鮮やかに蘇る「温かい音色」…格調高い古楽が薫る『FFCCリマスター』の音楽

『FFCC』を語る上で外せないのが楽団「ロバハウス」による古楽器。その魅力をたっぷりご紹介します。

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鮮やかに蘇る「温かい音色」…格調高い古楽が薫る『FFCCリマスター』の音楽
鮮やかに蘇る「温かい音色」…格調高い古楽が薫る『FFCCリマスター』の音楽 全 2 枚 拡大写真

2003年にゲームキューブ専用ソフトで発売された『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』(以下FFCC)。旅情とぬくもりを表現した世界観が高い評価を受け、同年の第7回文化庁メディア芸術祭においてエンターテインメント部門を受賞しました。表彰コメントには「グラフィックス、音楽ともに、2003年の作品に相応しい一級の仕上がり」とあり、映像面とともに全編にわたって古楽器を使用したサウンドも受賞理由に含まれています。

当時のサウンドトラックは絶版となりプレミア値が付いていましたが、このたびのリマスター版発売に併せて、新規録音を含めた「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル リマスター オリジナル・サウンドトラック」として発売されました。

本作の以前から「ロバの音楽座」ファンだった筆者は、CMでTVから「カゼノネ」が聞こえてきて驚いたのを覚えています。日本ではケルティックブームが来ていましたが、古楽器・民族楽器の演奏者はまだ少ない時期でした。

現在の民族楽器演奏者が影響を受けた作品を挙げると、その多くが当時のゲーム音楽であり、植松伸夫氏の『ファイナルファンタジー』、光田康典氏の『クロノ・クロス』と並んで、谷岡久美氏の手がけた『FFCC』が出てきます。ハードの制約から生演奏の楽器が流れることが珍しかったこの頃、「温かみのある音楽」を実現した本作の音楽は、ゲーム音楽史における1つのターニングポイントと言えるでしょう。今回はそんな『FFCC』を彩る音楽の魅力をたっぷりとお届けします。

不思議な音色、古楽器とは?


本作で用いられる楽器は「古楽器」と呼ばれるものです。アジアの民族楽器も一部含まれていますが、「ヨーロッパで一度廃れてしまった楽器」を指します。現在のオーケストラにあるような、より澄んだ音、より演奏しやすい楽器に改良される中で、レンジが狭い、音量が出ないなどの理由で使われなくなったもの、それが古楽器です。クラシックの体系的な音楽教育から外れているため、奏者、楽器制作者ともに少数ですが、木や革の質感を含んだ独特の音色が大きな魅力です。

本作で用いられている楽器の多くは15世紀以前の中世、ルネサンス時代のもの。メロディーとアンサンブルも現在の音楽体系は異なるもので、アジアにルーツがあるオリエンタルな雰囲気を色濃く残します。(参考:古楽器とは? -ロバハウス)


古楽器は構造や奏法によって出しにくい、または出せない音が多く、現在の楽器と比べると作曲に大きな制約があります。これが廃れる要因になってしまったのですが、『FFCC』では演奏者のアドバイスを受けながら「古楽器で完全演奏可能」である曲を実現させました。

楽団「ロバハウス」について





彼らがいなければ『FFCC』は名作たり得なかった、といっても過言ではありません。本作の演奏を担当したのは「ロバハウス」という古楽器専門楽団です。中世の音楽を演奏する「カテリーナ古楽演奏団」、オリジナルの曲を使った子ども向けの楽劇団「ロバの音楽座」、2つの名義で活動しており、アニメ「ゲド戦記」「八男って、それはないでしょう!」などの作品にも参加、NHKEテレにも出演しました。『FFCC』では中心メンバーの松本雅隆氏と上野哲生氏が演奏者としてクレジットされています。



メインになるロバの音楽座は“こころあたたまる「音と遊びの世界」を子どもたちに”をコンセプトに公演活動を行っています。子ども達の芸術鑑賞を支援する「こども劇場(おやこ劇場)」を通じて全国を回っており、チャンスがあればあなたの街で「ロバ座」の音楽を間近で聴くことが出来ますよ。東京都立川市には自前の演奏拠点「ロバハウス」を構え、モーグリハウスがそのまま飛び出したような空間の中で、古楽の演奏やワークショップを楽しむことが出来ます。

過去のインタビューでは、『FFCC』以前に植松伸夫氏が同じく古楽を基調とする『ファイナルファンタジーIX』の「いつか帰るところ」演奏をオファーしていたことが明かされています。後の「BRA★BRA FINAL FANTASY」では松本氏による古楽アレンジが実現しました。



主な楽器の紹介



演奏に使用した楽器の紹介はロバハウスのホームページとサウンドトラックのライナーノーツが詳しいので、本稿ではその中からピックアップして紹介します。こちらの映像では多くの楽器の実演を見られるので、どんなふうに音を出しているのかを確かめてみてください。

リコーダー


本作の主旋律の多くはリコーダーによるもので、「ロバ座」サウンドの中核になる音です。もちろん学校で使うものと同じで、中世音楽で大活躍した立派な古楽器。「小学生の楽器」というイメージがありますが、プロの手にかかれば柔らかく気品のある音色が出ることは、ゲームをプレイしたならよく知っているでしょう。

ハーディガーディ


本作に登場する「ハーディ」と「ガーディ」の名前の由来はこの楽器です。バイオリンと同じ擦弦楽器で、弓の代わりに回転する手回し車輪を使って音を出します。最大の特徴は「ドローン音」と呼ばれる常に鳴っている音と、鍵を使って弾くメロディの音、この2つが不安定にギリギリと鳴るところ。弦楽器ながらバグパイプのような音を出し、見た目から珍妙楽器の代表で時々見かけますね。シエラの里で流れる「アミダッティも、エレオノールも」ではソロパートがあります。

ショーム、リュート、コンサーティーナ、タンバリン



村に帰還したときの宴では、それぞれの種族が特徴的な楽器を演奏しています。このうちリルティのショーム、クラヴァットのリュートはサウンドトラックで実際に使用されています。ショームはオーボエの原型となったリード楽器で、ラッパのように膨らんだ下部が特徴的。「大海原をながめて」のメロディーを吹いています。

ユークが持つコンサーティーナは産業革命以降に開発された小型のアコーディオンで、古楽器ではないので本作には使われていません。先進的なユークのイメージに合わせたのでしょうか。

「リマスターバージョン」ここが聴きどころ


ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル リマスター オリジナル・サウンドトラック | SQUARE ENIX
今回のリマスター版では新規書き下ろしが2曲、全体の音色差し替え、主題歌の新規録音と、音楽面においても大幅なバージョンアップが行われました。特に「誓いは永遠に」「風のこえ、時のうた」は主旋律が違う音に替わり、オリジナルとは大幅に違うものになっています。
新曲のうちクリア後の高難度ダンジョンで使用される「戮力協心(りくりょくきょうしん)」は、それまでの楽曲とは大きく印象が異なり、テンポの速い疾走感溢れるバトル曲に仕上がっています。全体的にどこかドライで影のあった本編とは打って変わって、タイトル通り強敵に一致団結して挑む力強さを表現しており、新たな名曲となる予感がします。

そしてなんといっても、再レコーディングした「カゼノネ」「カゼノネ~rewind~」は、かつて聴いていた人にとっても新しい驚きのある仕掛けが加えられています。古楽器のみになるサビ後のブリッジが、オリジナルと新録を重ねた「17年越しの2重奏」となっているのです。2番の歌詞もかつてのキャラバン隊ならぐっとくる内容なので、是非自分の『耳』で確かめてください。

主題歌2曲はDonna Burke氏による英語版も同時収録。なお、オリジナル版の「星月夜~アレンジバージョン~」はリマスター版には収録されていません。現状では入手する手段はなく、オリジナル版のみのレア音源になりました。

さらに、スクウェア・エニックス公式通販「SQUARE ENIX e-STORE」で本サウンドトラックを購入すると、特典として主題歌2曲の「2003 Roba instrumental ver.」が付いてきます。こちらはロバハウスの古楽器のみで演奏されたバージョンで、「星月夜」はティンホイッスルがメインを吹くケルトを感じさせるアレンジ。「ロバ座」ファンの方、またこれから「ロバ座」ファンになる予定の方は、こちらも必聴です。

おわりに


今回のリマスターで再びレコーディングに携わったロバハウスですが、新型コロナウイルスの流行によって4月以降多くの講演がキャンセルまたは延期になりました。今ではゲーム音楽に欠かせなくなった演奏家の多くが、疫病対策のために活動制限を余儀なくされています。特に管楽器は飛沫感染のリスクが高いとされ、レコーディングの体制もまだ手探り状態です。

ロバハウスをはじめとする演奏者を失わないために、気に入った音楽があればクレジットを見て、どんな人々が奏でているのかを是非チェックしましょう。そして、出来ればCDや配信楽曲を購入して支援していただければ幸いです。

星月夜の音楽祭 at Billboard Live Tokyo


《Skollfang》

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