すごく個人的な話になってしまいますが、私は深海魚が大好きで、「深海魚釣り」を趣味というかライフワークにしています。
お金を貯めて、装備を整えて、漁師さんや研究者から情報収集して、新しい海域を探索する……という過程がRPGっぽくてなかなか楽しいんですよ。
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となるとさしずめ、奇妙な姿をした深海魚たちは立ち向かうべきボスキャラにしてゲームの目標たるヒロインと言いますか…。
珍しい深海魚が釣れた時の感覚はレアなポケモンをゲットしたあの感激に近いものがあります。
……なんで急にこんな話をしたかというと、先日『あつまれ どうぶつの森(※以下、『あつ森』)』をプレイしている際にこの魚が釣れたからです。
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チョウチンアンコウ。
深海魚の代表格とも言える魚です。
色は真っ黒、口は大きく裂け、頭には名前の由来ともなった発光器官がちょうちんのようにぶら下がる……。
いかにも深海魚でござい!という姿が印象的です。
釣れた瞬間「うわ、いいなぁ……!」と呟いてしまいました。
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現実の世界での深海魚釣りは漁船をチャーターしたり、特殊な道具を使ったり(あるいは自作したり)となかなか大変なんですよ。
ところが『あつ森』ではチョウチンアンコウはじめ、リュウグウノツカイやデメニギス、果てはシーラカンスといった深海魚たちが砂浜や桟橋で釣れるわけですから…。
『あつ森』ワールド、うらやましすぎます。
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ちょうちんの役割はルアーと目くらまし?
というわけで、今回はチョウチンアンコウについてお話しします。
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まずはなんといっても、その名の由来である額のちょうちんについて説明せねばなりますまい。
アンコウの仲間には頭にニョキッと小さなツノのようなものが生えている種が多く見られます。
これは「誘引突起」と呼ばれるもので、先端にはエビなどの小動物を思わせる膨らみがあります。
これを本物さながらにヒョコヒョコ動かし、小魚やイカを眼前へおびき寄せて食べてしまうわけです。釣りでいうルアーのような役割ですね。
チョウチンアンコウはこの部分を発光させることで、真っ暗な深海でエサを誘い出しているのだと考えられています。
深海生物の進化というのは本当に驚かされます。
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さらに、ちょうちん内の発光物質を放出する様子も観察されており、外敵やエサへの目くらましなどルアー以外の使い道があるのではと考える研究者の方もいるようです。
オスとメスが一体化!
さらに、チョウチンアンコウはちょうちん以上に衝撃的でユニークな生態を備えています。
なんと繁殖に際してオスがメスの体に噛みつき、そのまま一体化して文字通り「二人で一人」になってしまうのです。
この魚は雌雄の体格差が凄まじく、ふくよかなメスに対してオスはノミのように小さいのです。
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きっと出会いの少ない深海で子孫を残すための戦略なのでしょう。メスに遭遇するや「もうキミをはなさない!」とばかりに抱きつき、そのまま血管も皮膚も一体化。果ては内臓も精巣を残して消え去り、完全にメスの一部になってしまうそうです。
さらに、一匹のメスに複数のオスがとりついているケースもあるというから驚きです。
この辺に関して『あつ森』ではショッキングすぎると判断されたか、あるいはテキストの字数制限に引っかかったのか、フータさんによる解説では省かれていましたね。
しかし、グラフィックではそれらしき部分も…。
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この体の後半についてるコブ、これってもしかするとメスにとりついたオスなのでは?
だとしたら開発スタッフの熱意とこだわりは素晴らしいものですね。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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