■「絶対に何かある」ユーザーの予想も話題に
そして、もうひとつ注目したいのが、あえて制限をかけた情報公開手法です。『ほの暮しの庭』は、山奥の集落を舞台とする生活シミュレーション、いわゆるスローライフゲームとして発表されました。この初報では、明確なホラー要素は前面に出されていません。
ところが、「『夜廻』チームの新作」と知ったユーザーから、「絶対にホラー要素があるはずだ」と予想する声が相次ぎました。公開映像に含まれた一部の不穏な表現も手伝い、その噂は瞬く間に広がっていきます。
この点について、開発チーム側はホラー要素の存在を明言しないまま、情報発信を続けました。その結果、「本当にホラーなのか?」という疑問自体が本作の話題性を増幅させていったのです。

その後、満を持して正式にホラー要素の存在が発表されました。ユーザーにとっては、それまでの予想が「やはりそうだったか」という確信に変わった瞬間です。その予想は期待の裏返しでもあったため、『ほの暮しの庭』への関心度は一気に最高潮へ達しました。
一方で、ホラーが苦手な人に向けた「あんしん暮しモード」の存在も発表されました。ホラーを前面に出しながら対象を狭めるのではなく、あえて隠して興味を引き、さらに苦手な人への逃げ道まで用意する。この情報公開とゲーム設計の組み合わせも、ユーザーの興味を引き出す見事な一手だったといえるでしょう。
■「謎めいた村」とホラー要素の結びつきで、本作独自の「不穏さ」を演出

『夜廻』チームの実績と狙いすました情報公開。この2つが『ほの暮しの庭』のヒットに向けた盤石な地盤を作ったのは間違いありません。
ゲームは、まず存在を知ってもらわなければ購入候補にすら入りません。さらに「面白そう」と興味を持ってもらう必要があります。その最初の難所を、『ほの暮しの庭』は見事にクリアしました。
ただし、ゲームが売れるうえで前評判は重要ですが、前評判だけで好調に売れ続けるわけではありません。実際に遊んだユーザーの期待に応えられなければ、ネガティブな口コミが広まり、売れ行きが失速するリスクもあります。

その点において本作は、『夜廻』で培われたホラー要素への信頼に加え、「秘められた謎がある村」という独自の設定が見事に機能しました。
ただ怖いだけではなく、村に秘められた謎という「不穏さ」、そこから生まれる「住民への疑心暗鬼」などが絡み合い、『夜廻』とはまた別の「恐ろしさ」を生み出すことに成功したのです。
■スローライフ要素にも妥協なし

開発チームへの信頼から、本作のホラー要素には一定の信頼が向けられていたものの、一方でスローライフ要素については不安視する意見もありました。
発売前に「実はホラー要素がある」と正式に判明したことから、「スローライフ要素は、単なる取っかかりやフレーバーに過ぎないのではないか」と考えた人がおり、それが不安の声へと繋がります。

しかし、本作のスローライフ要素は、「おまけ」に留まるものではありませんでした。発売前のインタビューでは、開発陣が「ゲームプレイ時間の8割がファームゲーム」だと語っており、ゲーム性の中核として作り込まれていたのです。また、チーム内にはファームゲーム好きのメンバーもおり、十分な研究が重ねられていました。
つまり『ほの暮しの庭』は、「ホラーゲームにスローライフ要素を付けた作品」ではなく、「生活シミュレーションを作り込んだうえでホラーを組み合わせた作品」と捉えるのが、実態に即しています。

実際、発売後にはスローライフ要素の作り込みに対する好意的な声が、SNS上を駆け巡りました。この口コミがホラーファンのみならず、生活シミュレーション好きの層にも届き、販売本数を後押しした一因になったものと思われます。
■「この価格でも遊びたい」と思わせた『ほの暮しの庭』
こうしたさまざまな要素が噛み合った結果、『ほの暮しの庭』は発売直後から大きな勢いを見せ、冒頭で触れた通り、2週間足らずで15万本を記録しました。新規IPのホラーアクションとして、文句なしの快挙です。
9,020円という価格は決して安くありません。しかし、ユーザーが考慮するのは単なる金額の多寡だけではなく、「その価格に見合う体験が得られるか」も重要視します。そのため、確かな満足感を提供できれば価格のハードルは十分に乗り越えられます。

完全新規IPでありながら、発売前から注目を集め、発売後も口コミによって勢いを伸ばした『ほの暮しの庭』。ホラーとスローライフという異色の組み合わせが、単なる話題性だけでは終わらず、実際のヒットへと結びつく好例となりました。
『ほの暮しの庭』の広がりはこれからもまだ続きますが、開発陣が次にどんな作品を手がけるのか、早くも期待が募るばかりです。



