元店員目線で語る、『カプエス2』が潜り抜けた“ゲーセン試練の時代”―『カプコン ファイティング コレクション2』にも収録

5月16日に発売予定の『カプコン ファイティング コレクション2』。この作品には、カプコンの名作タイトルが8本収録されています。

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元店員目線で語る、『カプエス2』が潜り抜けた“ゲーセン試練の時代”―『カプコン ファイティング コレクション2』にも収録
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5月16日に発売予定の『カプコン ファイティング コレクション2』。この作品には、カプコンの名作タイトルが8本収録されています。

そのうちの1本、『CAPCOM vs. SNK 2 MILLIONAIRE FIGHTING 2001』(以下カプエス2)は、2000年代のゲームセンターの定番としてその存在感を大いに示しました。家庭用ゲーム機がオンライン対応し始めたことにより、ゲームセンターそのものの意義が疑問視されていた時代。その中で『カプエス2』は、「ゲーセン最後の希望」としてその価値を十二分に発揮していたのです。

◆アーケードゲームの中心的存在だった『カプエス2』

静岡市で生まれ、相模原市で育った筆者澤田真一は、高校卒業と同時にいろいろな訳あって両親の実家のある静岡市に移りました。

2003年4月。東京の高校を出たばかりの、言葉に静岡訛りのない若造は引っ越しの翌日に市内のとあるゲームセンターの求人広告に問い合わせます。店長に呼ばれて面接をしたところ、見事に合格。このゲーセンが筆者にとっての「初めての職場」になりました。

筆者のシフトは日中の部。午前8時に出勤して9時に開店、正午前後に昼食休憩を取り、午後5時に退勤するスケジュールです。朝の開店作業時のまだブレーカーをつけていない静かなゲーセン店内の光景は、筆者の心に今でも焼き付いています。

この店のアーケード格ゲーは、『鉄拳4』と『カプエス2』の二大巨頭が牽引していました。『鉄拳4』はセミプロみたいな人がいてかなり敷居が高かったことを覚えていますが、それに比べたら『カプエス2』は気軽に参入できます。大人だけでなく、土日祝日は高校生や中学生も筐体の前の椅子に座り、コントロールレバーを振り回していました。

このコントロールレバー、みんなが常にガチャガチャやるものだから寿命は決して長い代物ではありません。ボタンもそうですが、壊れて反応しなくなることがザラにあります。その際の部品交換も、我々ゲーセン店員の大事な仕事。筆者は基本的な筐体修理を、『カプエス2』から教わりました。

その上、『カプエス2』は息の長い作品でもありました。筆者がゲーセン店員として働いていた5年2ヶ月10日の間、『カプエス2』はアーケードコーナーで絶え間なく稼働し続けていたことをよく覚えています。

◆2000年代は「ゲーセン試練の時代」

ですが、この時代はゲーセンにとって「試練の時代」だったことも忘れるわけにはいきません。

インターネットがPCのものだけではなくなり、携帯電話や家庭用ゲーム機からもオンラインへアクセスできるようになっていったのがこの時代。それは即ち、「ゲーセンへ行く必要のないゲーム環境」が整い始めたということでもあります。

いつかはゲーセンそのものがなくなってしまうのではないか。社員たちの静かな不安は、アルバイト店員に過ぎない筆者にもよく伝わっていました。

2004年にはニンテンドーDSという、より鮮明なカラー画面携帯機(しかも2画面)が登場し、休日のゲーセンにわざわざニンテンドーDSを持ち込む子供も現れました。たとえゲーセンが「昔懐かしのアーケードゲーム」を揃えて大人の利用客に訴求しようとしても、ファミコンレベルのレトロゲーならニンテンドーDSでプレイできてしまいます。

当時の総理大臣である小泉純一郎氏が盛んに「改革」を叫んでいた時代、ゲーセン業界は深い閉塞感に陥っていました。

◆ハイレベルの戦術性を実現した「フリーレシオシステム」

そんな中で『カプエス2』が一定のプレイヤーを獲得し続けたことは、ちょっとしたミステリーとも言えます。その理由を考察するなら、極めて絶妙なバランス調整が施された「フリーレシオシステム」がまず思い当たります。

同作は最大3人までのチームを編成することができますが、その際に各キャラに対してレシオ(強さ)を振り分けることができます。

合計が必ず4レシオになる分配方法で、たとえば3人チームの場合は1・1・2という具合になります。2人チームの場合は2・2か1・3、1人の場合は必ず4です。低レシオの3人を巧みに操作して技巧的な勝利を収める手段もアリですし、極端に強い1人で力押しする手段も実行できます。

このシステムに起因するハイレベルの戦術性が、結果として『カプエス2』のロングセラーにつながったことは間違いないでしょう。

◆「再設計の必要性」を日本人に啓蒙した作品

『カプエス2』は、ある意味で格ゲーを再設計した作品と言えます。

それはまさに、 2000年代の日本人が直面していた問題をどう乗り越えるかという話にもつながります。小泉氏の掲げる「構造改革」が、なぜ絶大な支持を背に受けていたのか。それは高度経済成長期以来の旧態依然のやり方が完全に通用しなくなり、日本そのものが先の見えない不景気に陥っていたからという背景があります。

小泉政治の賛否はともかく、90年代後半から2000年代半ばまでの時代が決して明るいものではなかったことは筆者も断言できます。いずれにせよ、このままではいけない。自分たちがいま持ち合わせているものを工夫して、新しいもの作っていかないと――。

そうした焦りが大人たちを惑わしていたのが、2000年代という時代です。

カプコンとSNKの人気格ゲーキャラが集合し、なおかつ斬新なシステムを導入した『カプエス2』は、当時の悩める日本人にある一定の回答を出してくれました。「工夫と発想次第で、古典的な2D格ゲーをここまで再設計できるんだ」という回答です。

そんな歴史的名作が収録された『カプコン ファイティング コレクション2』は、PS4/ニンテンドースイッチ/Xbox One/PC向けに、5月16日の発売が予定されています。



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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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