『FF4』は人生で最も大事なことを教えてくれた名作だ―『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』をプレイして今思うこと

セシルを通して考える悪の陳腐さ。

ゲーム コラム
『FF4』は人生で最も大事なことを教えてくれた名作だ―『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』をプレイして今思うこと
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4月20日Switch/PS4向けに発売された『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』。初代『ファイナルファンタジー』から『ファイナルファンタジーVI』までが現代風に高画質化され、内容はオリジナルそのままながら新作のような映像クオリティーを誇ります。

1984年生まれの筆者にとって、1991年7月発売の『ファイナルファンタジーIV』(以下、FF4)は非常に印象深いタイトルです。この頃はハードがファミコンからスーパーファミコンに移り変わる時期で、それと同時に1本のソフトで複雑なシナリオ表現ができるようになりました。

そして大人になって『FF4』をプレイすると、様々なことを思考してしまいます。

主人公は「侵略者」

『IV』の主人公は、ご存知の方も多いと思いますが暗黒騎士・セシル。バロン王国の飛空艇団「赤い翼」の隊長です。

彼はバロン国王の命令で他国を侵略し、クリスタルを略奪する任務に従事しています。それを疑問に感じているセシルは、任務遂行後に国王に対してクリスタルを奪う真意を問いかけます。しかし、それが元で赤い翼の隊長を解任され、代わりに幻獣討伐の任務を命じられて……。

この物語設定は、筆者に限らず当時の子供たちには斬新なものだったのではないでしょうか。なぜなら、ゲーム開始時点のセシルは紛れもなく悪役サイドの人物だからです。「暗黒騎士」という属性、そして彼の見た目も悪役そのもの。さらには後ろめたさを感じているとはいえ、他国を侵略する指揮も執っています。

そんなセシルが暗黒騎士の過去を乗り越え、聖なる騎士=パラディンになる……というのが中盤までのあらすじです。

セシルとアイヒマンの違い

さて、筆者の手元には政治哲学者ハンナ・アーレントが執筆した「エルサレムのアイヒマン」という本があります。


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第二次世界大戦中にユダヤ人の大量虐殺計画を指揮したアドルフ・アイヒマンの本性についてまとめたこの哲学書は、今に至るまで人々の思想に多大な影響を与えています。アーレントのアイヒマン評を簡単にまとめると、「アイヒマンは巨悪でも残忍な人物でもなく、ただの役人に過ぎない。ひたすらに自分の仕事を遂行した人物」です。

「(アイヒマンは)命令に従っていただけでなく、法にも従っていたのだ」(ハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン』)

そしてアイヒマンは、「自分はユダヤ人の移送に関わっただけで、虐殺には関わっていない」と言い切っています。そこに思想性は一切なかった、とアーレントは解説しました。

「悪は陳腐である」

アイヒマンは己の仕事がどのようなものなのか、それが何を意味するのか、全く考えていませんでした。故に自分の職務上の決定が人々を苦しめているということに考えが及びません。

一方で、残酷な侵略と虐殺に「手を貸してしまった」と自覚しているセシルは当初から「思考できる人物」です。彼の立場は戦時中のアイヒマンと似ていますが、自分自身が何をやっているのかということを常に思考しているという点でアイヒマンの対極に立っています。

だからこそ、セシルはパラディンになれたのです。

「行動の意味を振り返ることの重要さ」

聡明な主人公セシルは、当時の子供たちに人生で最も大事なことを教えてくれました。

複雑な物語を展開したスーパーファミコン

「誰もが悪をなしうる」

アーレントの言葉は、ローザへの片思いから嫉妬心にかられてゴルベーザに利用されてしまったカイン、そしてバロン国王の変節後も彼にひたすら従ったベイガンにも当てはまるのではないでしょうか。

それまでのRPGは例外はあれどほとんどの場合、「正義の側のキャラは徹頭徹尾正義の側」「悪の側のキャラは徹頭徹尾悪の側」という構成でした。しかしハードの進化によって、「悪の側にいるキャラが正義の側に行く(その逆も然り)」という複雑な展開を物語として表現することが容易になりました。

そのような意味でも、大衆的なヒット作品としてこのような複雑なモチーフをゲームとして落とし込んだ『FF4』は記念碑的な作品と言えます。

短時間で大人になったリディア

筆者としては、子供だったリディアが短時間で大人になってしまったことも衝撃でした。

リディアはセシルが(本意でなかったとは言え)滅ぼしたミストの村の少女。物語中盤で離脱しますが、地上とは時間の流れが異なる幻界で修行を積んで一人前の召喚士になります。とにかく彼女は大器晩成型で、最初の頃は恐ろしく非力です。戦闘中も大した魔法は使えず、「いかにしてリディアを守るか」ということに頭を抱えてしまうほど。

それが大人になってからは黒魔法も召喚も充実して、一転4番バッターに! 「間違えられた男」アルト・ロペスもビックリの、予想を良い意味で裏切る強力打者になってしまいました(アルト・ロペスについてはググってください!)。

彼女の再登場のシーンも忘れられません。何と、ボスとの戦闘中に乱入する形でリディアが! タイタンの召喚で、あのゴルベーザも真っ青です。

『FF4』はハードの進化を印象付けるタイトルであると同時に、「正義とは何か、悪とは何か」「同じ人でも10年後には別人のように成長する」ということを我々に示してくれた作品でもあります。今日は子どもの日ということで、昔プレイしていた人もこれからの子どもたちにも改めて手に取ってほしい一作です。


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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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