2016年10月12日で15周年を迎える、カプコンの法廷バトルアドベンチャーゲーム『逆転裁判』。その最新作である3DSソフト『逆転裁判6』が6月に発売されました。
『逆転裁判6』では「成歩堂龍一」と「王泥喜法介」というW主人公で物語が展開され、新たな舞台「クライン王国」や新システム「霊媒ビジョン」が登場。さらには過去作品からの懐かしのキャラクターとシステムが本作を彩り、あらゆる面でシリーズの集大成とも言える作品に仕上がっています。
インサイドでは、そんな『逆転裁判6』の発売を記念して、プロデューサーの江城元秀氏とディレクターの山崎剛氏にインタビューを実施。本作の成り立ちや見所はもちろん、今後の『逆転裁判』の展開についてお話を伺ってきました。
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江城氏/山崎氏
――10月で15周年を迎える『逆転裁判』ですが、そもそもどの様な所がシリーズの魅力だと考えられていますか。
山崎: ADVは、お話を楽しむのがメインのタイトルが多いかと思いますが、『逆転裁判』はアクションゲームの様な爽快感を楽しめるADVなんですよ。これが『逆転裁判』の面白さでもあり魅力ですね。謎を解いて証拠品と「異議あり!」を憎らしい証人に叩きつける瞬間!それはアクションゲームでいう“必殺技が当たったとき”の瞬間であり、それと同様の快感があると思います。またミステリー作品として、”謎解きの楽しさ”と、”意外な犯人といったサプライズ”という2つの要素を再現できる数少ないゲームでもあります。
江城:『逆転裁判』はキャラクターが凄く立っているゲームでして、そのキャラクターたちが物語の中でどう動いて、どう展開していくのか。そこがトリックやドラマの魅力となり、大きな逆転があったときに、「こんなことになるのか!」と、どんどん先が知りたくなる。そして真相が分かったときの爽快感が、先ほど山崎が言ったようにアクションゲームの様な爽快感であることが魅力ですね。
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――そういった魅力は『逆転裁判6』でも引き継がれているということですね。
江城:そのとおりです。ただ、先ほどお話した魅力を出すためには“物語が大きく逆転”する必要がありますので、毎回シナリオ作りに苦労しています(笑)。
――『逆転裁判』だけでも6作品目ですが、実際に長年作られて来ていかがですか。
山崎:いつも先行作とかぶらないネタを考えるのが大変ですね(笑)。というのも、トリックも事件もシナリオも同じことができないんです。もちろんキャラクターの設定やデザインにも同じことが言え、過去作品と被らず、かつ超えなければいけません。それを意識して作っているので毎回苦労しますね。
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――『逆転裁判6』に限った話だといかがでしょうか。
山崎:『逆転裁判』1作目の頃は内容がとてもシンプルで、それが美しいタイトルでした。それからシリーズを重ねるにつれて少しずつ進化してきまして、それぞれが違った魅力を持つタイトルになっていったと思います。そんな中で、『逆転裁判6』はこれまでのシリーズ作品で積み重ねてきたキャラクターやシステムをしっかりと受け継ぎつつ、ファンが求めているものはもちろん、我々がこれまで描ききれなかったことも可能な限り詰め込んだ作品になっています。まさに集大成的な作品ですね。そのためには様々な制限をクリアしなければいけなかったので、そういう意味でも大変でした。
江城:システムが増えると、“そのシステムをどうシナリオに活かしていくのか”というのが重要になってきます。いきなりシナリオと関係ないところでシステムが入っても冷めてしまうので、ベストなタイミングで組み込む必要があったんです。さらに、それらのシステムがゲーム進行の邪魔にならず、アクセントとして新しい遊びが入り、先が気になるようにする必要がある。このバランスが凄く大変でしたね。
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――しかも『逆転裁判』ってシステムが独立しているんじゃなくて、キャラクターとセットじゃないですか。そう考えると相当苦労されたんだなと感じたんですが、システムとシナリオの溶け込み具合が絶妙でした。開発時は先にシナリオを考えるのでしょうか。
山崎:基本的にはシステムありきで、それを活かすためのシナリオを考えます。システムが活きるとキャラクターも活きるじゃないですか。そういう意味で本作は、システム・キャラクター・ストーリーがガッチリ結びついた作品になったのかなと。
――そもそも本作はシリーズの集大成を作ろうという所からスタートしたのでしょうか。
江城:そのつもりはなかったんですよ。前作『逆転裁判5』は『逆転裁判4』からかなり間が空いて発売したんですが、『逆転裁判5』ではキャラクターの3D化など様々な新しい挑戦をしました。それに対して「よかった」という意見もあったんですが、様々なご要望も頂き、ナンバリングに対する期待値を再確認しました。ですので、まずはその要望に応えるために『逆転裁判6』を立ち上げました。因みにマヨイちゃん(綾里真宵)を出すことは立ち上げの段階で決まっていました。
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ところが、「カガク捜査をやりたい」という要望に応える為にアカネちゃん(宝月茜)を出し、国内では負けなしの伝説の弁護士となったナルホドくん(成歩堂龍一)に新たな試練を与えるために「クライン王国」という舞台を作り、異国という設定を活かすために霊媒ビジョンを生み出し、霊媒という要素をマヨイちゃんと結びつけ、一方の日本ではオドロキくんが活躍するようにし……というように、「これをやるためにはこれが必要だよね」という取り組みを一つひとつやっていった結果、集大成と言うべき作品になったんです。これがもし、最初から「集大成を作りましょう」という始まりだったら、こういった現象にはならなかったと思います。
――実際に作られてみていかがでしたか。
山崎:前作『逆転裁判5』も内容盛りだくさんの欲張ったタイトルでした。さらに「法廷崩壊」という大きなテーマを掲げてもいました。それを『逆転裁判6』では超える必要がありましたので、前作の延長線上で全体的に大きくしました。また『逆転裁判4』以降触れてこなかったキャラクターにフューチャーしましょうという話にもなりまして、もう『逆転裁判5』で十分欲張りだったのに更に欲張りになった!と(笑)。その分ボリュームが凄いことになってしまったので、2つの舞台で登場するキャラクターとシステムを整理し、出し分ける様にしました。
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江城:全然そんなことないですね。特にレイファに関してはキーパーソンなので大変でした。そもそもは開発から「霊媒ビジョンという新しいシステムを考案しました」と言われまして、これは面白そうだなと。そこから「じゃ、それをどうやってゲームに取り入れるの」となり、「霊媒ビジョンを行うのは巫女がいいだろうと」となっていったんです。
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なので、最初は巫女という設定でレイファのデザインがあがってきたんです。ですが、それだけだとヒロイン感が薄いので、もうひと捻りほしいと。そこで「クライン王国のお姫様かつ巫女」というアイデアが出てきまして、そこから今のレイファが出来上がりました。
ナユタに関しては「圧倒的に強く、全てを見通しているような検事」という仏様の様な設定だったんです。それ自体は初期のデザイン案からクリアしていたんですが、仏様って男女を超越したような、中性的なイメージがあったので、そういった方向性のビジュアルにしていきました。
そういった案が現場からバンバンあがってきまして、僕はそれを一番最初のお客という視点からフィードバックしていきました。
――そういえばチームが大きく変わったとお聞きしました。
江城:『逆転裁判5』のコアメンバーは残っていますが、半分以上は変わっていますね。その新たなメンバーたちが他プロジェクトのノウハウを持ってきてくれたので、開発はいい感じに進みました。
山崎:本作ではキャラクターのモーションにモーションキャプチャーを取り入れているんですが、そのスタッフたちも今回から加わったスタッフです。
江城:カプコンではリアルなゲームも作ってきたので、モーションキャプチャーに関するノウハウは沢山あるんですが、それを『逆転裁判』に使うとなると……そのままじゃ使えないんですよ。よりアニメっぽくするためにデフォルメする必要がありまして、そういうテイストをリアルなモーションに手作業で入れていきました。特に第2話はそのテイストを強く感じることができると思います。
――むしろ「やりすぎだろ!」と感じました(笑)。
江城:そうですよね(笑)。なかなか苦労しました。
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――既にプレイされたユーザーからは「マヨイちゃんの登場シーンが少ない」という意見も上がっているようです。
江城:特に「マヨイの登場シーンは少なくしよう」といった考えはまったくなく、お話の構成的に不自然じゃない活躍をさせています。ただ単に出てきて、何も活躍せず淡々とナルホドくんの隣にいてもいいんですが、折角出すならドラマがないと意味がないので。例えば、マヨイちゃんはクラインで修行中なのに、日本で出てきたらおかしくなりますよね。
山崎:マヨイちゃんを出すことになった段階で「マヨイちゃんを助け出したいよね」となりましたね。
江城:普通に元気にしていたらドラマも何もないですからね(笑)。この何年かの空白の期間はなんやったんと。
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――オドロキくんの展開についても伺えますでしょうか。後半かなり活躍していますよね。
山崎:裏テーマとして「継承」というものを掲げていまして、継承する側とされる側としてナルホドくんとオドロキくんを置き、それぞれのドラマを描きました。信念や戦い方もナルホドくんから引き継いでいます。
――後半に明かされるオドロキくんの設定は昔から想定されていたのでしょうか。
山崎:『逆転裁判4』で語られていた設定をベースにしていますが、新規で考えたものも多いです。
江城:ここは重要な部分ですのであまり話せないんですが、オドロキくんは『逆転裁判4』から登場しているので、語られていない部分が沢山あり、彼自体のバックボーンに触れてみようと思ったんです。ですので、特に「オドロキを推そうぜ」といったことはまったくなく、基本的には「ナルホドくんを立たせよう」です。ただナルホドくんは完成しきっちゃっていまして、日本だと百戦錬磨の状態です。なので、ドラマとして発展途上のオドロキくんが印象強く残っているのだと思います。
これがもし、両方大活躍するシナリオにしてしまうと、クリア後に「結局何を描きたかったんだ?」となると思うんです。その結果、最後はあんな壮大なことになりました(笑)。ユーザーさんのレビューなんかを見ていると、「第5話が凄く印象に残っている」「最後が『逆転裁判3』のクライマックス感がある」という声がありまして、よかったなと。
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――シナリオ構成についてはいかがでしょうか。特に第4話の内容は非常に面白いと思いました。
江城:あれは僕がやりたかったんです。開発的にはキツかったと思うんですが……。
山崎:開発側もやりたい気持ちはありましたよ。
江城:実は前々からこの構成は検討していたんです。でもプロットから見えてくる物量を加味すると、断念せざるを得なかった。ただ今回だけはどうしてもやりたいと。そこで第2話をまず変えました。従来だと探偵パート・法廷パートが各2回あったと思うんですが、本作では各1回だけです。これによりテンポ感が増し、第3話で探偵パート・法廷パートを各2回、そして第4話で『逆転裁判3』第3話の様な本流とは違う事件を入れ、ラストの盛り上がりに繋げていくようにしました。もちろん、これで話が一度途切れるというデメリットもあるんですが、むしろ気持ちを切り替えられるというメリットの方が大きいと判断したんです。
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――さらに本作ではDLCも用意されていますよね。しかもテーマがかなりぶっ飛んでいるとか……。
江城:『逆転裁判』らしいですよね(笑)。
山崎:『逆転裁判5』のDLCの時はシャチが出てきたんですが、それに負けないインパクトとしてタイムトラベルや結婚式というモチーフを使うことにしました。
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江城:同窓会のようにしたくてヤハリ(矢張政志)を出しました。ヤハリは初の3D化でして、幼馴染3人とマヨイちゃんと裁判長という組み合わせは往年のファンにとってはうれしい内容かなと。しかも今年10月で15周年を迎えますですので、それも意識して期間限定で無料にしました。もし、まだダウンロードしていない人はお忘れなく!本編の1話分ぐらいのボリュームがありますので。
――そろそろ時間が迫ってきたのでまとめに入らせて頂きたいのですが、その前に今後の展開を伺ってもよろしいですか。
江城:10月で15周年を迎えますが、みなさんに喜んでもらえる企画を進めています。中長期的に様々なことを考えています。今後の展開にぜひご期待ください。
山崎:これは既にクリアされた方へのメッセージになるんですが、『逆転裁判6』のラストは今後の『逆転裁判』の“可能性を広げる終わり方”を意識して制作しました。誰が主人公で、どんな舞台でも、続編を作れるようにしたつもりです。色々な可能性が開けている状況だと我々は認識しています。まあ。現段階では、具体的な次の展開の予定はとくに何もないんですが(笑)
――最後に、読者へのメッセージとして本作の見所をお願いします。
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江城:かなりドラマチックなシナリオになっていますので、ドラマ展開は見て頂きたいですね。結構ボリュームがあるんですが、ありがたいことに「最後で感動した」「すごく満足です」という感想を多数頂いております。キャラクターの立て方や、謎とサプライズ、そしてモーションキャプチャーを用いた演出にもご注目ください。
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山崎:ドラマ的な所はもちろんなんですが、キャラクターがよく動き、絵的な拘りも今回は凄いことになっています。もう粗を探しても見つからない感じなので、たまにはゲームを止めてじっくり見て頂きたいですね。あとゲーム的には難易度を少し上げていまして、より謎を解いたときの快感が高くなるようにしました。
江城:難易度のポイントはヒントの出し方になります。プレイヤーをどう導いていくのかという部分を最後まで調整しまして、ここが怪しいと示すのではなく、あくまでも怪しい部分を匂わすようにしています。そして「あ、さっきのってもしかしてコレか!」と気がついたときの爽快感やうれしさは『逆転裁判』の原点です。『逆転裁判6』ではそれを実現したかったんです。自信を持って面白いものをお届けできたのではないかと思っていますので、ぜひ遊んでみてください。
――ありがとうございました。
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『逆転裁判6』は発売中で、価格はパッケージ版5,800円(税別)/DL版5,546円(税別)です。
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