実はこの「Crash & Build」[破壊なくして創造なし]は須田氏が大好きなプロレスラー橋本真也がZERO-ONEを立ち上げた時にテーマとしたもので「破壊なくして創造なし」というものです。須田氏はゲーム開発でもそれは同様だと言います。「新しい価値観を見出す戦い」であるパンクゲームの開発には様々な困難が伴います。例えば当然ノウハウはありませんし、教材となるゲームもありません。斬新なシステムにはミドルウェアは適しません。さらにチーム全員の共通認識を持つのも苦労があります。
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ノウハウがビジネスになる欧米と違って日本の開発者にはノウハウは一代限りという美学があると言います。「地震大国で火事が起こりやすいという昔からの、建物は作っては壊されるという遺伝子がゲーム開発者にも眠っていて、同じものを作るのが非常に嫌、人まねをしたくないという精神がノウハウに頼らない精神に繋がっているのではないか」と指摘しました。
『NO MORE HEROES』に関してはパンクゲームよりも最初に、「Wiiというハード自体がパンクハード」であったと言います。当然従来のコントロールデザインは全て捨てる他なく、「任天堂の過去の価値観を捨てろという無言のメッセージを感じながらゲームデザインを行った」ということです。今までのノウハウは忘れて、自分の直感に頼ってデザインしたということです。
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仕様書については初めて原作物を手掛けたバンダイナムコの『BLOOD+ ONE NIGHT KISS』や『サムライチャンプルー』では既に設定集が用意されていて、非常に楽だったそうです。それに対してパンクゲームでは初期の設定を固めるプリプロダクションの部分に多くの時間が必要で、2〜3か月は必要で、それがリスクにも繋がっていくと指摘しています。
共通認識が持ち難いのもパンクゲームの困難さです。題材や前例のあるゲームと違い、スタッフ間の共通認識が取りづらいところです。須田氏の結論としてはスタッフ全員が同じ認識を共有する必要はない、ということだそうです。『NO MORE HEROES』では背景班には寂れた西海岸が舞台であること、キャラクター班にはジャパニーズオタクが主人公であること、ゲームプレイに関しては剣術アクションであると、セクション毎にキーワードを変えて共通認識を持つようにしたそうです。須田氏としては皆がゲームを理解しなくとも、秘密工場のように「何か凄いものができるんじゃないか」というようなワクワク感を生み出せるような現場を作れたらいいんじゃないかとも述べています。
「ゲーム開発は答えのない旅をしているようなものだ」とも言われます。「Crash & Build」を続けていると開発は永遠に終わりません。終りが見えづらいのもパンクゲームの困難さと言えそうです。答えのピースを集めていくのがゲーム開発だと須田氏は言います。「Crash & Build」を繰り返す中で、答えは開発現場全体で持つのか、持てなければディレクターが責任を持って答えを見つける、そうしなければ開発は永遠に続くことになります。