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「みるドラマからやるドラマへ」を合い言葉に、濃密な物語をフルボイス&フルアニメーションで展開する『やるドラ』シリーズ。1998年6月に登場した『ダブルキャスト』を皮切りに、『季節を抱きしめて』や『サンパギータ』などが続々とリリースされました。
そんな1998年の『やるドラ』展開を締めくくったのが、1998年11月26日に発売された『雪割りの花』です。それまでのADVとは一線を画する魅力を綴ってきた『やるドラ』シリーズですが、そんなシリーズの中でも強い個性を放った『雪割りの花』。衝撃的なシナリオ展開も含め、色濃く記憶に残ったユーザーも多いのではないでしょうか。
本日2018年11月16日に、そんな『雪割りの花』がちょうど20周年を迎えました。このアニバーサリーを記念し、本作の魅力や特徴を振り返ってみたいと思います。
◆『やるドラ』の中でも個性が際立つ『雪割りの花』─大人なドラマはほろ苦い
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『ダブルキャスト』から『雪割りの花』まで、いくつか共通するポイントが存在します。例えば、ヒロインが記憶喪失であったり、それぞれの作品ごとに季節がテーマになっている、主人公が大学生などです。ともすれば近しいシチュエーションを招きそうですが、共通項目があると同時に、それぞれ展開が大きく異なる物語を描いているのも、『やるドラ』シリーズの特徴といえます。
そんなシリーズ作の中でも、特に異彩を放っているのが『雪割りの花』です。これまでの3作品は、キャラクターデザインがそれぞれ異なっているとはいえ、いずれもアニメ業界的に見てメジャー路線のデザインでした。ですがこの『雪割りの花』は、一般的なアニメデザインではなく、アダルトな雰囲気すら感じさせるほど。この独特のタッチは、本作の物語と非常にマッチしており、独特の“重み”が主人公とプレイヤーを近づけます。
また、主人公とヒロインの関係にも特色が現れており、前3作は記憶を失った彼女と知り合うことで物語が幕を開けますが、本作では記憶を失う以前から面識があります。ヒロインの桜木花織は、主人公の隣の部屋に住むOLで、主人公が密かに想いを寄せる相手でもありました。しかし、花織には恋人(伊達昂)がいたため、想いを打ち明けることすらできませんでした。
そんな状況が、記憶喪失をきっかけに大きく一転。恋人の死をきっかけに記憶を失った花織は、主人公のことを昂と思い込んでしまいます。秘めた想いも手伝って、昂のフリを始めてしまう主人公。しかし、他人を完璧に演じられるわけもありませんし、自分を通して昂を見る花織とのやり取りは、主人公の心を次第に重くしていきます。
いわゆるゲーム的な派手な展開(殺人事件や謎の組織など)はなく、しかし人の心を描くシナリオは非常に重厚。不安定な関係性ゆえか、バッドエンドに至る道もかなり多く、常に緊張感に溢れたひとときを味わえます。これも、主人公とプレイヤーの感覚が一致する部分なので、没入感も半端ありません。
その“重さ”は、当時のADVはもちろん、『やるドラ』シリーズの中でも屈指と言えるほど。嘘から始まった関係が、どのような結末を迎えるのか。主人公がいかなる代償を払ったのかは、ゲームをクリアした方だけの特権です。気になる方は、今からでも『雪割りの花』をプレイしてみてはいかがでしょうか。
◆『雪割りの花』以降も続いた『やるドラ』シリーズ
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切り口や方向性的に、万人にお勧めとは言いにくいものの、ADVとして質の高い一作なのは間違いのない『雪割りの花』。今遊ぶとすれば、オリジナルのPSソフトがあれば、PS3の互換機能でプレイ可能です。また、PSP向けに『やるドラ ポータブル 雪割りの花』がリリースされています。ダウンロード版ならばPS Vitaでも遊べるので、そちらも選択肢の一つと言えるでしょう。
ちなみに『やるドラ』シリーズは、『ダブルキャスト』から『雪割りの花』までの4作品だけではありません。プレステソフトとして発売されたのは全4本ですが、シリーズ第5作目となる『スキャンダル』や、第6作目の『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(上下巻)がPS2ソフトとして登場しました。『やるドラ』シリーズに興味が湧いた方は、こちらも合わせてチェックしてみてください。
最近のADVゲームは、インディー市場などで活気を見せているものの、大手によるリリースはかなり少なくなっているのが現状です。また、『やるドラ』のように全編アニメで展開する作品は、インディーでは少々難しいところもあります。かつてのADVゲームの勢いを感じさせる『やるドラ』を遊んで当時を振り返りつつ、新しく刺激的な新作の登場を心待ちにしておきましょう。『やるドラ』の新作なども、是非見てみたいものです。
※画像はすべてPSP版です。
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