これらのデザインは、『イース』(1987年)や『ファイナルファンタジー』(1987年)など初期のファンタジー作品と比べると、全体的に鎧の装飾が豪華または軽量化されている方向性にあります。豪華絢爛やかっこよさと防御力・機動性を両立させるのはフィクションの醍醐味ですが、甲冑デザインをする上では現実の資料は欠かせません。

9月2日~3日までオンライン上で開催された「CEDEC 2020」では、西洋甲冑武器研究家・奥主博之氏が「デザイン発想に役立つ、西洋甲冑講座」のセッションを実施しました。『写真とイラストで見る西洋甲冑入門~三浦權利作品集~』の著者による西洋甲冑デザインの入門講座とも言える内容で、デザイナーに撮っては需要の高い情報が公開されたのでご覧ください。
■騎士の西洋甲冑が活躍したのはわずか100年あまり?
西洋甲冑は命を守るための戦争の道具であると同時に、その人の地位を示し、ファッション要素もありました。歴史を見れば、戦争が激しくなるにつれ、メイル(鎖鎧)から全身を甲冑で覆うプレイトへと変遷しました。


西洋甲冑は騎士が着用するイメージがありますが、騎士の戦場用甲冑が活躍したのは1400年~1500年代初頭のわずか100年ほど。それ以降は傭兵が活躍した銃撃戦が主流になったため、銃撃戦に特化した甲冑や競技用甲冑が増えました。
武器と戦法が変わることによって、甲冑も変わっていったのです。


■使用目的によって西洋甲冑は変わる
西洋甲冑の歴史は1100年頃から1630年頃までに括られ、甲冑のタイプは大きく分けて3つあります。戦場での動きやすさ、大量生産のコストを考えて開発された「実戦用甲冑」、徹底的な防御重視で機動性やコストは二の次とされた「競技用甲冑」、祭事やパレードで衣装として利用された「パレード用甲冑」です。



インターネットや書籍でよく紹介されるのが「パレード用甲冑」であるため、これが西洋甲冑だという印象が強くなっています。しかし、あくまでもパレード用の見栄え重視で、重量が軽く、装甲が薄く、さらに動きにくい造りです。
3タイプには、どのような形状があったのか、実際に残っている甲冑を見ていきます。博物館などで展示されている甲冑は、バラバラに発見された同時代のものを組み合わせた形が多いのに留意する必要があります。

■実戦用甲冑
近接戦闘、弓矢、銃など時代ごとの主流の武器に対する防御力を重視しつつ、動きやすさとコストを抑えることを考えて造られました。士官クラスを除いた歩兵は兜や胸当てだけといった軽装備であることも。







■競技用甲冑
ある程度地位が高い騎士たちが参加する大会のために製造されました。スポーツとしての色が強く、安全面を重要視したため、重くて動きにくい設計です。槍で突いて落馬させた方の勝ちだったり、兜の上に取りつけた頭巾を棍棒ではたき落とした方の勝ちだったり、様々な大会ルールがありました。








■パレード用甲冑
お祭りやパレード、凱旋などで着る装飾性の強いデザイン。昔も今と同じで、より派手、奇抜、個性的な要素を付け加えることがファッションの最先端だとされました。鎧もファッションと同じ感覚なので、同時代の服飾と共通点が多く、ファッション性を甲冑に反映させることが多かったのが分かります。ただ、あくまでも防具として成り立った上でデザイン性を加えています。





■実戦・パレード・競技用兼用甲冑
1500年代頃からは面などのパーツを取り換えることで、競技やパレード、実戦など兼用の甲冑も登場するようになったそうです。




■実物の甲冑を着た体験談はデザインのヒント
奥主氏によれば、甲冑の資料をインターネットで探す場合は、「日本語ではなく、英語やフランス語などの専門用語でパーツや部品の名前を検索する」必要があるとのこと。日本語を使ってしまうと、ゲーム関連の情報ばかりになってしまうからです。専門用語に関しては、『図説 西洋甲冑武器事典』などの専門書を参照するように勧めました。

また、最後に奥主氏が装備してきた甲冑を見せながら体験談を語りました。甲冑をフル装備した際の重量は平均25kgほどですが、腕や肩の装甲は薄いため、特に重いのは兜と胸当てに集中しています。兜は2.5~3.5kg、胸当ては4~6kgのものが多く、装着していても鎧が直接体に触れることはありません。


例えば、同日装着していた腕の甲冑は革手袋の上に金属パーツが鋲で取りつけられており、「バイクの手袋」を着用しているのと似た感触に。体に密着していれば、部品同士が多少擦れてもガシャガシャと金属音がぶつかる音はしません。稼働領域も制限はあれど窮屈ではなく、両手をバンザイする動作が想定されていないなら、甲冑に合わせた剣術を使えば良いのです。


甲冑剣術と言って、ロングソードの柄と刀身をそれぞれ握り、肩や脇など隠し、手の甲で指を守りながら、相手を刀身で小突くというのが一般的な戦い方でした。甲冑は重いけれど、防御する必要がないのが利点です。顔を含めて全身を覆ってしまえば、相手の攻撃が多少当たっても衝撃で済むから、防御する意識を取らずに攻撃に集中できるのが心理的に大きいそうです。
また、戦場では大概は馬に乗っていることが多いので、全身甲冑の重さを完全に背負うこともありません。歩兵であれば動きやすい軽装備など、実戦を考えられた設計になっています。その点に関しては、奥主氏は「人が道具に合わせている」と語り、戦場では無茶な動きをして転倒などすれば命を失うことに繋がると説明しました。
現実の甲冑はフィクションと異なる点が多いですが、リアリティーがあってこそ没入感も増すので、専門知識の重要さを改めて感じさせるセッションだったのではないでしょうか。