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──星野さんは相当ポケモンがお好きなのでしょうか?
星野:ゲームボーイの『ポケットモンスター ピカチュウ』を軽い気持ちで遊んだのが一番最初ですね。その後に『ポケットモンスター ルビー・サファイア』の対戦会を社内でやっていくうちに、自分が「ポケモン部」の部長(自称)になっていて、全体で40人くらいの大規模な部になりました。非公式ですけどね。
宇都宮:会社のサークルみたいなものですよね。バンダイナムコさんは大きな会社にも関わらず、ポケモンが好きな人たちを集めて、そこからチームに参加する人が出たりしてすごいですよね。
星野:もちろんポケモン好きも集めましたが、きちんとした対戦アクションゲームを作るうえでのディレクターも必要ということで須崎に参加してもらいました。開発をはじめていくと、ポケモン部以外のメンバーもポケモン好きになっていったのが良かったですね。
宇都宮:そういえば、最終的にどのポケモンを入れるかは須崎さんが決めたんですよね?
須崎:そうですね。星野さんひとりだと偏るというのもあって(笑)。
一同笑い
宇都宮:やはり好きな人が集まると偏りますよね。客観的に議論しようとしても、私情がにじみ出てくるというか。そこを須崎さんに決めてもらう必要があったと。
須崎:いろんな人の意見を聞くのですが、やはり最終的には自分でという形でしたね。
──参加するポケモンを決めるのはやはりたいへんでしたか?
星野:たいへんでしたね。対戦アクションゲームということですべてのポケモンを出すことはどうしてもできず、腕が4本ある「カイリキー」だとか足のない「シャンデラ」だとか、多様さによってアクションの幅を出すことを検討しましたね。
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宇都宮:操作できるポケモンは多くないのですが、「サポートポケモン」という要素で目に触れるポケモンは増やすことができました。それに「ディグダ」や「コイキング」をバトルするポケモンとして出すというのは難しいわけで。初期はかくとうタイプだけのポケモンということも考えていたのですが、やはり多様性を出すことになりました。
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バトル中、時間経過でゲージが溜まると「サポートポケモン」を呼び出すことができます。サポートポケモンの効果はポケモンごとにさまざまで、攻撃をするものから補助をするものまで、それぞれのポケモンらしい能力が設定されています。
──少し個人的な興味としてお聞きしたいのですが、「ラグラージ」が出なかった理由を伺ってよろしいでしょうか? 「ラ」のつくポケモンが登場すると聞いて、「これはラグラージが来るか!」と少し期待したのですが、“予想できなかったポケモン”ということで実際はシャンデラだったんですよね。
須崎:予想できないというところで、ラグラージではないという言い訳にしたところは、正直あります(笑)。ファンの方はどのポケモンがいいという希望があると思いますが、やはり多様なポケモンを出したいということで、シャンデラのように「いったいどうやって戦うのか?」というポケモンの優先度が高かったということです。
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アーケード版が稼働したあと、新たに参戦するバトルポケモンの情報が徐々に公開されていきました。その参戦ポケモンを予想するのも楽しみのうちだったのですが、ホウエン地方の「バシャーモ」「ジュカイン」が登場していること、『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』が直前のタイトルとして発売されていたことなどもあり、ラグラージが登場するのではないかと期待していたファンもいました。
既にお分かりのようにラグラージは参戦していませんが、ステージの背景にメガシンカした姿で雪像として登場しています。
橋本:ただ、今から言っても結果論という感じになってしまうかもしれませんね。
須崎:かもしれません。開発中にもいろいろとご指摘をいただくとは思っていたのですが、対戦アクションゲームとして、そしてポケモンの今までなかった点を描くことを重視した結果ということですね。
──そのように多種多様なポケモンを出してバランスを取るというのは、やはり苦労されたでしょうか。
須崎:そうですね。そこに関しては『鉄拳』や『ソウルキャリバー』のエキスパートが調整を頑張りましたし、四足歩行のポケモンといった新たなチャレンジを楽しんでいた部分もありました。そういった面で、シャンデラのようなポケモンを作る際にはモチベーションをかなり高く保てました。
星野:バトルディレクターの高橋が頑張ってくれたのは大きいですね。
──ゲーム全体の話に戻りますが、『ポッ拳』は格闘ゲームを遊ばないような人にも向けたタイトルを目指したわけですね。
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宇都宮:僕自身は、昔『ストリートファイターII』を遊んだ時のドキドキやワクワクがすごく楽しかったんですね。ただ、今のお客さんからするとそういったジャンルは結構ハードルが高く見えていると思うんです。そこで石原がよく言っている“間口が広く奥が深い”という対戦アクションゲームを目指しました。
星野:(90年代)当時、格闘ゲームがなぜ盛り上がっていたのかということを考え直し、そこにポケモンというIPを乗せることでその面白さを再び見せよう、ということを考えていましたね。アーケード版にいわゆるふつうのコントローラーを採用しているのもそのひとつです。
宇都宮:ただ、毎年「ポケモンワールドチャンピオンシップス(ポケモンWCS)」という世界大会があるように、ガチなポケモンを求める方もいらっしゃるんですよね。なので、間口は広いとはいえ、競技としてプレイできるゲームになるようにというのをイメージしていました。
星野:ポケモンWCSの舞台で『ポッ拳』の対戦が行われて盛り上がる、という夢は最初からありましたね。それが2016年の今年に実現するのは本当に嬉しいことです。
──遊びやすくて奥深いというゲームを作るうえで、どのような点に気を使いましたか?
須崎:僕としては、これまで『鉄拳』などを開発するうえで培った感覚を洗い直してみようというところから始まりました。格闘ゲームにはどういう要素があって、普段あまり遊ばない人にはどこが難しく感じるのかということを確認し、再構築していったわけですね。操作を簡単にするというところは絶対で、あとは見ていて面白いというところに気を使いました。
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須崎:格闘ゲームというのは、上手い人がカッコいいプレイができることが多いように思えるんですね。一方、『ポッ拳』では気持ちよくプレイしただけでカッコよく見え、さらに競技としても耐えうるようにと、そのあたりを意識してひとつずつ要素を決めていきました。
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星野:『ポッ拳』はシンプルな三すくみを入れているのですが、その駆け引きがとてもわかりやすくなっています。そのため見ていても盛り上がれると思いますね。
須崎:実は『ポッ拳』は、現代の格闘ゲームよりテンポが遅く作ってあるんです。プレイヤーにとって何が起こったのかわかりやすいですし、見ている人にとっても理解しやすいというところを意図していますね。
宇都宮:そういえば、僕は将棋が好きなのですが、ああいうゲームは強い人にまず勝てないんですよ。これは競技としては正しくもあるのですが、間口の部分としては気になるところがあるわけですね。なので、それをなんとかしようとすると、運のようなゆらぎの要素が大事になってくるわけです。
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宇都宮:ただ、海外のプレイヤーからそういうランダム性を減らして欲しいと言われることがあるんです。確かに運の要素が減れば腕前が反映されていくのですが、実際の大会では“きゅうしょ”に当たる瞬間だとか、「もしかしたら逆転があるかも」という不確実性で盛り上がったりするんですね。なので、そういうゆらぎをうまく使うのがポケモンとしての競技のアプローチだと考えています。
──ランダムな部分の重要性は『ポケモンコマスター』のインタビューでも語られていましたね。『ポケットモンスター』シリーズの対戦にも似たところがあります。
宇都宮:そういった不確実性をいかに対処するかもゲームのうちだと考えています。確率の要素があっても回数を重ねれば収束していきますし。
星野:『ポッ拳』では「共鳴バースト」が逆転の大きな要素ですね。ゲージが溜まりさえすれば簡単に誰でも強くなりますし、もう一度同じボタンを押せば強烈な「バーストアタック」を出せるわけで、そのあたりでわかりやすさも兼ねています。
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相手にダメージを与えるなどの行動を取ると、ゲージが溜まり「共鳴バースト」を発動することができます。発動するとポケモンの攻撃力が上がるなどの効果が発生。さらに、当たれば大ダメージを与えられる「バーストアタック」も1回だけ放つことができます。