
2026年10月16日に日米同時公開される映画「ストリートファイター/ザ・ムービー」は『ストリートファイターII』(以下『ストII』)をベースにした久しぶりの大作映画ということで話題になっています。
それ以前にも、春麗を主人公にした「ストリートファイター レジェンド・オブ・チュンリー」(2009年)、自主制作ショートフィルムに端を発する「ストリートファイター 暗殺拳」(2014年)がありましたが、オールスター形式でさまざまなキャラクターが登場する実写映画は1994年にアメリカで公開されたジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の「ストリートファイター」まで遡ることになります。(日本公開は1995年)
現在ではネタ的な見方をされることが多い映画「ストリートファイター」ですが、実際のところ当時の反響はどうだったのでしょうか?
実際に劇場まで足を運び、「色々と違う部分はあるけど、これはこれで好き!!」と思った筆者が、その時の反響や、なぜそのような作りになったのかを、1990年代のハリウッド実写映画事情を交えながら語ります。
◆え? ラスボスって“ベガ”じゃないの?
ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の映画「ストリートファイター」は、ヴァン・ダム演じるガイルが連合軍を率い、バイソン(ベガ)が作り上げた軍事国家シャドルーを制圧するという、軍事作戦をベースにしたストーリーでした。
連合軍に所属するのは、ガイル、キャミィ、Tホーク、キャプテン・サワダ。その作戦を取材するのが、テレビクルーの春麗、エドモンド本田、バルログ(バイソン)の3名です。
シャドルー側にはバイソン(ベガ)、ザンギエフ、ディージェイがいて、サガットとベガ(バルログ)がその下で闘技場を主催。シャドルーの科学者ダルシムが、ガイルの親友ブランカを洗脳し人間兵器に改造しようとしています。
※原作設定では、ガイルの親友は「ナッシュ」という別キャラです。
なお我らがリュウとケンは、詐欺師コンビという設定でサガットをターゲットにしているチンピラポジション。リュウは本来、流浪の格闘家なのですが、それが海外には伝わらなかったのか、それとも海外設定のためにそうなったのか、とにかくガイルが主役という海外版においてはツッコミを入れざるを得ない役回りでちょっとおもしろいことになっていました。
ちなみに当時の原作は『ストリートファイターZERO』が登場する以前、『ストII』シリーズにキャミィら新キャラが追加されてしばらく経ったあたりのタイミングです。アメリカではベガをバイソン、バイソンをバルログ、バルログをベガと呼んでおり、この映画で初めて海外名称を知った人も多かったでしょう。
ガイルとバイソン以外は各キャラの設定がすべて異なっているため、映画公開前から「そういうもの」と割り切って劇場に足を運んだのですが、実際に鑑賞してみると、設定と異なる姿で登場したキャラクターたちが物語終盤でどんどんと“おなじみの姿”になっていく過程にテンションが上がり、「その解釈であのコスチュームになったのか!」とパズルのピースがはまるような快感を覚えたものでした。
もちろんストーリー自体は王道のアクション大作で、巨悪との戦いから窮地に陥り、そこからガイルのリーダーシップで連合軍がまとまって突入作戦へと至る流れは普通に楽しめましたし、ラストカットの集合写真で勝利ポーズを披露した際には「これがやりたかったのか!」と、ちょっとほっこりしました。
もっともアクション映画のスターであるジャン=クロード・ヴァン・ダムが主演という看板あってこそだったのですが、荒唐無稽な設定を映像化しようとする努力を感じ、個人的には設定の違いも含めておもしろく鑑賞できました。
そもそも属性や職業の異なるキャラクターが同じ場所に集うとなると、まあまあ仕方ないシチュエーションかなという感触です。
その後、本作はビデオゲーム化され、アーケード用2D対戦格闘ゲーム『ストリートファイター ザ・ムービー』と、PS1・セガサターン用2D対戦格闘ゲーム『ストリートファイター リアルバトル オン フィルム』に姿を変えて再び我々の前に登場しました。キャプテン・サワダもプレイアブルで参加しており、映画のオリジナルキャラで終わらない、まさかのレギュラー昇格で世の『ストII』ファンを「おいマジかよ」と騒然とさせていました。

◆1994年の「実写化」事情は?
1990年代のハリウッドは、CGIを主体としたVFX(ビジュアル・エフェクト)を部分的に導入している時代であり、SFX(スペシャル・エフェクト)と呼ばれるアナログ合成技術からの転換期とも言うべき時代でした。映画「ストリートファイター」にも一部CGIが使用されているものの、ブランカを丸ごとCGIに置き換えられるほどの技術力はなく、基本的には肉体アクションやワイヤーアクションを主体としたアナログ中心の制作体制となっていました。
1994年のハリウッド映画と言えば、ジェームズ・キャメロン監督の「トゥルーライズ」、ハリソン・フォード主演の「今そこにある危機」、ジム・キャリー主演の「マスク」などが公開された年です。そちらと比べると、たしかに劇場で囁かれていた「もう少しどうにかならなかったのか?」という来場者の声もある程度は理解できます。
しかし根本的な問題として、リュウの波動拳をどう表現するのか、ブランカの外見をどうするかなど、実写化のハードルは高すぎるものがありました。実写化は技術的な問題とは別にメディアをまたぐ発想の転換が不可欠であり、どう“実写フィルター”を通して映画に登場させるのか、その解釈のセンスが作品のクオリティを大きく左右します。どんなにCGIが発展したところで、適した実写フィルターを通さなければイメージの完全再現は不可能です。
その最たる例が2009年に公開された「DRAGONBALL EVOLUTION」でした。
もともと「ドラゴンボール」は鳥山明先生のキャラクターデザインがあってこそ。実写の人間では、どんなに脳みそを絞ったところであのキャラクターに近づくことはできません。
またアメコミヒーローものもピチピチ全身タイツで実写化することが当たり前でしたが、2002年の「スパイダーマン」を経て、ようやリアル世界の鑑賞に堪えるコスチュームが作れるようになった経緯があります。
1994年当時はまだそのような作りをしておらず、設定変更や特殊メイクでどうにか見た目を近づけた時代でしたから、ブランカがあのようなビジュアルになってしまったのは、ある程度しかたのないことでした。

さらに予算の問題もあります。
1994年に公開されたハリウッド映画の予算を見ると、「トゥルーライズ」が1億ドル、「今そこにある危機」が6200万ドル、「マスク」が2300万ドルとバラつきがあるものの、ヒット作はおよそ5000万ドル規模です。
「トゥルーライズ」については、ハリウッド映画として史上初の1億ドル越えした特例なので除外するとして、3500万ドルで制作された「ストリートファイター」は当時の平均的な予算ではあるものの、当時の水準で大作映画を作るとなると若干低い印象です。そのあたりもクオリティに影響していたのではないでしょうか。
それでも映像化された世界観はそれなりの臨場感がありましたし、格闘シーンも生身のアクションが効いていて、設定の変更と一部キャラの見たさえクリアできれば、もっと高い評価が得れたのではないかと思えるような作品に仕上がっていました。
当時といえば、日本のコンテンツがハリウッドで実写化されることなど、まずあり得なかった時代です。それなのにあれだけの規模で見せてくれましたし、ジャン=クロード・ヴァン・ダムという人気アクション俳優が起用できたことに奇跡を感じたことからも、筆者としては好感触を得た作品だったのでした。

それではなぜ、当時の人々はそれほどまでにハードルを上げてしまうことになったのか?
実は本作が日本で公開される1年前、1994年8月にアニメ映画「ストリートファイターII MOVIE」が公開されており、それが理想的な『ストII』の映像作品となって受け入れられていました。篠原涼子さんが歌う主題歌「恋しさと せつなさと 心強さと」で有名なあのアニメ作品です。
さらに『ストII』リアルタイム世代として忘れられないのが、水野美紀さんが春麗を演じた実写CMの存在でした。CM自体は1991年に放送されたものですが、『ストII』シリーズ全体を見てもそのCMが初の実写作品であり、また水野美紀さんはアクションも得意だったこともあり、外見はもちろんのことアクションも春麗そのままで、まさに理想の映像世界が広がっていました。
CMとアニメで完璧な『ストII』が描かれた後だったこともあり、イジられる存在となった1994年版「ストリートファイター」。
それでも時々見返すくらいには筆者に刺さったハリウッド版は、ところどころ「がんばった」部分が見え、さらに特異すぎるオリジナリティが癖になったことから今でも好きな映画の1本となっています。
もちろん「原作のイメージ通り」であるに越したことはありません。しかし特殊部隊が巨悪に立ち向かうシンプルな構造と、時おり差し込まれる「原作を彷彿とさせるシーン」は、反対に焦らしプレイをされているようで、「ここは良い!!」「ここはもう少し頑張れたのでは!?」「ここは異議あり!! 皆と話し合いたい!!」とさまざまな感情が沸き上がり、意図しない効果ではあったかも知れませんが最後まで飽きずに観れました。
皆さんの中にも「俺は好きだった!」という人がいるのでは?
未試聴のかたも、視聴の機会があった際は騙されたと思って視聴していただき、ぜひそのまま騙されて欲しいところです。
10月16日に公開される最新版では、はたしてどのような物語が描かれ、どのような映像に仕上がっているのか? そちらの展開も楽しみで仕方ありません。


