いよいよ夏休みも終わりですね…。
実際のところは連日真夏日だというのに、これは一体どういうことなんでしょうか。納得しかねますねぇ。
『あつ森』ワールドも北半球では9月になれば森からカブトムシたち夏の虫が姿を消し、秋へと移ろっていくわけです。
新たな季節が楽しみな反面、ちょっと寂しくもあります。
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しかし、海はまだまだ夏の余韻を残してくれています。
カジキやサメ、クマノミ、チョウチョウウオにシイラといった夏っぽい魚、南方系の魚たちは9月あるいは10月まで釣りでゲットすることが可能です。
一般的に海洋の水温は季節による陸地の気温の変化にやや遅れて上下します。
海の中だけ夏がちょっと続くのは現実の自然の再現を随所に取り入れる『あつ森』らしい要素だと思います。
さて、『あつ森』で釣れる夏の海水魚といえば個人的には「ロウニンアジ」への思い入れが強く、釣れた時に「おおっ!」と声が漏れた覚えがあります。
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ロウニンアジはその名の通りアジの一種で、細かく言えばアジ科ギンガメアジ属に分類される魚です(一般的に干物やアジフライにして食べられるマアジは「アジ科マアジ属」)。
群れを作って行動する種が多いアジ類の中では珍しく、本種は成魚になると単独で行動することが多くなります。ロウニンアジという名はこの様子を特定の大名に仕えない武士=浪人に見立ててあてられたものと言われています。
熱帯~亜熱帯の温暖な海域に生息するいわゆる熱帯魚でもあるのですが、その生涯の中でかなり広い範囲を回遊することが知られています。
ひょっとするとこの生き様も流浪の旅をする浪人を想起させたのかもしれません。
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アジっぽくないのは生態だけではありません。何よりその見た目がアジ離れしているのです。
このロウニンアジ、とにかく大きい!なんと体長は180センチメートル、体重は80キログラムに達するとさえ言われる人間サイズの巨大魚なのです。
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釣り人の間では巨大なアジを意味する英名「ジャイアントトレバリー(Giant trevally)」の頭文字をとって「GT」と呼ばれ、その巨体と引きの強さから憧れの的になっています。
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……こんな姿を見てしまうと「アジ」へのイメージガラッとが変わってしまいますね。
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さらにさらに!!ロウニンアジにはもう一つ、一般的なアジへのイメージから大きくかけ離れた習性を持っています。
なんと海だけでなく川にもいるのです!
ロウニンアジの暮らす熱帯・亜熱帯地方では河川に食物がとても豊富(暑いと虫が多い→それを食べる小魚も多い→それを食べる大きな魚も多い、という理屈)です。
そこでロウニンアジは川でごはんを食べるためにアジでありながら淡水への適応能力を獲得したのです。
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もちろん、体がとても大きいので成魚が見られるのは川幅の広い河口から海水と淡水が混じり合う「汽水域」までであることが多いのですが、手のひらサイズの幼魚はさらに上流、塩っ気ゼロの純淡水域へ侵入することも。
実際、僕も沖縄の川でフナを探していてロウニンアジの子どもを捕まえたことがあります。…さすがにびっくりしました。
そういえば、ロウニンアジとその他のギンガメアジ属の幼魚はギラギラと銀色に輝くことから「メッキ」あるいは「メッキアジ」などと呼ばれています。
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ロウニンアジたちは南方系の魚ですが、メッキ時代に限っては夏から秋にかけて黒潮のぶつかる九州~関東地方の各地に出現します。南の海から回遊してくるわけです。
ただし、悲しいかな果敢に北上を果たした彼らのほとんどは冬を迎えると同時に寒さに耐えきれず死んでしまいます。この現象を「死滅回遊」といいます。なんとも物悲しい響きですね。
しかし、中には工場や発電所から流れ出る温排水で寒さをしのぎ、大きく成長するものも。いやはやたくましい限りです。
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ちなみに、9~10月はメッキ釣りが楽しいシーズン。
一方で北半球におけるあつ森のロウニンアジは9月いっぱいで姿を見せなくなってしまうようです。もしも期間内に釣り損ねてしまった方は、10月中にリアルで小さなロウニンアジ釣りにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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