箱の中にただ一人いる月ノ美兎は、暗い会場を照らす月の光 「月ノ美兎は箱の中」ライブレポート

11月16日に行われたにじさんじ所属VTuber月ノ美兎のライブ「月ノ美兎は箱の中」。

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箱の中にただ一人いる月ノ美兎は、暗い会場を照らす月の光 「月ノ美兎は箱の中」ライブレポート
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11月16日に行われたにじさんじ所属VTuber月ノ美兎のライブ「月ノ美兎は箱の中」

タイトルの「箱の中」は色んな含みがあるようで、「ライブハウスの中」という意味を感じていた人は少なくなかったようです。ところがライブ後の最速感想配信の中で月ノ美兎は、箱の中にいるのは自分一人だけ、と明言しました。

「段ボールのまま台車に乗せられ、そのまま運ばれる」「その瞬間わたくしは、どんなイベントの時よりも、どんな配信の時よりも、「今は紛れもなく自分が主人公」だと感じたのだ。」(月ノ美兎著『月ノさんのノート』3時間目「月ノ美兎は箱の中」より)

2018年6月1日に阿佐ヶ谷ロフトで行われたイベント「月ノ美兎の朝まで起立しナイト(仮)」でのエピソード。エッセイ集に書いた際つけられたタイトルが、今回のライブタイトルになっています。ファンに見つからないよう、月ノ美兎が段ボールに入って運ばれた、という今では考えられないとんでもエピソード。

しかし彼女はその状況の面白さを楽しみ「何が起きるか分からないワクワク感(『月ノさんのノート』より)を感じていたとのこと。

今回のライブで「箱の中」という舞台に立てるのは、月ノ美兎だけ。観客は箱の中で最高のパフォーマンスをする月ノ美兎を観ていました。

■ライブを通して形作られた箱の中と外の表現構成

今回のライブは待機BGMからエンディングまで含めて、一つ芯の通った演出で構成されています。「月ノ美兎」という存在を箱に詰め込んで、あらゆるアプローチから今までの活動を表現する挑戦です。

彼女は開幕前BGM「雲は流れて」。これは月ノ美兎の配信の時に使用されているフリー素材BGM。

この曲を聴くと月ノ美兎を連想するVTuberファンはかなり多いです。そこからOPと映像の「月の兎はヴァーチュアルの夢をみる」がかかります。月ノ美兎の声をサンプリングした、ASA-CHANG&巡礼の作品。歌ってはいません。

セットリスト一曲目は、ボーカル曲という意味では「光る地図」からなのですが、月ノ美兎は「雲は流れて」がセットリスト一曲目だと捉えてほしい旨を述べています。

月ノ美兎を形として表現する舞台だと考えるなら、「雲は流れて」も「月ノ美兎」という存在・キャラクターを表す、欠かせない大事なファクターだからなのかもしれません。

箱に詰められて送られてきた月ノ美兎。ちょこんと飛び出して、「光る地図」や「魅惑の巴里サーカス急行!」で一気に会場をサーカスのように華々しいものにします。

特に「魅惑の巴里サーカス急行!」はABEMAの番組「にじさんじのくじじゅうじ」の二期でかかっていたOP曲。少し違う姿の月ノ美兎の映像も入ります。ここでのダンスのかわいらしさはちんまりした彼女ならでは。

「ウラノミト」では今までのステージ衣装の月ノ美兎と、今回のために作られたステージ衣装の月ノ美兎がふたり登場。魂を移すようなシチュエーションが披露されました。

「ウエルカムトゥザ現世」では謎ノ美兎のバックダンサーならぬフロントダンサーが4人登場して大暴れ。「NOWを」ではきぐるみノ美兎が直接会場でファンサービスをしまくります。月ノ美兎というおもちゃ箱をひっくり返したかのようです。

中盤のチルな曲パートで披露された「ありふれた毎日の歌」「部屋とジャングル」のつなぎはかなり印象的。どちらも心地いい明るめの曲なのですが「お城の中」「部屋の中」にいる存在の歌です。出られないことを示唆している作品が続きます。

問題の「NOWを」で暗闇の中の孤独と、今を楽しむ心両方を表現。この曲がスイッチとなってライブステージは大きく空気が一変。グランドフィナーレに入る前の、クライマックスでした。

アンコールの「アンチグラビティ・ガール」で会場を宇宙の無重力に引き込んだ後、彼女はまたオープニング同様に、段ボール箱の中に詰め込まれ去っていきます。そこで入るのが、先程のエッセイの一節です。

「箱」の曲は全て、月ノ美兎を多面的に表現したものでした。ダンスと歌の技術を磨いてキュートな「月ノ美兎」を表現しながら、ワクワクと不安、ハッピーとカオス、そしてムーンライトあふれる月ノ美兎ワールド。

会場で映し出された映像や、配信でしか観られないタイポグラフィの表現も細かく、観るたびに新たな月ノ美兎を発見できるはずです。

■深い闇の中で

先程もあげた「NOWを」は、今回のライブでファンに期待されていた曲のひとつです。いとうせいこうによる入り組んだ作詞が特徴的な、ポエトリーやラップパートが入る難曲です。

ライブで魅せるとなると表現の面でかなりハードな曲なのですが、この曲は今回のライブ「月ノ美兎は箱の中」の軸となる作品として据えられていました。

巨大なステージから深い闇を見ているロックスターのつぶやきから始まります。そこから一気に、てっぺんまで行こうと躁になったり、暗闇の虚しさに浸る鬱が行ったり来たりする、感情のジェットコースターのような内容です。

この作品を歌う彼女の鬱パート部分では「やっぱり舞台からは真っ暗なんだろうなあ」というコメントも流れました。

歌詞の中には、観客に問いかけても声が聞こえないという内容のパートがありますが、このご時世あいにくにもファンは声を出したくても出せません。

観客側からは「そんなことないよ」とすら言えず、偶然にも再現してしまいました。ステージに一人で立っているときに見る景色と心境は、観客には体験できません。

心細い孤独パートから決別し、手を高く掲げる躁パート。ファンの方を向いてサービスも繰り出します。

力強い笑顔で会場を煽り、ファンはペンライトを激しく振り、きぐるみがかわいく踊りました。彼女はこの曲で闇を照らす側になり、観客も彼女を照らす光となりました。

この前の曲が深海の暗闇を歌う「ラブカ?」のカバーだったのもあり、彼女が暗闇から立ち上がり今を輝かんと腕を振り上げた時のまばゆさは力強いものでした。

ここまでの数多くの曲をアイドル衣装で高らかに歌っていたにも関わらず、この曲以降いつもの制服に戻ります。アイドルから原点の女子高生に戻ったのは、魂をこめた叫びと笑顔で、自身のアイドルの意味を一旦完成させたからのように見えました。

「NOWを」が持つ憂いと熱狂は紙一重。それはCDで聴いても感じられるかもしれないけれども、やはりライブでステージに立ち、観客があふれる中で表現してこそ、真の意味で感じられるものです。

ライブの光と闇のコントラストは非常にエモーショナルですが、普段配信をしているVTuberの孤独とファンのコメントの数もまた、味のあるもの。

ファンはいつも配信で、月ノ美兎がエンターテイナーとして楽しませてくれているのを知っているから、この曲をより一層噛みしめることができます。感情をグラグラさせるこの作品を「年取った後に歌うといい運動になりそう」と言ってネタにできちゃう彼女だからこそ、安心してついていけます。

■最高の見世物として

今回のライブ中盤で披露された人気曲「みとらじギャラクティカ」は、地球の衛星軌道上特設スタジオから、銀河にいるリスナーの脳内に直接伝えるというスタイルの作品です。

ハリボテの後ろから元気いっぱいに歌い叫ぶ彼女の姿、DJ風味のかわいさあふれるダンスが見られました。このあたりはARライブの時からグッと熟練した彼女の「背伸び感」「ワクワク感」の演技表現が見られます。

今の所リアルイベントでのコールアンドレスポンスがまだできていないので、はやくやりたいところです。ライブのキラーチューンとして今後も続くようですし、洗濯機も色々な形で爆発するのでしょうか。

設定は壮大なのですが、実は彼女が立っているのはハリボテのブース、というのはARライブの時から仕込まれていたネタ。キラキラしたアイドルの姿でありつつサービス精神が詰まった曲です。

かわいくあってほしい。かっこよくあってほしい。でもやっぱり、面白くもあってほしい。月ノ美兎に求めたくなる要素をしっかりおさえた茶番マシマシな作品です。なにより見た目どおり「箱の中」で歌う曲としてコミカルなのが楽しいところです。

■闇を照らす月

彼女の楽曲には、名前にある「月」を表現した作品が数多くあります。今回のライブで披露された「ウラノミト」「Moon!!」などでも、月光が歌われていました。

「それゆけ!学級委員長」「Moon!!」「アンチグラビティ・ガール」の3曲は、月ノ美兎入門編かつ決定版と言える作品。中でも「Moon!!」は2018年3月(月ノ美兎は2月デビュー)はファンが作った作品で、いまだに歌われ続けているキャラクターソング的な名作。

今回この2曲を後半に持ってきた彼女、歌の安定感もさることながら、ハキハキした動きと笑顔が非常に多かったのが印象的。感情がバーチャルを突き抜けて観客に届いてくる状態の、なんと心地のよいことか。

ところで「Moon!!」のラストが気になります。アドリブで月ノ美兎は、箱の中のみんなまでこの歌届けたい、と叫んでいます。

ラスト再び箱の中に入って運ばれていった月ノ美兎。そこから見える視聴者たちもまた、自分という箱の中にいる主役。箱と箱がつながっていけば、重力を越えた大きな宇宙が広がります。さながらインターネットのように。

「運ばれている時間は、本当に短く感じた。実際は距離的にそう短かったわけじゃないけど。」(月ノ美兎著『月ノさんのノート』3時間目「月ノ美兎は箱の中」より)

この発言自体は月ノ美兎が段ボールで運ばれていた時のものです。しかし今回のライブの感想として、そのままこっちのセリフとして使いたくなります。濃厚な月ノ美兎体験でした。

セットリスト

M1.雲は流れて(開幕前BGM)

M2.月の兎はヴァーチュアルの夢をみる(OP)

M3.光る地図

M4.ウラノミト

M5.魅惑の巴里サーカス急行!

M6.こんがらがった!

M7.ウエルカムトゥザ現世

M8.ありふれた毎日の歌

M9.部屋とジャングル

M10.みとらじギャラクティカ

M11.恋?で愛?で暴君です!

M12.ラブカ?

M13.NOWを

M14.浮遊感UFO

M15.それゆけ!学級委員長

M16.Moon!!


en1. Wonder NeverLand

en2. アンチグラビティ・ガール



《たまごまご》

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