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モチーフや仕掛けのひとつとして“記憶喪失”を取り入れた作品は、これまでも数多く存在しました。漫画や小説、ドラマにアニメ、映画など、幅広い舞台で活躍を続け、またおそらく今後も用いられていく切り口と言えるでしょう。
しかし、ようやく魔王と対峙した勇者が、その重要な場面で思い出を失う物語がかつてあったでしょうか。そんな喜劇的な、しかし当の本人や仲間達にとっては悲劇とも言える状況を描くのが、PS Vitaソフト『世界一長い5分間』です。
前述の通り、世界を救うべく立ち上がった勇者は、宿敵である魔王を目の前にして、自分の名前すら定かではないほどの記憶喪失状態に陥ります。そんな主人公を周囲の仲間が必死にサポートしますが、その仲間たちのことも勇者にとってはピンと来ていない模様。こんなあやふやな状態では、到底魔王討伐は叶いません。
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迫る魔王の猛攻を凌ぎつつ、思い出を蘇らせるために奮闘する仲間達。そんな彼らの言葉をきっかけに、ひとつひとつ思い出を拾い上げていく勇者。世界の命運を懸けて思い出を取り戻す、たった5分の激戦を描くのが、本作『世界一長い5分間』です。
他に類を見ない切り口であると共に、ゲーム性との融合も果たした本作への興味は、一ユーザーとしても気になるばかり。一体どんな方々が作り上げたのか。また、開発者だからこそ知っている本作の魅力とは何なのか。
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左から入間川氏、横田氏、浜中氏
その本質に迫るべく、日本一ソフトウェアの山下氏と、共同で開発したSYUPRO-DXの開発陣である浜中剛氏(代表)、横田純氏(企画・シナリオ)、入間川幸成氏(サウンド)をお招きし、『世界一長い5分間』の魅力を直接伺いました。
……いえ、伺うつもりでした、と言うべきでしょうか。開発の全てを終わらせた安堵感からか、もしくは別の理由があったのか。SYUPRO-DXの方々は、本作に関する思い出を一部失っていたのです。残念ながら、もっとも核となる「本作の魅力」すらも……。
幸い、全ての思い出を失ったわけではないようなので、本作に関する会話を交して脳を刺激し、そこから“おもいで”を通して、最終的に本作の魅力を思い出してもらうしかなさそうです。そう、それしか残された道はありません! 勇者の仲間のひとりである“リーゼント”も、こんな気持ちだったのでしょうか。なんだかプレイ前から親近感が湧く思いです。
こうして、先行きも分からぬ『世界一長い5分間』インタビューが幕を開ける形となりました。どうか、「世界一短いインタビュー」になりませんように……。
──それにしても、皆さんが思い出を失っているとは……。
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横田氏:まさか、こんなことになるとは……僕らも驚きです。
──なんとか“本作の魅力”を思い出してもらえるよう、うまく質問を投げかけてみますね。
横田氏:こちらも頑張って思い出すので、よろしくお願いします。
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山下氏
山下氏:私は思い出を失っていませんから、出来るだけサポートしますね。
──はい、助かります! ではまず……本作が立ち上がった経緯などは、覚えていらっしゃいますか?
横田氏:経緯ですね、了解です。……うーん、なんだったっけ、入間川君?
──(厳しい道のりになりそうだ……)入間川さん、いかがでしょうか。
入間川氏:まず、企画ありきだったような……で、『世界一長い5分間』の企画は、確か横田が……。
浜中氏:……『世界一長い5分間』を開発したきっかけ……
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違う違う、これはもっと後だ……
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どうして、このタイトルを作り始めたのか……作る……
どうやって……何があった……いや待て、確か……
どこかで、飲みながら……ビールにつまみ……ほっけの骨が喉に……
そこで……あっ!
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浜中氏:まず日本一さんの方と会って、「よければ飲みに行きましょう」という話になったんですよね。
横田氏:あ、そうだった!
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山下氏:それですよ!
浜中氏:そして飲みながら、「じゃあ何か作りましょうよ」という話が出まして。その場の勢いという感じでしたね(笑)。
入間川氏:そうそう、思い出した。
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開発風景
浜中氏:そして、「では後ほど企画書を送りますね」という話になり、3人で話し合って5本くらい企画を考えて送ったのが最初の一歩です。その中に『世界一長い5分間』の企画もあり、「これいいですね」ということで制作が動き出し始めました。
──それは、いつ頃のお話ですか?
浜中氏:いつだったかな……ええと……。
横田氏:! 去年だ、一緒に飲んだのが去年の5月頃ですね。
浜中氏:そうだ、その頃か。
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横田氏:それから、まずは企画書を出したんです。5本といっても、それぞれペラで2枚くらいのものを。そこで『世界一長い5分間』の原案に興味を持ってもらえて、「もっと詳しく教えてください」と言われたので第2稿を用意しました。こちらは10数枚くらいの内容でしたね。これを出したのが、7月頭くらいです。
──連鎖的に色々と思い出が戻ってきましたね。その調子でどんどん行きましょう。
横田氏:少し調子が出てきました。確か……正式に開発がスタートしたのは10月で、制作期間は7ヶ月ほどでしたね。ただ小耳に挟んだ話では、僕らがお会いした5月頃には、日本一さんの中で「この企画走らせようぜ、どうなるか分からないど」みたいな話があったみたいですよ(笑)。
──おお、大事な思い出がまた! その辺りの話は、本当なのでしょうか。
山下氏:そうですね、少しずつ準備を始めていたというのは本当です。ウチとしても、新規のIPに取り組みたいという気持ちが大きかったので、このいい出会いを大事にしていきたいなと。
──日本一さんは本作に限らず、新規IPに意欲的な姿勢で取り組んでいますよね。
山下氏:うちの新川(代表取締役社長)は「死ぬまで新規IPを作り続ける」と常々言っておりまして(笑)。
──死ぬまでとは、凄まじい意気込みですね(笑)。
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山下氏:マグロが泳ぎ続けないといけないように、ウチの会社は新規IPを作り続けていかないと死ぬのかもしれません(笑)。
──では、その姿勢を貫きつつ個性的なタイトルを展開させているSYUPRO-DXさんが、日本一さんの目に止まった、と?
横田氏:……
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あれ、そういえば、どうして日本一さんと飲む話になったんだっけ……
声をかけてもらった? いや……たまたま偶然……そうじゃない……
もしや合コン……まさか……でも、誰かがそこにいたような……あっ!
声をかけてもらった? いや……たまたま偶然……そうじゃない……
もしや合コン……まさか……でも、誰かがそこにいたような……あっ!
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横田氏:実は、僕らと日本一さんの間に立ってくれた人がいるんですよ。“気さくなお兄さん”みたいな人が(笑)。だから当時の僕らは訳も分からず、「日本一さんとのところに行くよー」と言われたので付いていったんですよ。
入間川氏:そうそう、何も分からず手ぶらで(笑)。
浜中氏:企画書のようなものも持たず、ただ「来ました」という感じで。単にお茶するくらいかな、みたいな(笑)。
──一番最初は、そんな形だったんですね。それが約1年を経て、PS Vitaに新作をリリースするという形になるなんて……その“気さくなお兄さん”のおかげですね(笑)。
横田氏:功労者ですよね。いや、功労者というよりも用心棒みたいな人なんですが(笑)。
──一気に謎めく感じになりましたよ!? その方も気になりますが、最初に出した5本の企画に関して、もう少し詳しく伺ってもよろしいですか?
横田氏:その時出した企画は、そうですね……理系と文系に分かれて、敵対している企画がありました。「文系は作者の気持ちでも考えていろよ!」みたいな罵倒をするんです(笑)。そういう小競り合いから大きな争いに発展していき、結果的に世界が一度滅んでしまうんです。そんな荒廃した世界を舞台とするRPGの企画を出しましたね。
──それは……正直、かなりプレイしてみたいですね(笑)。
横田氏:世界が滅んだ後でも、文系と理系のいがみ合いは続いていて、文系しか入れない施設とかあるんです。「お前は理系だな? 帰れ!」みたいな(笑)。
──両者の立場が明確でいいですよね(笑)。ちなみに、みんな頭はいいんですか?
横田氏:頭のいい人もいれば、悪いヤツもいます。頭が悪い同士の文系vs理系のいがみ合いとかもありますね(笑)。
──ああ、それは是非見てみたいです!(笑)
浜中氏:恋愛も制限がありますからね。理系と文系の恋愛は禁止だったり。
横田氏:そこから悲劇も生まれることでしょう(笑)。悲惨な話と言えば、親が理系で子供が文系というのも切ないですよね。
──親子で対立!?
横田氏:とかもあります。あとは、授業で習う言葉とかが呪文になったりしますね。
入間川氏:「サインコサインタンジェント」とか(笑)。
横田氏:あと「大正デモクラシー!」って叫びながらパンチを撃つ、みたいな(笑)。
──ネタが身近なのもいいですね。
横田氏:この企画、勢いだけはありますね(笑)。
──その他には、どんな企画が?
横田氏:あと話して面白そうなのは、『いさましメモリアル』かな。これはいわゆる「学園モノ」で、ズバリ『ときめきメモリアル』のパロディです(笑)。あちらは恋愛シミュレーションなので「ときめき」ますよね?
──はい、そうですね。
横田氏:『勇ましメモリアル』は、この学園に通いつつ「勇ましくなる」ことを目指すゲームなんです。勇ましさと一口に言っても色々ありますが、どんな勇ましさを目指すかはプレイヤーの自由です。ちなみにこの世界には魔王もいるんですが、魔王を倒すかどうかも自由です(笑)。
──魔王を倒さずに、恋愛における勇ましさを選んでもいいんですか?
横田氏:いいんです(笑)。自分が目指す「勇ましさ」に向けたコマンドを実行してパラメータを上げ、交流を深めていくシミュレーションゲームになります。
──自分なりの「勇ましさ」を見つけていくゲームなんですね。
入間川氏:サブタイトルは「~我が生涯に一片の悔いなし~」です。
──かっこいい!(笑)
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浜中氏:こうやって改めて思い出すと、面白そうですよね。作ってみたいな(笑)。これらの企画を作ったのが去年の今頃なんですが、1年経つと色々忘れてますね。今話してて、色々と思い出してきました。
山下氏:ちなみに今お話されていた企画なんですが、『世界一長い5分間』初回限定版の同梱物のひとつ「きかくのしょ」に入っているんですよ。
横田氏:ええ、なんですってぇっ!?
──それも忘れてたんですか!(笑)
横田氏:ええ、言われて思い出しました(笑)。僕が出した企画書が、そのまんま載っているんです。
山下氏:第2稿として出していただいた、より詳細な『世界一長い5分間』の企画書も入っています。
横田氏:読み応え、めっちゃありますよ。
──初回限定版、欲しくなりますねー。いい情報を思い出していただき、ありがとうございます(笑)。