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ーーセールス面で振るわなかった理由はどのように考えていますか?
神谷『The Wonderful 101』自体が奇異の目で見られて、敬遠されている状態で留まってしまったのが原因かなと。名前は知ってるけど遊んでいない人も多いと思うので、今回のチャンスは僕の中では二回目の立ち上げみたいな気がしていますね。
稲葉時間的な制約はもちろんあったのですが、神谷はどこまでも中身を充実させていって、それはそれでいいことなんですけど、わかりやすさや遊びやすさを整える時間が足りなかったので、その辺は直したいと思っています。数年経ってから見ると「これはちょっとなあ……」と思うところもあるのは事実です。
神谷中身の充実を続けたのでクリエイターとしてこれ以上追加したいというのはないのですが、UIだったりUXの面でおざなりになってしまった部分があるのは否定できません。例えばサブ画面の表示位置も自由に配置したほうが楽しく遊べると思っているのですが、表示させることだけで当時は精一杯で後悔が残っていますね。そういう細かなところをもっと直したいと思うところがあって、個人的にはこういう機会のために直したいリストを作っていました。
『The Wonderful 101』はシューティングがあったりボクシングがあったりしてシーンごとにカメラ視点も変わるのですが、いまだに実況プレイをしているユーザーをの動画を見ていると、弾を撃てる場面だけど気付いていないということもあったので、やはり遊び方を伝えきれていなかったんだなと思います。ユーザーがゲームに触れる一番最初の体験が大事で、そこで最高の体験ができると2回3回と遊んでもらえるんですけど、当時はそこまで気を配る余裕もなかったのかなと。
プラチナゲームズの思い描くクラウドファンディングと今後の事業戦略
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ーー今回のパブリッシングをクラウドファンディングを経てやっていこうと考えた理由を教えてください。
稲葉プラチナゲームズは「ユーザーと距離が近い会社でありたい」とずっと思っています。『The Wonderful 101: Remastered』の再ローンチもビジネス的な協力を得て開発する道もあったかもしれませんが、自分たちでパブリッシングしようと思った時に、どれだけのユーザーに必要とされているのか、またそのユーザーの応援が僕たちの力になることを体感したいと考えていました。そう考えるとクラウドファンディングという手法がプラチナゲームズの方針にぴったりハマるなと。今回ユーザーの応援で『The Wonderful 101: Remastered』が世に出すことができれば、また違う作品もパブリッシングできるんじゃないかと思います。ゲームを遊びたい人が、自分たちの遊びたいゲーム開発会社やクリエイターを応援してゲームが完成するのというのは、業界にとってもいいサイクルだと思いますし、そういうサイクルを作りたいです。
ーーユーザーとゲーム会社の距離が近いのは大切ですよね。クラウドファンディングは2月4日スタートで3月7日までということですが、社内的な開発の準備や計画も進んでいるのでしょうか
稲葉開発チームについては皆さんのご協力次第の面もありますが、基礎的な準備を地道にやっています。さっき神谷も話したように、既に修正リストありますし、画質などのリファインも検討中です。メインのゲームはボリューム・クオリティともに十分だと感じているので、ストレッチゴールでは、他機種での展開だけでなく横の遊び=他のモードを追加したいと考えています。
神谷『The Wonderful 101』には「ユナイト・モーフ」というのがあってこれが遊びのコアになっているのですが、ユーザーの要望があればこの「ユナイト・モーフ」を使ったエクストラの遊びができたらと思います。『マリオカート』の「ふうせんバトル」みたいなイメージですね。
ーークラウドファンディングの具体的な金額やストレッチゴールの内容も教えてください。
稲葉金額やストレッチゴールの内容はまだ話し合っている段階ですが、最初のゴールであるスイッチ版をリリースできるところまでは達成したいなと。初めてなのでドキドキです。キャンペーン中にストレッチゴールを追加することもあると思うので、反応を見ながらユーザーと一緒に楽しみながら動いていくことになると思いますよ。
神谷まずはスイッチでリリースして、ストレッチゴールで任天堂以外のハードでの展開を予定しています。どのハードを先にするというのはなく横並びにする予定です。
ーー今後、他のタイトルでも同じ動きがあるのでしょうか?
神谷よく誤解されるのですが、プラチナゲームズはパブリッシャーさんから資金を得て世界観やキャラクターを作ってゲームを開発しているので、販売に関する権利は僕らにない場合が多いんです。『ベヨネッタ』も非常に評価をいただいてうれしいのですが、パブリッシングする権利はセガさんにありますから、我々ができることはそれほどありません。なので『The Wonderful 101: Remastered』は本当に異例で、だからこそユーザーさんの協力を得て実現させようと思いました。
ーー任天堂さんとの交渉も異例のことで大変だったのでは?
稲葉いろいろな事情を加味した上で、最終的に許諾してくれた任天堂さんの懐の広さには感謝しています。プラチナゲームズがずっと任天堂さんとお付き合いして関係値が深かったからというのも大きいです。任天堂さんも超異例だと思いますが、ゲーム業界全体でも超異例だと思いますね。
神谷ストレッチゴール達成できたら、プレイステーションや他のハードで『The Wonderful 101: Remastered』を起動できるわけですし、タイトル画面に任天堂のマークが表示されますからね。僕的にゲーム業界の2大偉業になると思いますね(笑)。もう一つは『ビューティフル ジョー』の背景にロボットを登場させたことですね。
稲葉ここカットで(笑)。交渉を始めたときは不可能かと思ったのですが、なんとかここまできたので後はユーザーさんの後押しをいただければ!
ーー2大偉業を達成しようと動いておられるのですね(笑)最後に改めて今後の意気込みを聞かせてください。
稲葉プラチナゲームズが自分たちのゲームをこれから自社でパブリッシングしていくかどうか、今回がすごく大きな分かれ道だと思います。『The Wonderful 101: Remastered』のクラウドファンディングが成功するともっとプラチナゲームズらしい、混じりっけ無しのピュアプラチナなタイトルを出せるんじゃないかなと。今回の『The Wonderful 101: Remastered』だけでなく今後のブーストでもあるんだ、と思って応援していただけると嬉しいです。
神谷『The Wonderful 101』のWiiU版を発売したときと同じ言葉なんですけど、オリジナルタイトルだとどうしても壁を感じると思うのですが、そこをぜひ飛び越える勇気をもってほしいですね。今までプレイしたことのない体験が『The Wonderful 101: Remastered』を通じてできるんだと、僕は自信をもってみなさんに伝えたいです。
ーー今日はありがとうございました
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ユーモアを交えつつ、最高の品質を真剣に追求し続ける稲葉氏と神谷氏のインタビューの中で印象に残った言葉は「ピュアプラチナ」という言葉でした。プラチナゲームズの大きな決断によって、さらにプラチナゲームズらしいタイトルが世の中に登場するかどうかがユーザーの後押しにかかっています。
インタビューの最後に神谷氏が触れたWii U版発売時のコメントですが、任天堂公式サイトに掲載されている「社長が訊く」でも故・岩田聡氏(当時・任天堂代表取締役社長)が同じように本作について語っている一節があるので、そちらを引用し締めくくりたいと思います。
この『101』というゲームは、「プラチナゲームズさんと任天堂が一緒になることで生まれたんだな」ということを、とても強く感じられました。ほかに類を見ない個性的なエネルギーが、ものすごく注ぎ込まれてるんですね。(中略)
ただそれは一方で、見たことがないものというのは怖がったり、ためらったりされるケースも非常に多いと思うんですね。だからわたしからも、そんな方たちに「直感的な何かを感じてもらえたら、ぜひ飛び込んできてください」ということをお伝えしていきたいです。
『The Wonderful 101: Remastered』のクラウドファンディングはKickstarterにて2月4日(火)から開催中です。