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懇親会前のトークセッションでは、代表取締役社長で『Fate/Grand Order』プロデューサー・庄司顕仁氏、「FGO PROJECT」クリエイティブプロデューサーの塩川洋介氏、「Fate/Grand Order」マーケティングディレクターの石倉正啓氏という同社を代表する3名のプロデューサーが登壇。同社におけるプロデュースワークを3つのテーマに沿って語りました。
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庄司氏の「肉会」初登壇や、8月下旬に開催された国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2018」での講演では話しきれなかった裏話が聞けるかもしれないということで、同日はゲーム業界関係者が多く参加し、中にはプロデューサーを目指す人も。
◆「FGO PROJECT」におけるプロデューサーの役割
■目標設定マン
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ディライトワークス、ノーツ、アニプレックスの3社による、スマートフォンに留まらず、VRやリアル脱出ゲーム、アーケードなど様式や遊び方にとらわれず様々な『FGO』の企画を推し進めていく「FGO PROJECT」。
庄司氏は第一に「目標設定マン」を掲げました。「プロデューサーは企画書を書いたり、予算組んだりとやることが多く、プロジェクトによって達成することは違うと思います。しかし、最初に何をゴールとして達成したら成功なのか?全員の目標を一致させる必要があります」。
実際に『FGO』は、「最も手に取りやすく、しかしながら最も『Fate』らしい 、100万人に届く新たな『Fate』を創る」をゴールに定めてスタート。当時、原作のTYPE-MOON自らが「狭い層に深く刺さる深淵のコンテンツ」と評した『Fate』を題材としたゲームを100万人に届く物にしたかったと庄司氏は熱く語りました。
「目標を立てる時は何を第一にしたいかを考える。『FGO』に関しては、“もっともっとたくさんの人に届けたい”でした。そこからどうしたらいいかを考えていけばいいんです」(庄司氏)。
■“FGOのある生活”をゲーム外からプロデュース
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「マーケティングの観点ではどうか?」と問われた石倉氏は、「日々、KPI(重要業績評価指標)やDAU(1日あたりのアクティブユーザー数)などの数字を追いかけ、どんな時に新規のユーザーさんが増えるのか、公式Twitterのフォロワーが増えるかを分析しています」と答えました。
「プロデューサーの方であれば、アプリストアのレビューもチェックされていると思います。『FGO』も最近はおかげさまで平均★3.9と全体的に評価が上がってきました。マーケティングの観点からすると、目に見える数字を気にすることも多いですね」(石倉氏)。
続けて、7月に2日間開催された「FGO Fes.2018」においてゲームの新情報やアニメ化などの重大発表で関連ワードが軒並みTwitterトレンドをジャックしたことを例に挙げ、「僕らマーケティングチームは、『FGO』のゲーム外でどれくらいユーザーの皆さんと『FGO』との接点を増やせるかがミッションです」と語りました。
庄司氏は「KPIなどの数字は基本的な目盛りとして設定しているが、それが全てではない。ユーザーにとって“FGOのある生活を、デザインする。”ために、何をする必要があるのか?と考えて動いているんです」と補足し、「FGO PROJECT」においてはゲームの中身を作っているだけがプロデューサーの仕事でないと明かしました。
◆ディライトワークスでプロデューサーとして働く魅力
■チャレンジできる場所
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石倉氏は「スマートフォンゲームの領域を超えて、VR、脱出ゲーム、アーケード、ボードゲームなど、『FGO』の可能性を広げるためにたくさんチャレンジしてきました。『FGO』を含めた会社全体のプロジェクトは現在約20以上あり、最近は出版も始めていますし、スマートフォン以外のチャレンジが少しずつできるようになってきました」と語り、中でも『FGO』メインヒロインのマシュのVR がこれまでの最大のチャレンジだったと振り返りました。
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庄司氏が今までで一番驚いたプロデューサーのチャレンジに、塩川氏が企画した『FGO』のアーケード展開を挙げました。「ボードゲームも脱出ゲームもそうだけど、何でやりたいと思ったの?」と庄司氏に訊ねられた塩川氏は、「チャレンジです。スマートフォン向けRPGの『FGO』とそれ以外の要素を組み合わせることで化学反応が起こるんです。運営型のコンテンツは、常にユーザーの皆さんに新たな驚きを楽しんでいただく取り組みをすることが大事だと思っています」と、ユーザーをどうやって楽しませ続けるかに日々チャレンジしていると答えました。
逆に「どうしてそれらの企画をOKしたのか」と訊かれた庄司氏は、「面白そうだったからです。採算度外視ではだめですが、純粋に面白いことを実現させるためにはチャレンジが必要で、それが『ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。』を理念と掲げる当社のあるべき姿かなと思ったからです。プロデューサーに限らず皆がチャレンジできる場にしたかった」ようです。
「今まで経験したことを続けるだけでは過去の繰り返しになるので、全くやったことがないことをチャレンジして欲しい」(庄司氏)。
「例えば、この肉会もそうです。どういう意味があるのか、なぜディライトワークスが開催するのか?を企画書にまとめて提出したことで、今回の第4回まで続いています。色んな方が見てアドバイスしてくれますし、社長まで届く環境になっています」(塩川氏)
◆どんな人がプロデューサーに向いているのか?
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プロデューサーに向いているのは「大人気ない大人」だと掲げた庄司氏。「大人になってくると空気を読むようになってくる。こういうふうにやったら面白いんだけど、納期やかかるコストを考えると言い出しにくくなってしまう。全く空気を読まないのも良くないですが、やったほうが良いと思うことをやりたいと言えたり、何かに夢中になれたりとか、そういう人がすごく向いていると思います」と、同社では挑戦意欲を持つことがプロデューサーの資質だと考えているようです。
「挑戦意欲さえあれば、過去に何をやっていたかはあまり重要ではない」と、これまで宣伝をやって来た石倉氏や、ゲームディレクターをやってきた塩川氏がプロデューサーになった例を挙げ、足りないところがあってもチームメンバーが補えばいいので、自分で実現したいことがある人がプロデューサーをやればいいと考えていることを明かしました。
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また、「自身で一番、大人気なかったことは?」と訊かれると、「『FGO』をスタートすると決めた時ですね。当時はまだ会社設立前で私1人しかいませんでしたから。普通ならやれるはずがないと尻込みするところだと思います。それでも、TYPE-MOONさんにお声がけ頂いた時にやりたい気持ちが勝ったからやると決め、どうやって実現するかを考えたんです」と振り返りました。何かを実現しようとする時にクリアしないといけない難題が多くてもやる前から諦めないタイプだそうです。
ここで塩川氏が、「私もできない理由は考えないですね。リスクに意識は置いておきますが、どうやったら実現できるのかだけを考えます」と頷くと、庄司氏と石倉氏は「うちで一番、大人気ないかも知れない(笑)」と一番チャレンジしてきたことに太鼓判を押しました。
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石倉氏も大人気ないところがあるようで、「僕はやりたいことは言うようにしている。現時点で実現できないことでも、やりたいと言い続けていると、周りが覚えていて、『この間これやりたいって言ってましたよね?今なら実現できそうです。一緒にやりませんか?』と声を掛けてくれることが人生で多かった」と言うと、庄司氏は「その考えはプロデューサーに向いてますよね。簡単に無理だと決めない、自分で枠にはめないことがすごく大事。無理だと決めつけたらFGOはできていないですから」と深く頷きました。
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トークセッションの最後には、同社が製作した『プロジェクトマネージャーガイドブック』が紹介され、来場者に2冊ずつ配布されました。このガイドブックに関して塩川氏は、「プロジェクトマネージャーがどういう仕事なのかを書いた本がどこにも見つからず、世の中になければ自分たちで創ろうとチャレンジした」と動機を明かしました。
やる理由があるのなら、会社が後押ししてくれるのが同社の魅力で、働く人の思考に制限を設けないからこそ、『FGO』の数々の施策で驚かせてくれるのでしょう。
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