モントリオールで、小泉歓晃氏が「マリオに携わってきた13年間」を語った

カナダのモントリオール市で開催されたモントリオール・インターナショナル・ゲーム・サミットで27日、任天堂の小泉歓晃氏が「スーパーマリオギャラクシー:箱庭から銀河への旅」と題した基調講演を行いました。小泉氏は講演の中で、『スーパーマリオ64』から『スーパーマリオギャラクシー』に至る13年間の過程で、快適な3Dアクションゲームを開発するため行われてきた工夫の数々を、ロードムービーに見立てて解説しました。

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モントリオールで、小泉歓晃氏が「マリオに携わってきた13年間」を語った
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カナダのモントリオール市で開催されたモントリオール・インターナショナル・ゲーム・サミットで27日、任天堂の小泉歓晃氏が「スーパーマリオギャラクシー:箱庭から銀河への旅」と題した基調講演を行いました。小泉氏は講演の中で、『スーパーマリオ64』から『スーパーマリオギャラクシー』に至る13年間の過程で、快適な3Dアクションゲームを開発するため行われてきた工夫の数々を、ロードムービーに見立てて解説しました。



小泉氏は過去16年間の任天堂におけるキャリアの中で、一貫して宮本茂氏や青沼英二氏と共に「マリオ」や「ゼルダ」の開発に携わってきました。最初にゲームボーイ版の『ゼルダの伝説 夢を見る島』でシナリオスクリプトを担当。その後『スーパーマリオ64』でアシスタントディレクターを勤めた後、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』『スーパーマリオサンシャイン』『ドンキーコング ジャングルビート』でディレクターを勤めました。最新作となる『スーパーマリオギャラクシー』でも、ディレクターを担当しています。

第一幕 3Dマリオの喜び

ロードムービーは、小泉氏が任天堂に入社して、マリオの開発チームに配属されたことから始まります。

任天堂が本格的に3Dゲームの開発に乗り出したのは、ニンテンドー64の開発が始まった1994年のことでした。大学で映像制作を学び、自身でも3Dムービーを制作していた小泉氏は、任天堂入社後、宮本氏が率いていた情報開発部に配属されました。そこで「スーパーマリオ64」の研究開発に携わっていきます。最初のステップはマリオの3Dモデルを作成して、フィールド上を歩かせたり、さまざまなアクションをさせることでした。コントローラーを操作して、3Dでマリオを動かすことは、とても新しく、楽しい挑戦だったといいます。

小泉氏はこの13年間で一貫して「プレイヤー設計」を担当してきました。これはユーザーの操作によって、プレイヤーキャラクターがどのようなアクションをするか、という概念で、ゲームの善し悪しを決める最も大きな要因となります。プレイヤーキャラクターはユーザーがゲーム中で最も長時間操作している部分だからです。宮本氏も最もこだわっている部分で、当時も非常に細かい注文が来たと言います。

ある夜、ほとんどのスタッフが帰宅した中で、宮本氏と小泉氏が二人で深夜残業をしていました。すると宮本氏が近寄ってきて、マリオが水中で泳ぐアクションについて仕様の相談を行いました。宮本氏は仕様書を書いたり、動きを映像で作ったり、コンセプトアートを描くのではなく、その場で泳ぐまねをしながら、マリオの動きを伝えたそうです。



「3Dになると仕様に関する意思伝達が曖昧になりがちです」と小泉氏は続けます。「宮本氏はデザイナー出身なので絵も描けますが、自分で演じる方がわかりやすいと考えたのでしょう」とのことでした。それくらい宮本氏は「プレイヤー設計」についてこだわっており、プロジェクトの中で最も時間をかける部分だといいます。というのも、ゲーム内でユーザーができる選択肢が増えると、それによって遊びの幅が広がるからです。

この点について小泉氏は、「マリオがジャンプする」というアクションを例にとって説明しました。もしマリオがジャンプできなければ、最初の敵であるクリボーを避ける手段がなく、すぐにゲームが終わってしまいます。しかし「ジャンプ」というアクションを追加することで、クリボーを避けられるだけでなく、「上から踏みつける」という攻撃手段や、「ブロックをたたく」という派生アクションまで生まれることになります。このように1つのアクションを追加することで、連鎖的に遊びの幅が広がっていくのです。

ただし、プレイヤーの選択手段が増えると、それだけ操作が煩雑になる恐れがあります。そこで「おもしろさと操作の複雑さのバランスをとる」ことが重要だと指摘しました。これが小泉氏の言う「プレイヤー設計」の核となる部分です。

2Dゲームから3Dゲームになったことで、プレイヤー設計に新しい要素が加わりました。それがカメラです。宮本氏によると、「3Dゲームの一番の魅力はカメラだ」とのことです。ゲーム内の空間をリアルタイムに切り取ることのできるカメラの存在で、ゲーム開発のレベルはスーパーファミコン時代から格段に複雑になりました。カメラの角度や距離などで、ゲームの遊び方も簡単に変わってしまいます。『スーパーマリオ64』でも、最適なスタイルをめざして、さまざまなカメラが考案されました。

代表的なカメラのひとつが、「平行カメラ」です。これはマリオを真横から等距離で追いかけるもので、ちょうど2Dゲームと同じ画面になります。他に「タワーカメラ」があります。これはマリオの周囲をぐるぐると回るように動くカメラです。最も一般的なものは「フォローカメラ」でしょう。これはマリオを背後から追いかけるカメラで、いわゆる三人称視点となり、3Dアクションゲームで最も多く使われています。これ以外にも泳いだり、空を飛んだり、アクションごとに多くのカメラアルゴリズムがあります。小泉氏は「カメラを考えることはゲームデザインについて考えることでもある」と言います。

このように『スーパーマリオ64』はカメラを意識した初めてのゲームとなりました。ふだんは自動で、時にはCボタンを操作して、プレイヤーが自分でカメラの向きを操作しながら遊ぶプレイスタイルは、箱庭世界を探索する感覚と相まって、とても新しく、楽しいものとなりました。このコンセプトはその後のタイトルでさらに洗練されていきます。『ゼルダの伝説 時のオカリナ』では「触ることのできる映画」へと進化しました。『スーパーマリオサンシャシン』では、南国のリゾート地らしい照り返しや水の表現を多用して、箱庭の探索を全面に押し出した内容となりました。

第二幕 箱庭世界の問題点

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《小野憲史》

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