■神々にもたらされる「死」が、世界に影響を与える
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本作の中心人物は、間違いなく前述の3人(と、彼女たちの旅に同行するヒルコ)ですが、「たねつみの巫女」となって巡る神々の国──「常世の国」での出来事も、作中において重要な意味を持ちます。
「常世の国」の神は不死の存在ですが、大地に穢れをもたらす“本当の冬”が到来する前に“古い神の長”たちが命を大地に還さなければなりません。これは新たな時代へと世代交代させる役割を担っており、この継承──「たねつみの儀式」を行うのが、「みすず」たちの役目となります。
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「みすず」たちは普通の人間なので、言うまでもなくいずれ死ぬ定めにあります。先代が子を成し育み、次代の礎を整えた後、死を迎えます。次代は先代の後を引き継ぎ、同じように次々世代を生み育てていく。この生と死の繰り返しで、人間という種が積み重なっていきました。
この世界の神々は「不死」ですが、決して「非死」ではないとのこと。そのままでは死なないものの、死をもって世代を受け継いできた“人”である「たねつみの巫女」の血を取り込むことで「死」を受け入れ、その命を大地に還すことができるのです。
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「死」の影響は、単に個人の命が失われるだけではありません。喪失感は見送った側にこそ強く残り、後の人生に影響を与えます。また、誰かの「死」を通して、別の誰かとの関係性が変わることもあるでしょう。
そうした変化を、まさに身をもって味わってきた人間ですら、「死」から受ける影響は小さなものではありません。これまで死ぬことのなかった神とその周囲にとっては、その衝撃と喪失も初めてのもの。
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神であっても、いや、神だからこそ、「死」に怯えたとしても不思議ではありません。国の長たる神は、「死」をどのように受け入れるのか。そして、周囲や国にどのような影響を与えていくのか。こうした「死」がコミュニティに与える影響を如実に描いているのも、『たねつみの歌』が取り組む重要なテーマのひとつです。
■避けられぬ「結末」に向かう『たねつみの歌』という物語
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また本作は、ノベルゲームですが選択肢は一切なく、ゲーム性は皆無です。始まりから終わり、「みすず」たちの行動からその結末まで、プレイヤーが介入できる余地はほとんどありません。
彼女たちの道のりは決まっており、その結末も不変。解釈こそプレイヤーの自由ですが、作中で起きた事実に変化の余地はなく、製品版が登場した時点で全てが定められています。
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この「選択肢もマルチエンドもないノベルゲーム」を、味気ないと感じる人がいてもおかしくありません。そこは個々人の趣味嗜好なので、肯定・否定のどちらも同じく価値のある話です。しかし、「選択肢もマルチエンドもないなら、遊ぶ意味はない」といった考えまで突き詰めてしまうのは、個人的に少々もったいなく感じます。
選択肢もマルチエンドもない本作の在り方は、人間の結末に必ず「死」が待ち構え、回避する余地がないという現実をどこか連想させます。人間は誰もが死にますが、「いつか死ぬなら、生きることに価値はない」と考える人は少ないでしょう。むしろ「死」が待つからこそ「生」に意味を見出したり、いかに生きるべきかと向き合う人もいます。
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結末が変わる要素がなくとも、「みすず」たちが何を考え、どのように行動するのか。神々がいかにして、「死」を受け入れるのか。そして、世界にどんな影響を与えていくのか。その旅路を見守ることは、誰かの人生を見守ることにも似ています。
『たねつみの歌』は、決して派手なゲームではありません。火花が飛び散るバトルもなければ、身を焦がす激情の恋などが語られることはなく、女子高生3人とヒルコによる儀式の旅が穏やかに柔らかく描かれるのみです。(少なくとも、体験版の範囲では)
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しかしそこには、「人同士の関係性」と「いずれ迎える死とその影響」という、誰もが身近に感じ、避けて通れない命題が明確に刻み込まれています。その本質をどのように受け取るのかが、本作における唯一無二の“選択肢”なのかもしれません。
『たねつみの歌』が描く物語には血肉が通っており、地に足の着いた厚みも感じさせてくれます。想像の翼を広げるほど雄弁さを増す物語が、製品版でどのような“変わることなき結末”を見せてくれるのか、期待が高まる体験版プレイとなりました。興味が沸いた人は、まずは体験版でその魅力に触れてみましょう。
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