プロゲーマーが活躍する場を広げたい―同じゴールを見据えて経営統合したVARRELとTOPANGAが描く“夢”【鈴木文雄氏×豊田風佑氏インタビュー】

2024年4月8日に経営統合を発表したVARRELとTOPANGA。「ときど」選手を取締役に迎え、どのような展望を持っているのでしょうか?

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プロゲーマーが活躍する場を広げたい―同じゴールを見据えて経営統合したVARRELとTOPANGAが描く“夢”【鈴木文雄氏×豊田風佑氏インタビュー】
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eスポーツに携わる「人」にフォーカスを当てて、これからのeスポーツシーンを担うキーパーソンをインタビュー形式で紹介していく【eスポーツの裏側】前回の連載でインタビューしたのは、Tencentのグローバル向けゲームブランドであるLevel Infiniteが輩出するスマートフォン用MOBA『Honor of Kings(オナー・オブ・キングス)』eスポーツ責任者のSyndra氏。『Honor of Kings』の各国の盛り上がりや日本独自の大会・コミュニティ運営、『Honor of Kings』の目指す姿について、その裏側に迫りました。

第46回を迎える今回取り上げるのは、eスポーツ企業の「CELLORB(セルオーブ)」です。DONUTS傘下のプロeスポーツチームを運営する「VARREL」と、格闘ゲームイベントなどを運営する「TOPANGA」が経営統合し、新会社として新たなスタートを切りました。両社が事業を継続しつつ、タッグを組むことで新しい可能性をつかんだと言える状況です。

取締役のひとりに就任したのはプロeスポーツプレイヤーの「ときど」選手。東大卒プロゲーマーとして多くの実績を残すスタープレイヤーが、現役を続行しつつ二足の草鞋を履くことになります。

今回は、そんなCELLORBの鈴木文雄社長と、豊田風佑副社長に経営統合の経緯やその意味、今後の展望などをうかがいました。

[インタビュアー:森 元行]

プロフィール

鈴木文雄氏

新会社CELLORB代表取締役社長、およびVARREL代表取締役社長。

1997年9月に三光広告(現SANKO)に入社。2006年10月に代表取締役社長に就任した後、eスポーツの専用施設「e-sports SQUARE」、プロリーグ「League of Legends Japan League」、eスポーツ関連会社「RIZeST」などを設立。2021年3月にSANKO代表取締役を退任し、DONUTSの子会社「VARREL」の代表取締役社長に就任。現在まで様々な施策でeスポーツ界に貢献している。

豊田風佑氏

新会社CELLORB取締役副社長、およびTOPANGA代表取締役社長。

2011年4月にTOPANGAを設立。それまでは牧場職員、庭師、舞台スタッフ等さまざまな仕事に従事しており会計士を目指したことも。TOPANGA設立のきっかけは、プロゲーマー「ウメハラ」氏に帯同して世界のプロゲームシーンを体感する中で、日本国内のプロゲームシーンを盛り上げたいと思ったため。プロゲーマーのセカンドキャリア形成等、事業を通じて業界に尽力する。

プロゲーマーがさらに輝ける環境づくりを

――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、鈴木さんと豊田さんはいつ頃から面識があったのですか?

豊田2012年に鈴木さんが「TOPANGAさんってeスポーツ業界で有名っぽいから、一緒に仕事しません?」と(笑)。

一同(笑)

鈴木その時に軽くお会いしたのが最初でしたね(笑)。

もともとTOPANGAが立ち上がった頃から「すごいプロゲーマーがそろってるじゃん!」と思って注目していました。

その後も、何度かご挨拶させていただく機会がありましたが、深く関わることになったのは2014年に登場したパチンコ筐体『スーパーストリートファイターⅣ CR EDITION』のプロモーションの時でした。

格闘ゲームが非常に盛り上がっている頃でもあり、カプコンさんに大会を開催したいと提案したところ、「それなら豊田さんと一緒にやられてはいかがですか?」と。

――それが今回、経営統合という形で新たな道をともに歩むことになりました。

豊田2023年の3月頃だったと思うのですが、鈴木社長に電話で相談したのがきっかけでした。

eスポーツ業界を盛り上げたいという思いでやってきましたが、やはり単独では力の及ばない部分が多々あると感じていました。ならばどこかと組んで新しいことやりたい。そこで情報収集のため、事業売却の経験のある鈴木さんに話を伺おうとしたら「TOPANGAを売るの?」って(笑)。

ですから正直に、「TOPANGAを売るのか、それとも合併するのかまだ分かりません。そもそもどのように話が進んでいくのか分からないので、鈴木さんに相談したかったんです」と打ち明けたところ、「それならうちとやろうよ」と。

鈴木こちらが気になったのは、豊田さんがTOPANGAとして事業継続をしたいのか、それともバイアウトしてTOPANGAから身を引くつもりなのかという部分でした。私としては豊田さんと一緒にやりたかったので、「まだやりたいことはあるし、事業継続の方向で考えています」とうかがって安心しましたね。

豊田さんは慎重な方なのですぐに話がまとまるわけではなく、そこからは反対に弊社から熱烈なラブコールを送りました。

やはり私自身、プロeスポーツの世界をずっと見てきてセカンドキャリアの問題はどこかで解消したいと思っていましたし、豊田さんと見ている方向は一緒でしたから。

豊田やはりセカンドキャリアの問題を鈴木社長が重要視してくれていたのも決めたきっかけでしたね。

実はTOPANGA自体は資金的には問題がなかったので、そのまま続けようと思えば続けることができる状況でした。ただ、たとえば現在『ストリートファイター6』のブームで格闘ゲームの世界は活気づいていますが、そのブームが去った時にどうするの?とも思うんです。ブームで終わらせるのではなく文化として根付かせるなら、勢いがある今のうちに動かないと間に合いません。

もしもパートナーに選んだところが問題解決にルーズであれば、きっとバイアウトして、自分は新しい何かをはじめていたと思います。でも鈴木社長だからこそ事業継続をしたいと思いました。

――それからはスムーズに経営統合できたのですか?

鈴木ある意味、大変でした。VARRELの親会社であるDONUTSの代表・西村啓成さんに説明したところ、「TOPANGAさん?いいじゃん」と即答してもらったところまでは良かったのですが、誰もが知っている「ときど」さんが所属していることもあり「はやく話をまとめて」と。むしろそのプレッシャーの方が大きかったです(笑)。

――新会社CELLORBは、プロeスポーツ事業、IPコンテンツ事業、教育事業が3本柱です。教育事業に関して、具体的にやりたいことのイメージはありますか?

鈴木そこは実績を作ってから具体的に語りたい部分ではあるのですが、たとえばeスポーツの専門学校や部活動などでのコーチング。そういった部分でのキャリア形成を目指す人をサポートしていきたいですし、ゆくゆくは事業として成立させたいです。先日も、Xでインターンを募集したところ700名ほどエントリーがあり、可能性を感じました。

――ゲーム業界への就職希望者は、いま驚くほど多いですよね。

鈴木働きたいと思っている人の受け入れ態勢を整えたいですよね。ゲーム業界で働きたい人たちのコミュニティづくりや、たとえば官民が協力した教育機関などを用意して、そこに出口も作ってキャリア形成につなげられれば理想です。

IOCによるeスポーツオリンピックの開催など、風向きが変わりつつある今だからこそ積極的に取り組むつもりです。

豊田昨年、私が発起人となって『ストリートファイター』の選手会を作ったのですが、そこでプロテニスやプロサッカーの選手にセカンドキャリアについてお話をうかがいました。すでにテニスやサッカーの世界ではコーチをしながらプロとして活動している方がいっぱいいらっしゃいますから、キャリアのあり方が確立している世界を参考にしながら新しい取り組みができないか探っています。

――そして新会社CELLORBで気になることと言えば、やはり取締役に就任した「ときど」さんです。

鈴木教育事業を行っていくうえでも、「ときど」さんは経歴の面でも人間性の面でもこれ以上ないほど適任でした。

豊田私たちのチームでプロゲーマーとして活躍している選手は、みんな「何のためにこの業界にいるのか」「業界にどんな貢献ができるか」を常に考えています。

「ときど」もプロゲーマーの地位を引き上げることに尽力してきましたが、やはり個人でできることには限りがあります。

そこで、会社という組織としてこれまでやれなかったことを一緒にやらないか、と声をかけて、力を貸してもらうことにしました。

CELLORBの取締役に就任した谷口一氏(「ときど」選手)

――「取締役」の役職を背負うことで「ときど」さんの活動はどう変わりますか?

豊田皆さんが見ている範囲ではあまり変わらないと思います。まずは取締役会に出席して経営の勉強をしてもらいつつ、プロゲーマーとしても活躍してもらう感じですね。ただその中で、「ときど」が理想とする世界を作るための選択肢は確実に広がると思います。

――2024年の国内eスポーツシーンで注目してる部分はありますか?

豊田サウジアラビアで行われるeスポーツワールドカップですね。

鈴木それが一番です。タイミングが合えば、豊田さんと一緒に行きたいと思っているところです。

豊田うまくいけばさまざまな恩恵があると思います。eスポーツに対する注目度が上がるでしょうし、サウジアラビアと日本の友好関係も深まるでしょう。

この業界の発展という意味でもいい影響が出る可能性があると感じていますから、成功してほしいです。

――それでは最後に、これからeスポーツ事業に関わろうと考えている企業関係者、そして読者におふたりからメッセージをお願いします。

豊田いきなりeスポーツ事業に飛び込むのではなく、まずは小規模なところでお手伝いから始めてみてはと思います。「楽しそう」「キラキラしている」とお客さんの目線で入ってくると現実とのギャップに悩むこともあるかと思うので、お試し期間として一度「裏側」の景色を見た上で色々なことを吸収してはいかがでしょうか。今はeスポーツ関連の職種が増えていますからね。

鈴木同感です。本気で働きたい人って、考える前にまずは体が動くと思うんですよね。ですから、どんな形でもいいのでまずは現場に入り込んで、実際に体験・体感していただくのが1番いいと思います。

宣伝になってしまいますが、弊社ではeスポーツキャリアコミュニティ「キャリサポ」を運営しており、毎月1度、さまざまな人を呼んでセミナーを実施する予定です。Discord上でコミュニティも立ち上げており、そこを通じてeスポーツ関連の現場でアルバイトとして働くことも可能です。

またコミュニティ内で新たな企画が立ち上がった際には我々もサポートできればと思っております。ご興味がある方はぜひ覗いてみてください。

――ありがとうございました。


《気賀沢 昌志》

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