2018年からeスポーツ事業に参画しているNTT東日本グループ。2020年にはeスポーツ領域に特化した新会社NTTe-Sportsを設立し、eスポーツを活用した地域活性化、eスポーツ設備の構築・運用など、さまざまなeスポーツ関連事業を展開しています。大手インフラ企業はeスポーツにどのような可能性を見出し、その先にいかなる未来を描いているのか? NTTe-Sportsの金 基憲(きん もとのり)氏に話をうかがいました。
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光ファイバーの普及を機にeスポーツ事業へ参画
――まずは、金さんの経歴をお聞かせください。
金 基憲氏(以下、金)2011年にNTT東日本へ新卒で入社しました。そこではフレッツ光の商品主管として、新プランの商品開発や、販売促進に携わっていました。
2020年1月にNTT東日本の子会社としてNTTe-Sportsが設立され、数名からなる創立メンバーの1人となりました。当初は人手が足りなかったので、経営企画、事業開発、法人営業……となんでもやりましたね。
現在はNTTe-Sports内で、学校の部活としてのeスポーツ導入を推進する「部活推進事業』のプロジェクトマネージャーを務めています。
――NTTe-Sportsの創立メンバーになったということは、元々ゲームがお好きだったのでしょうか。
金昔からゲーマーで、『リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト』は毎シーズンマスターランクを維持しています。レーンはジャングラーで、一番使うクイックメッセージは「ゴメン。こっちのミスだ。』です(笑)。過去には、国内最大級のeスポーツイベントである「RAGE」に出場して『Shadowverse』で豪運を引き寄せプロゲーマーに勝ったこともありました。
――相当なコアゲーマーであることがうかがえますね。話を戻しまして、NTTe-Sportsが設立された経緯をお聞かせください。
金NTT東日本は、かつては電話線を引き、次は光ファイバー(インターネット回線)を引き……という電気通信事業者です。光ファイバーの世帯カバー率が99%超を達成した後は、整備した通信インフラなどのアセットに加え、地域密着の体制を活かすことで、地域活性化に注力してきました。
(編注:総務省の「令和3年版 情報通信白書」によると、2020年3月末時点で99.1%を達成している)
現在は、「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業」を目指して地域密着型の課題解決/価値創造/街づくりを進めています。その中で業界特化型のソリューションを提供するために、農業、文化芸術、ドローンなどさまざまな分野の子会社が設立されました。その中でeスポーツ分野を担っているのがNTTe-Sportsです。
――強固なインフラを活かして、さまざまな事業や領域に進出していくうちのひとつであったと。
金2018年に日本eスポーツ連合(JeSU)が設立されていたのも追い風になりました。eスポーツという言葉が広く浸透したことで、普段からやり取りをしていた自治体などのお客様から「待望の若者向けコンテンツなので、eスポーツで何かができないか」という問い合わせを頻繁にいただくようになったのです。
eスポーツソリューションの企画から実行までをワンストップで提供
――そこから、どのようにeスポーツ事業への取り組みが発展していったのでしょうか。
金当初は、通信インフラや各地域に展開している自社ビルの活用を中心として、eスポーツ×地域活性化に貢献できないだろうかと考えていました。
しかしニーズを深堀りしていくと、認識が変わってきました。例えば、「eスポーツの施設を作りたい」と仰っているお客様がいたのですが、詳しく話を聞いていくと、彼らが本当にやりたいことは「eスポーツの施設を作る/用意する」ことではなく「使われなくなった遊休施設を有効活用する」ことであることが分かってきました。eスポーツは、それそのものが目的ではなく、元々抱えていた課題を解決するための手段のひとつだったのです。
そうなると、施設を作るだけでは不十分で、中長期的に人を呼び込み、人が集まる場所にする施策が必要になります。通信の領域にとどまらず、環境構築からイベント等、幅広い領域を企画から実行までワンストップで行わなければ解決できません。
それならば子会社の設立まで踏み込み、必要なソリューションを用意しよう……と事業化検討のギアが一段高まりました。
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――NTT東日本のソリューションは、NTTe-Sportsとどのように関わっていますか?
金インターネット回線など、ネットワークインフラを用意するためのノウハウはもちろん、さまざまな地域に構えているビルも、eスポーツ体験教室などの会場として活用できています。もっとも強く感じているのは、NTT東日本が地域密着で築いてきたお客様とのリレーションシップです。
eスポーツ事業に取り組み始めたと公表して以降、地域のお客様から非常に多くのeスポーツに関する問い合わせをいただいております。地域のお客様には、eスポーツに興味を持ったものの、「相談先がわからない」「相談内容が具体的になっていないので問い合わせしてよいものか心配」といった、相談すること自体にハードルを感じられている方が少なからずいらっしゃいます。
そういった状況の中で、NTT東日本は職場のネットワーク関係で普段から出入りしていますので、会話の流れで「そういえばNTT東日本もeスポーツ事業を始めたよね」と話題に挙げられることが、問い合わせの絶対数につながっているように感じます。
――普段から、気軽に相談できる関係性を築けていたのが大きいということですね。そうして、eスポーツ事業の立ち上げが決まったと。
金まずはeスポーツに関する問い合わせへ対応を通してお客様のニーズを汲み取り、ニーズから提供するソリューションを絞り、事業計画に昇華させていきました。そうした過程から、私としてはNTTe-Sportsは現場ニーズから設立された会社であると考えています。
NTT東日本社内でeスポーツ事業着手の話が出てから約2年は準備室的な活動をしていました。新たに会社を設立すると方針を決めてから、NTTe-Sportsが実際に設立されるまでは1年弱ほどだったと記憶しています。
――その過程で、NTT東日本社内へのeスポーツの啓蒙も進めていったのでしょうか。
金そうですね。その活動の一環として2019年6月には「TERA HORNS (テラホーンズ)」という社内eスポーツチームチームを設立しています。
eスポーツビジネスは個別のゲームタイトルがあって成り立つものですが、私が本当に詳しいといえるeスポーツタイトルは当時2~3タイトルでしたので、幅広くタイトルの知見を集めたい、共に事業を展開する仲間を集めたいという狙いもありました。
――チーム名にはどのような意味が込められているのでしょうか。
金当時は通信速度が最大概ね1Gbpsの光回線を販売促進していて「ギガ推し」の時期でしたので、「ギガの上をいくテラ」という意味が込められています。また、「テラホーンズ」という語呂感が、「テレフォン(=電話)」に似ています。結構勢いで付けたネーミングですね・・・(笑)。
eスポーツを活用した地域活性化の企画~実行を一気通貫で支援
――あらためて、NTTe-Sportsの事業内容をお聞かせください。
金まずは地域活性化コンサルティングです。eスポーツの魅力を活かした若者向けの施策を行いたい自治体は多いのですが、専門家を交えずに企画すると持続性のない単発の施策になってしまったり、若者が盛り上がれるような方向性からずれてしまったりすることがあります。
各地域の課題に沿ってeスポーツで何ができるかという企画から伴走して、予算に応じた戦略を立案し、実行に至るまでワンストップで支援します。
eスポーツはハードあっての施策なので、eスポーツ環境の構築・運営も行っています。ゲーミングPCの用意や高速インターネット回線の敷設などですね。時には専用施設規模で構築をサポートしています。NTTe-Sportsが秋葉原に展開している「eXeField Akiba」は、eスポーツ施設のショールームとしての役割も持っています。
eスポーツ環境を構築する場合は、ハードだけでなくソフト面、すなわち構築後にそこで行うイベントなどもセットで提案することが多いです。
――具体的に、そうしたソリューションをどのような自治体に提供してきましたか。
金神奈川県横須賀市、山形県長井市、沖縄県渡嘉敷村など、さまざまな規模の事例があります。全国さまざまな自治体様と、eスポーツ施策の立ち上げ初期からご一緒しています。
(参考:Yokosuka e-Sports Project)
そして、現在もっとも力を入れているといってよいのが「eスポーツ×教育」領域ですね。
――「eスポーツ×教育」については、のちほど詳しくうかがいます。eスポーツ事業を進めていくうえで、苦労されたことはありましたか。
金地域の魅力をどう発信すればよいか、eスポーツが創った繋がりを地域の振興へどう反映していけばよいかなど、地域ごとに前例のない取り組みを一から考えていく難しさもありますが、個別最適と、事業としての効率化のバランスのとり方が難しいですね。「eスポーツ×地域活性化」はビジネス的にみると労働集約型になりがちですが、それだとお客様への提供価格も高くなってしまうので、ノウハウの横展開やパッケージ化に力を入れています。
それらに加え、私自身としては、NTTe-SportsでAndroid/iOS対応のアプリ開発、Webサービスの開発、ゲームに関連するプログラミング講座作り、学校教育向けのeスポーツの教科書制作、eスポーツ向けのギア開発と物販などに取り組み、さまざまなことに挑戦させていただきました。ここ1年ほどでやっと、自分の中で「NTTe-Sportsがeスポーツ業界で何をすべきか」が定まってきたように思います。
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教育分野への進出はeスポーツ業界の発展に不可欠
――それでは「eスポーツ×教育」という領域についてうかがいます。ゲームは教育に悪影響である、ゲームと教育は相反するものであるとする考えもあります。NTTe-Sportsは「教育」、「eスポーツ」というものをそれぞれどのように捉えていますか。
金まず、私たちは「学校部活動としてのeスポーツ」に大きく注目しています。
「ゲームで遊んでいるだけなのでは?」、「eスポーツはスポーツといえるのか?」といった見方もあると思いますが、私が信を置いているものは「今、現場(全国の高校)で何が起きているか」です。
――現場で何をご覧になったかをお聞かせください。
金NTTe-Sportsは、NASEF JAPANが主催する高校生のためのeスポーツ大会「NASEF JAPAN 全日本高校eスポーツ選手権」にも参画していますが、参加チーム数が年々右肩上がりで、2024年には500チームを超えました。
少子高齢化の波を受け、高校の部活動全体の規模は年々縮小しています。そんな逆風が吹くなか、eスポーツの部活は逆に規模を大きくし続けているわけです。
――各学校のeスポーツ部は、どのように活動しているのでしょうか。
金「他の部活動となんら変わらない」というのが現場を見ての率直な感想です。ルールを把握し、練習し、作戦を立て、試合や大会に臨む。優勝を目指しているような強豪校も、実力及ばずなかなか勝てないチームも、試合に向けて日々頑張る。一生懸命やるほどに仲間とぶつかったりもするが、そこから人や社会との関わり方を学ぶ。結果も大事だが、努力や困難にぶつかる過程で将来役に立ついろいろなことを経験する、といった感じです。
ちなみに、私は中高大と体育会系の部活の出身ですが、強さはほどほどで、正直周りにプロスポーツ選手を目指している人はいませんでした。でも、みんな一生懸命に部活に取り組んでいましたし、今振り返っても、部活から学んだことは社会人でも役に立っています。それは、スポーツそのものの技術ではなく、努力の習慣や、困難なことへの取り組み方、周囲とのコミュニケーション能力、社会で生きていくための術だったりします。
現場でeスポーツ部の顧問や部員の方々をみて、そういった学びや経験を思い出しました。その時、「eスポーツは教育の役に立つのだ」と自然に思えたんです。
「学校でまでゲームをしていたら、ゲーム依存が心配」という親御さんもいらっしゃるかもしれません。しかし、eスポーツ部の現場を実際に見て、同じ感想になる人は少ないのではないでしょうか。「依存」は、自分で自分のコントロールが効かない状態のことだと聞いたことがありますが、eスポーツ部の活動は、むしろゲームとの関わりをコントロールしているように感じます。
教育現場である学校に、eスポーツが悪影響を与えないよう顧問の先生方も尽力されています。例えば、部活の開始時間と終了時間をしっかり管理し、部活動に関係ない時間はゲームをプレイできないようにするなどの工夫を見てきました。直接的にeスポーツとの関わり方をレクチャーしている顧問もいらっしゃいました。
私たちNTTe-Sportsは、そういったさまざまなノウハウを勉強させていただきながら、顧問の先生だけではできないようなこと、eスポーツの部活動を広めるにあたって必要なことを具体化していくのが役目だと考えています。
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――eスポーツは十分教育となる、ということですね。そうした部活で取り扱うタイトルは基本的に仲間とチームを組んで他にチームと対戦するゲームですので、チームワーク、仲間への伝達能力、失敗への向き合い方やモチベーションの高めかたなど、実社会でも日常的に行われるさまざまなコミュニケーションを学べます。
金他校との試合や大会、同じ部活内でのレギュラー争いなど、人と競い合うものであるだけに、努力、挑戦、辛いときのストレスとの向き合いかたなども磨かれます。どれも、私の息子にも学生時代に経験してほしいことばかりです(笑)。
――それをビジネスに落とし込んでいくために、どのようなソリューション、サービスを提供しているのでしょうか。
金ビジネスの前段となってしまいますが、eスポーツ業界を発展させるにあたって、(高校への)eスポーツ部活動の拡大は避けて通れない課題だと考えています。リアルスポーツの発展には「する人、観る人、支える(育てる)人の重視」という考え方があります。eスポーツもその考え方は同様に欠かせないと捉えていますし、部活動はその全ての要素にアプローチする大切な場だからです。部活動が広まっていくことで競技人口が増え、その競技が持つ力が上がり、やがて友達や家族といった応援する人も増えていくからです。
このような考え方から、NTTe-Sportsはまず部活動の競技インフラを整えることを優先すべき課題だと認識しています。また、業界の発展を見すえ、中長期的な視点を忘れないことが肝要だと思っています。
そのために今すべきと考えていることのひとつは、大会や練習試合など、日々の部活動の目標となる「学校同士の試合と交流」の取り組みを増やすことです。
全国のeスポーツ部がアクセスしやすく、かつ部活動を充実させるために十分な「量」を確保するにはどうすればよいかを、試行錯誤しながらソリューション創りを進めています。
同時に、指導者も充実させる必要があります。先生方はそもそも学校の業務でお忙しいですし、必ずしもゲームプレイにまで精通しているわけではありませんので、eスポーツ部活動の競技レベルを上げていくにはコーチングが課題です。eスポーツのスキルを教えつつ、部活動というコミュニティの運営も行って学生を成長させてくれる指導者も増やさなければなりません。
「eスポーツを生涯の趣味に」と考えている社会人プレイヤーも多いので、各地域のそういう方たちと連携して指導者になってもらうというようなエコシステムも構築できればと思っています。
――部活としてのeスポーツを支えて教育に繋げ、それがゆくゆくは業界の発展につながるということですね。
2025年4月には通信制サポート校を開校
――NTTe-Sportsは、eスポーツを通して社会で活躍できる力を育む通信制サポート校「NTTe-Sports高等学院」を2025年4月に開校すると発表しています。こちらについてもお聞かせください。
金学校法人中央国際学園 中央国際高等学校を設置・運営している株式会社ディー・エヌ・ケーと連携し、通信制サポート校として、千葉県千葉市に開校を予定しています。今お話したような「eスポーツは学生の教育に役立つ」ことを体現した施設、サービスとなります。
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大人数を集められるキャパシティを持ち、大型のモニターやゲーミングPCも揃えられる学校は「地域の大規模eスポーツ施設」という側面も持っていますので、千葉エリアのeスポーツ拠点として活用も構想しています。
学校としても運用しつつ、地域のコミュニティの場にもなれば、ひとつの施設にさまざまな人がまじりあいます。そうしたつながりの創出、コミュニケーションの促進が、何らかの相乗効果を生み出すこともあるでしょう。
――さまざまな意味で前例のないサポート校となりそうです。教育分野の取り組みといえば、2024年5月には学校の授業に向けたeスポーツの教科書「eスポーツ学習 ビジネス基礎/コミュニケーション基礎」の販売も始まりました。
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金私が関係者に聞いた話だと、eスポーツを教える専門学校に入学する割合は、コース創設初期はプロゲーマーを目指す学生がほとんどでしたが、現在はイベントマネジメントといったeスポーツビジネスを志す学生がかなり増えてきたそうです。また、業界の発展に伴い、学ぶべき知識はコンプライアンスや法制度など、さまざまな分野に広がっていると思います。この教科書はそういった時代の流れに応じて、eスポーツ教育の支援になればと思い提供を開始しました。eスポーツ業界は、人材育成のために各領域の専門家にもっと参画していただくことが今後さらに重要になっていくと考えています。
そうしてeスポーツに関する幅広い知識を身につけた学生が将来eスポーツ選手になるもよし、指導者やイベントの運営になるもよし、もちろんまったく関係のない仕事に就いたとしても、学んだ知識は活かせるはずです。
eスポーツを切り口とした教育手段が増え、色んな人の目に触れていくことで、「eスポーツ部活動は良いものだ」「学生の成長につながるものだ」という認識がより広がってくれたら嬉しいですね。我々のできることをやりながら、eスポーツのプレゼンスを上げていきたいです。
――eスポーツをチームプレイの競技として真摯に捉え、どのように教育へつなげられるかを落とし込んだ教科書であるわけですね。それでは最後に、eスポーツが持つ可能性をどのように感じているかお聞かせください。
金eスポーツは他のスポーツと同様に成長と学びの機会にあふれているだけでなく、eスポーツ「ならでは」の魅力も備えています。そのひとつが、全国とオンラインでつながれるということです。物理的に移動せずとも、沖縄の高校が北海道の高校と練習試合するようなことも手軽に可能です。学生時代に自分の世界を広げるきっかけにもなり得るのではないでしょうか。
来年4月に開校するNTTe-Sports高等学院はさまざまな企業やeスポーツ関係者と連携して準備を進めており、ひとつの大きなアライアンスフィールドでもあります。部活推進事業も「学生のために」と同じ想いを持つ企業様とは、eスポーツ業界はもちろん、業界外のみなさまとも連携して切り拓いていければと思います。ご興味がある方はお気軽にご連絡いただければと思います。
――ありがとうございました!
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