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ホロライブEnglishのメンバーとして活躍するフワワ・アビスガードさんとモココ・アビスガードさんは、ホロライブ初にして唯一の双子VTuberです。愛称は「フワモコ」。
海外出身でありながら完璧に意思疎通ができるほど日本語が喋れますし、秋葉原やアニメ・ゲーム文化が大好きで、ホロライブメンバーの中でもディープにオタク文化が語れる“猛者”としても有名。つねに元気いっぱいで、昨年実施された大型コラボ企画「holoGTA」では自由奔放に遊びすぎて大騒動を巻き起こし、注目の的となっていました。
白上フブキさんが後ろ手に猛ダッシュしながら「こらー! フワモコぉぉぉ!」と追い回すさまは、少し古いですが「いかりや長介」さんと「志村けん」さん、「加藤茶」さんによるドリフコントそのまま。物おじせず先輩たちにじゃれつく姿は「魔界の番犬姉妹」というよりはヤンチャな子犬でした。
そんなフワモコの双子コンビが2025年2月2日に初の3DバースデーライブをYouTubeにて実施。ディープな選曲でトレンドを沸かせていました。
本稿ではバースデーライブのもようを振り返りつつ、彼女たちのこだわりや、アンコール曲に込めたであろう想いを辿りたいと思います。
◆こだわりの「ハンドマイク」
当日のセットリストはアンコールを含むと以下の12曲。それぞれフワモコの2人が大切に想っている、または自分たちのアイデンティティーとも言うべき「とっておき」ばかりです。
1.Party☆Night ……『デ・ジ・キャラット』関連曲
2.Born to be "BAU"DOL☆★ ……フワモコのオリジナル楽曲
3.怪物 ……YOASOBIのヒットソングでアニメ『BEASTARS』の第2期OP曲
4.悲しみキャリブレーション ……アイドルグループ「妄想キャリブレーション」の楽曲
5. MUGO・ん…色っぽい ……工藤静香の楽曲
6.わるきー ……NMB48の元メンバー、渡辺美優紀のソロ楽曲
7. Ahoy!! 我ら宝鐘海賊団☆ ……ホロライブ所属・宝鐘マリンの楽曲
8.ようこそジャパリパークへ ……人気アニメ『けものフレンズ』の第1期OP曲
9.レッツゴー!陰陽師 ……ニコニコ動画の流行曲
10.キラメキライダー☆ ……ホロライブの全体曲
11.愛・おぼえていますか ……映画『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』主題歌
12.ゆめのばとん ……桃井はるこの楽曲
最近の楽曲から80年代のヒットソングまであり「よくこんな曲知ってるな!」と感じた人も多いはず。そこがフワモコのディープなところです。
この中でまず注目したいのは、「Party☆Night」や「悲しみキャリブレーション」などで使用していたハンドマイクです。
今回のバースデーライブはヘッドセットを用いた楽曲とハンドマイクを用いた楽曲の2パターンがあったのですが、実際にアーティストがどちらを使用していたかどうかで使い分けていたようす。それはアイドル好きというフワモコの、アーティストへの最大級のリスペクトだったのではないでしょうか。
ハンドマイクのデザインもフワモコのキャラクター性に沿ったものとなっており、細かいところではありますが「こだわり」が感じられました。
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選曲で注目したいのは、フワモコが所属するホロライブEnglish「Advent」の仲間、シオリ・ノヴェラさん、古石ビジューさん、ネリッサ・レイヴンクロフトさんとともに歌った「悲しみキャリブレーション」です。
この楽曲は「でんぱ組.inc」が所属していた芸能プロダクション「ディアステージ」のアイドルグループ「妄想キャリブレーション」の楽曲となっており、秋葉原の萌え文化が大好きなフワモコの「らしさ」が色濃く見える選曲となっています。
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ハンドマイクを片手に息の合ったフォーメーションを見せるその姿はまさに、今は解散してしまった妄想キャリブレーションそのまま。このメンバーでこの楽曲を歌ったことに対する想いを色々と感じさせます。
そのほか「レッツゴー!陰陽師」では、ライブそのものにニコニコ動画が協力していたこともあって完全再現のクオリティーに。コメントが右から左に流れる「弾幕」もライブのようすが分からないほどの激しさで、「見えねえよ!」と思わずツッコミを入れたくなる完璧な出来栄えでした。
※「弾幕」なしのバージョンも、後日、別途動画クリップとして公開されました。
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また宝鐘マリンさんをゲストに招いて盛り上がった「Ahoy!! 我ら宝鐘海賊団☆」は、コール&レスポンスが楽しい楽曲の、理想となる盛り上げ方をしていたのが印象的です。
横からコールを入れるフワモコの姿は、まさに「よく分かっているアイドルファン」そのもの。別のパートでは、観客越しにフワモコの2人を映すショットや、双眼鏡のようなものでステージ上のフワモコを見つめるショットもあり、ステージに立つだけではなく「普段から客席で応援しているのだろうな」と思わせてくれる、観客視点が目立つパフォーマンスでした。
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◆「ゆめのばとん」がつなぐ想い
今回のライブでフワモコの想いやメッセージがもっとも込められていた楽曲といえば、やはりアンコールのトリを飾った「ゆめのばとん」です。
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この楽曲は、いわゆる“光る棒”(ペンライトまたはサイリウム)をテーマにしたもので、「あなたから私へ、私からあなたへ」という想いや夢をバトンにしてつなぐことを歌ったもの。作詞・作曲は桃井はるこさんです。
桃井さんといえば『STEINS;GATE』のフェイリス・ニャンニャン役や、『テイルズ オブ ジ アビス』のアニス・タトリン役で有名な声優さん。そのほかアイドルグループ「純情のアフィリア」で共同プロデュースをしていますし、声優の上坂すみれさん、VTuberの名取さなさんに楽曲提供をするなどシンガーソングライターとしても活躍中です。
※現在放送中のアニメ『ニートくノ一となぜか同棲はじめました』でもOP曲の作詞を担当。
フワモコの2人はそんな桃井さんの大ファンであり、かねてから桃井さんの「UNDER17」時代の楽曲「1+1」「みぃタンの魔法でポン」「はじめての夏」「くじびきアンバランス」などを歌枠で披露していたり、桃井さんの誕生日には記念歌枠を実施したりしていました。
※記念歌枠は喉の不調により非公開となっています。
また2024年の桃井さんのバースデーワンマンライブには、フラワースタンドを贈るなどの熱量を見せていました。
それではなぜこの楽曲が特別なのか?
フワモコの2人がライブの振り返り配信で何度か「孤独だった」と発言していましたが、桃井さんはもともとそんな、居場所をなくした「オレたち・私たち」のための楽曲を作りたいと思いながら作詞・作曲・歌唱していた時期があります。
※現在は楽曲提供をするアーティストの想いや、自身の表現に沿った形で、さまざまなメッセージを込めているようです。
桃井さん自身もオタクだったことでイジメを受け、孤独を感じた時代があったとのこと。そのため制作した楽曲の中には、コミケの朝を歌った「始発にのって」、イベント参加者をイメージした「フィギュアになりたい」「ライブのあとはさみしいな」など、オタク目線の楽曲も多く含まれています。それらには「自分のことを歌った曲だと思ってほしい」という願いが込められていました。
秋葉原発の電波ソングの始祖として知られる桃井さんですが、真髄はそんな「想い」の結晶にあるのです。
「ゆめのばとん」はまさにそんな「私たちのための歌」のひとつ。「光る棒」も「ファンがアーティストへ想いを伝えるためのもの」と考える大切なアイテムであり、「ルミカ」や「かがやきサイリューム」と並ぶ、「光る棒」への熱い想いを込めた特別な楽曲となっています。
サビの「誰にもふりまわされないで。君だけの好きやときめきに素直でいて」を今回聞いて、何か自分に寄り添うものを感じた人もいるのではないでしょうか?
またフワモコの2人が客席から「光る棒」を手渡され、それをステージで振る場面もありましたが、これも桃井さんのライブ現場でよくある光景。ホロライブのライブステージとしては珍しい場面となりましたが、客席から「夢のバトン」を受け取るその姿はまさに「あなたから私へ、私からあなたへ」を表現した部分でした。
桃井さんの歌詞のメッセージ性の強さがホロライブの空気感とマッチするなとは感じていましたが、まさかここまでの親和性、そしてメッセージを発するとは思っておらず驚きです。
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振り返り配信でも、それまでキャッキャと楽しそうだったフワモコが、思わず無言でアーカイブを見つめる姿が印象的だった「ゆめのばとん」。「2人にとっても本当に特別な楽曲なんだな」と感じさせる場面でした。
フワモコが桃井さんから受け取った「ゆめのばとん」は、なにも「アイドルになる夢」だけではありません。視聴者がこのバースデーライブで何を想い、何を受け取ったのか? それはきっと人それぞれです。
あなただけの「ゆめのばとん」がこれからも輝き続け、そしてそれを必要としている人にも受け継がれますように……。そんなフワモコからのメッセージが感じられる、最高のバースデーライブでした。
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