2021年も間もなく終わりを迎えますが、読者の皆様は年末年始の時間を利用してゲームを楽しもうと考えているでしょうか。コロナ禍の現状で心配ではありますが、親族や友達などが集まる事が多いこの時期、ボードゲームやパーティーゲームの需要が高まる時期だと思います。
近年のデジタルボードゲーム界での大きな出来事と言えば、2020年11月19日にニンテンドースイッチ向けに発売されたボードゲーム『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』でしょう。2021年06月には累計販売本数300万本を突破するという大ヒット商品となりました。12月には人気ユニット「ももいろクローバーZ」とのコラボイベントが配信されるなど、まだまだ精力的なアップデートを続けている作品です。
一度はシリーズ終了宣言されたものの、まさしく“定番”としての輝かしい復活を遂げた『桃太郎電鉄』シリーズ。筆者も「桃太郎」シリーズの復活がとても喜ばしいのですが、心のどこかで「シリーズ原典とも言えるRPGの『桃太郎伝説』が復活したら嬉しいなあ」と思ってしまうときがあります。
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そこで本稿では、筆者の好きなスーパーファミコン向けRPG『新桃太郎伝説』を紹介。まだ遊んだことがない人へ、その魅力をお伝えしていきたいと思います。
そもそも『桃太郎伝説』ってなに?
「桃太郎」シリーズ第1作となる和風RPG『桃太郎伝説』は、ファミリーコンピュータ向けに1987年発売。「桃から生まれた桃太郎お供のイヌ・サル・キジを引き連れて鬼ヶ島の鬼を退治する」という、おとぎ話「桃太郎」をベースに「花咲かじいさん」「浦島太郎」「金太郎」「かぐや姫」などの登場人物や物語を登場させているのが特徴です。総監督はさくまあきら氏が務めています。
ゲームの雰囲気は全体的にギャグやパロディにあふれており、どこかコミカル。主人公の桃太郎は、戦闘で相手を殺さずに「こらしめる」という表現を用い、愛と勇気によって「改心」する敵キャラの姿が印象的な作品でもあります。ゲームは後にPCエンジンなどに移植・リメイクされています。
『新桃太郎伝説』は1993年スーパーファミコン向けに発売。1990年にPCエンジン向けに発売された続編『桃太郎伝説II』のパーティ制などのシステムを引き継ぎ、新シナリオやさまざまな要素を追加した、新たに描かれた「初代の続編作品」です。前作から6年後の世界を舞台に、桃太郎の新たな戦いを描いた本作は前作を大きく超えるボリューム感と、ハードなストーリーで展開していきます。また、天気によってキャラクターに有利不利が発生する「タクティカル・ウェザー・バトル」や、主人公らしい振る舞いによって上下する「人気度」などの要素も特徴です。
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RPGシリーズとしての「桃太郎」はその後、プレイステーション向けに発売された初代リメイク『桃太郎伝説』、モバイル向けの『桃太郎伝説モバイル』などが登場。しかし、シリーズとしての続編作品は以後作られていません。なお、「桃太郎」シリーズにはそのほかアクションゲーム『桃太郎活劇』『桃太郎電劇シリーズ』や、テレビアニメ「桃太郎伝説」なども存在しています。
そして今も続く『桃太郎電鉄』は1988年にシリーズ第1作を発売し、以後はさまざまなプラットフォームで作品を発売。2011年、2015年のシリーズ終了発表もありましたが、2016年にニンテンドー3DSソフト『桃太郎電鉄2017 たちあがれ日本!!』でシリーズを復活し、最新作『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』へ続いているのです。
敗北から始まる物語『新桃太郎伝説』
さて、ここからは『新桃太郎伝説』の紹介です。物語の舞台は、前作『桃太郎伝説』のラスボスである「えんま様」をこらしめてから6年後。前作で改心したえんま様は地獄の王である「伐折羅王」から裁きを受け、新たな鬼の脅威が月に住む「かぐや姫」に迫るシーンから始まります。
月の使者から知らせを受けた主人公「桃太郎」はさっそく月へ。この時点で桃太郎は段(レベル)40で前作の最強装備や術を持っている状態。見張りの雑魚敵を倒し、かぐや姫の元へ向かうと敵の幹部「カルラ」と王の息子「ダイダ王子」が待ち受けています。ここでダイダ王子との戦闘になるのですが、こちらの攻撃が通用しません。
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ダイダ王子は「すべての術を吸い取る」「装備品を次々と弾き飛ばす」と、次々とこちらの力を奪い桃太郎は惨敗、最終的には重要アイテムである月の水晶まで砕かれ、月から地球まで吹き飛ばされてしまいます。すべての力を失い敗北した桃太郎ですが、彼にはまだ前作で人々を救った「愛と勇気」が残されているのです。再び立ち上がった桃太郎による、新たな敵に立ち向かうための冒険が始まります。
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ちなみに、旅立ちとともに加わる最初の仲間は「スリの銀次」。『桃太郎電鉄』シリーズではうっかり出会うとこちらの持ち金を奪う銀次も、元は初代『桃太郎伝説』に登場したキャラクターでした。今作では仲間としてはもちろん、桃太郎一行の頼もしい情報役として活躍する存在です。
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戦闘はとにかく難しい!仲間とともに乗り越えよ!
本作の大きな特徴として、その戦闘難易度の高さがあります。ほぼすべての敵が戦闘での特殊行動持ちで、序盤から状態異常を仕掛けてくるため、こちらのピンチに陥れてくることは珍しくありません。そもそも基本的な敵の通常攻撃が大ダメージで、その時点の最強装備を揃えてもキャラによっては一撃で体力の半分以上を削られることも珍しくありません。
特に序盤は回復術を使える桃太郎がチームの回復を担うことになるのですが、同時にメインの攻撃役もこなさねばなりません。そのため、敵の攻撃を耐える防御やアイテムでの回復などを駆使して「攻撃のタイミング」を探る必要があります。少し物語を進めれば回復術を多く使える「浦島太郎」が仲間になるため少し楽になりますが、それでも決して楽になるわけではありません。
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もちろんただ厳しいだけでなく、プレイヤー側にも“敵全体に会心の一撃を与える”という強力無比な術「鹿角」があります。大体の雑魚敵ならば一撃でこらしめ、ボスであっても大ダメージというこの鹿角。消費する技(MP)が圧倒的に多いため連発はできませんが、宿屋などの回復ポイントを拠点にすればレベル上げには苦労しません。もちろんそれでも事故は起こるのですが。
ストーリーを進めていけばどんどん特殊な敵やギミックが登場する本作は、仲間が育ちきるまでは何かと苦労することばかり。雑魚との連戦後、回復のタイミング無しでボス戦というのも珍しくありません。ただし、決して単純に難しいというわけでなく、レベルを上げてしっかりと戦略を立てれば(それなりには)乗り越えられるバランスになっています。また、エンカウント率の高い作品ですが、自分より弱い敵と遭遇しなくなる術やアイテムもあり、消耗を抑えることも可能です。
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仲間キャラクターもオーソドックスな戦士タイプの「金太郎」、ほとんど寝ているが攻撃は必ず会心の「寝太郎」、能力は低いがお金を奪える「貧乏神」など多彩なメンバーが登場。最終的には15人以上から好きなメンバーを選び、自分なりの戦闘スタイルを作り出すことも可能です(ほとんどのキャラは弱いのですが)。仲間以外にお供のイヌ・サル・キジによるサポートなどもあり、みんなで戦っているのを強く感じられます。
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シリアスでハードな物語にも注目!カルラが印象的すぎる
主人公の負けから始まる本作は、前作で桃太郎が救ってきた多くの町や村が再び危機に陥っています。特に新たな敵「伐折羅王」の腹心である幹部格「カルラ」の暗躍は凄まじく、桃太郎の仲間やお供などが軒並みピンチに陥っている状態です。
特にカルラは配下や味方の鬼相手にも冷酷で、残虐非道に作中を暴れまわる、多くのプレイヤーの記憶に残る存在。言葉の端々にある性格や考え方、物語が進むごとに見えてくるその本質、そして最終的な結末なども必見の本作最重要キャラクターでもあります。
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本作の物語はさまざまなおとぎ話をベースにしただけでなく、根底に仏教思想も込められており、かなりコミカル寄りだった『桃太郎伝説』に比べるとその内容は圧倒的にシリアス。ですが、「こらしめる」などの表現が作品全体を通して印象的に使われていることも含め、本質に関しては一貫したものでもあります。
決して「正義は悪に勝つ!」という単純な物語なわけではなく、多くのキャラクターが悩み、手を取り合っていく姿が印象的です。シリーズ人気キャラクター「夜叉姫」がその生き方に疑問を持つ姿や、イベントクリア後に「改心した鬼が人々とともに暮らしている」などさまざまな場面で本作のテーマが見えてくるのだと思います。
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もちろん一部の鬼や村人のセリフなど、コミカルな部分もしっかりと残されてはいます。誰でも気軽に、と言っていいかわからない難易度やテーマではありますが、物語を楽しみながら遊べる作品として非常に完成度が高いのです。
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ここまで紹介してきた『新桃太郎伝説』。そのハードな物語の展開、仏教思想を含めたテーマなど、多くの点で印象的です。筆者は小学生時代に初回プレイだったのですが、当時はとにかくその難しさに苦労しながら乗り越えていったものです(正直なところ攻略本も使いました)。年齢を重ねてみると戦闘で多彩な戦術が構築可能になり、物語の中に多くの新しい発見があるため、再プレイが非常に楽しい作品です。
ただしこの作品を現在プレイする方法は、スーパーファミコンソフトを探して遊ぶことしかありません。大勢の仲間が同時にフィールドに表示されるなど、処理の問題でゲームの表示が遅くなるのも当たり前の本作。配信などで気軽に遊べる日が来ることを望みたいものです。もちろん、シリーズ復活の日がくればこれ以上嬉しい事はありません。
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年末年始のゲーム時間、思い出の作品やあの日買いそびれたレトロゲームを遊んでみるのもいいかも知れませんね。
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