葛葉、加賀美ハヤト、アンジュ・カトリーナ……にじさんじ楽曲大賞2022を決めてみた【バーチャルタレント名鑑】

にじさんじ楽曲大賞2022

配信者 VTuber
葛葉、加賀美ハヤト、アンジュ・カトリーナ……にじさんじ楽曲大賞2022を決めてみた【バーチャルタレント名鑑】
葛葉、加賀美ハヤト、アンジュ・カトリーナ……にじさんじ楽曲大賞2022を決めてみた【バーチャルタレント名鑑】 全 6 枚 拡大写真

2022年も年の瀬を迎え、師走の時期ということもあり慌ただしくエンタメシーンも動きが活発化しています。

12月に入ってから『マリオカード 8 デラックス』を使った大型企画「第5回マリオカートにじさんじ杯」が開催され、スタジオを使用した3D配信もかなり活発で、普段とは違ったスペシャル感あふれる配信が続いています。

また月末には「にじさんじユニット歌謡祭2022」が開催される予定。例年よりも大幅にパワーアップし、ARステージや新3Dステージなどを舞台にして史上最大の総勢80名以上のメンバーが参加する運びになりました。

12月29日から31日までの3日間で開催されるこのライブは、初日はYouTube・ニコニコ生放送にて全編無料配信されますが、2日目・3日目は一部を除いてほぼ有料配信となっており、3日間ともに映画館でのライブビューイングもあるという豪華イベントとなっています。

2022年には葛葉さん、叶さん、ROF-MAOら男性メンバーが次々にメジャーデビュー/ファーストEPを発表したのを筆頭に、夢追翔さん、戌亥とこさん・町田ちまさん・朝日南アカネさんによるボーカルユニットNornisなど様々なメンバーが音楽活動に動いた1年であったといえます。

2022年内にSpotifyやApple Musicに配信されたにじさんじのオリジナル楽曲は、トータルで100曲を超えるという大ボリューム。そんななかで今回は、2022年内にリリースされたにじさんじ楽曲のなかから5曲を選び、楽曲レビューを書いていきたいと思います。どの曲が選ばれたか、楽しみに読んでいただければ幸いです。

◆ハルを追いかけて-叶

作詞・作曲:池澤英
編曲:Ezoshika Gourmet Club

筆者がこの曲のフルバージョンを初めて聴いたのは、2022年7月27日に開催された『Kuzuha & Kanae & ROF-MAO Three-Man LIVE「Aim Higher」』の場で、叶さんが6曲目に披露したときです。

メディアミックス作品『Lie:verse Liars』の情報が解禁されたのは、2022年7月8日のこと。壱百満天原サロメさんの大ブレイク、ANYCOLOR社の株式上場とアッパーな話題が続いていたなかで、大手メディア会社のKADOKAWAとの共同事業として乗り出した大型プロジェクトとして発表されました。

所属するバーチャルタレントを声優として数多く起用し、江口拓也さん、石井孝英さんといった声優も同じく起用。ノベル・コミック・ボイスドラマと多彩に広がっていくという作品の広がりをみても、これまでのにじさんじのなかでも随一の巨大作品ともいえるでしょうか。

叶さんが歌う「ハルを追いかけて」は、この告知動画のなかでサラっとお披露目され、主題歌という立ち位置にあります。告知動画が公開されたタイミングではもちろんフルバージョンのお披露目もされていませんでしたが、ライブでフルバージョンが披露されたのです。

マイナーキーを主にしたサウンドメイク・ハーモニーがとても印象的で、せっつくように進んでいくサウンドのなかで、落ち着きある叶さんの歌声が感傷的なメロディとストーリーテイストの歌詞をなぞっていく。ある種の美しさをともなった1曲だと感じました。

11月9日にリリースされたこの曲をあらためて聴いてみると、細やかなスティックさばきを想像してしまうドラミング、太く明瞭にフレーズが響くベース、淡く弾んで消えていくピアノ・キーボード・シンセサイザーといった鍵盤音など、センチメンタルな印象をより強くもつようになりました。

印象が大きく変わったのは、そこに重なる叶さんの歌声です。視聴動画やライブでは「穏やかさ」が印象的でしたが、全編を聴いてみると「焦り」という真反対の感情が目立ち、曲の中でも明らかに違った表情をみせてくれます。

なにより、彼がここまで訴えるような声を出すようになるとは。そんなことを思ってしまったら他人行儀が過ぎるでしょうか。

曲途中でサっと差し込まれるポチャリと鳴る水音、せっつくようなバンドサウンド、叶さんの切迫した歌声は、無邪気さ・イノセンスな感覚を追い求めてしまう衝動をうまく象徴しています。そのフィーリングはこの曲が放つ魅力でしょう。

◆Alche Miss Katrina-アンジュ・カトリーナ

Lyric トップハムハット狂 (FAKE TYPE.)
MusicFAKE TYPE.
ArrangeDYES IWASAKI (FAKE TYPE.)
Guitarじょんがら武士

2019年3月23日にデビューして以降、にじさんじ屈指の雑談力・トーク力を駆使してにじさんじ内外のタレントらを圧倒(?)し、数多の黒歴史・エロ/スケベへの知識量・生活力ゼロなエピソードの数々など、尖った言動の数々でリスナーから親しまれてきたアンジュ・カトリーナさん。

そんな彼女にとって初めてとなるオリジナル楽曲が、2022年11月26日に披露された「Alche Miss Katrina」です。

一般の女性よりもググっと声が低く、トーンもキーも少年性を感じられるような中性的な印象を感じさせます。とはいえ「歌は自信がない」とデビューしてから口にしていたこともあり、にじさんじの面々と比べてもそこまで歌に対して大きな動きをしていませんでした。

大きく変わったのは、2021年6月6日に初めて投稿した歌ってみた動画「ヴァンパイア」(原曲:DECO*27)をリリースし、現在までに900万再生を稼ぐほどの驚異的な支持を得たからかもしれません。

このほかにも、同じにじさんじの緑仙さんとの「ロメオ」「魔法の本より」「クイーンオブハート」、ニュイ・ソシエールさんとの「ハッピーウェディング前ソング」などの歌ってみた動画を投稿するなど、次々に歌ってみた動画を投稿し、いずれも好評を得ることになりました。

デビュー後の数年間で何度となくあった大型イベント・ライブ・企画配信に合わせ、地道に重ねていた稽古・レッスンが実を結び、彼女の自信となったのでしょう。

少しずつステップアップするなかでついに制作に踏み切ったであろうこのオリジナル曲は、「すこし前にエレクトロ・スウィングが大好きだった時期があって、FAKE TYPE.さんの曲をよく聴いていた」というアンジュさん本人の言葉通り、彼らへの直々オファーから制作がスタートしました。

トップハムハット狂とDYES IWASAKIの2人組ユニットであるFAKE TYPE.は、もともとはインターネットのネットラップカルチャーからニコニコ動画を通じて強い支持を得ていました。2017年にいちど活動を休止し、2020年に活動を再開。今年ついに、メジャーデビューアルバム『FAKE SWING』をリリースしました。

アニメ映画『ONE PIECE FILM RED』にてウタが歌唱する「ウタカタララバイ」を提供するだけでなく、Mori Calliopeさん「NEZUMI Scheme」、▽▲TRiNITY▲▽「Owlish」、猫又おかゆさん「Grrr Grrr Tummy」「ORANGE PARADE」とアンジュさんへの楽曲と続いたので、にじさんじ・ホロライブのメンバーへの楽曲提供を通して彼らを初めて知った方もいれば、「久しぶりに名前を見た!」という方もいるかもしれません。

メロディに対してスムースに歌詞がハマっている譜割、長短合わせてバチバチに韻をハメていきつつ、アンジュさん本人が提出したというさまざまなエピソード・口癖がキラリと光る。職人技のライミングとセンテンスには、改めて2人の素晴らしさを感じずにはいられません。

この曲がアンジュさんにとっては初のラップとなりましたが、「いつもの雑談配信で見せてくれる語り」のようにすら感じられるほどに、彼女のイメージにもピッタリ。しゃべり屋/当たり屋というアンジュさんのイメージを壊さず音楽へと昇華し、「自己紹介」という役割をしっかりと全うした初オリジナル楽曲となりました。

◆リトルハミング-葉加瀬冬雪

Music & Lyric:堀江晶太

2019年7月6日にYouTubeでの生配信でデビューを果たし、現在は鷹宮リオンさん、フレン・E・ルスタリオさんとの3人組ユニット▽▲TRiNITY▲▽としてメジャーアーティストとしても活動している葉加瀬冬雪さん。

以前から歌に興味があり、多くの歌ってみた動画・オリジナル楽曲をリリースしてきた彼女。▽▲TRiNITY▲▽としてリリースしたアルバムでもソロ楽曲が2曲発表されています。

そのうちの1曲、広川恵一さんが作詞作曲を担当した「Cat-ch Your Wave」も素晴らしい楽曲ですが、ここではデビュー3周年を祝う楽曲として発表された「リトルハミング」を選びます。

堀江晶太さんといえば、PENGUIN RESEARCHのベーシスト・メインコンポーザーとして活動しつつ、アニソン・歌い手・アイドルらへ多数の楽曲を提供してきたコンポーザーとして知られており、かつてボカロP・kemuとしても活動していたといえば「あの方か!」と分かる方もいるでしょう。

ボカロP・kemuとしては「六兆年と一夜物語」「人生リセットボタン」「地球最後の告白を」などを発表。堀江晶太名義としては、LiSAさん「Rising Hope」「ADAMAS」「赤い罠(who loves it?)」などのシングル曲など編曲者として長きにわたって関わり続け、その他にもTRUEさん「Sincerely」田所あずささん「リトルソルジャー」といったヒット曲にも関わっています。

VTuberへの提供曲といえば、にじさんじ・甲斐田晴さんの「透明な心臓が泣いていた」、ホロライブ・星街すいせいさんの「バイバイレイニー」「灼熱にて純情(wii-wii-woo)」、角巻わためさんの「My song」などでも作詞・作曲・編曲のいずれかのポジションを担っています。

そんな彼のサウンドは、PENGUIN RESEARCHで聴かせてくれるラウドかつ壮大な音作りやサウンドメイクを想起する方も多いでしょう。ヘヴィ・メタルミュージックから多大な影響を受けた彼らしく、アップテンポなリズムに細かいフレージングで構成されたリフが特徴的で、ギターとシンセサイザーというリード楽器をうまく混ぜ合わせ/使い分けて、楽曲にパンチ力を持たせられる人物です。

そんな彼ですが、この曲でラウドロックらしいパンチ力はグッと抑え、バンドサウンドの切れ味を中心に制作しています。細かい運指で構築されたギター・ベースは耳馴染みがよく、さまざまなビートとタメを効かせるドラムスにもバッチリハマり、たまに挟まるフレージングは遊び心を感じさせてくれます。コード感・ハーモナイズは感傷的で、イントロから聞かせてくれるメインのギターリフでそれはなお強く感じられるでしょう。

葉加瀬さんの歌声と歌詞・メロディの関係を見てみましょう。ボカロ出身のコンポーザーのクセとしてあるのは、メロディに対して歌詞をすぎるほどに詰めてしまうこと。物語性を重視した楽曲が数多くヒットしたがゆえの傾向であり、それはボカロP出身のコンポーザーの特徴でもあります。

この曲では、そういった特徴はかなり薄く感じられます(それでも言葉は多くはありますが)。一字一字しっかりと聴かせるような歌詞とメロディラインの作りに対し、冷たくて繊細さを感じさせる葉加瀬さんの歌声は、リスナーにはっきり届けと言わんばかりに明朗に、ハッキリとした発音をしています。

誰かを想う 私でいたい
空回るばかりの 街角でも
君を探すように 迷えるなら
案外 悪くない 日々だ

君が 明日も笑えますように
君と 明日も会えますように
小さな ハミング
それはきっと 奇跡だ

この歌詞には明確なストーリーラインはなく、心象風景のなかから浮かんできた感情を歌っています。忙しく騒々しそうなサウンドを日常の生活と例えるなら、彼女の歌声と歌詞は自身の心模様・機微を表現しているといえます。

自分の声が一つひとつひとつ、ハッキリと聞こえるように強く歌う葉加瀬冬雪さん。どこまでも儚げで希薄な存在感を漂わせながら、加えて凛とした印象すら与えてくれます。

◆22 - 加賀美ハヤト

作詞:加賀美ハヤト
作曲・編曲:睦月周平
Drums:裕木レオン
Bass:兼子拓真/熊吉郎
Guitars & All Other Instruments:睦月周平
Recording, Mixing Engineer & ProTools Operator:中村悠二(VERYGOO)
Special Thanks:Shu Yamino

そんな葉加瀬冬雪さんの同期としてデビューしたのが、ここで紹介する加賀美ハヤトさんです。剣持刀也さん、不破湊さん、甲斐田晴さんとともにROF-MAOとしても活動しており、「体を張ってなんでもやります、見た目だけじゃないカッコよさ」を掲げて、VTuber・バーチャルタレントの領域を飛び越える活動を次々とこなしてきました。

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そんな加賀美ハヤトさんといえば、デビュー直後にソロ楽曲「WITHIN」のショートバージョンを公開。スクリームボイスとメタルコア直系のロックサウンドに、当時のにじさんじリスナーが震撼したのは言うまでもありません。

その後、自身の3Dお披露目配信やソロ楽曲などを通じて、明らかに図抜けた「メタル系ボーカリスト」の片鱗を見せていた加賀美さん。ですが、あくまでそれは自身の芸のひとつとして留めており、マナーを重んじる品行方正さとゲーム配信などで見せるヤンチャさという2面性から、「大人のような子供タレント」として女性を中心にファンを獲得してきました。

そんな加賀美さんが30歳を迎えた2022年12月2日にリリースしたのが、この「22」です。英語による歌詞は加賀美さん自身が手掛け、NIJISANJI ENに所属する闇ノシュウさんに意味合いを確認するという徹底ぶり。

作曲・編曲を担当したのは睦月周平さん。「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」で印象的な楽曲を次々に提供し、徐々に知られるようになってきたコンポーザーです。

音楽クリエーターチーム(K)NoW_NAMEの一員としても活動しており、テレビアニメ『灰と幻想のグリムガル』を皮切りに、『サクラクエスト』『Fairy gone』『ドロヘドロ』で劇伴・主題歌などを担当。

2022年には全国区レベルの大ヒットとなった『SPY×FAMILY』で音楽プロデュース・劇伴を務め、睦月周平としてもこれまたヒット作品『リコリス・リコイル』で音楽担当として制作するなど、この1年において「睦月周平」の評価がグっと印象的になった1年だったとも言えます。

ツインペダルでバスドラムを蹴りあげつづけ、鍛え抜かれた腕力でスネアとタムを叩きあげ、低音で蠢いておどろおどろしさを感じさせるベース、唸りを上げて狂った歪みを吐き出し続けるギターサウンド、デスボイスとシャウトで固められ殺気だったボーカル。

彼らが繰り出したのは、泣く子を黙らすほどに殺戮的なメタルコア・ロック。スピード感はしっかりと残しつつも、疾走感や汗臭さよりも、殺伐とした重苦しさがあとに残る、まさにヘビーロック~メタルコア直系な楽曲です。このままSpotify公式プレイリスト「All New Metal」「Kickass Metal」「J-Rock Now」に平然とリストインしていてもおかしくない楽曲でしょう。

このレベルの楽曲を「かなり好き放題させて頂いた曲」と語るのだから、仮に加賀美さんが全力でソロアルバムを作ったなら、メタル色がどれだけ強いアルバムが出来上がるのでしょうか。

I do not pity your loneliness.(君の孤独には同情はしない)
Hey, your trampled down idealism.(なあ、きみの踏みにじられた理想主義は)
How proud are you guys?(どんだけプライドが高いんだ?)

Who turns worry into money.(心配を金に換えるやつ)
And fools who are fooled.(騙される馬鹿)
Tell him when you see him.(そいつに会ったら伝えておいてくれ)
”Leave it alone.”(「ほっといてくれ」って)
Overwhelming reality, drag it down.(圧倒的な現実、引きずり落ちていく)

この曲の歌詞について加賀美さんは、にじさんじENの闇ノシュウさんに丁寧な確認を取ったといいます。どのような意味を持たせているか、その解釈は自由でありましょう。明確な誰かにキレているわけではなく、そのような状況を作ってしまった一連の流れへの怒りが筆者には読み解けます。

ですがそれでも確かに感じられるのは、轟々と燃え上がる怒りの感情。この曲にはクリーンボイスも日本語もほとんどなく、叩きつけるような攻撃性とブチギレた感情が封じ込められています。

◆Wonder Wanderers - 葛葉

作詞:こだまさおり
作曲・編曲:eba
Guitar, Programming & All Other Instruments:eba
Bass:堀江晶太
Drums:ゆーまお(ヒトリエ)
Recording Engineers:滑川高広, 茨木直樹
Mixing Engineer:平井信二郎

最後に挙げたいのは、にじさんじのKINGこと葛葉さんが3月9日にリリースしたEP『Sweet Bite』から「Wonder Wanderers」です。先行リリースされていた「甘噛み」やミニアルバムでも最後に収録された「debauchery」とも悩みましたが、こっちかなと。

にじさんじゲーマーズとしてデビューしたあと、天性のワードチョイスとテンションでさまざまなゲームをプレイ・生配信をしつづけ、多くのファンを虜にしてきた葛葉さん。

その面白さはVTuberを超え、ストリーマーやYouTuberファンにも知られ、「VTuberなんてまともに知らない人」にまで認知されるレベルでもあります。2021年ににじさんじ初となるYouTube登録者数100万人を突破、現在でも2番目の登録者数を誇ります。

なにより重要なのは、彼の生配信に集まる同時視聴者数。おもな配信時間が深夜0時を過ぎたあたりにもかかわらず、数年にわたって2万人前後の視聴者を常時集め続け、大型企画・大会での視聴者数は8万人から10万人以上を記録するほど。「彼がお祭りにいればチェックしてしまう」というファンが数多くいるのが分かります。

この曲のイントロ終わり、彼はこう歌いだします。

深夜24時目覚める世界
示しあわせて鳴り出すアラーム
妙に冴えた目で察しあった今日のパーティ
So lazy busy easy
はにかんでハミ出して恥じらってないで
気ままに遊ぼうぜ(どなた様もReady now)
眠れない理由は置いていこう
真夜中オレ達を咎めるルールはない
はじめようぜ

ここで歌われている「オレ達」とは、葛葉さんとそのリスナーであることは言うまでもないでしょう。深夜24時は彼が配信をスタートする深夜帯のこと、「パーティ」は「生配信」を意味し、「ファンが俺の配信を楽しみにしてる」「盛り上がる配信を楽しんでほしい」という描写・メッセージを歌っています。

かなり無粋に歌詞について書きましたが、この指摘が無ければ「ロックスターの気取ったライフスタイルやショーマンシップ」を表現した歌詞として読む方もいるかもしれません。

少々気取った言葉遣いに葛葉さんはすこし恥ずかしさを覚えるかもしれませんが、ebaさん×ゆーまおさん×堀江晶太さんという楽器隊はパワフルなロックサウンドとともに、ストリーマー・VTuberシーンで主役を張っている葛葉さんをロックスターへと変貌させてしまうマジックとなっています。

彼が何かを成し遂げるのを心待ちにするファンの高揚感・ドキドキ・ワクワクを、ここまでフレッシュに、野蛮に、そして輝かしい瞬間として表現しているのがこの曲だといえます。

いままさにトップランカーとして活躍する男性VTuberが「配信者とファン達」という構図を取り上げ、ここまで自身をヒーローのように感じさせ、リスナー・視聴者を含めて先導するリーダーのように歌えるものなのか。作詞家・こだまさおりさんの鋭い批評眼が彼やシーンなどを見つめ、ひとりのスターやヒーローとして描いてしまった秀逸な歌詞といえます。

2022年のインターネットは、未だにノンデリカシーかつ無知な人々たちや、極端な意見を掲げ・排除することで自身の安心・安住を求めようとする人たちが易々と跋扈する場所となっています。

葛葉さんも、一時期までは攻撃的な物言いで炎上することがある方でした。彼はその攻撃性をジョークへと転換できる術を身につけ、いまでは彼のもとに幅広い年齢のリスナー・ファンが集まるようになりました。

にじさんじ・ホロライブのタレントの生配信中には、「××さんのファンで知り合い、付き合いました/結婚しました!」「息子・娘がファンで……」という風なコメントを見ることも多く、VTuber・バーチャルタレントの存在を通して、大きな転機を迎えた視聴者は数知れないほどにいるでしょう。

そのようにして配信を見ている視聴者を「Wonder Wanderers(≒奇跡の放浪者たち)」と名づけているのは、「この瞬間を共にしていること」「俺を好きになってくれたこと」「それ以上に大きなものを手にできること」といった現象を、放浪者たちに理解させようとしている……などといえば的確でしょうか。

ストリーマー・VTuberを一種のヒーローとして少なくない人たちに受け取らせることに成功した、2022年におけるネットカルチャーのワンシーン・高揚感・ムード・インパクトを切り取ったこの歌は、十二分に評価されるに値する1曲だと言えるでしょう。

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《草野虹》

福島・いわき・ロック&インターネット育ち 草野虹

福島、いわき、ロックとインターネットの育ち。 RealSound、KAI-YOU.net、Rolling Stone Japan、TOKION、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。 音楽・アニメ・VTuberやバーチャルタレントと様々なシーンを股に掛けて活動を続けている。 音楽プレイリストメディアPlutoではプレイリストセレクター(プレイリスト制作)・ポッドキャストの語り手として番組を担当している。

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