ソ連崩壊後の混沌を完全描写―「テロとの戦い」を予言した初代PS時代の名作『METAL GEAR SOLID』を振り返る

先日配信が開始された『METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1』。その中に収録されている初代『METAL GEAR SOLID』は、まさに名作中の名作と言える1本です。

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ソ連崩壊後の混沌を完全描写―「テロとの戦い」を予言した初代PS時代の名作『METAL GEAR SOLID』を振り返る
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先日配信が開始された『METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1』。その中に収録されている初代『METAL GEAR SOLID』は、まさに名作中の名作と言える1本です。

このソフトが発売された1998年は、東西冷戦時代がまだ記憶に新しい頃でした。ソビエト連邦という巨大国家が呆気なく崩壊し、世界は今までよりも平和な環境になると思われていました。しかし実際は「ソ連の遺産」が世界中に拡散し、時代はさらなる混沌へ突き進みます。

そんな状況を見事に予言したのが、他でもない『METAL GEAR SOLID』です。

◆ソ連崩壊後の世界

第二次世界大戦後のソ連は、世界最大の軍事大国でした。

強大な陸軍力を誇り、東欧の衛星国に常に睨みを利かせ、必要とあらば本当に装甲師団を送ってしまうこともありました。そのひとつが1968年「プラハの春」への対処として発動した「ドナウ作戦」です。

これはチェコスロバキアの民主化運動に対してソ連が戦車で制圧するという出来事。市民に多数の死者が発生し、チェコスロバキアに訪れようとしていた民主化の春は遠のいてしまいます。

それだけの力を振り回していたソ連と東側衛星国ですが、80年代に入ると民衆の不満を抑え切れなくなります。1989年の東ドイツにおける「ベルリンの壁崩壊」はギュンター・シャボフスキー報道官の「旅行法改正に関する勘違い」が原因と言われていますが、本当の原因は「民衆の不満」であり、報道官の失言はきっかけの一つに過ぎないのではないでしょうか。

そして東側陣営の親玉ソ連の崩壊は、この頃から既に発生していました。クレムリン宮殿から真っ赤なソ連邦国旗が降ろされたのは、ベルリンの壁崩壊からたった2年後のことです。

ソ連がなくなったことにより、東西冷戦は解消。世界はつかの間の平和を見ることができました。当時のテレビを見ても、国際電話サービスや旅行代理店が華やかなCMを堂々と放映していました。

しかし、90年代はあくまでも「戦間期」に過ぎなかったのです。

◆テロリストの手に核兵器

『METAL GEAR SOLID』のテーマは「核兵器の拡散」です。

冷戦時代の遺物である廃棄核兵器をテロリストと化したFOXHOUNDがジャックし、さらにメタルギアに搭載のレールガンを使って核弾頭を発射するという計画を立てます。それを主人公ソリッド・スネークが阻止するというのがざっくりとしたシナリオですが、肝心なのは1998年当時「超大国の作った核兵器がテロリストの手に渡る」ということを現実として認識していた人はどれだけ存在したかということ。

ソ連という国がなくなり、世界は自由主義国ばかりになって自ずと平和になる……というのは幻想に過ぎませんでした。事実、『METAL GEAR SOLID』の発売からたった3年後に、ニューヨークで同時多発テロ事件が発生しています。

98年当時、筆者は中学2年生。ソ連という国があったことは既に過去の記憶となり、世界最強の国と言えば、やはりアメリカです。そのアメリカと日本との関係が良好である以上、今後自分が年老いて死ぬまで戦争に巻き込まれることはないだろう……と何となく考えていたと思います。

しかし、『METAL GEAR SOLID』の発売からたった3年後にニューヨークで同時多発テロ事件が発生しました。

◆現実がゲームを超えた日

筆者が当時住んでいたのは神奈川県相模原市橋本。近くに米軍の施設があります。同時多発テロ直後、この施設の出入口が要塞と化してしまったことはよく覚えています。コンクリート製バリケードと機関銃が設置されたのです。

それはまさに戦時下のような雰囲気でした。実際に90年代の戦間期は2001年9月11日で終焉を迎え、世界はテロリズムと隣り合わせの時代に突入します。

『METAL GEAR SOLID』に登場するバルカン・レイブンやスナイパー・ウルフのような戦闘のプロが、国家に属する軍人ではなくテロリストとして超大国を脅かす光景。それが現実になってしまいました。

地球上の超大国がアメリカのみになると、アメリカに反発する人々や勢力が武器を手に取り各地でテロリズムを実行するようになります。筆者自身が巻き込まれた2016年1月14日のインドネシア・ジャカルタで発生した無差別テロも、イスラム過激派組織ISILが関与していました。

「テロリストがアメリカから奪った核弾頭を、二足歩行ロボットのレールガンで発射する」というのはフィクションです。しかし「テロリストが乗客ごと旅客機でビルに突っ込み、それ以来20年に渡るアメリカとの闘争を繰り広げている」というのは紛れもなく真実であり、現実です。己の存在意義のために紛争を求めていたリキッド・スネークは、死ぬどころか自分自身の生まれ変わりを現実世界に登場させ、今もどこかで暗躍しています。

◆スネークからの宿題

革新的なフル3Dアクションを確立すると同時に、その後すぐに訪れた「テロとの戦いの時代」を予見した『METAL GEAR SOLID』。

スネークが与えた宿題に、我々はどのように取り組んできたのか……。残念ながら、世界は今でも核の脅威と隣り合わせの状態です。そんな2023年を、スネークはどのような気持ちで眺めているのでしょうか。


SW版 METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1
¥6,181
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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