◆レフ・ライノールとゲーティア
レフの正体は魔神フラウロスであり、一見悪役。実際“悪”なのですが、悪という一言では言い切れない、ある意味一番どうにもならなかった人物でもあります。『Fate/stay night』でいう言峰綺礼の存在に似ているような……筆者もそうですが、第一印象「言峰」という人もいたのではないでしょうか?『Fate/stay night』で死ぬ運命から外れられないのが言峰綺礼ならば、『FGO』でその運命を与えられてしまったのがレフ・ライノールなのかもしれません。
レフは『FGO』のシナリオの他にも、マンガ「MELTY BLOOD 路地裏ナイトメア」と小説「2015年の時計塔」などに出てきます。「2015年の時計塔」については明確にレフ・ライノールではないのですが、内容や登場する単語から『FGO』に全く関係ないとは言えない内容なんですよね。「路地裏ナイトメア」についてはオルガマリーも登場していますので、気になる人はぜひ読んでみてください。
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そんなレフは終わりまで迷いがあった一柱であり、魔神柱として最後の最後に活動停止をしました。さらには奈須きのこさんの「竹箒日記」に、早い段階で人間に感情移入し、マシュに感情移入をしていたのも……ということが書かれています。レフは二年限定でマシュの魔術部門の恩師だったので、以前は先生と生徒という立場だったようです。プロローグでは「断りもなしで移動するのはよくないと……」とマシュに言っているあたり、オルガマリーから見張っておけと言われていたのかもしれません。そう思うと、一緒にいる時間も多かったのではないかと思われます。魔神柱を自覚したのが2015年なので、それまでは普通に過ごしていたのでしょう。この辺りは、1.5部の新宿と似ている部分もありますね。
さらに終局特異点のアバンタイトルでは、ソロモンが「魔神フラウロスから君の話は聞いていた」とマシュに言っているので、気にかけていたことがよく分かります。しかしソロモンがそれまでにもマシュに声をかけたり、夢などに介入していたので、ゲーティア自身へかなり影響を与えていると言えますね。そのゲーティアは最期までレフの迷いの影響で、ヒトの理解者がほしいとマシュを生かそうとしますが……それまでの発言とは一変、まるで人間のような心の動きと台詞でした。こうしたマシュを思うという人間的な部分を構築したのがレフなのだと思います。そしてマシュが消えた後に「貴様の気持ちは理解できる」という発言、殴りかかっていいとも言いました。ゲーティアとレフは、七十二という魔神柱がいるので完全なイコールではないものの、限りなく近い存在だったのではないかと。
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終局特異点ではゲーティアのモノローグが度々出てきましたが、マシュを「ただの、ごく普通の女の子だったんだよ」と表した言葉に本当に驚きました。もしかしたらマシュを一番理解していたのは、ずっとその旅を見続けていたレフとゲーティアだったのかもしれません。まるで主人公のようです。上記でも言いましたが、ギルガメッシュの発言では、「人類悪は人類を善くしたいと思うもの」。「人類愛」なんて言葉も別の章で使われていましたね。もし人類を救いたいと言う意思を持つものが主人公/ヒーローに成りうるならば、人類悪は主人公/ヒーローに成れたはずの誰かの成れ果てなのでは?ただ、ここでは“生きたい”というごく普通の願いを持つ人間が主人公に成っただけの話で、視点が違ったというだけなのかもしれません。
◆ドクター・ロマンとマシュ・キリエライト
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ロマニとマシュについてですが、ロマニはカルデアに赴任しても、しばらくマシュのことを知りませんでした。マシュがデミ・サーヴァント実験により体調を崩したため、マリスビリーに助けを求められてようやく知ります。ロマニが「初めまして」と言っている回想の時期が2012年と思われるので、マリスビリー死亡前後にマシュと初めて対面している可能性がありますね。なので1部が終わっていない頃に、マリスビリーを殺害したのはロマニではないかと勘ぐっておりました。それも今では笑える話ですが……。カルデアについては別記事でも掲載予定ですのでぜひそちらも読んでみてください。
マシュは2年と短い年数ですが、カルデアに勤務していました。色々な人とも関わっていたらしいということが、2部プロローグで登場したAチームのマスターの話からも分かりましたね。ダ・ヴィンチは、序盤でマシュが初対面のような反応でしたが、「マシュは相変わらず物わかりがいい」と言っているので、別の姿の時にあっているのかもしれません。そう思うと、マスターとの旅で色々なことを学んでいるのはもちろん、それまでに関わった人たちの存在もマシュにとって大きいのではと。「名乗るほどのものではない」「ほぼワニと同義」という言葉のセンスは、書物やそれまでに出会った人々の影響ならどういう教育をしたんだと思ってしまいますが……。
しばらく無菌室の中で生活していたマシュに、一番身近な存在として写っていたのはロマニでしょう。ロマニとマシュは親子のような兄妹のような関係にも見えますが、血の繋がりはもちろんなく、似ていません。でも最後の最後に「二人はこんな所が似ていたんだ」と驚いたところがあります。マシュはロマニに「自分を過小評価しすぎ」と叱咤激励したり、度々似たようなことを言っていました。でも、マシュは「悔しいです」背を向けて言った後に「最後に一度くらいは、先輩のお役に、立ちたかった」と。この台詞を見た時の気持ちは言葉にできません。一番自分を過小評価していたのはマシュだったんです。その時のマシュの思いが、マシュが自分の生を肯定した事が、ロマニの覚悟を決めることになりましたが……ここが話の妙と言うか。ロマニはマシュの死を知っても生は知らず、マシュはロマニの死を知らず生を得ました。だとしても、本物の青い空をマシュが見たことは、ロマニの願ったことのひとつではないかと。
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そういえば、この物語は主人公がマシュの手を握ったことから始まりました。だからこそマシュは、自分の物語の終わりに手を握ってほしかったのかもしれませんね。
◆まとめ
この章はひたすらに一個の選択肢が多かった印象ですね。完全に意思を委ねている感じで自由がないなぁと思ったこともありましたが、よくよく考えれば「進む」という選択肢が与えられていました。スキップもできるし、ゲームの電源を切る事だってできましたが、進むことを選んだのはプレイヤー自身。たくさんのアプリゲームがある中で『FGO』を選び、最後まで進めたマスターたちだけが得られるもの。それが2016年の末にあったのです。
ということで、「第1部を改めて振り返ろう」短期連載、いかがでしたでしょうか?こんな過酷な企画をどうしてはじめてしまったのだろうと頭を抱えましたが、第2部が始まる前に最後の記事が終わって良かったです。ここまで読んでくださりありがとうございました。筆者はこの後知性も特性もなくなりますが、年明けに掲載する『FGO』記事も準備していますので、そちらも楽しんでいただければ幸いです。皆様、良いお年を!
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