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巷では「平成最後の夏の日」とも呼ばれる8月31日。
やがて来る未来に、大きなターニングポイントとして語り継がれるであろう“音楽ライブ”が行われました。筆者がそれを目の当たりにしたのは、渋谷のライブハウスでも、ましてや武道館でもドームでもなく、まばらに人が帰宅をはじめている編集部の片隅で。
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そのライブとは、2017年12月9日にデビューし、その個性の権化のようなキャラクターから、常にシーンで特異な存在感を放ち続けているバーチャルYouTuber・輝夜月によるVR音楽ライブ「輝夜月 LIVE@Zepp VR」。バーチャルイベントプラットフォーム「cluster.」の特設会場で催されたこのライブは、先着200名のチケットを手に入れられれば、VRデバイスやPCを介して“好きな場所で体験できる”というこれまでにない試みで、7月14日に発売された同チケットはものの10分で完売。同時に全国7都市15劇場で実施されたライブビューイングは、延べ5000人以上の動員を記録したのだとか。
注目のオリジナル曲『Beyond the Moon』を引っ提げ、約1時間を彼女らしい破竹の勢いで駆け抜けた本ライブ。本稿では、運よくVRで体験できた筆者がその様子をレポートしていきます。
バーチャル空間に建てられたZepp VR
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なお本ライブの観戦に際し、筆者は使用したのはHTC Vive。ライブ開始時間の40分前くらいにcluster.にログインしましたが、バーチャル空間はすでに待機中の人でごった返していました。通常cluster.は自前のアバター(持っていなければロボット型のアバター)で参加できるのですが、今回は観客全員がエビフライを模した通称「エビアバター」姿に。
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ボイスチャット機能がOFFになっているので声こそ聞こえませんが、ある者はそわそわと歩き回ったり、ある者はしきりにエモーションを確認したり……周囲に漂う独特の緊張感。ライブ直前のこの感覚はリアルと変わりありません。
そんななか、ふいに流れるのは輝夜月本人(厳密には、彼女が生み出したゆるキャラのジャスティン・エビーバーとパブロッコリー【名前が長いので省略】)によるマナーの注意喚起――「VRのおまえら普通にキャプチャーするやろ?キャプチャーしまくれ。いっぱいしまくれ。けど録画はアカン、静止画はOKや!ていうかもうしてるやろ?早いやん?仕事早いやん?」
ありがとう月ちゃん。既に100近くキャプチャーを撮っていたよ。なんか落ち着かなくてさ。
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ようやく入ることのできたZepp VRの内部には、想像以上にポップな空間が広がっていました。これでもかとあしらわれた輝夜月のイメージカラーの青・赤・黄色。あらゆるものが宙に浮いたなるほどバーチャル上でしか存在しえないステージ。さらに特筆すべきはアバター同士が接触することがないので、好きな場所に自在に移動することが可能だということ。言わば観客席すべてが窮屈から解放されたアリーナ席なんです。
エビーバーとパブロッコリー【以下略】による顔芸込みの3度目の注意喚起が終わると、主役の登場を前に、観客全員の視線がステージへと注がれます。
準備はオッケー?できたら返事!カグヤルナライブが幕開け
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場内の期待が最高潮に達しようとするなか、彼女はいつもどおりの彼女でした。
ようやく輝夜月の姿を捉えることができた!と思いきや、おもむろに始まったのは「VR ラジオ体操」。このラジオ体操、彼女のことなので当然の如くどんどんとカオスな方向に向かっていくのですが、それらにエモートでしっかりと反応していく観客にはさすがの一言。
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以前にcluster.を利用したことのある人は、そのイキイキとした動作に驚いたことでしょう。よく考えれば、彼女が行っているのは人体の基本動作が詰め込まれた“体操”。「VR ラジオ体操」には、大舞台の頭に“輝夜月らしさをぶち込む”だけではない、これから起こることへの宣誓が込められていたのかもしれません。少なくとも筆者は「まだ動きどうこうを気にしてるの?」と言われているような気がしました。
ぬるりと始まれば、終わりも静かな「VR ラジオ体操」。その後はステージ上に現れた巨大なスクリーンで輝夜月の軌跡を振り返ります。初めての「おはよおおおおおおおおお!!」が遠い過去の話のようでしみじみ……。と感慨に耽っていたのが筆者だけではないことは、周囲の反応(エモーション)を見てわかりました。そして、ライブの本番はここから。
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そうここはバーチャル世界。突然巨大なものが現れようが、中から美少女が飛び出そうが何でもOK。先ほどまでの会場の空気は一変し、テンポの良くラップバースが飛び出します。待ちに待ったオリジナル曲『Beyond the Moon』初披露の瞬間です。
一気に開放するシャウト。四方八方に広がるレーザー。(実際に)盛り上がるステージ。HMD越しに伝わる圧倒的な熱、熱、熱――。
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『Beyond the Moon』の作詞は輝夜月本人によるもの。みんなと一緒に歌いたい!そんなドストレートな感情が込められた歌を全力で歌い上げた彼女の姿に、観客はエモーションで大喝采を送っていました。
その後のMCでは、お馴染みの「おはよー!こんちわー!こんばんわー! おやすみー! おきてえええええええ!」を会場一体となってコールし、空気を温めていた輝夜月。とはいえ彼女も緊張はしていたようで「みんなが幸せを感じる時ってどんな時? 」という次の曲に繋げるセリフを投げかけるも、「うわー!5000円払って来てくれたのに台本全部忘れた」と苦笑い。
「まぁいいや!『幸福論』!」と勢いのままに2曲目がスタートしました。そう、あの椎名林檎の『幸福論』です。
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ここで度肝を抜かされたのが、ステージが浮かび上がり、縦横無尽に上空を動き回る演出。これがニコニコ動画だったなら、画面いっぱい「飛んだあああああああああ」というコメントで埋め尽くされていたことでしょう。原曲よりもアップテンポに、アルバムverよりもロックにアレンジされた輝夜月の『幸福論』は、まるでリアル・バーチャルすべての人に向けた応援歌のように聞こえました。
ただこの時、筆者が気になったのが一点。間奏の間に彼女が合いの手を求めたのですが、こちらはコマンド入力で行うエモーションでしか感情を表現できないので、その声に答えるのがなかなか難しい。ライブならではの“一体感”をどこまで追求できるのか、やはりこの部分は大きな課題なのでしょう。
リアルではちゃんと叫んでたんだよ。月ちゃん……。
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『幸福論』が終わると次がいよいよラストの曲。その前に、エビーバーに跨った輝夜月が軽快なトークを繰り広げます。Twitterで募集していた質問に答えるコーナーや記念撮影など、演者と観客がつながる至福のひと時。VTuberを始めた理由を「友達が欲しかったから」と答え、その後にバーチャル空間に集った200人の友達と記念写真を撮る場面には、思わずグッと来るものがありました。
カグヤルナライブ
— 輝夜 月 (@_KaguyaLuna) 2018年8月31日
どーだった!?
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あとでゆっくり読ませてーー!!!#カグヤルナライブ#ZeppVR
でツイートしてくれええええええ!!∠( 'ω')/
めっちゃ楽しかったァァァァァ!!!!!! pic.twitter.com/vYjGSIGFHU
和やかな雰囲気に満たされますが、忘れてはいけないのはここが輝夜月ワールドだということ。「エビーバーのエモートをいっぱい出すと良いことがある」という彼女の言葉を聞き、多くの人がエモートを連打していると……。
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びっくり展開の目白押しの果てに、アンコールで熱唱するのは2回目の『Beyond The Moon』。目の前で全力で歌う月ちゃん。サイリウムを振る観客。この時には筆者はもう、もはや自分がどこにいるかなんてどうでもよくなっていました。とってもどうでもどうでもいい!!みんなと一緒に最後までライブを楽しもう!……と。
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ラストでは目の前で巨大な花火が炸裂。こうして電光石火のようにライブは終幕を迎えました。およそ1時間弱・曲数は3曲というプロのライブコンサートでは苦言を呈されかねないボリュームではありましたが、少なくとも筆者は大満足です。今まで味わったことのない体験の連続。確かに残る遊園地のVRアトラクションとは違う、ライブに参加していたという実感。少なくともVRで参加できた方々は同じ思いをしているはずでしょう。もちろん、まだまだ進化の余地が残されているのも間違いありませんが。
ちなみに、バーチャルならではの演出は何もライブ中だけではありません。現実のライブであれば、すべての曲目が終わると会場の電気がついて、半強制的に日常に引き戻されがちですが、本ライブは最後の最後にもバーチャルならではの仕掛けが。
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『Beyond The Moon』の歌い終わり、大きな爆発に飲み込まれたかと思いきや、視界が開けると目の前には一部がバラバラなった会場が。遠くには地球、ゴツゴツとした地面――そう、自分たちが居たのは月に設営されたステージだったのです。空に描かれた「Thank you for Coming today」の文字が、心地よいライブの余韻を残します。
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そんなこんなで待ち時間などを含め、約1時間30分の間堪能した初めてのVR音楽ライブ。幸福や満足感いっぱいで過ごすひと時のことを、「夢のような時間」と表現することがありますが、好きな場所で参加でき、現実ではありえないサプライズに満ちた本ライブはまさに夢そのものと言える体験でした。ともすればVRシーンだけでなく1998年のGorillaz結成。2017年からの初音ミクを中心としたボカロブームに続く、音楽史の事件としても記録され続けることになるかもしれません。
本ライブを指標に、かつてないライブエンターテインメントが増えていくことが非常に楽しみですね。