていました。あとVRゲームの『Keep and Talking Nobody Explode』(VRを使った協力型爆発物処理ゲーム)にも影響を受けましたね。
――ゲームデザインはどういった形でスタートしたのですか?
濱田:人に見えてる風景を伝えて、それをほかの人が再構成するというゲームは面白いんじゃないかなというアイディアを検証してみようというところから始まりました。
最初はVRゴーグルに写った、シンプルなCGの街の風景を伝えるというゲームだったのですが……街の風景は目印を見つけやすぎてしまい、これが全然面白くなかったんですよ(笑)。
そこから、閉鎖空間である迷路の風景を伝えるというゲームになったんですが、まだアイディアが固まってなくて、最初は殺人現場が舞台でした。他プレイヤーを出し抜く要素など対決要素もいろいろありました。
下嶋:ここまでは、ボードゲームの『クルード』に近い感じでしたね。
濱田:作った迷路がどれだけ正解に近いかという答え合わせのやり方もいろいろ考えました。最初はアプリで地図を読み込ませて、正答率が何%みたいなことをやろうというのもあったんですが、最終的にはコマをガイドに従って動かすというものに落ち着きました。
下嶋:殺人現場を再現するというやつだと、最後があまり盛り上がらなかったので、対決要素をいれてみたりしましたね。
――最初は今とはだいぶ違う感じで、試行錯誤の連続だったのですね
濱田:ボードゲームの開発は面白くて、夜な夜なみんなで集まって、面白くなかったりするところを直接書き込んだりしながら改良を加えてもう一回遊んでみるんですよ。そんなことを繰り返してると、下嶋さんが終電を逃すなんてこともよくありましたね(笑) とにかくこんな感じで、ルール部分は改良が加わっていき、完成に近づきました。
――テーマはどうやって探検ものになっていったのですか?
濱田:当初は、美術館に忍び込む怪盗が主人公で特殊なゴーグルで室内を覗き、ロボットに宝を取りに行かせるというテーマもあって、なかなか気に入っていました。でも、VRのゲームがまだまだ色んな物が出ていないくて聞き慣れないものなので、テーマはあえてベタな探検ものを選びました。
――製作期間はどれくらいなんですか
濱田:基本的な遊びの部分は合宿的な感じで集まって、昨年の7月に集まって2ヶ月くらいで作りました。そこから本製作に入りいろいろありました。一番大変だったのはいかにコストを削減するかでしたね。
――いろいろ入っているのに3980円ですものね!
濱田:例えば、ギフトテンインダストリでは、ボードゲーム用の駒を作るサービスをやっているんですが、このゲームで使う駒は金型なしで立体を作れる製造法でやっていて、コストを抑えています。
実は最初の『アラビアの壺』が金型を作ってしまったがために凄いコストが掛かって大変なことになったので、その教訓が活かされているんですよ(笑)。 あとは、トークンをなるべく同じ形にするというのもコスト削減につながっていますね。
――こんな小さい箱のボードゲームに、かっこいいハコスコが入ってるのも凄いですよね
濱田:ハコスコはコンセプトとして面白いんですが、デザインは大変でしたね。遊んだ後に軽く分解するだけで箱に中にしまえて、さらに他の駒やトークン、タイルの収納スペースとしても機能しますよ。
――アプリも2ヶ月で製作したのですか?
下嶋:そうですね。最初から周囲を見回すだけで、カメラの位置を動かさない事をゲームのルールの作る上での前提にする事で、酔いにくいカメラ操作に時間を割かなくても良いようにし、開発時間を短くしました。あと、どうしても60FPSで動くようにしたいというこだわりもありましたね。
濱田:グラフィックをいかに軽くして、いかになめらかに見せるかというのは長く考えてましたね。
下嶋:濱田さんから、あれをやりたいこれをやりたいといわれても、嫌ですと断って、こだわりぬきましたね(笑)。
――今後はどのような展開を考えていますか?
濱田:キックスターター等の海外のクラウドファンディングサイトで資金を集めて、クオリティアップをしてみたいというのは考えています。
――ありがとうございました
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今回紹介した『アニュビスの仮面』は、3980円(税別)でギフトテンインダストリの公式サイト上で予約受付中。発売は3月上旬を予定。また、2月21日に開催される『ゲームマーケット神戸』にて限定先行販売を実施。ボードゲーム店での流通もあるようですが数は少なめとのこと。サイト上での販売分の初回予約は限定500個ということなので、気になる方はお早めにどうぞ!
■傭兵ペンギン
フリーライターとして働く傍ら、時々アナログゲームの翻訳をしております。アナログゲームと筋肉映画が大好物。最近はホビージャパンのテーブルゲームチャンネルでTRPG『ウォーハンマーRPG』のプレイ風景を生配信する番組に出演中。先日『フロストグレイブ』のプレイ風景も配信しましたので是非チェックしてみてくださいね!
Twitter:@Sir_Motor