日本一ソフトウェアといえば、『魔界戦記ディスガイア』シリーズを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、同社の代表作はそれだけではありません。
2026年4月30日に発売された『シニガミ姫と異書館ノ怪物』は、こちらも同社が展開している“絵本シリーズ”に名を連ねる最新作です。これまで本シリーズでは、『嘘つき姫と盲目王子』、『わるい王様とりっぱな勇者』の2作品が発売されました。
童話を思わせる優しいビジュアルと、読み聞かせのように紡がれる物語。その魅力は「絵本シリーズ」という名称にふさわしく、独特の世界観で多くのファンを魅了します。
かくいう筆者もそのひとりで、『嘘つき姫と盲目王子』と『わるい王様とりっぱな勇者』の両作をクリアし、心地よい読後感を堪能しました。そうした好印象を抱いていたことから、『シニガミ姫と異書館ノ怪物』にも当然期待を募らせます。
そうした期待に対し、『シニガミ姫と異書館ノ怪物』はどのように応えてくれたのか。結論を先に言えば、シリーズ作品として非常に興味深いタイトルだったと感じました。本稿では、その理由について、本シリーズの過去作と照らし合わせる形で掘り下げていきます。
なお、ネタバレを避けるため、『シニガミ姫と異書館ノ怪物』の物語については序盤の内容に留めています。また、『嘘つき姫と盲目王子』と『わるい王様とりっぱな勇者』についても核心部分には触れませんが、作品概要に関する言及がある点はご了承ください。
■「絵本シリーズ」の主人公として、新たな切り口となった「モノ」

『シニガミ姫と異書館ノ怪物』を含む“絵本シリーズ”は、可愛らしい見た目とは裏腹に、悲しみや痛みを伴う物語を描いてきました。
例えば『嘘つき姫と盲目王子』では、「人食いの化け物」と「人間の王子」という異種族の関係が物語の中心になりました。そこには純粋な思いと献身、そして大きな嘘が横たわっており、その嘘はいずれ避けられない形で明らかになります。
また、『わるい王様とりっぱな勇者』では、竜に育てられた少女「ゆう」が立派な勇者になる夢を叶えるために冒険へ旅立ちます。しかし、彼女を育てた竜はかつて少女の父である勇者と戦った魔王でした。ゆうが勇者になる以上、竜との対立は避けられません。

こうした物語を紡いできた“絵本シリーズ”の最新作となった『シニガミ姫と異書館ノ怪物』は、過去作とは違う切り口で物語を描きます。
本作の世界では、生き物を絵本に変えたあと、怪物へと変貌させてしまう恐ろしい流行り病「シニガミ病」が蔓延しています。主人公の少女「モノ」の姉もこの病にかかり、収容施設「異書館」へ送られてしまい、さらには国が異書館を見捨てたという噂まで流れます。

姉を救いたいとの思いからモノは異書館へ向かい、そこで伝説の怪物「メェル」と出会います。そして、互いの目的のために契約を結び、ともに施設の探索を始めました。
本作でまず興味深いと感じたのは、主人公の立ち位置です。『嘘つき姫と盲目王子』では、王子が失明する原因を作ったのは主人公の化け物でした。その目を治すため、自分の正体を偽った化け物が、王子を連れて魔女の家へと向かいます。
そして『わるい王様とりっぱな勇者』では、成長の痛みと向き合う当事者は、他ならぬ主人公のゆう自身です。つまり過去2作品は、主人公自身が物語の中心におり、当事者として責任や立場と向き合う構造になっていました。

しかし本作では、物語の視点こそモノに置かれているものの、「シニガミ病」という事態の当事者という意味では、姉や患者たちこそが中心といえます。強いて過去作に当てはめるなら、モノは『わるい王様とりっぱな勇者』における竜に近い立場、といえるかもしれません。
モノは、事態の中心人物ではなく、渦中にいる人物を助けて支えようとする側の人間です。主人公をあえてその位置に置いた『シニガミ姫と異書館ノ怪物』は、“絵本シリーズ”の新たな切り口を模索し、それに挑戦したタイトルだと感じました。
■少女たちの人生に寄り添う“救う側”の物語
モノが当事者から一歩離れた位置にいることは、本作の物語構造そのものと深く結びついています。
姉を助けるために訪れた異書館は、すでに怪物たちの巣窟と化していました。姉がどこにいるのか、そしてすでに本や怪物へ変わってしまったのか、なにひとつ分かりません。そのためモノは、異書館に収められた数々の「本」の世界へ入り込み、姉の手掛かりを探します。
しかし、それらの本は単なる記録ではなく、いずれもシニガミ病にかかった少女たちそのものです。本の世界へ足を踏み入れることは、彼女たちの人生に触れることを意味しています。
シニガミ病にかかり、本になってしまった少女たちが歩んできた人生は、どれも平坦なものではありません。悲しみや苦しみを抱えながら生きてきた彼女たちの軌跡を、プレイヤーはモノの視点を通して知ることになります。
そして心優しいモノは、苦しむ人を見過ごせません。少女たちの事情を知り、その苦しみに向き合い、怪物=「シニガミ姫」となった彼女たちを救おうとします。
少女と出会い、その人生を知り、救うために手を伸ばす。その後、再び姉を探して別の本の世界に入る。こうした流れを本の数だけ繰り返していくのが、『シニガミ姫と異書館ノ怪物』におけるゲーム進行の構造です。
モノは、少女たちに対しても「救う側」の存在となります。当事者はシニガミ姫となった少女たちであり、モノはその人生を見届け、寄り添う役割を担っているともいえるでしょう。
事態の中心から一歩離れた場所にいるモノは、“絵本シリーズ”の主人公としてはかなり珍しい立場にいます。一見すると客観的でもありますが、それが物足りなさにつながることはありません。

むしろ当事者ではないからこそ、“自ら進んで他者へ手を伸ばす”というモノの行為に重みが生まれ、「他人」から「寄り添う相手」となる関係性の変化が尊く感じられます。一歩離れた場所にいても、モノはまぎれもなく『シニガミ姫と異書館ノ怪物』の主人公に相応しい人物です。

