「スワイプするだけでは居場所は生まれない」―Twitch CEOが語る、ショート全盛のいま長尺にこだわる理由【TGS2026】

TGS2026で開催されたTwitchのメディアラウンドテーブルをレポート。CEOのダン・クランシー氏が、コミュニティ設計の思想と日本市場について語りました。

配信者 インタビュー
「スワイプするだけでは居場所は生まれない」―Twitch CEOが語る、ショート全盛のいま長尺にこだわる理由【TGS2026】
「スワイプするだけでは居場所は生まれない」―Twitch CEOが語る、ショート全盛のいま長尺にこだわる理由【TGS2026】 全 3 枚 拡大写真

2026年9月17日、東京ゲームショウ2026(TGS2026)にてTwitch CEOのダン・クランシー氏が基調講演に登壇し、ライブ配信とコミュニティがゲーム業界にもたらす影響について語りました。この基調講演を受ける形で、メディア向けのラウンドテーブルが開催されました。登壇したのはクランシー氏と、Twitch APACコンテンツディレクターのルイス・ミッチェル氏。ミッチェル氏がクランシー氏に語りかけながら進行する対談形式で行われ、本稿ではその内容を抜粋してお届けします。

◆Twitchの独自性は「居場所」の設計にある

クランシー氏はまず、今のTwitchの独自性として、配信者を中心にその周りにコミュニティが形成されている点を挙げました。昨今の「ソーシャルメディア」は名前の通りの交流が実は行われておらず、ただ画面をスワイプするだけでは人とのつながりも居場所の感覚も得られないと指摘。一方でTwitchは居場所を作ることを念頭に設計されており、一定時間その配信を見続けることで、視聴者と配信者が時間を共有しながらつながりを感じられるようになっていると説明しました。

国や言語によって「居場所」の作り方に違いがあるのではという声には、クランシー氏はむしろ類似性のほうがずっと大きいと感じていると回答。つながりや居場所を求める気持ちは場所や言葉を問わない普遍的なニーズであり、世界中のコミュニティは驚くほど似ているといいます。あわせて、Twitchは想像以上にグローバルなサービスであるとも述べ、自身の配信の視聴者のうち45%はアメリカ国外からだと明かし、日本の配信者についても、実際には海外からの視聴者が想像以上に多いはずだと付け加えました。

YouTubeやTikTokとの違いについては、TikTokは少しでも退屈だと感じればすぐに次のコンテンツへスワイプできるよう設計されており、YouTubeも配信画面の隅に関連動画が表示され視聴者の関心が逸れやすい仕組みになっていると指摘。対してTwitchには視聴者を他へ誘導するような仕組みがなく、同じ配信を見続けることで他の視聴者の存在に気づき、時間を共にすることで徐々に深いつながりが生まれていく点が違いだと説明しました。

◆なぜ今、ライブが重要なのか

なぜ今ライブ配信がこれほど重要なのかという問いに対しては、ショートフォームコンテンツがかつてないほど業界の大半を占めるようになっている今だからこそ、より本物のつながりが求められていると回答。さらに、フィード上のコンテンツの多くがAIによって作られる時代になり、目にしているものが本物かフェイクか分からないという状況が広がる中で、ライブ配信が持つ真正性への需要が高まっているといいます。

AIの活用については、積極的に取り入れるクリエイターも一部存在するとしつつ、あくまで例外的な事例だと説明。多くのクリエイターにとってAIはクリエイティビティを拡張する手段の一つに過ぎず、コミュニティと直接向き合うことこそが彼らのコンテンツ制作の中心にあるといいます。ショート動画とロングフォームの関係についても触れ、ショートフォームは新しい発見や短い時間での視聴に有益であり、Twitch自身もそこへの投資を行っているとしつつ、あくまでロングフォームを補完する位置づけであり、配信者がライブをしていない時間にコミュニティがショートフォームを通じて関わり続けられる環境を作りたいと述べました。

ゲームを超えた広がりと日本文化の持つ強み

Twitchのコンテンツがゲームを起点にしながら様々な文化領域に広がっている背景には、前身であるJustin.tv時代のビジョンが「ライフキャスティング」、つまり生活のあらゆることを配信するというものだったことがあるとクランシー氏は振り返りました。その後ゲームに焦点を当てて成長したものの、コミュニティやつながりへの欲求はゲーマーという枠を超えて広がるものであり、クリエイターたちが自らの関心や情熱を自然な形で様々に表現するようになった結果が、今のジャンルの広がりだと説明しました。

日本のコミュニティがTwitchにとってなぜそれほど重要なのかという点については、日本文化の影響は日本語話者や日本の配信者という枠をはるかに超えて広がっており、日本市場自体が活気ある世界有数の重要市場であることに加え、日本文化が持つTwitch全体への影響力の大きさを挙げました。

◆eスポーツの定着と「民主化」

eスポーツについては、常にTwitchとゲーム文化の重要な一部であり、その現在の姿は日本がリーダーとして形作ってきた部分が大きいと述べました。市場自体もここ数年で大きく変化しており、以前は独占権の獲得に多額の投資が行われていたが、投資額は減った一方で市場としてはより健全になったとの見方を示しました。加えて、eスポーツが幅広いプラットフォームで視聴できるようになったこと、配信者がコミュニティと一緒にイベントを観戦するコストリーミングが広がったことで、視聴者にとってより身近なものになっているとも説明しました。

◆日本コミュニティの“一極集中”は本当か

インサイドからは、日本のTwitchコミュニティでは特定のトップ配信者への視聴が極端に集中し、その配信者の放送が終わると次点の配信者に視聴者が流れるという“一極集中”的な傾向があり、そのため新規に配信を始めても人気を得にくいという見方が一部にあるが、これは正しいのか、と質問しました。

クランシー氏はまず、Twitchはアルゴリズムによって視聴者をどこかへ誘導する仕組みを持っておらず、視聴者は自ら見たい配信者のページに直接アクセスする仕組みになっているため、指摘されたような状況は起こり得ると認めました。

ただし、時間の経過とともに大きな入れ替わりが起きていることも強調し、現在のトップ配信者の多くは3~4年前には上位にいなかった顔ぶれだと指摘。発見されやすさの課題はTwitchに限らずソーシャルメディア全般に共通するものであるとしつつ、配信時間をずらすなど工夫を重ねながらコミュニティを築いていく配信者は多く、数年後にはランキングの顔ぶれが大きく変わっているだろうとの見通しを示しました。

最後に、日本のコミュニティの大きさがパブリッシャーやブランドにとってどのような意味を持つのかという問いには、パブリッシャーとブランドとでは事情が異なるとした上で、パブリッシャーはすでにTwitchの活用方法をよく理解している一方、ブランドはコミュニティにどう入り込んでいくかを学んでいる段階にあることが多いと回答。いずれにせよ、積極的に働きかけ、実際にコミュニティの一員として関わっていくことが重要だと締めくくりました。


基調講演とラウンドテーブルを通じて一貫していたのは、「コミュニティ」そのものをTwitchの設計思想として語っていた点です。アルゴリズムで視聴者を誘導しない、という一見“不便”にも思える仕組みが、「居場所」を作るための意図的な設計だという説明は、基調講演で語られた思想とも通底していました。

印象的だったのは、ショートコンテンツが蔓延るなか、コミュニティとの接点を作り居場所を作る姿勢です。ショートフォームへの投資やAI活用を否定はしないものの、あくまでそれらを「ロングフォームを補完するもの」「クリエイティビティを拡張する手段」と位置づけ、主役はあくまで配信者と視聴者が時間を共にすることで生まれるつながりだと繰り返し語っていました。

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《Okano》

「最高の妥協点で会おう」 Okano

東京在住ゲームメディアライター。プレイレポート・レビュー・コラム・イベント取材・インタビューなどを中心に、コンソールゲーム・PCゲーム・eスポーツについて書きます。好きなモノは『MGS2』と『BF3』と「Official髭男dism」。嫌いなものは湿気とマッチングアプリ。

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