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※注意※ 本稿は『ファイアーエムブレム 風花雪月』の重大なネタバレが含まれます。同作品をこれからプレイする予定の方はご注意ください。
任天堂のシミュレーションRPG『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』/『ファイアーエムブレム 紋章の謎』のラスボスであるメディウスは、竜人族によるドルーア帝国を率いて人に仇なす暗黒竜です。
高いHPに加えて自身が受けるダメージを半減させる能力を持つので、戦ったプレイヤーはその強さに戦慄を覚えたことでしょう。さらに、2010年にニンテンドーDSで発売されたリメイク作品『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』における最高難度では、味方ユニットのHP最大値が60、各ステータスの最大値が20~30であるのに対しHP99、力・技・守備40、速さ30という凶悪極まりないステータスで登場。
決定的なダメージを与えられる神剣ファルシオンを唯一装備できる主人公のマルス王子でさえ、速さを最大値まで上げていないとメディウスの追撃を止められずに1戦闘で確実に倒されるという強さで、プレイヤーをさらに震撼させました。
ストーリー面では、『FE』シリーズ1作目である『暗黒竜と光の剣』におけるメディウスは前述したように分かりやすい諸悪の根源として描かれました。しかし、その1年後に再び起きた大戦を描いた『紋章の謎』では彼の過去が明らかになり、イメージが変わります。
かつてのメディウスは人間に敵対的ではなく、むしろ人と共生する姿勢でした。それにも関わらず、神竜王ナーガが残した竜人族の至宝を奪い、さらには竜人族をマムクートと呼んで蔑む人間たちの姿を見て深く絶望し、憎むようになったのでした。
しかも、宝を奪った盗賊のアドラは、それを売り飛ばして得た巨額の資産でアカネイア聖王国を建国。真相を知らない人間たちからは偉大な健国王アドラ1世と敬われる始末です。そうした時代の趨勢を目の当たりにしたメディウスが、より一層憎悪を募らせていったことは想像に難くありません。
『紋章の謎』と『風花雪月』に見られる共通点
このメディウスとアドラの関係性は『FE』シリーズ最新作『風花雪月』の過去において起きた、聖者セイロスが解放王ネメシスを討ち取った英雄戦争にも通ずるものがあります。
解放王ネメシスは「力に溺れ、道を誤ってしまった英雄」と現代に伝えられていますが、正体は「女神ソティスの聖墓を暴き、その遺骨から作った強力な武器・天帝の剣を振るって戦った」という蛮族同然の人物でした。
また、セイロスも伝承では人間(聖者)であるかのように伝えられていますが、正体は白き者と呼ばれる女神の生み出した眷族であり、作中の現代でもセイロス教の大司教レアと名乗って生き続けています。
そしてレアは『風花雪月』で4つ用意されたルートのうち「紅花の章」と「銀雪の章」のラスボスでもありました。これらのことから、メディウスとアドラ、セイロス(レア)とネメシスには以下のような共通点が見られます。
- 英雄として伝えられるアドラ/ネメシスは、実は賊にすぎなかった
- メディウス/レアがラスボスとなった原因は、アドラ/ネメシスの悪行にあった
あくまで「たられば」の話ではありますが、かつて女神ソティスが眠る聖墓が荒らされたりしなければ、レアも『風花雪月』本編のような無茶や負担にさらされずに済んだのでは…と思います。
そして『風花雪月』の開発の大部分を担うコーエーテクモゲームスのスタッフには『FE』シリーズのファンが多く在籍していることが明らかにされています。そうした背景も考慮に入れると、この二組に見られる類似性は意図的なものと考えることもできます。
2作品それぞれの物語がクライマックスに至るまでの過程は大きく異なりますが、『風花雪月』はコーエーテクモゲームスが『紋章の謎』にあてた熱烈なラブレターだったと言えるかもしれません。
マルス王子を主人公とする『ファイアーエムブレム』の第1部「暗黒竜と光の剣」と第2部「紋章の謎」がセットになったスーパーファミコン版『ファイアーエムブレム 紋章の謎』は、Nintendo Switch Onlineで配信中です。