「音楽の力で演者とリスナーが繋がれた」―にじさんじ発の歌姫ユニットNornis「Nornis 1st LIVE -Transparent Blue-」ライブレポート

VTuber/バーチャルライバー事務所であるにじさんじの中から結成された3人組ボーカルユニット・Nornisによる「Nornis 1st LIVE -Transparent Blue-」が、2023年3月15日にグランキューブ大阪・メインホールにて開催されました。

配信者 VTuber
「音楽の力で演者とリスナーが繋がれた」―にじさんじ発の歌姫ユニットNornis「Nornis 1st LIVE -Transparent Blue-」ライブレポート
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VTuber/バーチャルライバー事務所であるにじさんじの中から結成された3人組ボーカルユニット・Nornisによる「Nornis 1st LIVE -Transparent Blue-」が、2023年3月15日にグランキューブ大阪・メインホールにて開催されました。

◆デビュー後初めてとなる有観客ライブ

町田ちまさん、戌亥とこさん、朝日南アカネさんからなる3人組ユニットであるNornisは、それぞれの配信活動を通して非常に高い歌唱力とオリジナリティある歌声を披露し、カバー楽曲やオリジナル楽曲をそれぞれに発表してきました。

デビュー時期はバラバラながら、にじさんじのなかでも「音楽」に対してひと際に強い志向性を持って活動してきた3人は、多くのファンをその歌声で魅了・獲得してきました。

2022年6月23日にデビューシングル「Abyssal Zone」の発表と共に活動を開始すると、月に1曲ペースでオリジナル楽曲/カバー楽曲をリリース。2022年12月末には初EPとなる『Transparent Blue』を、2023年2月28日には町田さん、戌亥さん、朝日南さんら3人のソロシングルも発表されるなど、堅調に活動しつづけてきました。

デビュー後初めてとなる有観客ライブである今回は、「にじさんじ内でも指折りの歌唱力を持つ3人がユニットを組んだ」という話題性・イメージも相まって、どのようなライブパフォーマンス・内容となるかが大きく注目されることになりました。

結成から半年以上が経過し、初EPにソロシングルの発売からこのタイミングでのライブ公演。階段を一段一段と登るような活動は、もう一度書かせてもらうと「堅調」の一言に尽きます。

Nornis - 「Transparent Blue」リリース記念ライブ at クロス新宿ビジョン(ライブ歌唱映像)

音楽への情熱で繋がる3人ですが、もともとユニット結成以前は配信などですらほとんど絡んだことがなく、当初は「なぜこの3人なのか?」と思わず疑問に思ったこともインタビューで答えていたほどです。

そんな3人は、ユニット活動を通じてのやり取りやプライベートな時間で3人で遊びに行くなど、徐々に良き関係性を育むようになっていきます。

「シリアスな話題も中身のない雑談も話せるようになった」という3人は、今回の初イベントではユニット結成後、徐々に育まれた結束力が見られるだろうと筆者は考えていました。

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◆和やかな開演前アナウンス、ド派手な開幕

開演前アナウンスを務めたのは、もちろんNornisの3人です。町田さんがいつもと違う艶やかな大人っぽい声でアナウンスを始めると場内が笑いに包まれるなど、観客の緊張がふっと緩んだようでした。

会場が暗転すると、下手(舞台左手側)に座した4人のストリングス隊による演奏から始まりました。「Transparent Blue」を弦楽器のみで演奏する、なんともシネマティックなインタールード。

そこに上手(舞台右手側)のバンド隊が加わり、そのまま「Abyssal Zone」を演奏し始め、ライブがスタートしました。

以前筆者が3人にインタビューした際に「洋画の予告PVで流れているタイプの曲」という喩えが出てきましたが、こうしてライブ会場の1曲目として披露されると、そのド派手さ・ド迫力さ・カッコよさに驚かされます。

同時にこの曲は、3人が「一番難しい」「課題曲」と口を揃える難曲でもあります。デビュー曲にて圧巻の存在感を放ち、歌唱するにも難曲と分かっているこの曲を、3人にとっての初ライブの最初に歌うという、いくつものプレッシャーが重なるなかでうまく歌いきってみせました。

2曲目には一転して、爽やかさ&軽快さを併せ持った2ndシングル「Daydreamer」を披露。メインメロディを3人のボーカルがリレーしていく中にフェイクを加えたコーラスを混ぜあわせ、原曲とは違ったアレンジで楽しませてくれます。

3曲目に歌うのは「Through the glass」Nornisのオリジナル衣装・ムードがもたらすミステリアスさを、現状もっとも鮮やかに描いている楽曲です。

4つ打ちのドラミングが挟まるロック色が強いアンサンブルに、弦楽器の音色特有のシリアスさが加わり、原曲よりもグっと迫力を増したサウンドに会場が包まれます。3人の歌声だけでなく、バンド&ストリングスのダイナミックさが冒頭3曲で十二分に伝わってきます。


「こんばんは!Nornisでーす!」とMCを始める戌亥さん。ライブパフォーマンスを見ていると上品さ・優美さに加えて、底知れぬミステリアスさをも捉えてしまうNornisのイメージなのですが、先述したように3人が話し始めるとボケとツッコミが噛み合うお茶目な会話をみせてくれます。

メディアインタビューでの発言がきっかけとなり、「知性担当・町田ちま」「メンタルコーチ担当・戌亥とこ」「愛嬌担当・朝日南アカネ」としてそれぞれ自己紹介していたのは顕著な例で、その柔和なムードが伝わってきます。

朝日南さんと町田さんにとっては観客を目の前にしてのライブは初めてということもあってか、観客に呼びかけて返事をもらえただけでもかなり嬉しそうな姿を見せていました。

◆Nornisが見据えるロールモデルが垣間見える

そんなMCを終えて朝日南さんがセンターポジションに入ると、Kanariaによる「酔いどれ知らず」をカバー歌唱します。これまで3人ともボカロ楽曲・ボカロP制作曲を多くカバーしてきましたが、この曲を3人で披露するのはもちろん初めてです。

初披露にも関わらず、3人によるボーカルがリレーしていくことでそれぞれの声色の違いがしっかり強調され響いていくのは流石。次に披露されたKalafina「君の銀の庭」のカバーで、その印象はより強くなりました。

アニメファンなら馴染み深いボーカルユニット・Kalafina。2019年に解散してしまった彼女らですが、Nornisを見たときに彼女らの存在を思い出したにじさんじのファンは多いでしょう。ある意味では「Nornisが見据えるロールモデル」として考えていたファンもいるはず。

そんなKalafinaの楽曲のなかでも、三声ボーカルが美しいハーモニーを聴かせるこの曲を真っ当にカバーしようと試みたのです。

戌亥さんのスモーキーな声、町田さんの清廉さのある声、朝日南さんのあたたかで厚みのある声。音源レベルではすこし伝わりづらかった3人の特徴が、ライブという場所で美しい織物を編んでいくような質感となって表現されていました。同曲が披露されたあとのTwitterトレンドに「君の銀の庭」が入ったというと、その衝撃がいかほどのものだったかが伝わるでしょう。

◆3人の仲睦まじい空気が伝わるMCが微笑ましい

朝日南さんがMCとして回し始めると、緊張する素振りすらほとんどない戌亥さんと町田さんを見て羨ましがる場面も。

「明日っていう言葉を聞くだけでめちゃくちゃ緊張しちゃって、2人がそれに気づいてめちゃくちゃイジってくるんですよ!」

そんな風に観客に話しかけると、戌亥さんと町田さんからこんな切り返しが。

「それで夜中暴れてたん?」

「2時くらいまで物音と歌声が聞こえてた」

「少なくともわたしが寝よう思ったときには、ガッガッて暴れていた音してた」

「大分ガンガンいってたよね」

どれほど緊張していたかが急に明らかにされて、恥ずかしがってしまう朝日南さん。活動初期には町田さんがイジられがちでしたが、ここ数か月ではどうやら朝日南さんがイジられ役となったようです。この日のライブでも緊張する彼女をイジって可愛がる流れとなっており、3人の仲睦まじい空気には観客や配信視聴者も微笑ましく思えたでしょう。

◆個性豊かなソロ楽曲を続けて披露

戌亥さんと町田さんがステージからはけると、朝日南さんのソロ曲「Unchained」がスタート。K-POPアイドルやガールズクラッシュをイメージして制作した曲で、あまりダンスのイメージがないこのグループにとっては毛色の違った印象を与えてくれます。

続いて登場した町田さんは、ソロ楽曲「名前のない感情」を歌い上げていきます。

ボカロPとして著名なユリイ・カノンが作詞作曲を務めた1曲は、メロディと言葉がかなり詰め込まれており、おまけにリズムが速いこともあってそれだけで歌いづらそうな印象が強くありました。そんな難しさもなんのその。言葉一つ一つがキレイに聞き取れるレベルで歌ってしまうあたり、彼女のボーカルスキル・ナイーブな声色がうまく噛み合っているのがすぐに分かります。

最後に披露されたのは戌亥さんによる「六道伍感さんぽ」です。

以前に発表したソロ楽曲「地獄屋八丁荒らし」でも作詞作曲を担当したmajikoさんによる楽曲で、チルなヒップホップを意識したグルーヴィな1曲。ブレスの置き方、力のいれどころ、声の残し方までもハッキリと意識して歌うのが伝わってきます。

以前戌亥さんの配信に現れたmajikoさん曰く「歌がうますぎて一発で終わった」「あとはわたしが聞きたくてリテイクしていた」などと冗談のようなエピソードを話していました。戌亥さんのファーストフィーリングで歌った感触から誰の手に触れることもなく仕上げられた、まさに「戌亥オリジナル」な歌心・パフォーマンスを堪能できました。

町田さんと朝日南さんがステージに戻って3人編成に戻り、神はサイコロを振らないの「夜永唄」を歌い始めます。

ここまでの歌唱ではメインメロディにコーラスのメロディが絡んでいく形が多かったですが、この曲では3人が同じメインメロディを歌う形で歌唱していきます。

声が合わさるということは、普通なら声が重なるがゆえにパワフルさや力強さが増すはず。ですがこの瞬間、3人が同じメロディを歌うとむしろ切なさが強まって響いていく、そんな印象深いパフォーマンスを見せてくれました。

◆エレクトロな楽曲をリアレンジ、ダンスも披露

町田さんがセンターポジションに入り、ここから披露されたのが雄之助「PaⅢ.SENSATION」、Ayase「シニカルナイトプラン」、自身らの楽曲「fantasy/reality」です。

3曲とも本来はエレクトロなサウンドを基調にしたポップソングですが、ここではバンドとストリングスの編成によって大胆にリアレンジして披露されました。

シンセサイザーの細やかなタッチによる音色とフレーズ、時折挟まるストリングスの切れ切れとした音色、生ドラムによるドラミングなどで、曲を鮮やかに彩っていきます。町田さん・戌亥さん・朝日南さんもそれぞれに声のニュアンスを繊細に変えつつ、ミステリアスで艶めかしさある質感から、どことなくキュートさもある声色などさまざまに変幻していきました。

何より驚きなのは、3人でいっしょに踊り、振り付けがあるという点。「歌姫系ボーカルユニット」というイメージからはかなり違った印象を与えてくれるはずです。

3曲を歌いきってMCパートに突入すると、知性担当・町田さんがあせってMCを進めてしまい、戌亥さんもおもわず真剣に「そんなすぐに次が最後の曲って言っちゃう!?」とツッコんでしまう一幕に。

引っ込みがつかなくなってしまい、「fantasy/reality」の締めのポーズからMCを再開するという流れとなり、これには思わず会場も笑いに包まれます。町田さんのお茶目さや意外に緊張していたことがうかがい知れる瞬間となりました。

本編ラストを飾ったのは「Goodbye Myself」です。先にも書いたように、3人で同じメロディを歌うと「切なさ」がより鮮やかに表れていくのですが、それは少しだけ表情をかえて「切実さ」となって聴くものの心を震わせてくれることにも繋がります。

「Goodbye Myself」で描かれるのは、今までの自分へのさよならとこれからの自分への旅立ちです。移ろいゆく季節のなかで浮かび上がる寂しさや、いつの間にか増していく強かさなどをうまく表現するために、「切実さ」をいかに表現するか?3人にとってとても重要になってきます。ラストを飾ったこの曲のパフォーマンスは、この日集まった観客やリスナーを十二分に心震わせる「切実さ」に溢れていました。

◆アンコールでも目まぐるしいボーカルリレーは健在

アンコールを求める拍手が響くなか、スっと始まったアンコール1曲目として披露されたのは緑黄色社会の「キャラクター」。そして2曲目へと移っていきました。

一度本編を終えてからのアンコール曲とは思えないほどに、目まぐるしくボーカルがリレーしていき、代わる代わるでコーラスが重なっていく様は「応酬」という言葉が当てはまります。バンド隊のフリーセッションで見られるアドリブの応酬のようにすら見えるなかで、町田さんのクリーンなハイトーンボイスがここぞとばかりに炸裂するアンコール2曲目でした。

とはいえ筆者はこの曲を知りません。ボカロ曲でもマイナーなものなのか?と思っていましたが、MCに入ってから伝えられたのはNornisの新曲だということ。「White blossom」というタイトルで、今後リリースされる予定とのことです。



グッズ紹介や記念撮影のタイミングでやり取りする3人の会話は可愛らしく、ここまで本編13曲にアンコール2曲を披露した3人ですが、まだまだ歌い足りない!という気力・雰囲気が見て取れました。

朝日南さん、戌亥さん、町田さんの順でスタッフやリスナーたちへの感謝を伝えると、本日最後となる「Transparent Blue」を歌い始めました。

亀田誠治さんが作詞・作曲した1曲。亀田さんがこれまでに作曲した楽曲のなかでも、比較的に真っ当かつプレーンなポップソングであり、かなり若々しくてナイーブな言葉で綴られた1曲です。

そんな楽曲を、この日一番の力で真っすぐに伝えようとする3人。ボーカルテクニックやハーモニーという技や相性ではなく、「歌声」そのものが持つパワーでグっと押し開けていくようなパフォーマンスだったのはとても印象的でした。

この公演の発声応援は、「演者から会場に返答を求めた場面においては、マスク着用して発声が可能」といったものでした。にじさんじのファンの方の中には、コロナ禍を通じてファンになった者もかなり多く、この日のライブがにじさんじの有観客ライブが初めてだったという人もいるでしょう。

町田さん、戌亥さん、朝日南さんにとっても観客がいるなかでライブをすることには慣れておらず、特殊な状況下に慣れない者同士がコミュニケーションしあうということで、コミュニケーションにどことなくぎこちなさがあったのも事実です。

そんな演者とリスナーを繋いだのが、音楽という力だったのはとても幸福な空間であったと思います。VTuber/バーチャルライバーシーンという荒波のなかで揉まれながらも「歌をやめなかった者たち」としてのプライド、荒波の中で評価を高めていった3人の実力が、遺憾なく発揮されたライブだったといえます。

セットリスト
1. Abyssal Zone
2. Daydreamer
3. Through the glass
4. 酔いどれ知らず
5. 君の銀の庭
6. Unchained
7. 名前のない感情
8. 六道伍感さんぽ
9. 夜永唄
10. PaⅢ.SENSATION
11. シニカルナイトプラン
12. fantasy/reality
13. Goodbye Myself
アンコール
1. キャラクター
2. White blossom (新曲)
3. Transparent Blue

《草野虹》

福島・いわき・ロック&インターネット育ち 草野虹

福島、いわき、ロックとインターネットの育ち。 RealSound、KAI-YOU.net、Rolling Stone Japan、TOKION、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。 音楽・アニメ・VTuberやバーチャルタレントと様々なシーンを股に掛けて活動を続けている。 音楽プレイリストメディアPlutoではプレイリストセレクター(プレイリスト制作)・ポッドキャストの語り手として番組を担当している。

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