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あけましておめでとうございます。今年も「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」は毎週土曜日の0時からお届けします。新年ということで、明るいテーマで、というざっくりしたリクエストからお話は始まります。
土本
あけましておめでとうございます。
安田
今年もよろしくお願いします。
平林
こちらこそ、よろしくお願いします。
土本
新年ということで、今年の展望というか。特に明るい話題をおふたりからうかがいたいです。
安田
去年、日本に来られる外国人観光客が1300万人を超えたそうですね。東京はもちろんのこと、全国のどこの都市に行っても外国人の方が増えたと感じます。日本のことが好き、日本に興味を持つ人が増えているのは、うれしいことです。日本人が外国で使ったお金と外国人が日本で使ったお金の収支バランスを示す「旅行収支」という指標があるのですが、昨年、44年ぶりに黒字になった月があったそうです。じつに、大阪万博が開催された1970年以来のことなので44年ぶりなのだそうです。
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日本観光のキャッチフレーズ「Endless Discovery」を冠したJALの機体
出典:ウィキメディア・コモンズ aeroprints氏撮影
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日本観光のキャッチフレーズ「Endless Discovery」を冠したJALの機体
出典:ウィキメディア・コモンズ aeroprints氏撮影
平林
俗っぽい言い方ですが、それだけ日本にお金が落ちているということですね。
安田
そうですね。戦後の日本で外貨を稼ぐといえば工業製品を輸出することでした。そこで、国際競争力を高めるために、外国人の好みに合わせることをしてきました。わかりやすい例でいうと、クルマは左ハンドルにして、家電製品の表示は英語にするといった市場への対応ですね。
平林
はい。子供の頃から日本は輸出立国と教わってきたので、一生懸命に外国に売らないとダメ、という意識をどうしても持つようになってました。
安田
がんばりつつも他国で安いモノが大量生産されて、工業製品の輸出が頭打ちになると「ソフトパワー」などと言われるようになりまして。今度はコンテンツの輸出額を増やすことに、国もゲーム会社も躍起になった時期がありました。
平林
ゲーム業界では10年くらいまえからでしょうか。猛烈に海外市場を意識するようになりましたね。けれども、北米と欧州に巨大市場があると皮算用をするものの、必ずしも計算通りにはならない、という面もあり……。
安田
はい。そこなんですね、転換できればいいなと思うのは。コンテンツをつくっている立場からすると、ゲームを工業製品のように輸出する方向ではなくて。観光産業のように、ありのままで振る舞って。世界への広め方の工夫をしながらですね。日本らしさを外国の人に気づいてもらうのが、これからは有望なのかな、と思います。
平林
観光産業がそうですが、日本料理、相撲、歌舞伎。あ、そうです。アニメやマンガも、ですね。こちらから特に海外市場に合わせることをしなくても、日本のものは良い!と、あちら側から評価してくれる。ゲームソフトは脱工業製品の方向で世界の市場に広がってくれるといいですね。
安田
ところで平林さんは、今年のゲームはどんな変化があると思いますか?
平林
VRとウェアラブルはもちろん注目しています。
安田
去年は平林さんと一緒にオキュラスのゴーグルをかぶりましたよね。
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発展が期待されるVRゲーム
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発展が期待されるVRゲーム
平林
VRはいい!……というのは、皆と似通った意見なのでここではオールゲームニッポン的な見解を述べますと。
土本
何ですか?
平林
ゲーム業界版・国譲り神話がはじまる! なんのことかと言いますとね、コンシューマゲームとソーシャルゲーム。この数年間、対立関係にあったと思うんです。面と向かって戦争するわけではないのですが、コンシューマ側の人は「ポチポチゲームはゲームじゃない」と思っていて。逆にソーシャルゲームの人は「もう市場規模では追い抜いたぞ」と思っていて。
土本
同じゲーム業界だけど溝があったという意味ですね。
平林
そうです。ところが最近はちょっと様子が変わってきて、一緒にゲームをつくる動きがありますよね。ゲームの基本部分はコンシューマゲームのデベロッパーがつくって、マネタイズの部分はソーシャルゲームのデベロッパーがつくる。こういう開発スタイルが増えつつある気がします。国譲りは大げさで、ようは協業ということなのですが。
安田
あー、それ。わかりますよ。僕もある会社さんからマネタイズ部分のことは考えないで、とにかく良いゲームをつくることはできますか? と。そんな趣旨のご相談を持ち込まれたことがありましたね。
平林
というわけで、ゲーム制作の一部の受発注なのか、共同開発プロジェクトなのか、はたまた合弁会社の設立なのか。いろんな形式が考えられますが、コンシューマゲームの人とソーシャルゲームの交流が進んで、今年は新しい展開を見せてくれるんじゃないでしょうか。
土本
ところで初詣はどこに行かれるんですか?
安田
僕はこの対談が終わったら、お正月らしく富士山が望める神社に妻と行きます。富士山本宮浅間大社、コノハナノサクヤヒメ(木花咲耶姫)をお祀りした神社です。またまた古事記の話になりますが、天照大御神の孫、ニニギノミコトの妻で美人の女神と言い伝えられているコノハナノサクヤヒメです。
平林
今年は東京で正月を過ごしたので、超メジャーですけど明治神宮に行きました。あと、日露戦争セット参拝と名づけているのですが、東郷神社と乃木神社にも行きました。
安田
そうですか。こういう会話ができるのは、いかにも神社らしいじゃないですか。神話に出てくる女神様も、明治時代の軍人も分けへだてなく同じ神様としてお祀りする。まさに多様性というか、懐が広いというか。日本の神社にこめられた八百万神(やおよろず)の考え方は、世界でも例を見ない宗教観でしょうね。
平林
八百万神について考えるのは最近の重要課題でして……。去年はイスラム国関連のニュースが多かったじゃないですか。あの血で血を洗うような宗教戦争の意味が、頭ではわかっても、心の底からは理解できていません。多神教の国、日本で生まれ育つと、そんなこと言うと怒られそうですが、「まあいいじゃないですか、仲良くしなさいよ」となだめたくなります。
安田
ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も、つまるところ同じ神を信じているわけですからね。
平林
神のことをヤハウェと呼ぶとユダヤ教。その神をゴッドと呼んで、イエスを救世主とするとキリスト教。そのまた同じ神をアッラーと呼んで、ムハンマドを最後の預言者とすると、イスラム教ですよね。みんなで同じ神様を信じているのに、解釈のしかたが違って、生活様式も違うってことが頭でわかっても感覚でわからないんです。ひとつの財産やひとりの恋人を、みんなで奪い合っている感じ? と想像をめぐらせてみますが、たぶんそんな生やさしいものではないんでしょうね。
安田
多神教と一神教。あと神社の話は今年のオールゲームニッポンでいろいろとお話していきましょうよ。
平林
いいですねー。今の私の一番の関心事ですから。どうでもいいマイブームネタですが、日本でよく売れたゲームをですね。まず、ゲーム名を挙げてですね。そのゲームが売れた理由は「多神教的だからだ」と続けると、ちょっとした評論ができるという裏ワザ(笑)があります。……『妖怪ウォッチ』が売れた理由は多神教的だからだ……『モンスターストライク』が売れた理由は多神教的だからだ……。すいません、マニアックなネタで。
安田
私も裏ワザをご紹介しましょう。神社に行くとお社にしめ縄が有る神社と無い神社があるって知ってました?
平林
あ、言われてみるとそうです。出雲大社は……
安田
大きなしめ縄が有名ですよね。出雲大社は祟り神を封じ込めるという意味でしめ縄があります。ところが、伊勢神宮の系統の神社には、しめ縄はないんです。ですから、神社に行ってみるとそこが出雲か伊勢か、どちらの系統なのかがわかるんですね。
平林
そういう見方があるんですか、新鮮!
安田
しめ縄はどっちの方向に巻いているか知っています?
平林
いいえ。
安田
「左より」と言いまして左方向です。
平林
ひえー。
安田
普通の紐のより方は右なので、逆向きなんです。しめ縄には大根とごぼうもあるんですよ。
平林
なんですか? おでんみたいですね。
安田
両端が細くて中央が太いのは「大根しめ」と言います。左右どちらかの方向にだんだんと細くなっていくのを「ごぼうしめ」と言います。
土本
神社の話は奥が深いですね。しめ縄だけでこれほどの意味があるんですから。
(つづく)