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テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。変わるものと、変わらないもの。過去と未来。そして我々が宿命的に背負う日本という存在。なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだけ立ち止まって一緒に見つめてみませんか? 毎月1回、「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」ゆるーくお届けします。
山崎:10月です。2014年12月からスタートしたオールゲームニッポンは、今月で連載50回を迎えました。今までありがとうございました。そして、おめでとうございます! というわけで、今回は特別編でいってみましょう。
平林:特別編ですね。今までの歩み、そもそもなんでオールゲームニッポンだったか、というところからはじめてもいいですか。
山崎:はい。新しい読者の方もいるので、ぜひお願いします。
平林:ゲームについて語るコラムや対談は山ほどありますが、いつかゲームと日本をからめてみたいと思ってました。90年代、「日本のゲーム産業は世界をリードする」と言われていました。
それが00年代になると一転、「日本のゲーム産業は世界から遅れを取っている」と言われてしまいます。日本国内市場はシュリンク(収縮)傾向にあり、北米や欧州の市場は伸びまくっていたからです。
自虐的ともいえる「日本遅れている論」が幅を利かせましたが、正直言って違和感がありました。進んでいる? 遅れている? というよりは、他の国とは異なるんじゃないの? 日本のゲーム産業は、世界とは異なる別物だろう。個人的には、そんなことを考えていたんです。
この考えを確かめるためには、ゲームの奥側にある、もっと深いもの。日本という国、そのものに突っ込まなくていけない。そんな意地っ張りの意見を、暖かく聞いてくださったのが安田さんでした。
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安田:確かにオールゲームニッポン開始以前、日本のゲーム業界は自信を失っていましたね。市場規模だけではなく技術面でも、よくアメリカと比較されて「遅れている」と評されていました。日本のゲームクリエイターも海外で成功しないと認められない風潮がありました。
FPSとスポーツゲームが目立った海外ゲームですが、異なるジャンルの優れたゲームも出てきました。具体的なタイトルで言うと『スカイリム』『グランセフトオート』『アサシンクリード』(シリーズ)などですね。当時の海外コンソールゲーム市場は元気がありました。
この時期と角川ゲームスの創業期は重なるのですが、当社でもそんな海外市場を視野に入れて『ロリポップチェーンソー』を開発しました。グローバルパートナーシップをワーナー・ブラザーズと締結。世界60か国で販売しました。おかげさまで『ロリポップチェーンソー』はミリオンセラーになりましたが、思わぬ収穫もあったんです。
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山崎:思わぬ収穫、ですか?
安田:はい。ワーナー・ブラザーズの方から、ゲームの発想を高く評価されました。ご存知の通り、『ロリポップチェーンソー』はチアリーダーの女子高校生がチェーンソーでゾンビと戦う、という設定ですが(笑)。……この発想を「日本らしい」「日本人にしかできないクリエイティブだ」と言ってくださったんです。
さらに、日本を題材にしたゲームをつくればいいとも薦めてくれました。そんな刺激を受けて視線は日本へ。この頃から今年発売された日本神話を題材にした『GOD WARS』を構想するようになったんです。
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平林:そんな安田さんと私の、それぞれの問題意識があってオールゲームニッポンははじまりました。連載初期では海外のゲームとは違う、日本のゲームとは何か? をディープに掘り下げました。今、ゲームの世界で起きている出来事を、日本の風土や歴史をからめてお話しました。
縄文時代、古事記、八百万神、お伽噺、和歌、江戸時代の商道などなど。とてもゲーム情報サイトとは思えない話題(笑)にも及びましたが、思考を整理するのに大いに役立ちました。なかでも日本の色の話は今でも印象に残っています。
安田:色の話、しましたねー。
平林:Facebookの広告やアプリストアのアイコンの色を見ただけで日本のゲームか、海外のゲームかすぐに見分けがついてしまう。そんな話から日本のゲームの色の考察をしました。あのときの安田さんの仮説を今でもよく思い出します。
安田:日本という国には色が多い、という説ですね。
山崎:色が多い、とはどういうことでしょうか??
安田:日本には四季があります。海と山があり、国土は南北に長くて標高差があります。固有種の生物もたくさん生息しています。つまり、自然がもたらしてくれる色の数が多い。われわれは普段は意識しませんが、他の国の人よりも圧倒的に多くの色を見ながら暮らしています。
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山崎:なるほど。
平林:ちょうど日本はこれから紅葉の季節になりますが、私たちは砂漠ばかりの内陸の国では見ることができない色に囲まれていますよね。
安田:さらに日本では古くから染物や織物が発達していました。欲しい色、新しい色をつくる混色文化もあります。このような独特の環境が現代のゲームにも影響を与えているんだろうというトークでした。
*参考過去記事
【オールゲームニッポン】日本のゲームの色はどこから来たのか?(第6回)
https://www.inside-games.jp/article/2015/01/10/84004.html
【オールゲームニッポン】ケバくないのが日本の色(第7回)
https://www.inside-games.jp/article/2015/01/17/84199.html
【オールゲームニッポン】日本のゲームの色はどこから来たのか?(第6回)
https://www.inside-games.jp/article/2015/01/10/84004.html
【オールゲームニッポン】ケバくないのが日本の色(第7回)
https://www.inside-games.jp/article/2015/01/17/84199.html
山崎:さて、オールゲームニッポンが始まって3年間が経ちますが、この間にどんな変化があったと思われますか?
平林:日本のゲームは自信を取り戻したと思います。日本のゲーム開発者は日本市場でウケるものをつくって、それを堂々と海外に展開するケースが増えてきたように思います。
安田:そうですね。たとえば「JRPG」(日本のRPG)という言い方がありますが、数年前までは揶揄する意味が込められていましたよね。昔からあるゲームシステムが進歩ないままに続いている。ネガティブな印象を与えていました。
けれども『ペルソナ5』が代表例だと思いますが、今ではJRPGが見直されています。最近になってJRPGに目覚めた海外ゲームファンも多いのではないでしょうか。
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山崎:そういえば安田さん、タクティクスRPGの『GOD WARS』もアメリカのゲームメディアで高評価でしたね。
安田:はい。おかげさまで。
平林:海外に日本とはまったく違う市場があるのではなくて、海外にも日本的なゲームが好きなユーザーがいる。そんなことが明らかになってきたこの3年間だと思います。
安田:あとはやはりこの間、スマホゲーム市場がダイナミックに動きました。日本のスマホゲームの市場規模は2016年に1兆円を超えました。
平林:現在、1兆円以上の市場があるのは中国とアメリカと日本の3か国ですね。
安田:大きな日本市場は、海外のゲーム会社から注目されています。また、日本市場は競争が激しいものの海外ゲームにも開かれたフェアな市場でもあります。僕が見るかぎり、売上トップ100のうち20タイトル以上が海外で開発されたゲームではないでしょうか。
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山崎:おっしゃる通りで日本市場への海外からの参入企業は増えるいっぽうですね。
安田:市場が大きくなると、それまで無名だった個人やベンチャー企業が、一躍スターになれる道も開けました。新しい才能が活躍しやすくなりました。あ、あとスマホゲーム市場に参入している企業の上場も増えましたよね。
平林:今年の5月のオールゲームニッポンで語ったエクイティファイナンスの話。日本のゲーム産業はエクイティファイナンスがやりやすい環境にある。それが強みになっている、という話ですね。あの観点はもっと広まってほしいですね。
*参考過去記事
日本のゲーム産業の強みはエクイティファイナンス!【オールゲームニッポン】
https://www.inside-games.jp/article/2017/05/28/107463.html
日本のゲーム産業の強みはエクイティファイナンス!【オールゲームニッポン】
https://www.inside-games.jp/article/2017/05/28/107463.html
山崎:さて、これから日本のゲーム業界ですが、どんな展望をお持ちですか?
安田:世界に認められた日本のゲームですが、最近は逆流現象が起きていると思います。日本のゲームの魅力に気づいた外国、特に中国のデベロッパーの方たちが、日本的なゲームをひっさげて日本市場に乗り込んできています。本家本元の日本のゲーム会社は頑張らないといけませんね。
山崎:『陰陽師』や『アズールレーン』、日本でもヒットしましたよね。『崩壊3rd』は、日本のアニメやゲームへのリスペクトから生まれたそうです。ところで、平林さんは長年の勘で今後起きそうなことは何だと予測しますか?
平林:VRやMRなど。新しいデバイスに注目が集まりますが、私はダウンロード不要のゲームが気になっています。Facebookのメッセンジャーにぶらさがっているインスタントゲーム。あのひとつに最近『エバーウイング』というゲームが加わりました。HTML5で記述されたブラウザ型のシューティングゲームです。ストアを介さない、あのタイプのゲームは今後増えそうです。
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山崎:今日は特別編ということで多岐にわたるお話をありがとうございました。今後のオールゲームニッポンはどうしていきましょう?
安田:3人で語るだけではなく、外に向かって出ていきましょうよ。個人的にはラジオ番組に進出したいですね。
平林:いいですね。YouTubeではなく、あえてラジオ番組!
山崎:ラジオ番組以外の展開、セミナーやシンポジウムみたいな形式でもいいですか?
平林:いいと思います。とにかく外に向かって羽ばたきましょう。
山崎:というわけで、オールゲームニッポン。これからもよろしくお願いします。「日本」の「ゲーム」に興味をお持ちの業界内外の皆さん。私までお声がけください!
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