ニンテンドースイッチ2/ニンテンドースイッチ向けボードゲーム『桃太郎電鉄2~あなたの町も きっとある~』(以下『桃鉄2』)は、「シリーズ最大のボリューム」と銘打たれています。今回は舞台を東日本と西日本に分け、それぞれを独立したタイトルとして扱っています。

1本の中に収録されているマップは日本国内、それも列島の半分だけです。前作は全世界が舞台だったのに、これじゃボリュームダウンになるんじゃ……? と思っていたら、それは大間違い。日本は意外にデカい国だということが分かる作品になっています。
しかし、気になる点がひとつ。この作品における「東西の中心線」です。一応、中部地方と関西地方の境目がその中心線となってはいますが、もう少し広い視野で日本を観察してみると「日本の中心線」がいくつも存在することに気がつくはず。今回はゲームをプレイしつつ、「日本の中心線」のひとつへ実際に訪れてみたいと思います。
◆同じ県の中で異なる文化圏が共存
前回発売された「桃鉄」シリーズは、2023年11月の『桃太郎電鉄ワールド~地球は希望でまわってる!~』でした。
舞台は、何と全世界。地球のあちこちを移動し、各地の物件を買ったりその地域独自の光景を楽しんだりトリビアに頷いたり……という内容でした。それから2年後の2025年11月に発売された『桃鉄2』は、一転して「日本の大きさ」を強調する内容になっています。

「あなたの町も きっとある」というサブタイトルの通り、日本各地の都市を停車可能の駅として充実させ、さらに駅毎の観光案内も掲載。ゲームをしながら各地の特徴や名産を学ぶことができる仕組みです。
最近では、小中学校の授業で『桃鉄』が取り入れられるようになりました。『桃鉄』は、地理について非常に細かい記載や描写があり、それが教育関係者からも評価されるように。

たとえば、筆者の地元でもある静岡県は、単に「静岡」と呼ぶには非常に広大。複数の文化圏が存在し、さらに言えば静岡県民にとっての「静岡」は静岡市を指します。御殿場は東京の郊外、浜松は中京圏という感覚です。行政区画における「静岡」は、必ずしも文化圏の範囲を指すわけではありません。そうしたことも、『桃鉄2』はしっかり教えてくれます。

『桃鉄2』の静岡駅の周りには丸子、安倍川、清水、由比……という具合に、現実のJR線にもある駅名が実装されています。丸子、この地名読める人いますか? 「まりこ」と読むんです。かつては東海道の宿場町で、宿で出されるとろろ汁は非常に有名。松尾芭蕉も「梅若菜丸子の宿のとろろ汁」という句を詠んでいます。
そうした各地のローカル史をちゃんと取り上げているのが『桃鉄2』です。これ、結構すごいことだぞ!?

◆商用電源周波数が日本を二分
さて、冒頭にも書いた通り『桃鉄2』は中部地方と関西地方の境目が東西を分ける中央線になっています。
したがって、筆者の住まいも『桃鉄2』では東日本になります。筆者自身も育ちは神奈川県相模原市なので、本質的には東日本の人間という意識を持っています。ですが、「どこを日本の中心線にするのか?」という基準を変えると、筆者の住まいは西日本になってしまう場合も。
商用電源周波数は、まさに日本を二分する中心線を形成しています。
家庭用の電気は交流で、日本は静岡県の富士川と新潟県の糸魚川あたりを境にして、東側は50ヘルツ、西側は60ヘルツの電気が送られています。(参照:電気のマメ知識 地域と周波数-中部電力)
今でこそ日本の家電は50/60Hzの自動切り替えが可能のものが殆どですが、かつては「富士川以西で購入した家電は上京した時には使えない」ということがよくありました。明治時代、関東ではドイツ製の発電機が、関西ではアメリカ製の発電機が導入されたために、今もその名残として周波数が異なるというわけです。
そう、ここはまさに「日本の中心線」! 講釈を垂れるだけじゃアレなので、実際に現地へ足を運んでみました。

ここは東名高速道路の富士川SA(上り)。雄大な富士山と観覧車『フジスカイビュー』が、訪れる人を歓迎してくれます。このフジスカイビュー、夜になるとライトアップされてすごく目立つんですよ。

今回はフジスカイビューに乗って、足元の富士川を見下ろしてみました。

この川の手前側が60Hz、向こう側が50Hzです。それを意識すると、やはりここは「日本の中心線」だということが実感できます。
◆“芸術的な疎結合”である日本
それにしても、日本の高速道路のSAは面白い場所だと改めて感じました。
その地域の物産が店頭に陳列され、中にはここでしか買えない商品もあります。地域性を垣間見ることができる場所として、鉄道駅と高速道路のSA・PAは絶好の場所ではないでしょうか。

『桃鉄2』は、マップ上に様々な名物や地域物産が配置されています。富士宮駅のすぐ脇に、ちゃんと富士宮焼きそばがあったりも。今回の桃鉄は単に「日本各地を周回する」のではなく、停車した先の地域の特色、トリビア、そして名産を堪能できる内容になっています。
日本という国は連邦制でないのが不思議なくらいに様々な文化を内包し、それぞれが絶妙な関係性を維持したまま発展していった歴史があります。ある人はこれを「芸術的な疎結合」と呼んでいましたが、筆者も同意見です。

まるで「文化のパッチワーク」のような国に、我々は住んでいるのです。それを思い出させてくれる『桃鉄2』は、高齢者から子供まで誰しもが楽しめる作品に仕上がっています。



