アニプレックス・落越氏×Live2D・中城氏に訊く―提携が業界にもたらす可能性と、長編アニメ映画にかける両社の熱い想い

アニプレックスとLive2Dの業務提携のキーマンである、アニプレックス執行役員専務・落越 友則氏とLive2D代表取締役・中城 哲也氏にインタビューを実施。今後の経営体制や業務提携の狙い、Live2Dのこれからなどを伺いました。

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アニプレックス・落越氏×Live2D・中城氏に訊く―提携が業界にもたらす可能性と、長編アニメ映画にかける両社の熱い想い
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株式会社アニプレックスと株式会社Live2Dは、業務資本提携を行うと同時に、映像技術「Live2D」を使用した長編アニメーション映画制作を始動すると発表しました。Live2Dは、2次元でしか表現できない魅力的な絵を、絵のままでダイナミックに動かすことが可能な映像技術です。今後、両社は長編アニメーション制作を進めながら、それぞれが得意とする分野でノウハウや技術を共有し、アニメーション・ゲームなど多様なコンテンツ・サービスを通じて新しい表現・価値を創出する活動を行っていくとのことです。

今回は、アニプレックスとLive2Dの業務提携のキーマンである、アニプレックス執行役員専務・落越 友則氏とLive2D代表取締役・中城 哲也氏にインタビューを実施。今後の経営体制や業務提携の狙い、Live2Dのこれからなどを伺いました。

◆「長編アニメ映画」という、同じ“目標”へ向かって


Live2D代表取締役・中城氏(写真左)、アニプレックス執行役員専務・落越氏(写真右)

──本日はよろしくお願いします。早速ですが、改めて今回の業務提携の意図についてお話ください。

落越氏:キッカケは、中城さんから「映像作品を作りたい」というお話をいただいたことです。Live2Dを使った映像は、短い映像表現というイメージがありました。しかし、中城さんはとても大きな展望を描いていらしたので、どういったサポートが適切か考え、アニプレックスの本業である映像プロデュースとLive2Dさんの映像を作る技術を足し合わせるのが最もゴールに向かって走りやすいとなりました。結果的に、資本を入れる形でのパートナーシップになりましたが、元々のキッカケは映像作品を作りたいという展望にありましたね。

──それでは、Live2D側にはどのような狙いがありましたか?

中城氏:これまでも多くの会社さんにご支援をいただいてきたのですが、上場のために体力を使っているという現状がありました。そこで、もっといいものを作ることに時間とお金を使いたいと考えていたところ、アニプレックスさんに「Live2Dを発展させ、一緒にすごいものを作ろう」と言っていただけたんです。子会社化は大きな決断でしたが、いい技術を育て、よい作品を作り、Live2Dが世界で広く使われるために価値のある取り組みになると考えました。

──お話自体はかなり前から進まれていたのでしょうか?

落越氏:1年ぐらい積み重ねてきました。資本的な関係もありますが、決してLive2Dさんをアニプレックスが支配するというわけではありません。これまで通り中城さんを中心として活動・発展して欲しいと考えています。ひとつ、大きな目標としてあるのは“長編アニメ映画”の製作です。その目標を、Live2Dさんとアニプレックスが共有できたことで、一気にお話が進んでいった形になります。


──中城さんの中には、「長編アニメ映画を作る」 という想いが以前よりあったのでしょうか。

中城氏:Live2D創業時から、世界標準を目指したい、映画を作ってアカデミー賞を取りたいと考えていました。そうした取り組みはもう少し先かな、と思っていたのですが、思いのほか前のめりに共感していただき、いいご縁だったと感じています。後方支援をいただきながら、一緒にクリエイティブな取り組みを行えるというのは、このチャンスを逃したら二度とないと思いました。

──アニプレックスとしては、Live2D映像表現には期待をかけていらっしゃいますか?

落越氏:現状のLive2Dでは、まだ足りないと思っています。そのため、今できることに興味を持ったというより、これからどう発展していくのかということ、発展していった先にワクワクするイメージが湧いてきた、というのが大きいですね。中城さんは、ソフトウェア開発者というより映像クリエイティブに情熱を注いでいて、そうした方が引っ張っていく会社はとても面白いと思います。技術は、表現したいものがあって、その実現に向かって取り組む際に発展します。情熱はリアルな課題に置き換えた方がいいだろうと。うまくいけば世界中の人が見たことがない映像表現のひとつになるのではと思っています。

中城氏:Live2Dは、世界的に使われている技術ではありますが、今の使われ方では“改善”していくことしかできません。劇的な進化をさせるには、ちょっと無理があるような理想や表現の目標設定にトライしていき、イノベーションを行う必要がありますよね。

──両社ともに、クリエイティブに対する“情熱”をとても感じます。とてもいい形での提携だと思います。しかし、先行投資のような形になるため、企業として判断するのは難しかったのではないでしょうか?

落越氏:まだ誰もリアルなゴールをイメージできてはいないのですが、曖昧なものを期待に置き換えるための想像はできました。積み上げていく作業は労力ではなく必要なプロセスだと思っているので、この人たちと一緒にやっていくと、まだイメージできないゴールにたどり着けると考えています。会社同士の関係にはなりましたが、ゴールは「映像作品」に落とし込みたいと思っています。これが手に入らなければ提携自体は意味なくなってしまうので、映像作品に集約させたいという思いはブレないところとして共有できましたね。

──中城さんとしては、プレッシャーに感じる部分もありそうですね。

中城氏:自分でもできるか分からないことに対して、不安はあります。しかし、“できる”という確信も持っています。ワクワクしながらやりがいを感じていますし、必ず達成して見せます。今は楽しくて仕方がない状況ですね。

──Live2Dは、今までゲームで使われることが多かった技術だと思います。アニプレックスでも、アニメIPを使用したタイトルを多数出していますが、今のゲーム業界にどのような可能性を感じていますか?

落越氏:ゲームは、日本のエンタメのなかで最もフロントに立っているジャンルの一つだと思います。スマホの普及とともに一気に遊びが膨らんで身近な物になり、マーケットとしても急激に非常に大きなものに成長しました。我々の事業はアニメーションが中心ですが、発展型としていろいろなジャンルに取り組んでおり、ゲームは欠かせないものです。ただし、何をやってもうまくいくような簡単な世界ではありませんので、引き続き資源を投入していきたいと考えています。

──Live2Dとしては、アニメ製作を志すにあたって、アニメ業界をどう見ていますか?

中城氏:Live2Dは元々、ゲームとアニメーション制作の両輪を狙って考えた取り組みでした。いまは手描きアニメでも3Dでも、映像に表現の制約があります。そういった中で、Live2Dでは、2Dのイラストの魅力的な表現を、そのまま動かす仕組みをとことん突き詰めていき、クリエイターが望んでいたが実現できなかったイラストタッチ、水彩タッチなどを可能にしたいと考えています。アニメ業界に新しい表現を生み出しつつ、世界中でこんな表現もできるのかという驚きを与え、Live2Dの世界の技術がもっと使われるようにしたいですね。

◆気になる「長編アニメ映画」について



──Live2Dを使用した「長編アニメ映画」について、どのようなものになるのか想像できないのですが、現時点で構想などはありますか?

中城氏:理想としては2Dアニメの動きの気持ちよさと積み上げてきた歴史のある表現を生かしつつ、シンプルな塗りなどの制約をもっと魅力的な表現にしていきたいと考えています。ゲームの表現を派生させるのではなく、理想的な表現を洗い出して、そこに向けて新しい技術を開発していくという形ですね。

──全編Live2Dで作られる予定なのでしょうか?

中城氏:全編ではなく、軸としてLive2Dの表現が違いを生み出せるようにしたいと考えています。そのため、手描きや3Dの良さには柔軟に取り入れていきたいですね


──Live2Dをアニメに使う強みはどの様なところにあるのでしょうか。

落越氏:現物が動くというところですね。3Dでも、セルアニメでも、大元のイラストを描き直す作業があるので、結果的に別の人間が描いた絵になります。魅力的な絵があり、そのものを起点にして動かせるのは、これまでの考え方とはまるで違うものになると思っています。もちろん、Live2D向きの作品、3DCG向きの作品、手描きアニメーション向きの作品というのはあると思います。そんな中で、新しい表現として、刺激的なジャンルを作り上げられるという期待はありますね。

中城氏:原画を生かすというのはこだわってきたことです。社内にはグラフィックチームがあり、映画制作にはもう少し人数を増やしつつ、積み上げ来てきた技術と体勢を使って、新しい画期的な表現を生み出したいですね。

──新しい表現技法として確立されると、アニメ業界としては革新的で面白くなりそうですね。

落越氏:我々以外にもLive2Dを使ったアニメが生まれてくる、そういう人たちが増えることで表現力も世界中で上がっていくことに繋がっていくと思います。最初の体験を我々が手がけ、トップランナーでいたいですね。

中城氏:ピクサーの「トイ・ストーリー」は、当時の3D技術のレベルに合わせて、上手く3Dの魅力を引き出し、成功しました。その結果、次の3D作品へとしっかり繋がっていったんです。我々もLive2Dならではの表現を使い、それをしっかり成功させることで、新しいものを切り拓いて世界中に広げていきたいと考えています。

──Live2Dがアニメの表現として浸透した世界。早く見てみたいですね。製作される長編アニメ映画は、オリジナル作品になるのでしょうか?

落越氏:今は準備を始めているところなので、しかるべきタイミングでお見せしたいと考えています。アニメファンの方が喜んでいただけるよう、アニプレックスの良さを生かしながら展開していきたいですね。

──楽しみに待たせていただきます。ちなみに、今回の提携により、A-1 Picturesの代表取締役・清水博之氏が非常勤取締役としてLive2Dに参画しています。これは、アニメ製作の際に、A-1 Picturesも参加されるということでしょうか?

落越氏:A-1 Picturesは制作力を持っているアニメスタジオです。お互いのノウハウを交流させ、ボーダレスにクリエイティビティ高め合っていくことで、ゴールに近づくスピードが上がると考えています。

◆Live2Dの開発・提供はどうなる?



──映像作品製作を行うということで、Live2Dソフトウェアの開発や提供に支障はありますか?

中城氏:外部を巻き込みながら開発体制を強化しているので、むしろ開発技術を加速しながら提供できると思います。

──先程「支配するわけではない」とありましたが、あえて訊かせていただきます。今後、アニプレックスのアニメタイトル以外のゲーム作品に、Live2Dを使わせないといった制約はありませんか?

落越氏:そういった“仕事の選択”をお願いすることはありません。一緒に作品を作るという目標があり、アニプレックスの中にLive2Dの表現を閉じ込めておくことが目的ではありません。

──ありがとうございます。安心しました。今後、Live2Dでは採用活動を強化していくと思いますが、どのような人材を募集していますか?

中城氏:2Dを進化させ今まで無いような表現を生み出す挑戦に、ワクワクしながら取り組めるような人に来ていただきたいですね。

落越氏:アニプレックスとしては、仕事の領域が異なるのですが、もしLive2Dさんが人材を必要するのであれば、人材の交流も今後は検討していきたいですね。ただ、現状、Live2D社はその中で発展させていくのが大事だと考えています。


──最後に、今後に対する意気込みをお願いします。

落越氏:これから新しい映像表現を作り上げていこう、というスタートラインに立ったところです。大きな夢を描いていますので、ぜひ期待していただければありがたいです。いっしょに作る仲間が増えることにも期待しています。

中城氏:我々がずっと目指してきた二次元がどこまでいけるのか、究極の2D表現を突き詰めていくのに絶対に必要なステップが長編アニメ映画でした。うまく理想に到達できれば、2Dのクリエイターにとっても、ファンの方にとっても2Dが魅力的に見せられると思っています。技術を進化させていけば、いつかアカデミー賞が取れるだろう、という自信をもって取り組んでいきたいですね。

──ありがとうございました!

《カミヤマ》

ゲームを買うのが生きがいです カミヤマ

家庭用ゲームが大好きなインターネット老人会の積みゲーマーです。毎週木曜日を楽しみに生きています。

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