画像生成AIを遊びの“核”にした狙いとは?『神魔狩りのツクヨミ』金子一馬氏インタビュー・後編

金子一馬氏が手掛ける『神魔狩りのツクヨミ』がついにお披露目!世界観、そしてコンセプトが特徴的な本作を、金子氏と開発Pへのインタビューを通して迫ります

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画像生成AIを遊びの“核”にした狙いとは?『神魔狩りのツクヨミ』金子一馬氏インタビュー・後編
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左:金子一馬氏 右:齋藤ケビン雄輔氏

人気RPG『女神転生』シリーズのゲームコンセプト・世界観・ストーリー・キャラクターデザインなどを手がけ、独自の解釈を加えて魅力的な悪魔を描くことでファンから“悪魔絵師”と呼ばれているゲームクリエイター・金子一馬氏。2023年にコロプラに入社した同氏による完全新作ローグライクカードゲーム『神魔狩りのツクヨミ』が、スマートフォンとPCで2025年5月7日にリリース予定です。

キャラクターデザインやコンセプトプランナーを務める金子氏と開発 プロデューサーを務める齋藤ケビン雄輔氏へのインタビューの後編をお届けします。気になる人が多いであろう、生成AIを絡めた遊びや課金形態についてうかがいました。


◆画像生成AIを導入したら手間が余計に増えている!?

――本作における画像生成AI、通称「AIカネコ」はどのように作られているのでしょうか。

ケビン:まず、金子さんが弊社に入社してから描いてくださったイラストのみを学習させました。次に、その学習結果を元に何万枚、何十万枚という単位のイラストを作成させ、その中から金子さんに絵に近いと思えるものをさらに学習させ続けています。

金子:人型のキャラクターはそれでなんとかなるのですが「頭が2つ付いていて…」というような現実には存在しない生き物の絵を描かせるのが難しく、イメージとなるイラストを描いては学習させています。なんとかそれっぽい絵が出力されたら、こちらで複数の絵を合成して作ってほしい絵に近づけたりもしています。正直なところ、僕が最初から最後まで自分で描いた方が早いです(笑)。

――今はまだ、手間を省くどころか手間が増えているということですね。作中では「偽神オオカミ」と呼ばれる存在に生成AIが用いられていますが、AIと神の概念を結びつけた意図を教えてください。

金子:キリスト教の体系のひとつにグノーシス主義というものがあるのですが、この主義は乱暴に言ってしまうと、人殺しや盗みが多い不完全な世界を作った創造神(デミウルゴス)もまた不完全な存在である……というような考え方なんです。偽神オオカミは、その考え方からインスピレーションを得ています。

――不完全な存在でも神になりうる……ということでしょうか。ストーリーも楽しみです。話を戻しますが、作中では探索中に一定の周期でオオカミがプレイヤーに向けてオリジナルの手札を生成してくれます。これはどのような仕組みなのでしょう。

ケビン:その時のプレイログを元に生成しています。たとえば、プレイヤーが探索時に選んだ選択肢や、神魔との戦闘履歴などがプロンプトとして扱われ、それを元に手札が生成されます。

――その際のパラメーターも完全なランダムなのでしょうか? めちゃくちゃに強い手札ができてしまったりとかは。

ケビン:パラメーターは完全なランダムではなく、ゲーム上に生成カード用として実装された効果の中から選ばれます。

――プレイアブルキャラが4人いるとのことですが、ストーリークリアまでのプレイ時間はどのくらいを想定されていますか。

ケビン :「プレイのうまさと運によります」というのが正直なところですが、タワマンの探索はキャラごとに低層・中層・高層という難度の異なる3つのステージが用意されており、現時点での想定では1キャラで3ステージをクリアするのに6~8時間程度を想定しています。それを4キャラ全てクリアすれば、物語の全貌が見えるようになっています。もちろん、その後も探索を繰り返せば生成AIによる手札が増えますので、少しずつデッキを強化していけます。

◆人気の生成AI産カードを金子氏がリファインして実装!

――本作は、AIが生成したイラストを何らかの基準で選出し、金子氏がリファインしたものをあらためてゲーム内に実装する「盈月奉納の儀」というメタゲーム(≒ゲームを取り巻く遊び)が用意されているとうかがいました。また、そのイラストをAIカネコが学習することでより一層精度を上げていくとのことですが、こうした遊びを用意する狙いを教えてください。

ケビン :正直な気持ちをお話しますと、AIによる画像生成にはさまざまなお声があるのは承知しています。そして、それを踏まえたうえでどのような画像生成AIであればみなさんにご納得いただけるかを熟考しました。

少なくとも現時点では、AIが生み出すイラストはせいぜい70~80点のものにしかならないと考えています。“金子さんのクリエイティビティそのもの”というところまでは望めません。そして望めない以上、金子さんのファンの方が納得できるかというと、できないわけです。それならば、金子さんご自身にしっかりとリファインしていただくことで、“ご本人のお墨付き”のようにするのはどうだろうと。

AIカネコは、あくまでツールでしかありません。それを金子さんとプレイヤーのみなさんが育て上げていくというのも、本作が用意した遊びのひとつだと思っていただければと思います。

◆ローグライクでの課金形態は?“時短要素”も

――課金形態についても教えてください。

ケビン:基本無料で配信します。しかし、画像生成は私たちに継続的な費用が発生してしまうものでもありますので、ここに課金できる要素を用意する予定です。AIによる神魔札生成は無料でも行えますが、いくらかお支払いいただくことでより多くのカードを作れるようになる……というものです。そのほかには、いわゆる“時短要素”への課金を考えています。

――いわゆるガチャはないのでしょうか?

ケビン:ローグライクというジャンルとはあまり相性がよくないと考えていますので、キャラクターガチャのようなものありません。その代わり、ゲームを進めるごとに徐々に開放される機能や固有カードに対して「速やかに開放したい場合は、いくらかお支払いいただく」というようなものを予定しています。

――それでは、最後に読者へのメッセージをお願いします。

金子:世の中には数多のゲームがありますが、僕は結構特徴的なゲームを作るのがウリだと思っていますので、ご期待いただければ。笑いあり、シリアスありで、金子一馬ならではという雰囲気が色濃く出たゲームになっていると思います。まぁ“笑い”の要素はちょっと毒があるような感じなのですが(笑)。

ケビン:AIという最新技術を活用したゲーム体験をぜひ味わってみてください。ランダムな順番で解放される機能やAIによるカード生成で人によってプレイフィールが異なると思いますので「自分はこうだったよ」と他の人たちとコミュニケーションを取って楽しんでもらえたら、ひとつのエンタメ体験として成立するのかなと思います。プレイしていただけたら、ぜひみなさんのお声を私たちにも聞かせてください。


「独特のセンスや画風で“悪魔絵師”と称えられた金子一馬氏の絵を学習したAIをみんなで育てる」というゲーム外の遊びも斬新なタワマンローグライクゲーム『神魔狩りのツクヨミ』は、スマートフォン/PC(Steam)で今春配信開始予定です。最後に、インサイド編集部独占で金子氏にお話をうかがったミニインタビューをお届けします。

――神魔はどのようなコンセプトでデザインされているのでしょうか。

金子:神話や伝承という形で今日も名を残している存在は、僕自身と、イメージを伝えた開発スタッフとで描いています。

――実在しないものはAIに描かせるのが難しいと先ほどもお話しておられましたね。

金子:それに対して、僕が日常生活で「これ危ないな、怖いな」と感じたものを神魔としてデザインしているものもあり、今回の先行プレイでは「マッドチャリンカー」という神魔がいたと思いますが、あれもその一つです。

――マッドチャリンカ―は先行プレイで戦いましたが、自転車に乗っている人の姿をした神魔でした。

金子:(歩道でも自転車から降りずに走る人がいるから)歩行者の僕が車のドライバー並みに後ろに気を付けなければいけないことがたまにあって。その時に感じた理不尽さや危なさから生まれた神魔です。また、ゾンビのような見た目をした「屍鬼」という神魔もいるのですが、これもコンセプトは「歩きスマホって危ないよね」というものでして。

――前方不注意で事故に遭ってゾンビになってしまった的な……(笑)。都市伝説のような味わいがありますね。手がけたキャラクターの中で、特にデザインが気に入っているものはありますか?

金子:タワマン内の休憩所などにいて、ツクヨミたちの探索をサポートしてくれる「残月」が気に入っています。僕の中では「ちいかわ」に出てくる鎧さんのような存在で、任務がない時はみんなで流行スイーツを食べにいくのが楽しみだったりと、かわいい一面も設定しています。人気が出るといいなぁ。

――それでは、神魔のなかで気に入っているものは?

金子:中国神話に登場する「渾沌」をモチーフにした神魔が気に入っています。モフモフしていて、なかなかかわいいんですよ(笑)。

――金子氏が『女神転生』シリーズで手がけた悪魔の中には、今日に至るまでマスコットのように愛されているキャラもいますね。

金子:(ゲームを)長年出し続けることができたからこそ愛されるようになっていったと認識していますので、キャラクターをIPとして定着させるには、まず長く続けることが大切だと思っています。『神魔狩りのツクヨミ』も長く続けられるようであれば、キャラクターの魅力を打ち出す展開なども考えていきたいですね。

――なるほど。それでは最後の質問です。金子氏が作品の世界観やストーリーを考える際に、ご自身の特色や特徴だと認識されておられる要素はありますか?

金子:大体は、反骨精神のようなものが込められた物語になりますね。「主人公と敵対している勢力にも敵対するなりの理由はあるけど、彼らは本当に悪なのかな?」というような構造のお話になることが多いと感じています。

ーーありがとうございました!



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《蚩尤》

汎用性あるザク系ライター(が目標) 蚩尤

1979年生まれのファミコン直撃世代。スマホゲームもインディーズも大型タイトルも遊びますが、自分と組ませてしまって申し訳ないという気持ちやエイミングのドヘタさなどからチーム制のPvPやFPS、バトロワが不得手です。寄る年波…! ゲームの紹介記事に企画記事・ビジネス寄りの記事のほか、アニメなど他業種の記事もやれそうだと判断した案件はなんでも請けています。任天堂『ガールズモード』シリーズの新作待機勢。

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