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なぜ蒙古兵は強いのか?
昨今では相撲界でも大活躍をするモンゴル人。「蒙古襲来」をテーマにした時代劇オープンワールド『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』でもその強さを嫌というほど見せつけてくれました。本作ではあくまで敵役として登場していたモンゴルですが、首領であるコトゥン・ハーンは屈強ながら理性的で、魅力ある悪役としても描かれていましたね。
そんな『Ghost of Tsushima』影の主役とも言える彼ら。13世紀から14世紀にかけ巨大なモンゴル帝国を築き、日本をも制圧しようとしていたモンゴル人の強さはどこからきたものなのでしょうか?
それこそ歴史を紐解けばさまざまな理由があるはずですが、ゲームをプレイしながら気になったのは体格の差です。当然ながら民間人と兵士では鍛え方が違いますが、それで片付けられないほど蒙古兵の身体はムッキムキです。そこには「食」が関係しているのではないでしょうか。
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ワイルドでたんぱく豊富な肉食系男子の匂いがぷんぷん
蒙古兵は何を食べてあの強さを手に入れたのか。それを探るため、モンゴル料理店へと足を運んでみました。
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今回うかがったのは巣鴨にあるモンゴル料理店「シリンゴル」。オーナーの田尻啓太さんからモンゴル料理や現地の人々の暮らしぶりについてお話を訊きました。
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田尻さんが巣鴨にモンゴル料理のお店を出したのは1995年。なんとシリンゴルは日本で最初のモンゴル料理店なのです。「当時私は商社に勤めていて、モンゴル人の知り合いがたくさんできましたが、日本にいる彼らが集まれるお店がありませんでした。そこでモンゴル人が集まれるお店を出そうと決めたのです」と田尻さん。
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鎧は内モンゴル相撲で使うのだそうです
基本は羊づくしの食生活
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『Ghost of Tsushima』の蒙古兵は対馬で食料を現地調達しているようで、実際にどんなものを食べてきたのかは見えてきません。そこでゲームではわからないモンゴル料理の基本を教えていただきました。
「まずモンゴル料理は羊づくしです。モンゴルでは『赤い食べ物と白い食べ物しかない』という有名な言葉があります。赤は羊の肉、白は乳製品ですね」
モンゴルの牧民は一家庭で700~1000匹ほどの羊を放牧し生活しています。それだけの数を放牧するからには家族の人数も多いのかと思いきや、意外と徒党を組まずにやっているのだとか。とはいえ親戚同士の繋がりが薄いわけではなく、協力する時は協力し合って生活しているのだそうです。
「羊は余すところなくいただきます。これもモンゴルでは有名な言葉で、羊を食べる時は『血の一滴も大地にこぼさない』。実際丁寧に解体し、血抜きしたあとの血は腸に詰めてソーセージにして食べます」。
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ゲームでも収集できる「シャガイ」。羊のくるぶしの骨で、幸運のおまもりとして袋に入れて持ち歩きます。占いに使ったり、子供の遊び道具として使ったりと用途はさまざま。サイコロやすごろくやおはじきの原点とも言われています。これも「羊を余すところなく食べ尽くす」モンゴル人らしい文化ではないでしょうか。
そしてモンゴルといえば馬。日本では馬刺しにして食べますが、モンゴル人は基本的に食べないのだそう。「馬は親友ですから」と田尻さん。内モンゴル自治区の都市部では食べる人も増えているようです。
さらに意外なことにモンゴル人は魚を食べないのだとか。
「魚は神様の使いなので食べません。なので、モンゴルの川で釣りをすると入れ食いですよ!」
こちらも近代化につれ内モンゴル自治区の市場に置かれるようになり、趣味で釣りをする人も現れるようになったそうです。
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ゲーム内では釣りをしている蒙古兵の姿が見られましたが、当時のモンゴル軍は高麗との連合軍だったと言われています。釣りをしているのは高麗人なのかもしれません。
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さて、今回のテーマである「モンゴル人の強さは食にあるのか?」について田尻さんにズバリ訊いてみました。
「モンゴル人は骨太タイプで体格もいいですね。もちろん食によるところはあると思います。それと、モンゴル人が相撲で活躍していますが、彼らは元々馬に乗って生活してきた民族ですから足腰が強いんですね。それが強さの秘訣だと思います」
なるほど、「牧民の日常」と「食生活」が蒙古兵の強さの秘訣なのですね。
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ゲームの収集品にもある「干し肉」について、これがチンギス・ハンが成功した要因だと田尻さんは語ります。
「羊を干し肉にしてかつおぶしのようにスライスすると瓶に丸々入ります。削るから軽くて持ち運びやすく、お茶に漬けると「乾燥わかめ」のように体積が増えます。だからモンゴル人は食料に困らなかったのです」
戦いには兵士が食べる食料の確保が不可欠。栄養満点のスタミナ保存食を持ち歩いていたモンゴル人が強かったのも納得です。
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モンゴル通の田尻さんに『Ghost of Tsushima』の蒙古兵の生活や蒙古兵からの収集品も見ていただきました。まず目についたのは住居。ゲルが昔のパターンなのだとか。現在のゲルは風の抵抗を抑えるため低く作っているそうです。
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「オボー」は石を置いて祭壇にしたもの。
「山に行った際の縁起担ぎで石を積みますよね。あの感覚です。この周りにチベット仏教の経典が書かれた旗をかけます。日本で言うところのお稲荷さんみたいなものです。オボーの前でちょっとした祭りを行ったりもします」
などとお話をうかがっているうちに料理が出来上がってきました!
モンゴルの牧民は1日1食!?
モンゴル人の食生活がわかったところで、早速モンゴル料理を実食していきましょう。まずはメニューを注文する前にテーブルの上に置かれたこちらの3点をチェック。
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右から岩塩、チーズ、 ボーブ(焼き菓子)。チーズは羊のミルク、ボーブは牛乳が原材料になっています。
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そしてモンゴル人に欠かせないミルクティーが登場。甘いものを想像してしまいましたが、むしろしょっぱめ。チーズとボーブをお茶うけにして飲むのがスタンダードです。
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チーズは「アールール」といいます。乾燥していてものすごく硬いので、ミルクティーに入れてふやかして食べるとちょうどいい!
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収集品の中にもありました。遠征の必需品ですね。
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ボーブは沖縄の「サーターアンダギー」のようですが、もっとシンプルな味付けで、噛むとじんわりミルクの甘みを感じます。こちらもミルクティーに入れて食べます。
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ミルクティーになんでも入れて食べてしまうのがモンゴル流。さながら日本の「お茶漬け」のような感覚です。今回は現地の牧民からおすそわけしていただいたバターを入れてみました。ケモノ臭がすごい!
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ボーブをちぎって入れるとちょっとしたスープのできあがり。モンゴルの牧民は羊の世話が中心の生活なので食事は夕方の1日1回。そこでお腹が空いたらボーブをポケットから取り出してそのまま食べたり、ミルクティーと一緒に食べて済ますのだそうです。現代で言えば、ハイカロリーな携帯栄養食的な感覚ですね。実際にミルクティーにチーズとボーブを入れて飲んでみたところ、かなり胃にたまり満足感はバッチリでした。
香辛料はゼロ。味付けはおもに塩で野生の味を堪能!
羊肉を提供するお店の多くが肉の臭みを消すために香辛料を使いまくっているイメージですが、田尻さんによると「モンゴルには香辛料がなかったので味付けはおもに塩」とのこと。意外です!
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テーブルの上には岩塩が用意されていました。白がモンゴル岩塩、赤がネパール岩塩です
そしてモンゴル料理の基本は「蒸す」「茹でる」なのだとか。ということは……
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猪を焼いて食べているのはやっぱり高麗の兵?
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野菜料理が少ないのも特徴です。モンゴルの牧民にとって野菜は家畜が食べるもの。草を食べた家畜を食べれば間接的に野菜を食べていることになる、というわけです。羊の肉は総合栄養食にもなりビタミンも豊富なので野菜を摂らなくてもビタミンを補うことができるのだとか。
そんなモンゴル人が好きな野菜はじゃがいも。「土豆冷菜 ( ジャガイモとピーマンの冷菜)」は一見すると切り干し大根のように見えます。食感がザラっとしているので、じゃがいもと言われなければ気が付きません。なんとも不思議な料理です。
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きくらげは内モンゴル自治区に有名な産地があり、定番の食材。モンゴルは草原のイメージが強いですが、山岳地帯もあるんです。
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そしてやってきた肉料理! まずは 「ボーズ (羊肉蒸しまんじゅう)」。小籠包を大きくした感じの蒸しまんじゅうです。基本はそのまま食べますが、内モンゴル自治区では黒酢をかけて食べます。ケチャップやマヨネーズをかけて食べるのも流行っているのだとか。
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皮は少し固め。小籠包のように肉汁があふれてとてもジューシーです。切り分けた瞬間に肉の香りがフワッと漂ってきました。うまみがたっぷりなので素材そのものの味を楽しんだ後に黒酢をかけるとよいかも。
羊肉といえばジンギスカンのイメージがあり、羊の肉をミンチにし蒸して食べるのはとても新鮮に感じましたが、モンゴルでは羊肉のミンチは当たり前。肉の塊を馬の腰にぶら下げて遠征にでかけて、馬に揺られてミンチ状態になった肉を食していた、というわけです。
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次の料理はシリンゴルオリジナルメニューの「シリンゴルサンド」。小麦を焼いた皮を広げ、甘味噌を塗り、羊の肉やお野菜を包んで食べます。
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上下左右に皮を畳んで具材を包みます。こちらも香辛料を使っていませんが、皮に塗った甘味噌の風味が印象的。羊肉の匂いが苦手な人でもこれなら食べられそうです。キュウリを多めに入れると爽やかさも増し増しです。キュウリはモンゴルでも比較的出回っている野菜なのだとか。
「乾燥した場所だから基本は小麦食」と田尻さん。対馬に来た蒙古兵は略奪した米を食べるのに苦労したのではないでしょうか?
肉の切り分けが上手いとモテる!? 編集長の評価は?
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メイン料理の「チャンサンマハ(骨付き羊肉のモンゴル岩塩ゆで)」がやってきました! 見た目のインパクト大です!
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ひっくり返すとあばら骨がドドーンとお目見え。モンゴルの草原に遊びに行き3~4日泊まるとず~っとこの肉が食卓に並ぶのだとか。モンゴル通の田尻さんでも「脂身が多い肉を毎日出されると2日目ぐらいで気持ち悪く……」と苦笑い。
モンゴルでは骨についた肉をキレイに切り分けられることが「イイオトコ」の条件! 焼き魚を食べるのと一緒で、キレイに骨を残すのがマナーのひとつです。モンゴルでは女性が婚約者を家に招く際にチャンサンマハを振る舞います。そして婚約者に切り分けてもらい、うまく骨が残せるか否かで器量を確かめるのです。「だから一番難しい首の部分を出して試すこともあるそうですよ」と田尻さん。
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というわけで、お肉の切り分けを同行していたインサイド編集長のすえなががトライ! 肉を丁寧に削いでいて、なかなかの腕前です。これならイイオトコ認定受けるのでは!?
「この切り分けはいかがでしょうか?」
「う~ん、50点ですね」
なかなかキビシイ!!
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田尻さんがお手本を示してくれました。削ぐようにして骨膜もしっかりと取らないとイイオトコ認定はいただけません。牧民はマイナイフを持っているので、肉を渡されたら自分で削いで食べていきます。
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試食は50点の男、すえながにしていただきました。
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骨を持って豪快にガブリ。サトゥルヌスのように貪りつき、肉を引きちぎります。「コリコリした食感がお酒に合いそう」とすえなが。
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そこで登場したのが牧民から分けていただいた貴重なお酒「アルヒー」。なんとこのお酒、この透明度でミルク100%! チーズを作る際に出るうわずみ液を蒸留させて出来たもので、アルコールは5~6%と低めです。味は「飲めるブルーチーズ」。香りはお酒なのに味はチーズという、これまで体験したことのない不思議な味でした。
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食事のシメは「 シュルテホール(羊のスープうどん)」。先ほどのチャンサンマハの茹で汁を使った貴重な羊肉味スープです。モンゴルではうどんはよく食べられる食材のひとつ。うどんはきしめんにコシをつけた感じの食感です。日本人向けに味を調整していないのに、これが実に日本人の舌に合う! 塩味ベースなのでかなり食べやすく、スープはどんな麺にも合いそうです。
結論:蒙古兵の強さは食にあり!
というわけで塩味をベースにしたモンゴル料理を余すところなく堪能しました。大草原に生きる牧民が脈々と引き継いできた生活に少しだけ触れられたように感じます。
赤と白で構成された食事はまさに「野生」そのもの。屈強な蒙古兵の身体は、日々の食事から成り立っていると実感しました。
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食事後にシェフ自ら馬頭琴を披露していただきました。馬頭琴は日本でいうところの三味線のような伝統的な楽器です。2弦しかないとは思えないほどの深い音が特徴です。室内にいるのにまるで草原にいるかのような感覚になりました。営業日は20時頃に演奏を行っているとのこと。すぐ近くで美しい調べに耳を傾けられる、贅沢な時間です。
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『Ghost Of Tsushima』オフを開くならここ!
当初、モンゴル料理店に取材に行くと聞いて「羊の肉を豪快に食べながら酒を飲み、モンゴル相撲で大騒ぎする」イメージがあり、そんなテンションについていけるかなと不安に思っていました。しかし「シリンゴル」はオシャレな内装で、BGMも静かでなんとも上品な空間でした。
普段めったに食べたことのない本場のモンゴル料理に触れることができるよい機会。『Ghost of Tsushima』のお侍様オフ会はここで決まりですね!
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モンゴル料理店 シリンゴル
〒112-0011
東京都文京区千石4-11-9
JR線・都営三田線 巣鴨駅より徒歩7分
TEL:03(5978)3837
営業時間:18:00~23:00
年中無休(夏季休暇・年始休暇を除く)
HP:http://shilingol.web.fc2.com/
2020年秋、『Ghost of Tsushima』にオンライン協力型マルチプレイモード「Legends(冥人奇譚))を実装する大型無料アップデートが予定されています。
このモードでは対馬の民に語り継がれてきた伝説に登場する「4人の冥人(くろうど)」の戦いを描くとのこと。プレイヤーは侍、弓取、牢人、刺客の4タイプから好きなタイプを選び、フレンドやオンラインでマッチングした仲間と2~4人のチームを組んで戦いに挑みます。
すでに『Ghost of Tsushima』をクリアされている方も多いとは思いますが、これまでとはまったく異なる遊びが楽しめるようになります。「Legends(冥人奇譚)」の続報を待ちながら、『Ghost of Tsushima』影の主役とも言えるモンゴル兵に思いを馳せるのもいいのではないでしょうか。そのおともにはぜひモンゴル料理を!