
「シャドバ解説者の頭の中って、どうなってるんだろう…」
ふと、そう考えたのは『Shadowverse: Worlds Beyond(以下、シャドバWB)』の大会配信を見ていた時のこと。ただでさえ、最適解を見つけるのが難しいゲームなのに、解説者は、常に両選手の「盤面」と「手札」の状況を把握して、限られた時間で適切な言葉を発していきます。
「難しいと思ったことはないのか?どうやっているのか?…これは聞いてみるしかない!」
ということで『Shadowverse: Worlds Beyond(以下、シャドバWB)』の解説者、まる氏と海老原悠氏に特別インタビューを実施。
普段は見られない「解説者」×「解説者」の組み合わせ。
まず、前半では「シャドバ解説のここが大変」を教えていただき、後半では、2人の頭の中を覗かせてもらいました。
◆ここが大変1:有利・不利の状況を視聴者に伝える必要がある

──本日はよろしくお願いします!『シャドバWB』解説において大変だと感じるポイントとお二人の工夫をお聞きすることで、「解説のどこに注目すれば試合をより楽しめるか」を読者の皆さんにお伝えできればと考えました。
そこで、解説で大変だと感じているポイントと、わかりやすく伝えるための工夫を5つほど教えてください。
海老原:『シャドバWB』は、点数制のフィジカルスポーツと違い優劣が一目で分かりにくいです。そのため、まず有利・不利の状況を明確に伝えることを意識しています。また、『シャドバWB』に競技タイトルが変わってから新規ユーザーも増えたので、プレイングの定石やベーシックな知識も含め、情報を一から説明するようにしています。
具体的な工夫として、「このプレイングによって、今〇〇選手にとってかなり有利な状況になっています」というように、試合が動く瞬間が伝わるようにしています。
このように解説することで、初心者にも「今どちらの選手が勝っているのか」を明確に理解してもらえます。また、「どのカードを引けば負けている側のプレイヤーが逆転できるのか」という点に注目して試合を追ってもらうことができます。
◆ここが大変2:制限時間が短くなって、よりコンパクトな解説が求められる

まる:前作の『Shadowverse』に比べてゲーム性の幅が広がった一方、1ターンの制限時間が短くなったので、よりコンパクトに解説をまとめる必要性が出てきました。
各ターンごとにすべてのプレイングを解説するのは現実的ではありません。したがって、伝えたい内容を取捨選択しながら、大事な情報をコンパクトに詰め込むようにしています。
時間が限られているので、実況と解説のバランスの取り方が非常に難しくなったと感じています。
◆ここが大変3:新要素「エクストラPP」「超進化」でプレイヤーの選択肢が増えたこと

海老原:『シャドバWB』で新実装されたエクストラPPや超進化システムにより、プレイヤーの選択肢が増えたことで、プレイの奥深さが増している点も解説において難しいポイントです。
複雑なゲーム性に対し、先ほどまるさんがお話したようにターンごとの制限時間が短くなっているため、解説には工夫が必要になります。
新システムは試合のターニングポイントになりやすく、プレイヤーごとの癖や特徴が出やすい点でもあるので、そういった部分を意識的に解説しています。どのデッキを使ってもゲームの根幹として絡んでくるため、「このフォロワーに超進化を切った方がいい」「このターンでエクストラPPを使うべきだ」という情報を重点的に伝えています。
◆ここが大変4:解説者は(選手のように)「相手のターンに自分のことを考える」ができない

まる:『シャドバWB』に関わらず他のカードゲームの実況解説でも共通ですが、(自分のことを考えるための)「相手のターン」がないという点が、難しいところだと感じています。
通常、プレイヤーは自分のターンを行った後、相手のターン中に次の自分の動きを考えていきます。しかし、我々にはターン交代がないので、試合を通して実況解説を行い続けなくてはなりません。解説をしている最中に、ドローが発生して状況が動くこともあります。
そのため、普段から「ここで絶対に話さなければいけないポイントはどこか」を整理するよう意識しています。考えている間に黙ってしまわないよう、まず見えている情報を小出しにします。そして考えがまとまったら、一番話したかったポイントを話す。このように情報の優先順位のつけ方にも気を遣っています。
◆ここが大変5:固定観念を持たずトレンドを追い続けなくてはならない

海老原:常に固定観念を持たずにトレンドを追い続けなければならないという点も、大変なポイントです。
我々がトレンドを把握しておかないと、プレイヤーたちが「何を考えて行ったプレイングなのか」の解説ができなくなってしまいます。そのため、現在の環境で流行っているカードや構築を日々チェックしています。
ここで大切になるのが、思い込みを捨てて、フラットに試合を見ることです。先入観があると、予想外のカードに出会ったときに「なぜこれが入っているのだろう?」と考える余分な時間が必要になるためです。
そのため、環境で使われているカードや構築を実際に試し、「なぜこの構築なのか」「どんな意図があるのか」を考えながら、固定観念を捨ててゲームを理解するよう努めています。
◆海老原さんの「初心者に向けた配慮や工夫」

──5つのポイントありがとうございました!ここからは、お二人が解説をする上でこだわっている点についてより詳しく深掘りできればと思います。『シャドバWB』がリリースされ、競技タイトルが変わってから新規の視聴者も増えていますが、初心者に向けた配慮や工夫としてどのようなことを意識されていますか。
海老原:「実況解説(神視点)」「選手」「観戦者」という3つの視点を使い分け、試合のストーリー構成を伝えることを意識しています。
試合の序盤では、観戦者の視点で喋ることが多く、全体を俯瞰する形で試合の流れを説明します。「この展開になればA選手が有利」「こうなるとB選手が不利」といった状況を、観戦者にわかりやすく伝えるためです。
──なるほど、序盤は我々と同じ観戦者目線なんですね。そこから終盤に向けてどう変化していくのでしょうか。
海老原:終盤に差し掛かると、お互いに手札読みが重要になってきます。ここでは選手の視点に切り替え、「A選手がこのカードをプレイしたということは、B選手はこう考えているはずだ」といった心理面を説明します。
そして最終的には神視点に移り、「我々には両者の手札が見えているが、相手の手札がわからないB選手は心理的にきついですよね」といった解説を加えます。このように試合の段階ごとに視点を変えることで、ストーリー性のある解説を心がけています。
──視点を使い分けることで試合の流れを立体的に伝えているんですね。他に、解説の質を高めるために意識していることはありますか。
海老原:とにかく日々ゲームの練習に時間を割いています。
我々解説者は、「オールラウンダー」でいる必要があります。ある特定のデッキに詳しいだけでなく、全てのデッキの知見が広くなければなりません。「このデッキはよくわからない」というのは当然許されません。
そのため、各プレイヤーと同じ目線でゲームをプレイし、練度を高めることで、どのような状況にも対応できるようにしています。
◆まるさんの「初心者に向けた配慮や工夫」

──まるさんは、試合をわかりやすく届けるためにどのように工夫されていますか。
まる:「見えない情報」を優先して伝えることを意識しています。
配信を見ている方々は神視点で両者の手札が見えているため、つい目に見えている情報だけで判断しがちです。
しかし実際にプレイしている選手たちは、相手のデッキにどのカードが残っているかわかりません。そのため、観戦者からすると一見不可解な行動に見えることがあります。
そういった場面で「選手には見えていない情報がある」と伝えることで、選手たちの思惑や読み合いといった試合の奥深さを感じてもらえるよう心がけています。
──確かに観戦者目線では「見えている情報」に目が行きがちなので、「見えない情報」を解説で補ってもらうことで、より試合の解像度が高まりそうです。こういった解説の技術を磨くために、日頃どのような準備や練習をされているのでしょうか。
まる:実は、解説のための練習を意識的に行ったことはほとんどないんです。
ただ、『Shadowverse』自体が好きで日頃から色々な方の配信を見ていることが、自然にインプットになっていると感じます。
解説という仕事は、単純にゲームの前提を説明すれば良いというわけではありません。選手の素晴らしいプレイングに対して、「どんな駆け引きがあってこう判断したのか」という意図を伝えなければなりません。
そのため、様々なプレイングを見ることで、引き出しを増やすことが大事だと思っています。
──海老原さんはゲームの練習に多くの時間を費やすとのことでしたが、まるさんはいかがですか。
まる:練習という意識ではないのですが、自分でゲームをプレイする際に、独り言のようにブツブツ解説しながらプレイしています。そうすることで、他の方の配信で取り入れた情報が、アウトプットとして繋がる瞬間があります。
◆海老原×まるに聞く「お互いのすごいところは?」

──個人的に、情熱的に試合のストーリーを伝える海老原さん、冷静沈着に戦況を解説するまるさん、というようにお二人の解説スタイルは真逆のように感じています。お互いに、相手の解説スタイルのどんな所をリスペクトしていますか。
海老原:まるさんのすごいポイントは、インプットの効率の良さです。僕は解説業一本なので、一日に10時間、20時間平気で練習できますが、まるさんは普段他の仕事もしながら、いつどこで勉強や情報吸収をしているのだろうかと感じます。
また、まるさんは知性あふれる言葉選びをされます。まるさんだからこそできる言葉運びや説明の仕方で、非常にわかりやすく伝えていく。あの丁寧でエレガントな解説は、僕には絶対できません。
お互い解説に対する考え方は似ていても、僕は「数をやって練度を高める」、まるさんは「効率よく吸収する」という、真逆なアプローチを取っているかもしれません。
──効率的なアプローチを高く評価されていますが、逆にまるさんから見て、海老原さんの解説のすごいところはどこでしょうか?
まる:海老原さんの圧倒的な練習量に裏打ちされた解説のディテールが、僕には真似できないなといつも尊敬しています。
解説の目的の一つは、選手のプレイの凄さを伝えることです。そのためには、各デッキの採用カードやその時々のバトルで交わされる情報のやり取りすべてを整理し、頭に入れておく必要があります。
海老原さんは、すべてのデッキをまるで手足のように扱えるレベルまで練度を高めています。その努力の結果、細かいながらも重要なポイントを見逃さずに、しっかり解説されているのが素晴らしいと感じています。
◆おまけ1:なぜ“実況者”と「息が合う」のか

──せっかくですので、他にもいろいろお聞かせください!試合を見ていると、実況・解説の「あうんの呼吸」が見事だと感じるのですが、あの見事なコンビネーションはどのように生まれているのでしょうか。事前に打ち合わせや話し合いはされますか。
海老原:「僕はこういうテンションでやるので、こうしてください」といった打ち合わせはほとんどしません。基本的に、自分はゲームの練習しかしていません。
コンビの呼吸は、お互いの空気を読むことで生まれます。例えば、リーサル(勝利確定)の局面など、「もう何も言わなくてもわかるよね」という場面では、解説から実況にパスを出して「あとは任せた」ということもあります。
僕は画面に映っていないところで指で数えながらリーサルを計算する癖があるのですが、それを実況の友田さんが見て、盤面の状況を説明してくれることで僕が考える時間を作ってくれるというように連携しています。
──なるほど、お互いの動きを見ながら自然にサポートし合っているんですね。その連携を支えているのは一体何でしょうか。
海老原:こうした連携は、普段のゲーム練習量がカギとなります。ゲームの流れがわかっていれば、お互いが出るべき場面の理解ができるからです。
我々実況解説者は、大会前には24時間通話しながら一緒に練習することもあります。長い時間一緒に練習しすぎているので、友田さんと実況解説をする時には、同じタイミングで同じことを言うという現象が起こるほどです(笑)。
◆おまけ2:解説者がオススメする「観戦方法」

──最後に、『シャドバWB』を初めて観戦する方へ、「ここを見ると面白い!」というポイントがあれば教えてください。
海老原:まずは、ゲームを大きく左右する新システムの「超進化」と「エクストラPP」の使用タイミングに注目することをおすすめします。
特に、超進化が使われた瞬間「試合が動いたかも」と意識して見ていただくと、戦況がわかりやすくなるはずです。
──「超進化」がまだ使えない試合の序盤は、どういう視点で見るのが良いでしょうか。
海老原:ゲームの序盤は、どうしてもお互いに選択肢が少ないゲーム展開になりがちです。そういったところでは、実況解説に耳を傾けて「こういう流れになるのかな」と予測しながら見ていただくと良いでしょう。
そして、中盤以降でゲームが大きく動く瞬間を、エクストラPPと超進化のタイミングに注目して見ていただければ、より楽しく観戦できるかと思います。
『シャドバWB』から追加された2つの新要素は、ゲームの流れを決めるポイントになってくるので、ぜひご注目ください。
◆おまけ3:ハメコ。さんは凄い

──プロリーグがお休みの間、DFMのミル選手が他のゲームのストリーマー配信などを見て勉強されていたとお聞きしました。海老原さんは、他のゲームの実況・解説を見て、ご自身の解説のインプットをすることはあるのでしょうか。
海老原: めちゃくちゃありますね。
例えば、格闘ゲームは、戦況が非常に速いスピードで移り変わります。そのため、カードゲームに比べて、より限られた時間で情報をコンパクトに伝える技術が求められます。そうした「別のゲームの解説者が、情報量の多さや時間の制限にどう対応しているか」といったところに注目して、インプットすることがあります。
──他のゲームの試合を見ていて、「この人はすごい」と感じた実況解説の方はいますか。
海老原:僕がすごいなと思ったのは、格ゲーの実況解説をされているハメコ。さんですね。体力ゲージが数値化されていない格闘ゲームにおいて、コンボが何ダメージ出るかを全て覚えていらっしゃるんです。リーサルに気づく速さが異常に速く、本当に凄すぎます。
また、ハメコ。さんは日本国内だけでなく海外の選手についての知識も豊富で、解説中にそういった情報に触れられることもあります。解説の中でキャラごとの対策の話もされていて、観戦してすごく面白いと感じました。


