【アナログゲーム決死圏】第5回:『枯山水』製作者インタビュー...ヒットの要因と今後の展開とは

ネットはもちろんラジオや新聞、TV等でも取り上げられ大きな話題となったボードゲーム『枯山水』。今回はそんな『枯山水』の発売元である「ニューゲームズオーダー」の開発・販売責任者の吉田恒平さんに、インタビューをしてまいりました。

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◆業界に入ったきっかけ


――吉田さんは、「ニューゲームズオーダー」の開発・販売責任者であり、同社の直営店「ビーツーエフゲームズ」の店長もされていますが、そもそもこの業界に入ったきっかけはなんですか?

吉田恒平(以下、吉田):高校生の時、20年近く前ですが、一緒にTRPG遊んでいた仲間が、ボードゲームの『カタン』を持ち込んできたのがボードゲームとの最初の出会いでした。当時はTRPGにすごくハマっていたので『カタン』をやったときは、「これは面白いけど自分にとってはTRPGを超える物じゃないな」と感じました。



でも、その後にやった『モダンアート』が驚くほど面白くて、周りの人は全然遊んでいないけど、メジャーになれる作品なのにまだ人生をかけて普及させようとしている人が少なく感じて、そこでボードゲームを仕事にしようと決めたんです。

ただ、それをどうやって仕事にするかイメージできなかったので、とりあえずボードゲームを売っているお店に入ろうとして、大学の卒業当時は新卒採用をしているのがアナログゲームショップの「イエローサブマリン」しかなかったので、そこに就職して経験を積むことにしました。

そして2006年に独立し、ゲーム仲間と店舗「ビーツーエフゲームズ」を立ち上げ、さらに2009年にメーカー「ニューゲームズオーダー」を立ち上げました。始めて見てから感じましたが、ショップを持つことで製作者側がお客さんと交流できるというのは、ボードゲーム業界に限らず、凄い利点なんですよね。だから今も店を続けています。

――実店舗ならではの利点ですね

吉田:そうなんですよ。しかも店をやってるとチャンスは舞い込んでくるもので、『枯山水』のアートワークを担当したママダユースケさんは、最初はお店のお客さんとして来た方でしたし、石を塗装している関(本当はDTP担当)や、一緒に会社を始めた製造担当の西山も最初は自分のお客さんでした。

こうしてみると、「ニューゲームズオーダー」には学生時代の友達とお客さんしかいませんね(笑)。

◆なぜ『枯山水』が大賞に選ばれ、ヒット作となったのか




――なぜ「東京ドイツゲーム賞」で『枯山水』が大賞に選ばれたのでしょうか?

吉田:馬鹿らしい言い方になってしまうかもしれませんが、「面白い」からですね(笑)。主観なので、人それぞれですが、 「面白い」というのはゲームにとって一番大事なものさしだと思います。

自分はボードゲームに対してその「面白い」の間口が人より狭いと思っています。「東京ドイツゲーム賞」では、約60個のエントリーがあり、20個を実プレイして、その中で文句なく面白いと思ったのは『枯山水』と『曼荼羅』、2個だけでした。



その2つの面白さは抜きん出ていて、審査員の中には『曼荼羅』の方が上だとする人もいました。ただ、『曼荼羅』は他プレイヤーとの駆け引きを好むコアゲーマー向けで、かなり人を選ぶであろう作品でした。



一方『枯山水』は、同じく駆け引きが重要なゲームではありますが、ルールをかっちり読みこまなくても庭を作っていれば楽しいという人もいれば、研究しがいのあるゲームだとする人も出るであろう、多くの人に受け入れられる可能性のある作品でした。

このようにいろんな側面があり、受け手が感じたいように感じられるのが、多くの人に喜ばれ、本当にポピュラーになるゲームの資質なんです。

――その段階で『枯山水』がヒット作になる確信はあったということですね

吉田:そうですね。だからこそ、今までのゲームの中で最高の、失敗すれば経営が傾くレベルの予算を投じて作ったわけです。もちろん商業的に大失敗はないという自信はありました。

――では、今回のような大ヒットの要因は何だとおもいますか?

吉田:これは『枯山水』というタイトルだけで語るのは適切では無いと思いますね。今回ヒットしたのは、『枯山水』に代表されるユーロゲーム(ヨーロッパ系ボードゲーム)ですよ。今回たまたま『枯山水』が中心になっただけで、『カタン』から広まったユーロゲームがヒットする土壌はもう出来上がっていたんだと思います。

店をやっていると感じるのですが、ボードゲーマーの層はきっと当人たちが思っている以上に広がっていています。そこに、国産でコンポーネントが外国のものに遜色がなく、遊ぶのに1時間以上かかって値段も高いボードゲームっていう、今まで商業的に無茶と思われていた物が出たというのが大きかったのでしょう。

海外のボードゲーム・カルチャーの影響を受け日本のデザイナー&メーカーが作った、日本のものがテーマの和魂洋才の作品として受け入れられたというところもあるでしょう。

なので、『枯山水』を海外に持って行ってはどうかとよく言われるのですが、商業的には日本でやっていた方がいいとも考えています。

ボードゲーム業界にはドイツに持っていけば何とかなる的な考えもあるのですが、ドイツは近年市場を拡大しすぎた反動で停滞気味で、だからこそプロが工夫をこらした物をどんどん出しているので、満ち足りている状態ですからね。

むしろまだまだボードゲーム人口の少ない日本のほうが、チャンスがあると思います。どうしてもボードゲーマーはだいたいこのくらいだから、これくらい売れるだろうと計算してしまいがちですが、その枠から外れれば日本には1億2千万の人口がいますからね。

――でもこれほどのヒット作になると予想していましたか?

吉田:これは良く聞かれる質問ですね。例えば、野球でホームランバッターは500~600くらいの打席数の中で30~40本のホームランを打ちますが、数字だけで言えばホームランは数%。でも、お客さんはそれに期待しているし、ヒーローインタビューで「珍しく打ちましたね」とは言われないですよね。

僕は「ニューゲームズオーダー」をそのホームランバッターだと認識していました。日本でのボードゲームメーカーはまだ少ないですし、その分多くの打席に立てるのでホームラン級のゲームをもう作れると思っていたわけです。

なので、こういうヒットは予想していなかったわけではないです。もちろん、全て思ったとおりというわけではありませんが、皆さんに喜んでもらえる準備はしていました。

ではなんで生産数がそんなに少ないんだと突っ込まれる方もいるかと思いますが、無理して作って失敗して会社が潰れちゃうと、業界に対しての責任が果たせなくなってしまうので、三振しても次の回ではまた打席に立てるようにする必要があったんです。

僕らが仕事を失ってボードゲームメーカーなんてやるんじゃなかったと愚痴ってる姿は悲しすぎるし、見せる訳にはいかないんですよ。もちろん決死の作戦ではあったわけですが、転んでも泣かないようにしていたという感じでしょうか。
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《傭兵ペンギン》

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