「さくゆいはあります」
「みんながいる限り「さくゆい」は存在する。」
「さくゆいは作れる みんながいる限り。」
これは「にじフェス2022」の会場に書かれていた、にじさんじライバーの笹木咲と椎名唯華本人による落書きです。「あります」というのはてぇてぇ(尊い)組み合わせだという意味。「自分でいうな!」と突っ込まれるまでがネタ。
しかし今回のこの落書きで一気に意味深になりました。観測されることによって「さくゆい」は存在し、作り上げることができる。ってことは天然ではないのか?
2022年10月1日(土)・2日(日)に幕張メッセで開催された「にじさんじフェス2022」。その前夜祭として9月30日(金)に行われた「にじさんじ 4th Anniversary LIVE「FANTASIA」 Day1」はにじさんじの女性組による、1月22日に行われるはずだったライブの振替公演です。さくゆいも参加しています。
一日目の女性参加者は個性激強なメンバー揃い。予想を遥かに超えるほどに、各々が自身のキャラクター解釈を見せ、技術を魅せたイベントになりました。
その中において、はたして「さくゆい」はあったのか? 今回のレポで追っていきます。
◆同じでバラバラな衣装。
オープニング曲は「Virtual to LIVE」。初のおそろいコンセプトのアイドル衣装での出演です。ただしベースになるデザインは通じているものの衣装構成は全く別物、というあたりには歌詞の「見てる明日がそれぞれでも歩いて行こう」が反映されているのでしょうか。
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個人曲一曲目はキュートさ炸裂で観客を一気に盛り上げた、笹木咲の「シンデレラ」。ちょっともじもじしている歌詞を元気いっぱいに歌い、一発で会場を笹木咲色に染め上げました。
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続く樋口楓、相羽ういは、白雪巴の「Shocking Party」は「ラブライブ!」に登場するカリスマあふれる3人組グループA-RISEの曲のカバー。白雪巴は後の配信で、「A-RISEになりたいって、思ったの。あの、伝説の」と述べています。彼女たちはA-RISEとはイコールではないかもしれないけど、キレのあるダンスでカリスマ性を見せつけてくれました。
◆ハマりすぎな曲のオンパレード
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こんな曲あったんだ!?とファンやライバーを驚かせたのが、椎名唯華と夜見れなの「エライエライエライ!」。何もしていないことすらことも「えらい!」と褒めるこの作品を、甘えん坊な椎名唯華と夜見れなが歌う。ふたりのオリジナル曲なんじゃないかというハマりっぷりです。観客側も褒められて幸せになれるのがポイントです。
次に登場する月ノ美兎は、でんぱ組.incの「サクラあっぱれーしょん」をチョイス。両腕をぴんと伸ばし、体全体を使って踊るアイドル性を披露します。
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彼女はステージ経験も豊富。であるがゆえに「VTuberがライブをやる意義」「VTuberのライブを見に来る意義」を考えているようです。
「現地に来れてよかったって演出ができたらいいなって」と、感想配信で語っていました。
彼女が考えたのは、歌詞にあわせて舞う花吹雪。月ノ美兎がいかにして月ノ美兎らしさを見せつつ、自身のエンタメを表現するか、考え抜かれたステージでした。
次に樋口楓のオリジナル曲「イロドレ・ファッショニスタ!」が披露されます。この曲はランティスから発売されている「i^x=K(いこーるわたし)」に収録されている楽曲のひとつ。彼女の大好きなファッションと、頑張ってきたメジャーでの歩み、両方がダイレクトに伝わる素敵な一曲です。
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明るく優しい空気から一点してハードな姿を見せたのが月ノ美兎、夜見れな、白雪巴の「アオノショウドウ」でした。特に夜見れなは先程のかわいらしさモードから完全に切り替わり、新たな魅力を振りまきます。
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次に登場したのが、安定感のある歌声で千変万化の感情を伝えるシンガーの戌亥とこです。まずは「Mela!」を高らかに歌い、地獄の業火どころか天からの陽の光のような笑顔で会場を明るく照らします。
そのまま流れるように、戌亥とこと白雪巴による、いなせに傾奇(かぶ)いた和風楽曲「トキヲ・ファンカ」、戌亥とこと樋口楓とのユニットで「虎視眈々」と続きます。白雪巴とは艶やか寄りのかっこよさを、樋口楓とはロックな若々しいかっこよさを見せています。戌亥とこは誰かと組むと、みんなの魅力を底上げするパフォーマーであるのを確認させられました。
◆「さくゆい」はあった。
ここで笹木咲と椎名唯華の「さくゆい」が登場。出てきて早速、アドリブ漫才。息はぴったりです。知らない人がこのライブを見ると密接なコンビに見えるはずです。しかし長年のファンなら知っているはず。実は普段そこまで積極的にべったりとは組んでいません。結成は4周年と長く、共同チャンネルもあります。年に何回か、3Dライブやオリ曲などスゴい爆弾を落としてきます。
近すぎない、でも疎遠でもない。この「さくゆい」の関係性の絶妙な距離感を、ふたりはコントと歌とダンスで表現しました。
曲は「キミペディア」。わがままを言うこともある。ひとりでいたいこともある。茶化すこともある。強がることもある。そんな飄々としつつもなんとなく一緒に今いるふたりを歌う曲です。この作品のぐっとくる距離感が、観客の「さくゆい」観とぴたりとはまり、「さくゆい」概念が完成してしまいました。舞台で踊るふたりを見て、そこに生み出された「さくゆい」像に胸がキュンとなった人は多いと思います。
「さくゆい」を作った今回のステージ。ふたりが落書きしていた「さくゆいは作れる」というのは、必ずしも「偽物である」という意味ではありません。「本当」はわからない。けれども自身をキャラクターコンテンツとして組み上げ、視聴者の心に働きかけるエンタメとして作り提供した、という意味では今回の「さくゆい」は極上の「作品」でした。
だから事実はどうあれこう言いたい。「今回のライブに、さくゆいはあります」と。
◆熟練の「楓と美兎」コンビ
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樋口楓と月ノ美兎のコンビ「楓と美兎」が合流し、歌ったのは「強引niマイYeah~」。「さよなら絶望先生」の曲です。この4人は全員女子高生。委員長、かっこいい系、強運能力系、不運系とキャラ立ち抜群。このビジュアルのままアニメ化できそうでした。
その後椎名唯華が一人舞台に残り「ヨワネハキ」を歌い始めた時、ファンは胸を掴まれたと思います。ダンスがものすごくハードな曲を、笑顔で楽しそうに踊る彼女。キリッとギャップを魅せた瞬間でした。「そいやっさ」の振り付けのかわいさは必見。
「命ばっかり」を歌うのは、ベテランふたりコンビ「楓と美兎」です。これは配信版を観て初めて、キャラクター表現としての歌が完成する作品だと思います。ふたりのすれ違いを表現した作品なのですが、ARを使うことでその距離感をぐっと深く演出。奥で背を向ける月ノ美兎と、それに訴えかけ手を奥伸ばす樋口楓、すれ違うふたりの斜めからのショット…と現地では見られない立体的映像が観られます。
樋口楓と月ノ美兎の歌声があまりにも感情豊か。ふたりは普段から仲がいいのは語られ続けているので、これは「楓と美兎」の新しい物語展開、とドキドキしなが観られます。「さくゆいは作れる」なら、「楓と美兎のすれ違いも作れる」のです。
◆それぞれのアイドル観
続く白雪巴の「ここで息をして」。ここではスイングビートに合わせて完全に大人の世界の扉をオープン、艶やかさ全開です。長身の身体をしなやかに使って舞台を彩るステージングが魅惑的です。
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次の相羽ういはと夜見れなは、最初からアイドルを名乗っているライバーです。「どりーみんチュチュ」で、ふたりの中に蓄えられている「アイドル」が大爆発。特に脚をあげて踊るシーンは、軽快でキュートで、ぴったり揃って美しい。このふたりは身長差が大きいのも、ビジュアル映えしています。
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夜見れなは続けて「チクタク・Magicaる・アイドルタイム!」をソロで披露します。中盤はバーチャルを駆使し、夜見れなの全てが特殊演出に詰めこまれました。今後夜見れなを語る際には、このステージのことは欠かせないでしょう。
続いて笹木咲、相羽ういは、戌亥とこの「ビバハピ」が入ります。柔らかい低めの戌亥とこボーカル、元気いっぱいな相羽ういはボーカル、高めの笹木咲ボーカルの相性バツグン。声も見た目も学校祭感がぐぐっと高くなった瞬間です。
DAY1のみんなのアイドル道は高まっていきます。相羽ういは、夜見れな、戌亥とこ、白雪巴が歌ったのは「CONVERSATION FANCY」。アイドルグループ神宿の曲です。ライブもクライマックスに差し掛かってしっかりと地に足をつけてエナジーを振りまく、直球のアイドル魂へと突き抜けました。
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対照的に月ノ美兎、笹木咲、椎名唯華は「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」を披露。ニコニコ動画ファンには弾幕を飛ばす曲として有名な、いわばインターネット特化アイドルに突き抜けました。すさまじく早いダンスの、短距離走ソングでした。
アンコール後は「にじフェス2022」のテーマソング「Hurrah!!」、そしてにじさんじの全体曲「Wonder NeverLand」と続き高らかに終幕。男性陣のみのDAY2へのワクワクを高めました。
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おそらく今回のライブで誰かのファンであれば、自身のライバーイメージ像とステージの姿をすり合わせられる部分が多かったと思います。出演者への解像度がぐんぐんあがるような構成が組まれていました。
観客が求めているキャラクター性を盛り上げるサービス精神と、自身がイメージする最高の姿を伝える演出の両方が詰め込まれていた今回のライブ。アーカイブで是非、ダンスの指先まで、歌声の伸びまで、背景の映像まで、見直してください。解釈を深めてくれるような、またそれを乗り越えてくれるような魅力的なステージ表現を見つけられたら、何倍も彼女たちのことが一層好きになるはずです。
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セットリスト
1・Virtual to LIVE
2・シンデレラ(笹木咲)
3・Shocking Party(樋口楓/相羽ういは/白雪巴)
4・エライエライエライ!(椎名唯華/夜見れな)
5・サクラあっぱれーしょん(月ノ美兎)
6・イロドレ・ファッショニスタ!(樋口楓)
7・アオノショウドウ(月ノ美兎/夜見れな/白雪巴)
8・Mela!(戌亥とこ)
9・トキヲ・ファンカ(戌亥とこ/白雪巴)
10・虎視眈々(樋口楓/戌亥とこ)
11・キミペディア(笹木咲/椎名唯華)
12・強引niマイYeah~(月ノ美兎/樋口楓/笹木咲/椎名唯華)
13・ヨワネハキ(椎名唯華)
14・命ばっかり(月ノ美兎・樋口楓)
15・ここで息をして(白雪巴)
16・どりーみんチュチュ(相羽ういは/夜見れな)
17・チクタク・Magicaる・アイドルタイム!(夜見れな)
18・ビバハピ(笹木咲/相羽ういは/戌亥とこ)
19・CONVERSATION FANCY(相羽ういは/夜見れな/戌亥とこ/白雪巴)
20・PUNCH☆MIND☆HAPPINESS(月ノ美兎/笹木咲/椎名唯華)
21・Hurrah!!
22・Wonder NeverLand