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エンターテイメントとして面白いのはもちろんのこと、ゲーム業界を赤裸々に描く描写にも関心が集まった本作ですが、実際にゲーム制作に携わっている人間から見ると「『東京トイボックス』はどこまでリアルなのか、逆にあり得ない部分はどこなのか」そういった疑問が浮かぶ方もいることでしょう。
そんな疑問に大胆に踏み込むイベント「”魂は合ってるか!?”第一線のゲームPが『大東京トイボックス』を読んで語る一夜限りのトイボナイト Presented by ブレイブフロンティア」が、3月16日に「マンガサロン トリガー」に開催されました。
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今回のイベントには『ブレイブフロンティア』のプロデュース及びディレクションを担当しているエイリムの代表取締役社長・高橋英士氏、サーチフィールドの小林琢磨氏、ゲーム開発会社サイバーコネクトツーの代表取締役・松山洋氏、「東京トイボックス」作者・うめ氏という豪華メンバーが集まり、一夜限りの熱いトークショーを展開。本稿ではその模様をお届けします。
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まずはそれぞれの自己紹介から幕開けとなりましたが、序盤から“トイボ熱”が上がってしまった松山氏は、「ゲームを題材とした漫画は当時も多かったが、ゲームクリエイターに焦点を当てた作品は珍しかった」と、自身が身を置くゲーム業界を舞台とした本シリーズへの情熱を語り始め、「まだ自己紹介の途中ですから」と早くも進行に影響を与えるヒートアップを展開。なお、松山氏は自身を「東京トイボックス大好き芸人です」とユニークな表現で紹介しました。
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ちなみに高橋氏は、「スマートフォンゲームはあまり遊ばない」と、さらっと大胆な発言をこぼします。すかさず松山氏が「自社のゲームは遊ぶけど、他社のはゴミだからってこと?」と刺激的なツッコミを入れると、「素敵なゲームはいっぱいありますけど、大画面でコントローラ握って遊びたいタイプなんです」と自身の嗜好を明かして補足しました。一歩間違えば爆弾級の発言だけに、見ている側もヒヤヒヤです。
なお、イベントの開催日である3月16日は、ゲームファンはもちろんゲーム業界も注視していた「PlayStation VR」の価格や発売時期などが発表された日でもあり、そちらに関する話題も持ち上がりました。44,980円という価格に対して、高橋氏は「思ったより安かった」、うめ氏は「倍くらいになるのかと思った」と、想定を下回ったとの感想を語りました。
そして、「サイバーコネクトツーは、PS VR向けのソフトを出すんですか?」というデリケートな質問に対し、「今年はVR元年とも言われていますし、そのVRの研究開発をやっていない会社はまずありません。ウチもやはり、準備はやっています」と、松山氏からギリギリのラインと思える返答が飛び出します。トイボにもVR関連の話があっただけに、現実がどのように追いついてくるのか気になるところです。
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作者のうめ氏は、自己紹介の前に「サイバーコネクトツー20周年」を記念する自筆イラストを松山氏にプレゼント。この嬉しい不意打ちに、松山氏は歓喜し、小林氏は「いいなー!」と羨ましがります。それぞれ、業界人としての立場以上に「トイボファン」としての気持ちが溢れ出ていますが、その熱は更に増していくことに。
「やはりゲームが好きだから、このモチーフを選んだのですか?」といった質問にうめ氏は頷きつつ、「三国志とか大戦略をずっとやってました。自衛隊の戦車が89式だった頃ですね」と、かなりコアな発言で自身の遍歴に触れました。
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そこから話は、いよいよ「東京トイボックス」シリーズに切り込む流れとなり、まずは高橋氏が「もっと非現実的な話なのかなと思っていたら、ベースからしてすごくリアル」と、そのリアリティの高さに太鼓判を押し、「こんなヤツいた、こんなことあった」と感じながら読み進めていったと語りました。
給湯室で自分の悪口を聞くシーンといった、作中で展開された様々なシーンは「想像なのか実話なのか」と問われたところ、うめ氏は「両方あります」と返答。また、メンタルがやられてしまった社員に関しては、うめ氏よりも先に高橋氏と松山氏が「いる! リアルにいるから」と力強く断言。
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更に松山氏は「(現実と)決定的に違うところは、マサは帰ってこない!」と魂の叫び声をあげますが、「帰ってきた例がホントにあるんですよ」とうめ氏が参考にした実例を明かします。その話に耳を傾けつつも、「依田っちいないもん、うちの会社に!」と、やはり心の底からの吐露を漏らします。そして「依田っちはいないけど、須田さん(の様な人)はいる!」とも発言し、高橋氏も「須田さんのリアル具合は、業界人に刺さる」と力強く同意しました。
なお、松山氏は「東京トイボックス」の巻末にあった“協力 アクワイア”を見た瞬間にイラッとしたとのこと。もちろんアクワイアに他意があるわけではなく、「なんでウチじゃないんだ」と、名作漫画に力添えができなかったことが悔しかったと述べます。
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ちなみに「東京トイボックス」が生まれた経緯は、元々ゲーム業界に憧れていたうめ氏が、「サラリーマンものを書いてくれ」という編集部の要請に対し、「ゲーム会社もサラリーマンだ」として考え始めたのがきっかけとのこと。しかし編集側からはなかなか肯定的な返事がもらえず、また興味を持ったアクワイアへの取材申請も通りませんでした。
そこでうめ氏は、自ら取材をお願いするメールをアクワイアに送ったところ、わずか数時間でOKの返信が届いたそうです。このアクワイアの対応の素早さも、「東京トイボックス」の誕生を後押ししたのかもしれません。
「大東京トイボックス」を合わせると、かなりの長期連載となった「東京トイボックス」シリーズ。その中で、次世代機やソーシャルゲーム、VRといったモチーフを随時取り入れていった構成力に触れる話も展開され、一足先を行くことを心がけたうめ氏の制作姿勢が垣間見えてきます。
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今回のイベントに備えて読み返した松山氏が、「大東京トイボックス」の最終巻における展開の伏線が「東京トイボックス」1巻の171ページで貼られていたのかもと気づき、この点について質問すると、「この伏線は貼りました」とうめ氏がこともなげに返答。そして「最終回で拾おうと思って貼りました。これは貼りやすい伏線ですね」と、2005年から2013年に向けて投げた8年越しの伏線を、ごくごく軽い口調で語るうめ氏の姿に、出演陣は一様に驚きの表情を浮かべました。
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加えて、「大東京トイボックス」5巻くらいの時に「(物語の)最後、地球をバックに天川太陽に叫ばせたい」というアイデアが思いついたとうめ氏が告白。それをどうやって、自然な形で話の中に盛り込ませるかと考えた結果、VRを絡める発想に辿り着いたそうです。一歩先の展開を考え続けるその姿勢が、最新のモチーフと結びつくという形を呼び込んだのでしょう。
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続いて、「トイボを読んで、逆にリアルじゃないと感じた部分」にテーマが移ると、高橋氏は「あんなに美人が揃っているゲーム会社はない!」と断言。うめ氏は「僕が取材した会社の方は、全員美人でしたよ」と切り返しすものの、「あんな美人の絵描きと美人の開発者はいないから」と発言。見方によるとちょっと危険な発言も飛び出しますが、それだけ月山星乃や谷崎七海などが魅力的すぎたという、褒め言葉の裏返しに違いありません。
さらに高橋氏は、一番好きなシーンとして、エンドクレジットのスペシャルサンクスを挙げ「リアルに泣いた」と告白。それに関してうめ氏は、「あれも某タイトルの実話です。背景色と同じ色で字が入ってるそうです」と、驚きの秘話を公開。この話に感動しつつも、同じことをしますかといった質問に、高橋氏は「しないですね」とあっさり返答。また松山氏は「出せるものは出すから、出せない名前は出さないでくれ……と怒られたことがあります」と、過去の過ちを漏らす形に。現実の世知辛い部分に関しては、漫画世界との結びつきが難しい面もありそうです。
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このほかにも、「MMORPG絡みの構想もあった」「固い取材はあまり役に立たない。飲みに行かないと、面白い話は出てこない」など、ファン心をくすぐる裏話なども数多くお披露目され、放送枠の1時間があっという間に終了。生中継されていたニコニコ生放送でのコメントも拾う予定でしたが、そんな余裕はまるでありませんでした。
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そのため、「(トイボを語る機会を)来月も開催したい」と小林氏が前向きな姿勢を見せ、「呼ばれなくても、俺来るけど」と松山氏からは賛同の声も。楽しく濃密なひとときは、また新たな夜に舞い降りることになりそうです。次回の開催を、心待ちにしておきましょう。