
世界的な人気を集めるノベルゲーム『コーヒートーク』。アメリカ・シアトルのとある小さなコーヒーショップを舞台に、様々な人や亜人が交流を繰り広げる内容です。PCのほかニンテンドースイッチ/PS4/Xbox Oneの各家庭用プラットフォームに向けても配信されています。
上品なストーリーテリング作品として評価される一方、人によっては「つまらない」「退屈」と感じることもあるようで、こうした傾向は、日本では尚更かもしれません。
「『コーヒートーク』って、どこがそんなに面白いの?」
そのような疑問を抱きながら、この記事を読んでいる読者もいることでしょう。そこで今回は『コーヒートーク』の見どころと、「なぜ日本では賛否両論の評価があるのか?」ということを解説していきたいと思います。
近代民主主義国家の「市民」とは

「『コーヒートーク』はつまらない」
そのような声があるのは、残念ながら事実です。
現にGoogleで「コーヒートーク」と検索すると、「コーヒートーク つまらない」という予測検索が出てしまうことも。つまり、少なくない数の人が「コーヒートーク つまらない」と入力しているわけですな。う~ん、このゲームのファンの筆者としては、かなりモヤっとしてしまう瞬間なのですが……。
しかし、以下に説明する知識を予め把握しておけば、先ほどまで退屈に感じていたこのゲームが突然面白くなるかもしれません。
『コーヒートーク』のシナリオで最も重要な単語は「権利擁護法」です。これは亜人が人間と同じ「心を持つ存在」で、それ故に人間と同じ権利があることを確認・保障する国際法を指しています。権利擁護法があるからこそ、亜人たちは人間に混ざって生活できるというわけです。
「人権は無条件に、かつ先天的に保障されていなければならない」という意識は、日本では一般常識として広く共有されていません。日本は「社会人」の国です。子供の頃から「社会人として」「社会人たるもの」「社会人なら」というように、「社会人として生きるにはどういうことを身に着けなければいけないのか」ということを目上の人から教わります。
しかし、この「社会人」という単語を一語で英訳することは不可能です。なぜなら、「社会人」という概念自体が日本にしか存在せず、近代民主主義国家にあるのは「citizen」の概念です。
英語の「citizen」は「市民」と訳されますが、これは単に「静岡市民」「相模原市民」というような意味ではありません。行政サービスを享受する権利、そこで生活する権利、選挙に行って議員を選ぶ権利を持った人こそが「citizen」に該当します。

近代民主主義国家では「あの人はこういう本性だから」という理由で、権力者が市民から権利を剥奪することはできません。『コーヒートーク』の世界では、その権利が亜人にも与えられています。「亜人は人間」ということです。
まずは、それを頭の片隅に置いておきましょう。
「時代の移り変わり」に敏感な亜人たち

このゲームの亜人たちは権利擁護法で人権が保障されていると先述しましたが、実は種族によって「タイムラグ」があります。
権利擁護法の認定基準は「主要六種族」ですが、その六種族から系譜の遠い少数種族はなかなか権利が認められません。亜人の中にも様々な種族がいて、それ故の摩擦や温度差も当然あります。
また、人間よりも遥かに寿命の長い亜人だからこそ「時代の移り変わり」を熟知しています。たとえば吸血鬼のハイドの職業はファッションモデルですが、『コーヒートーク2』では自身の仕事に失望してしまいます。
その理由は、「SNSのせいでファッションが使い捨てになった」からです。何十年も見た目の若さを保つことのできる吸血鬼は、「昔のファッション業界」をよく知っています。
私がモデルを始めた頃、世間のファッションの捉え方は今とは違って……服はしばらく着るものだった。だからこそ作りが良く、洗練されていて、柔軟に着こなせたんだ
ハイドの言う通り、現実世界でもファッションは時代を牽引していました。コルセットを巻かないワンピースやミニスカートが「女性解放のシンボル」だったように、そして労働者の作業着だったジーンズが「若者文化の象徴的アイテム」になったように、時代の変革とファッションのムーブメントは切っても切り離せないものでした。
ところがSNSの登場により、新作の服が注目を集めるのはほんの一瞬になってしまいました。流行の新陳代謝が恐ろしく早くなったせいで、ファッションが時代を超えることはなくなった……とハイドは嘆きます。
うーん……深い話だ!
親子で楽しめるタイトル

上述の通り、亜人は人間ほど「権利の土台」が盤石ではありません。故に彼らは、時代の雰囲気や動向に敏感です。
筆者としては、『コーヒートーク』は「中学生からの人権教育」に活用できるのではと考えています。
こう書くとかなり深刻な話になってしまいますが(実際にゲーム内のキャラも結構深刻な話題を口にします)、一方でこのゲームは青少年の心にトラウマとなってしまうような描写は一切ありません。CEROレーティングはBになっていますが、血生臭い展開も誰かが死んでしまうようなイベントもないため、親子で一緒に楽しむこともできるはず。
キャラが突然エロい衣装に着替えたり、下ネタを口にし出したり、何かよからぬことをしでかしたりすることはないので、そのあたりは大船に乗った気で安心してください全国のお父さんお母さん!
また、初見プレイ時は極力攻略サイトは見ないことをお勧めします。このゲームは基本的に「お客さんが求める飲み物を出してあげる(ただし例外あり)」というものですが、それよりも進行中のストーリーをじっくり堪能することが重要です。
そしてこの『コーヒートーク』、4月20日に続編の『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』が発売されています。開発者ムハンマド・ファーミ氏の急逝を乗り越えて世に登場した作品でもあり、より多くの種類の飲み物を作ることができる点も大きな特徴です。