広告費半減でも売上は微減に留まる-『メメントモリ』のBOIが減収増益の裏で進める「爆発型新作」と「他社IP」の両輪戦略【ゲーム企業の決算を読む】

バンク・オブ・イノベーションは2025年9月期通期(2024年10月1日~2025年9月30日)が減収、営業増益となる見込みです。

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広告費半減でも売上は微減に留まる-『メメントモリ』のBOIが減収増益の裏で進める「爆発型新作」と「他社IP」の両輪戦略【ゲーム企業の決算を読む】
広告費半減でも売上は微減に留まる-『メメントモリ』のBOIが減収増益の裏で進める「爆発型新作」と「他社IP」の両輪戦略【ゲーム企業の決算を読む】 全 2 枚 拡大写真

バンク・オブ・イノベーションは2025年9月期通期(2024年10月1日~2025年9月30日)が減収、営業増益となる見込みです。

主力タイトルである『メメントモリ』が堅調に推移している一方で、広告の出稿量を抑制。3Q(2025年4月1日~2025年6月30日)の販管費が前四半期比で半減となりました。ポイントは広告費を抑えても売上高の減少が小幅に留まった点。広告効果の最適化が進んだ一方で、新たな増収施策が課題となっていることが明らかになりました。

足元では全世界で100億円~200億円規模の課金高を狙う新作大型RPGの開発を進めており、このタイトルの行方に注目が集まっています。

事前登録者数500万は到達可能なのか?

2025年9月期第3四半期累計期間(2024年10月1日~2025年6月30日)の売上高は前年同期間比12.5%減の94億2,700万円、営業利益は同23.4%増の16億4,400万円でした。

2025年9月19日に未公表だった通期業績予想を発表。通期の売上高を前期比10.4%減の122億円、営業利益を同57.9%増の21億円と予想しています。

バンク・オブ・イノベーションはゲーム恋活アプリ『恋庭』などの運営も行っていますが、売上の大部分は2022年10月18日にリリースした『メメントモリ』が占めています。なお、リリース前の2022年9月期4Q単体(2022年7月1日~2022年9月30日)の売上高は7億円程度でしたが、リリース後の2023年9月期1Q単体(2022年10月1日~2022年12月31日)の売上は12倍の83億円に跳ね上がりました。

決算説明資料より筆者作成

その後は減衰するものの、通期での黒字化は堅持。コストコントロールを利かせつつも、研究開発費を投じてきました。2024年9月期から2025年9月期3Qまでの、四半期単体の研究開発費は平均で2億4,600万円。仮に4Qも同規模の投資をしたとすると、2年で20億円近い開発費を投じてきたことになります。

大ヒットタイトルの『メメントモリ』の開発には5年の歳月を費やしています。バンク・オブ・イノベーションがその間の開発費をすべて『メメントモリ』に投じていたとすると、合計の研究開発費は21億6,000万円。2年で同規模の投資を行ったことになり、新作タイトルの開発費が前作を上回る可能性は高いと考えられます。

開発中の「爆発型」新作大型RPGは事前登録者数500万人、リリース後の全世界月額課金高40億円以上の規模を1年以上維持するという目標を掲げる壮大なもの。『メメントモリ』は事前登録者数123万人、月額課金高10億円以上を1年以上維持という内容でした。

最近ではgumiの『ジョジョの奇妙な冒険 オラオラオーバードライブ』が事前登録者数100万人を突破してヒット作となりました。強力なIPである「ジョジョの奇妙な冒険」の新作ゲームをもってしても100万が到達点の一つであり、500万は非常に高いハードルです。

バンク・オブ・イノベーションの行く末は、この新作ゲームにかかっていると言えます。

広告費を半分に抑えても売上は5%程度の減少に留まる

会社が新作の開発に力を入れるのも当然で、『メメントモリ』の力は失われつつあります。

人気の衰えは2024年9月期から鮮明になっていました。象徴的だったのが2024年のサマーキャンペーンの実施。新キャラクター「[小さな大冒険]ニーナ」の登場、ガチャ最大100連分無料など大規模なイベントでした。しかし、キャンペーンを実施した2024年9月期4Q(2024年7月1日~2024年9月30日)の売上高は、前四半期比で4.3%の減少。300万円の赤字に陥ってしまいます。

『メメントモリ』は1Qに周年記念イベントを迎えますが、周年イベントを控えたユーザーの課金控えなどが影響したとみられ、新たなイベントの開催が増収に直結しなかった形です。新たなイベントを創出しても、盛り上がりには欠けていました。

直近では広告費の抑制を急ピッチで進めています。2025年9月期3Q単体の広告宣伝費は前年同期間の半分にまで引き下げましたが、売上高は28億4,300万円であり、前年同期間比で4.2%ほどしか減少していません。

つまり、広告費をかけてもかけなくても売上に大きな影響がないことが明らかになったのです。増収の足掛かりが見えてきません。

すでに盤石な財務体質を確保

オリジナルタイトルの開発に力を注いできたバンク・オブ・イノベーションですが、他社IPによるゲーム開発にも乗り出しました。2025年6月に他社IPをベースとした新作ゲームの開発・運営に関する契約を締結したと発表しています。

バンク・オブ・イノベーションの財務体質は盤石で、2025年6月末時点の自己資本比率は74.1%。34億円を超える現金を保有しています。『メメントモリ』の運営も黒字。従って、大型の自社タイトルのリリースが数年後であり、相応の研究開発費がかかったとしても、十分にその期間を乗り切ることができます。

しかし、ヒットするかどうかは未知の領域。他社IPのタイトルの開発に着手したことは、リスク分散を図るという意味合いもあるでしょう。

『メメントモリ』はゲーム性そのものに目新しさは見当たりませんでしたが、世界観とそれに根差した水彩タッチの独特の絵柄、そして優れた音楽という要素の掛け合わせがヒット要因になっていた印象があります。次のオリジナルタイトルは世界的なヒットを狙っているため、『メメントモリ』の要素を盛り込むだけでは不十分でしょう。

高いゲーム性を持たせる必要があり、ヒットさせるには高い技術力が要求されます。

他社IPの開発に乗り出したことは、経営を安定させるという観点では優れたものだと言えるでしょう。財務体質が安定しているバンク・オブ・イノベーションは今、複数の収益源を確立するミルフィーユ型の収益構造にスイッチし、大型作品が失敗した際の負のインパクトに備える別の収益源をいち早く構築すべきなのではないでしょうか。

《不破聡》

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