『DEATH STRANDING』が実際の宅配業を元にしたらどうなる? 「リアル・ストランドゲーム」を妄想してみる【年始特集】

年末年始はお届け物がたくさん行きかう時期。そこであのゲームを思い出しますよね。『DEATH STRANDING』です。これの作品がもしも、実際の配達業を反映したならば、一体どうなるでしょうか?

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『DEATH STRANDING』が実際の宅配業を元にしたらどうなる? 「リアル・ストランドゲーム」を妄想してみる【年始特集】
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『デススト』とリアル宅配業の同じ部分


ここまでは「もし『デススト』が現実の宅配業を反映していったら、こんなゲームルールになって、しっかりと配達するのにこんなジレンマがあるのではないか」という話をしていました。しかし荒唐無稽なSFの世界観ながら、あながち現実の宅配業と変わらない部分もあります。

■配達員の仕事ぶりがグラフ化されて表示



『デススト』では荷物を一個配達するたびに、どれくらいうまく配達したかによって配達人グレードが加算されますよね。現実の配達人を評価するシステムも、企業によっては本当に存在しています。

各配達業者のサービスの質、一時間にどれだけの配達が完了できているかを数値化し、トラックの運転もどれだけ安全にできているかまで記録され、どれだけ貢献できているかをかなり具体的に見られていました。社内評価はもちろん、自分のステータスも一目でわかりますから、なかなか心に響くんですよね。

■ミュールみたいに荷物を奪う地域もある



これは幸いにも自分は経験しなかったのですが、場所やタイミングによっては配達物が盗難されることもあるんですよね。トラックから離れたときのほか、台車を利用した配達のときなど、危ない瞬間はいくつもあります。なので、トラックにカギをかけたり、防犯を徹底していないと荷物が盗まれかねないのです。

ちなみに「配達依存症」はフィクションです。ただ他に仕事が無く、もはや配達業しかやれるものがなくてやらざるを得ない人はたくさんいます

■何度か配達に行くうちに客の背景がうっすらわかる



ジャンク屋とカイラルアーティストに何度か配達しているうちに、ふたりが恋人の関係になって、結婚していくのを見ていく……というシーンがありますよね。同じお客様と何度も配達していくと、このイベントに近いことはありましたす。

お客様に何度か配達に向かうなかで、筆者も遭遇しましたよ。残念ながら明るい話ではないのですが……。

過去のお客様で、いつもにこやかな主婦の方がいらっしゃいました。でもなにか笑顔にぎこちなさを感じるな、と思ったりもするんですね。ある日、その方に荷物を配達しに行ったら、目に青タンができていて……それでもいつものように笑って受け取ってくれるわけです。何かを顔にぶつけてしまったのかもしれない、転んでしまったのかもしれない、もしくは家庭内で何かがあったのか……? などと、いろいろと考えてしまうのです。

いまこの文章を書きながら、その他にも「ここの家は大丈夫なのだろうか」というケースをいくつか思い出してきました。当時は一緒に働いている他の配達員と、なにか問題が見える家庭を発見したとき、どのあたりで通報や相談をしていくべきなのだろうという話もしていました。

ちなみに、頑張って配達した荷物をお客様にヒステリックに破壊されたことはありません。

■ヤバい客に絡まれる



サムが配達を続けるなかで、クリフと過去の世界大戦の戦場にて闘うシーンをプレイしながら筆者は「懐かしいなあ」と思っていました。配達時代、ヤバい客と怒鳴り合いの喧嘩になった経験があったからです。

膨大な荷物を捌かなくてはならない年の瀬に、心が荒んでしまっていたからでしょうか。気性の荒いお客さんを相手に、配達の仕方や対応が原因で諍いになってしまったんですよね。

この段階で「そろそろ配達業を辞めよう、精神と肉体が追いつかない」という状況に陥っていました。気性の荒いお客様もなかなかの性格で「俺に文句あるなら決闘しろ! 場所は指定するからよ」と言われ、まるで昭和みたいだと思いました。心の内で「e-Sports元年だから『ストV』ならやってやるよ」と喉元まで出かかっていましたが、黙っていました。

『デススト』の場合、ヤバい人との喧嘩がゲームの山場ですからね。筆者も別の仕事に転向しようと思い始めていたころなので、途中までサムも配達を辞めるのかな、と思っていました。


ちなみに、そのあと職場のデッドマンと謝罪に行きました

■配達センターで働くみんなに思惑がある



アメリカを繋げる活動を続ける「ブリッジズ」のメンバーは、同じ目標を持った一枚岩のグループかと思いきや、メンバー間に思惑があり、各々が他のメンバーに対して動向を探っている様が見られます。


実際の配達業にも、こういう人間関係が意外にあるのです。一緒のセンターで仕事をしながら、配達人によっては上の管理側に移行しようと画策する者、センター長と現場の配達業者とで露骨に態度の違う者……ハートマンばりに休みがちな、仮病を使っていた大学生バイトの方も懐かしいです。

仲間内で飲みに行くと、職場のダイ・ハードマン先輩が受付・事務担当のフラジャイルさんについて、角ハイボールを飲みながら悪く言ったりしてるわけです。あいつはビーチに行ける力で上の方に媚びを売ってるとかなんとか。



『デススト』が現実の配達業を参考にしたとしたら、ルールも大きく変わるので、ゲームプレイも大きく変わっていくことは確かです。配達を完了させるジレンマも「いかに転倒せず、荷物を炒めないようにするか」から、時間の問題やサービスの問題も含まれたものになり、もっと複雑な体験になるでしょう。

なにより、現実の配達では人のエゴに触れることも多く、お客様はもちろん一緒に仕事する配達の人たち、そして自身も含めて泥臭い出来事があります。配達に向かえば確実に荷物を受け取ってくれる人がいるということは、現実のすべての配達業者の理想なのです。お客様にもそれぞれ仕事や生活があります。しかし何日も不在で受け取れないというのは、それだけで誰かのエゴの都合になっているのです。

『デススト』が「ゆるい繋がり」を目指した非同期オンラインを実現していることをはじめ、人のエゴと距離をとった繋がりまで描いているのは確かです。しかし配達の現実では逆で、常にうっすらとした他人のエゴと触れ続けているものなのです。実際の配達業と比べれば、他人のエゴにほとんど触れることのない『デススト』の配達はユートピアのようでした。 

もしも続編でこうした泥臭さや、リアルな配達をゲームデザインに含めたとしたら、テーマである「繋がり」の意味も変わってしまうことでしょう。それがゲームとして面白いかどうかは未知数ですが、感情を揺さぶるような体験にはなるかもしれません。実際の「なわ」にはいろいろな色・形があり、良くも悪くも繋がったり切れたりしていく……現実で配達業を経験していた筆者は、『デススト』をプレイすることでそんなことを思い出すことができました。
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《葛西 祝》

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