「カバネ」の脅威により、本作における雰囲気は、日常的な一幕ですらどこか緊張感を漂わせています。人を襲い、更なるカバネを生み出すこの存在は、しかし生存のために血を吸うのではなく、一定時間噛み続けた後は次の目標へと向かいます。その謎めく生態もまた、得体の知れないカバネの恐ろしさを助長させます。
カバネは、頭部を破壊されても活動を続けることが可能で、心臓を破壊することが決定的な手段となります。しかしその心臓は「鋼鉄被膜」と呼ばれる組織で覆われているため、高い剣術の技量を持つか、同じ箇所に複数発の銃弾を撃ち込む射撃技術が必要に。対抗する手がないわけではありませんが、非常に限られているため、人々は「抗う」よりも「立て籠もる」ことを選びました。
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これらの要素は作中で描かれるものの、冗長な説明などは特になく、最低限の補足と置かれている状況、そこまでの文脈で充分把握できます。そのためテンポを落とさず、特殊な世界観を理解することができます。作品を楽しむための情報が、自然な形で受け入れることができるのは、演出や構成が優れている証とも言えるでしょう。
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本作の中心人物として登場したのが、蒸気鍛冶を行う少年「生駒」。カバネを倒すための武器「ツラヌキ筒」を独自に開発しており、恐るべき存在に確固として立ち向かう姿勢を見せています。その情熱は普段も顔を覗かせており、恐怖にかき立てられて怪しきものを罰する武士の振るまいに立ちはだかり、その弱さを指摘する場面が一話で展開されました。
しかし残念ながら生駒の叫びは、ほとんどの人に届きません。前述のシーンでもその発言は省みられず、武士に守られている人間の無責任な発言と一蹴。いくつかの事情が重なったとはいえ、投獄という顛末を迎えてしまいます。
一話の生駒を見ているだけで、彼が非常に高い熱意を持っていることが分かります。カバネに立ち向かう固い意志だけでなく、人としての品性を見失わない強さは、生々しいまでの魅力とパワーに溢れており、目の離せないタイプの主人公像を確立しています。
そんな生駒が魅力あるキャラクターとして表現されている理由のひとつに、荒木氏曰く「負け犬」というキーワードがあります。生駒は決して、現実を見ずに理想を掲げる盲信者ではなく、地面に叩きつけられてもなお立ち上がろうとしており、その姿が多くの視聴者にとって好ましく映ったことでしょう。
荒木氏は、本作を「負け犬がリベンジする話」と決めたと明かしており、一話でもその片鱗が随所に見られます。人としての尊厳を唱えても、立場の弱さや実績のなさから虐げられ、また詳しくは描かれていませんが、過去カバネに襲われた際に、大事な人を失ったような描写も盛り込まれていました。過去の喪失と苦悩を背負い、しかし目を逸らすことなく両足で立つ姿は、まさに「主人公」に相応しい器と言えるでしょう。
そしてこの姿勢こそが、生駒に更なる試練を与えます。カバネの侵入を許してしまい、凄惨な状況に「駅」が飲み込まれた時、生駒は「ツラヌキ筒」がカバネを倒す手段になると信じて立ち向かい、正しかったことを身を持って証明します。そう、身を持って、です。
「ツラヌキ筒」は見事カバネを打ち倒しましたが、その際に生駒は噛みつかれています。間一髪のところでカバネ化を食い止め、自意識を保つことに成功したものの、一度取り込まれた者をこの世界が受け入れてくれるかどうかは、ここまでの話を見ているだけでも容易がつきます。現在公開されている「第2話─明けぬ夜─」の予告編でも、人間が放った銃弾を生駒が受ける場面があり、彼を取り巻く状況はいっそう厳しさを増す模様です。
「負け犬」というキーワードは、確かに今の生駒を示す言葉かもしれません。しかし、その立場を誰よりも強く拒んでいるのもまた、生駒自身に他なりません。人とカバネの狭間にあるもの「カバネリ」となっても、その意志は変わらないことでしょう。だからこそ、彼の生き様を見届けたいと強く感じさせます。
YouTube 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=BlefabvdEw8
世界観や主人公の描き方も魅力的ですが、第一話全体のテンポの良さも特筆すべき点でしょう。冒頭から、カバネの恐ろしさや「自決」を描くと同時に、生駒が「ツラヌキ筒」の開発に臨んでいる姿を平行して描き、双方が密接に絡み合う要素だと分かります。
また全体的な物語の運びも、「甲鉄城」の到着を起点に、厳しい検閲を描くことで厳しい情勢を更に印象づけると共に、世間一般とは異なる考えを持つ生駒の方向性を描写。その結果投獄されますが、この日の夜に新たな装甲蒸気機関車が到着。これがカバネ侵入を許す先駆けとなり、「駅」が混乱と悲劇に染まり始めます。
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そんな混乱の最中、生駒は自力で脱獄。しかもそれは、ただ自由になるのが目的ではなく、「ツラヌキ筒」の実践テストを兼ねてのこと。そして前述の通り、「ツラヌキ筒」の破壊力を証明すると共に、体がカバネに侵されてしまいます。
これだけの濃密な展開を一話で描いたためか、主人公以外の人物に関してはあまり語られていません。物語の鍵を握ると思われる少女「無名」についても、特別な立場にいることや、カバネに対する圧倒的な戦闘力の一端を見せるものの、謎めく存在のまま一話が幕を閉じました。
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ですが、視聴者が置いてけぼりかと言えば、そんなことはありません。前述の無名や、一話の舞台となった「駅」を収める四方川家の長女「菖蒲」などは、生駒にとってもほとんど面識のない人物。そのため、「生駒と彼女たちの距離」と「視聴者と彼女たちの距離」がリンクし、「知らない人物であること」を自然と受け入れられます。
物語的に重要な位置を占めるであろう人物とは、今後紡がれる物語を通して、その内面が描かれていくのでしょう。生駒と彼女らがどのように関わるのか、その接点を通して視聴者に何を伝えていくのか。美樹本氏が生み出した繊細な、そして強さや弱さを覗かせる彼女たちの成り行きも、大いに気になるところです。
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一話を見て気になったポイントや筆者が感じた魅力をピックアップしてみましたが、いかがだったでしょうか。長々と記しましたが、極力まとめてしまえば「食わず嫌いで見送るのは勿体ない作品が幕を開けた」の一言に尽きます。
もちろん、作品そのものが面白いかどうかの評価は、今後展開されていく物語や結末を見てからでないと、最終的な判断は下せません。だからこそ、どんな結果になるのか最後までこの目で見届けたい。そう思える第一話だったことを、個人の感想ながら記させていただきます。
生駒を取り巻く状況が、更に厳しくなる第二話「─明けぬ夜─」は、本日の深夜に放送されます。ただし特別編成により、放送時間がイレギュラーになっているので、予約派の方もリアルタイムで視聴する人も、自身の環境に合わせてしっかりチェックしておいてください。なお一話を見ていないという方は、Amazonプライム・ビデオで独占配信中なので、そちらで視聴してから二話を楽しみましょう。
【第2話:明けぬ夜】なんとか助かった生駒は、顕金駅に唯一残された駿城・甲鉄城に向かう。一方、カバネの中に取り残された菖蒲たちの前に、幼い少女・無名が現れた。彼女はその超絶の戦闘力で、甲鉄城への脱出路を切り開いていく。#カバネリ pic.twitter.com/06kP51ypiR
— 甲鉄城のカバネリ (@anime_kabaneri) 2016年4月14日
【第2話より先行カット公開】
— 甲鉄城のカバネリ (@anime_kabaneri) 2016年4月14日
カバネに襲われた顕金駅の人々は無事甲鉄城に乗り込み脱出できるのか…?!https://t.co/21ChkNPkFL#カバネリ pic.twitter.com/kL9YQcr3Wv
本日、第2話放送です★フジテレビは15分押しの25:10?!
— 甲鉄城のカバネリ (@anime_kabaneri) 2016年4月14日
各局、放送時間がイレギュラーとなっておりますのでお気をつけください→https://t.co/hbnxYstdZr
第2話予告映像→https://t.co/z4T7vFk1sg#カバネリ
YouTube 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=1C1xkLUfppY
(C)カバネリ製作委員会